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「着ぐるみ様じゃ! 着ぐるみ様じゃあ!」

 

「ああ、ありがたや! ありがたや!」

 

ぐったりした着ぐるみ様の姿を前にして、着ぐるみ達は熱狂し、けたたましく声を上げた。だが「静まれ!」という栄の一括で、すぐさま黙りこくった。かばの着ぐるみを着た年寄りは何かに気づいたようで、栄に対して率直な疑問をぶつけた。

 

「なんか、話に聞いたとは少し違うような気がするやあ、おばば」

 

「その通り、着ぐるみ様は本来男と女の二人組。今のままでは女形が足りん」

 

その回答に、他の村人達も口々に喋りはじめた。

 

「それやあ儀式にならんじゃらないか」

 

「どういうことやあ、おばば!」

 

「儀式をおろそかにするのか?」

 

再び一帯はやかましくなったが、更に大きな老婆の怒号で、すぐさま静まりかえった。

 

「慌てるでないわ! 女形はそら、そこにおる」

 

その指差した先には、ぶち犬がいた。

 

「そ、そりゃ駐在やあねえのかい!?」

 

「違う! あの者は既に亡き者となっておる! 

 

この着ぐるみの中にいるのは、真っ赤な偽者!」

 

「おお、なんと!」

 

突然のことに、南は立ち尽くしていた。その様を見て、うさぎが嘲るように笑った。

 

「最初から分かってんだよ。そのバッジの位置、ズレてるぜ?」

 


ぶち犬の胸に付けられた、おもちゃのような警官バッジ。その位置がやや傾いていて、かなり注意しなければ分からないような、黒い穴がわずかに覗いていた。

 

「それ、弾痕だろ? あの駐在を撃ち殺した時の。

 

なあ、もう観念しろよ、南」

 

南はしばらく黙り込んでいたが、やがて静かに被りものを取り、その素顔を見せた。

 

「……あんたがそんなやつだと思わなかったわ、先生」

 

「ほう、分かっていたか」

 

南の言葉に、うさぎはいかにも余裕綽々な手つきで、同じく被り物を取った。露わになったその素顔は、悪辣な笑みを浮かべていた。

 

「見覚えがないかな? この着ぐるみに。忘れるはずなんてないと思うがなぁ」

 

「ま、まさか……!?」

 

更なる衝撃が南を襲った。自身の記憶に焼き付いて離れない、恐るべき悪魔、あの着ぐるみ。そう、幼い自分を襲ったのは、ピンク色のうさぎだった……。

 

「俺の親父はな、お前のせいでサツに逮捕されたんだよ!」

 

「そんな!?」

 

「俺だって全く気づかなかったよ。だがな、この前お前の昔話を聞いて確信した。ラッキーだよ、これも運命ってやつだろうな。親父はな、ムショで自殺したよ。おかしいよな? たかが都会のガキを一人やろうとしただけで死なせられたんだ。しかも未遂だぜ? どう思うよ、え?」


「何を言ってるの!? あなたには倫理ってものがないの!?」

 

「都会もんが決めた理屈なんぞ知るかよ。さあ、覚悟を決めろ。お前は今から神様になれるんだ」

 

 

腕を掴もうとした猛の手を払いのけ、南は腰のホルダーから拳銃を取り出した。あの駐在から着ぐるみと共に奪い取ったものだ。

 

だが、猛の余裕は崩れない。栄もまた、震えながら銃を向ける南を見て、にんまりと勝利を確信していた。

 

「やめときな。銃ってのは案外扱いが難しいんだ。素人はこんなに近い的に当てるのすら無理ってもんだ」

 

「それに小娘、周りが見えっか? こんなに大勢の村人に囲まれとる。万が一、わしらに銃を当てられたからといってお主は生きて出られんぞ、無駄なことじゃらあ」

 

「うぅ……」

 

「さあ、娘は娘らしく、大人しくしい。大丈夫じゃあ、痛みはするが素晴らしい地位と引き換えじゃ」

 

「嫌よ!」

 

南が尻込みした隙を見て、猛が飛びかかった。南は咄嗟に発砲しようとしたが、その引き金は思った以上に固く、撃てないまま猛の手によってはたき落とされてしまった。

 

「いい匂いだ、親父の気持ちが分かるよ」

 

「いやぁ! 放して!」

 

南は必死に抵抗するが、抱きつく男の両手をふりほどくにはあまりにも力がなかった。


「よし、この場で女形に込めるゆえ、はよ薬を飲ませよぉ」

 

栄は黄色い液体の入った小瓶を手に、一歩一歩南に近づいていく。猛は己の宿願の完遂を確信した。過疎によって廃れていく村を、儀式の達成によって救うこと。そして、無惨にも死へ追いつめられた父親の仇討ち。それらが一変に果たされる、これほど爽快なことがあろうか。もがく南の頭を掴む手に力を込め、動けないようにする。そして嫌がるその口に、しびれ薬が注ぎ込まれん時……。


何者かが突然、二人を突き飛ばした。その隙を突き、南は猛の魔手から逃れたが、体勢を崩した栄は薬を自分の顔に浴び、叫び声を上げ慌てふためきだした。そしてその身体を必死に両手で掴む、異形の着ぐるみ。

 

「貢さん!」

 

不細工な男形へと変身させられた貢が、自由に動かぬ身体に鞭打ち、栄を人質に取ることに成功したのだ。

 

「う、動くな! お、お前の母親がどうなってもいいのか……!」

 

猛は少しばかり面食らったそぶりを見せた。だがしかし、その左手はすぐ側にあった宝剣に伸びていた。

 

「貢さん! 危ない」

 

南が叫ぶも、遅かった。猛の剣は、実の祖母である栄諸共貢を串刺しにした。

 

「村のためだ、ごめんよばあちゃん……」

 

「猛よ、よくやったぞ……!それでこそこの包村の代表……!」

 

ドス黒い血を大量に吐きながら、栄が狂ったように叫ぶ。男形の身体がガクガクと震え、口元が赤黒く染まり、そして広がっていく。

 

村人達が喚き散らし、舞台は狂乱に包まれる。

 

「かかれ! 都会もんを殺しゃあ!」

 

凶器を持った着ぐるみ達が、祭壇へと押し寄せた。

 

「貢さん!」

 

「南さん、逃げて……」

 

起きあがろうとする南の右手に、固いものがぶつかった。拳銃であった。

 



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