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囲炉裏から流れる薄明かりを囲みながら、異様な姿の者達が話している。

 

「そんなもの、何十年も昔の話じゃねえかぁ。今の時代にゃ到底そぐわね。わざわざ村の外から人間を呼んでやるっていうのは……」

 

人間サイズの巨大な三毛猫の言葉を、向かい側にいたヒョウが「黙らんか!」と遮った。

 

「何が今の時代か! 何が外か! おめえはこの村より都会、外が大事ってえか!?」

 

怒声こそ迫真に満ちているが、ぼんやりとした火に照らされたそのぬいぐるみ的表情は、愛嬌たっぷりに笑っていた。

 

「着次郎どんの言うとおり! 村の存続の為にゃあ伝統の存続、不可欠不可避であるっちゅうのが何故分からん!」

 

隣にいたニホンザルが、ヒョウに雷同した。それにつられて周辺の可愛らしい動物達も「そうじゃ!」「その通り!」と次々賛同の言葉を口に出す。

 

「わ、わかってくだせえ!」

 

追いつめられた三毛猫は、輪から離れた暗がりに座っていた影に救いの声を求めたが、それはあっさりと裏切られた。

 

「五十年に一度のしきたり、行わぬ理由など一切無し」

 

「そ、そんな……!」

 

にこやかな微笑みを浮かべながら絶望する三毛猫に、影は冷徹な言葉を投げかける。

 

「それに従わぬ者、皆死罪なり」

 

ヒイッと叫び声を挙げ三毛猫はその場から逃れようとしたが、背後から伸びたふわふわの肉球によって身動きを封じられてしまった。

 

「皆狂ってる、狂ってるんじゃあ……ぐぶっ」


黒く錆びた山刀によってその腹を裂かれ、三毛猫は不健康そうなどす黒い血をおびただしくその場に垂れ流しながら微笑みとともに絶命した。

 

その様子を見て、彼を殺めた張本人は何とも愉快そうに言った。

 

「また着ぐるみ汚しちまったぜ。代わり作ってくれよな」


少女の右手を、太く大きいピンク色の腕が突然掴んだ。ごわごわした毛に包まれて、不気味なまでになま暖かい。

 

怯えた顔をして、少女は恐る恐る見上げる。

 

無表情なうさぎの大きな顔が、じっと自分を見つめていた。必死に引き剥がそうとするが、その力は強く、全く敵わない。

 

もがくような抵抗を弄ぶようにいなし、とうとううさぎは彼女の服に手をかけ――

 


車の振動で、南は目が覚めた。天然ブナの隙間から洩れる雪解けの柔らかな日差しが顔をくすぐる。

 

「どうしたの、南? すっごい汗」

 

隣に座っていた華原美佳が声を掛けてくる。

 

「いえ、大丈夫です。ちょっと悪い夢見ちゃって」

 

「そりゃそうだ、今にも吐きそうな奴がいるんだからよ。俺だって気持ち悪いや」

 

後ろに座っていた大野田健吾が毒づく。その体育会系的ながたいのよさからは意外な程に陰険な表情を、隣に座っている相田貢に向けていた。

 

「ご、ご、ごめんなさい、み、皆さん。 ぜ、ぜ、絶対、吐きません……うぷっ」

 

海外メーカー製の4WDワゴンで行く未舗装の林道は、虚弱体質な彼には相当堪えているのであろう、幽霊かと見間違えてしまう程に、その顔は蒼白していた。

 

「きめえなおい! 吐くなよコラ!」

 

パシッと頭を叩かれ、貢は頬をハムスターのように膨らませた。今にも食道から内容物を吐き出しそうだ。

 

「ねえ見てあの看板! アンタにそっくり!」

 

美佳が大げさに笑いながら、窓の外の看板を指さす。あちこちペンキ剥げした白い看板には、なんとも不細工な生き物が書かれていた。ネズミを模した人気キャラクターを描いたつもりなのだろうが、上手く描かれているとはお世辞にも言い難い。

 

輪郭が無駄に大きい癖に、手足はヒョロヒョロで、バランスの悪さが不気味だ。

 

これに底の深い眼鏡をかければ、貢そのものである。

 

「ぎゃはははは! そっくりきもいー!」

 

「本当だ! きめえや! わはは」

 


「や、やめてください……」

 

騒ぐ二人を、南は遠目で見ていた。正直、この二人の非常識な行動には、ついていけないと思っている。それに今は、気分が悪い。

 

「こらお前等、仲良くせんと今からでも引き返すぞ!」

 

運転席でハンドルを握りながら、縫原猛が言った。一応は学者であるが、いかにも健康的な浅黒い肌と、民俗学のフィールドワークで鍛えられたその身体は、健吾のそれとは違って妙な肉の張りがなく、爽やかな雰囲気を漂わせている。

 

「でも先生、今から行くトコってさ、ホントに面白いトコなの? つまんないトコだったら家に電話して車来てもらって帰るからね!」

 

「け、け、携帯はつ、通じません」

 

「トロマは黙っててよ、先生に言ってんの」

 

「その心配はないよ、部長。故郷の人間として、他に二つとない”奇村”であることを保証するよ」

 

「先生、そろそろ教えてくれよ、どういう場所に行くのかってのよぉ」

 

「だーめ、もうちょっと待ちなって。民俗学サークル部員として、未知の驚きと神秘を最大限に楽しみな」

 

「あの、その村って、怖い場所とかあるんですか……?」

 

心配そうな南の言葉に、美佳が笑う。

 

「やだもう南ったら、大学生でしょ!?」

 

「大丈夫だよ吉川、怖いどころか、可愛いぞ」

  

「可愛い……?」



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