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「おらぁ、えらいきんちょうすっぞぉ」

 

松明を片手に、ペンギンの着ぐるみが言った。

 

「まったくじゃあ。五十年に一度っちゅうから、わしもはじめて見るわ。どんなすごいもんじゃろ」

 

竹割用の鉈を手にした乳牛の着ぐるみが言葉を返す。

 

「去年死んだ作造じいさんは見たことあるっちゅうとったよ。ばあさまが祝詞を挙げた後、男と女の着ぐるみ様に向かって皆で滅多刺しにするんじゃあ」

 

すっかり錆びた草刈り鎌を手に、腰の曲がったかばの着ぐるみが会話に加わる。

 

「いくら村のためとはいえ、少々おっかないもんやのぉ」

 

「なあに、形になるのは都会もんじゃ。平気じゃ平気」

 

ペンギンの言葉に、かばは表情一つ変えず、うんうんと頷いた。

 

「あいつらは経済や政治やらえらそうなことばかり言いよて、えらいわがままやからのぉ。少しはこうして減らした方がええんよ」

 

その通り、とペンギンが声を大にした。

 

「鹿やイノシシやって増えすぎたらあかんから、鉄砲で数を減らすじゃあろう? それと同じやて」

 

「やつらの生み出したギジツは有り難く使わせてもらっちょる。それが供養の代わりやあ。ぼたん鍋や鹿肉食うのと同じやて」

 

「なるほど、それやったらええことやあ」

 

村人二人の言葉に乳牛は納得したとみえて、いくつもの乳首がついた腹をポンと叩いた。

 

 


「しかし、松明をずっと上げながら歩くのもしんどい。ヨシよ、ちょっと変わっとくれ」

 

ペンギンがおもむろに松明を近づけてきたので、乳牛は焦った。

 

「わわっ! あんまり近づけるな。生地をふりぃすにしたんを忘れたか」

 

「あらっそうだった。いかんいかん」

 

まったくモウ、などとぶつくさ言いながら乳牛は松明を受け取り、先を照らした。すると、向こうから一匹の着ぐるみがやってきたのに気がついた。警官帽を被った、ぶち柄の犬。

 

「あら、駐在どんではねえか」

 

一番最初に乳牛が気づき、声をかけた。続いてペンギンが駆け寄る。

 

「形集めの役を仰せつかってたそうじゃのう。ご苦労なこってご苦労なこって」

 

ぶち犬は何も答えず、ただコクリとだけ頷いた。それを見て、カバが訝しがる。

 

「なんじゃらお前。いつもはようさん喋るのに、風邪でも引いたか」

 

ぶち犬は再び、コクリと頷いた。ペンギンがポンとその背中を叩く。

 

「そりゃお前、夜中にあんだけ飲んだ後やのに外おったら、風邪でも引かん方がおかしいわ。駐在所戻ってゆっくりせえ」

 

その言葉にぶち犬が押し黙っていると、向こうからもう一人着ぐるみがやってきて、三人に声を掛けてきた。

 

「皆さん、何をしとるんですか。もうすぐ着ぐるみ様が始まりますよ」

 

ぶち犬は何かに気づいたのか、ハッと声の方へと振り向いた。ピンク色のうさぎが、にっこりとした笑顔でこちらへと歩いてくる。


「おお、せがれ! 父親譲りの着ぐるみ、よう似合いますなぁ」

 

「ははは、俺も久しぶりに着たもんで、上手く着こなせてますかねえ」

 

「いや、なかなかの男っぷり。それでこの包み村の次期村長!」

 

うさぎを褒め称える他の着ぐるみ達を、ぶち犬は呆然と眺めていた。

 

「では皆さん、祭壇の方へ行きましょう」

 

「おお、そうじゃそうじゃ」

 

「五十年に一度の儀式、すごいもんになるじゃのう!」

 

「ほら、駐在さん、どうしたんですか? 早く」

 

うさぎに呼ばれ、ぶち犬は急いで四人の後へとついていった。


――外の寒さを遮断する柔らかな生地に包まれて、南は考えていた。今にも叫びだして、この四人の着ぐるみ達を突き飛ばして逃げてしまいたいぐらい、恐ろしい。このまま行けば、どうなるか分からない。つまるところ、自分は殺されるかもしれないのだ。

 

だから、最初は逃げようと思っていた。はぎ取ったぶち犬の着ぐるみで駐在になりすまし、その隙を突いて村の外に出ようとしていた。

 

だが、できなかった。貢や猛を見捨てて、自分一人だけ逃げるなどというのは、良心が許さなかった。

 

(自分がずっと一緒にいます! だ、だから安心して!)

 

同い年の異性から、こんなに暖かくて頼もしい言葉をかけられたことは、今までになかった。そんな優しい人を、置き去りにすることなんてできない。

 

そして、ついさっき遭遇した出来事が、彼女をあえて危険な道へと進ませた。突然現れた、ピンク色したうさぎの着ぐるみ。彼女の心の奥底にトラウマとして刻まれている、あの忌まわしい着ぐるみと同じ。更に、そいつの発した、聞き覚えのある声。必ずしもそうだとは言い切れないが、もし自分の察した通りの人物が着ぐるみの正体だとすれば、貢は……?

 

彼女は、自身のか弱さを省みず、村人達に紛れて忌まわしい場所へと向かう決意を固めた。大切な人を、救うために。


包神社には、既にたくさんの着ぐるみ達が集まっていた。パンダ、ゴリラ、ワニ、リス、シカ、キリン。一つ目小僧に傘化け、赤鬼青鬼。年代を感じさせるデザインから、つい最近作られたと思われるものまで、古今東西のあらゆる着ぐるみがそれぞれ鎌、斧等の凶器や火のついた松明を持って、祭壇の前に揃っていた。

 

「皆さん! この大事な儀式に、よくぞ参加してくださいました。村の代表として、祖母とともにお礼を言わせていただきます」

 

うさぎ着ぐるみの言葉に、他の着ぐるみ達はわあっと歓声を上げた。

 

「さあ、駐在さん、祭壇へ上がりましょう。あなたも功労者ですからね」

 

うさぎに手を引かれ、ぶち犬を身に纏った南は祭壇へと上がらされた。そこにはとんがらし大王、栄が立っていた。

 

「ようきた、わが孫よ。息子に似て立派になったもんじゃ」

 

その嗄れた声が、若干潤んでいる。着ぐるみの中で涙ぐんでいるのだろう。

 

「おばあちゃん、その言葉嬉しく思います。この儀式を司ることができたこと、父も草葉の陰で喜んでいますよ」

 

「うむ、ではまずキブクレを」

 

うさぎはコクリと頷くと、なにやら大きな物体にかけられた、鮮やかな紫の布を勢いよく剥がし取る。

 

それを見て、思わず南は声を上げそうになった人間を下手くそにかたどった着ぐるみが、水に濡れてぶよぶよに垂れて、すさまじい悪臭を放っている。

 

「キブクレだぁ!」



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