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貢の余計な一言に、再び健吾が怒る。

 

「あぁあ! お前美佳さん見捨てるのかよ! 死んでもいいっていうんかよ!」

 

「そ、そんなこと言ってないです……」

 

「じゃあどういう意味だよトロマ! お前ちょっと勉強できるからっていっつもうぜえ真似しやがって! 美佳さんはお前のこと嫌れえなんだよ! だからいなくなったかもしれねえじゃねえか! もしそうだったらお前殺すぞ!」

 

「落ち着け! とりあえず落ち着け!」

 

怯える貢に一方的にがなり立て、つかみかかろうとする健吾を猛が必死に制止しているところへ、ニ体の着ぐるみがやってきた。

 

一人は昼間出会った縫原栄の着ている、とんがらし大王。そしてもう一体は、頭にちょこんと警察帽を乗せ、自転車を引いている、ぶち柄の犬だった。

 

「ちょっと聞かせてもらったけどよお、えれえことらしいなぁ」

 

「おばあちゃん、どうしよう」

 

弱り顔を見せる猛とは対照的に、着ぐるみの二つの顔は可愛らしくはにかんでいた。

 

「なぁに、村の頼りになるもん呼んで、今から探してもらえばいいんやぁ、心配すんな」

 

「本官が隅から隅まで捜索しますので、お任せを!」

 

「本当ですか!? そりゃ有り難い」

 

「俺も行きますよ! 俺のせいで美佳さんが迷子に……」

 

「だめじゃらぁ、おっときィ」


 「なんでだよ 緊急事態なんだぞ!」

 

いきり立つ健吾に対して、ぶち犬駐在の声は至ってとぼけていた。

 

「まあまあ、ここは本官にかかれば万事大丈夫――」

 

ぶち犬の柔らかい胸ぐらを、健吾が乱暴に掴んだ。

 

「ふざけんな! 美佳さんが死んでみろ! おまえ等村人全員訴えてやる!」

 

「ははは、これは困ったなぁ。若者は怒りっぽいなぁ」

 

「何だと!」

 

「まあまあ、とにかく落ち着いてぇな」

 

いきり立つ健吾の肩をポンと軽く叩き、栄がやさしくなだめる。

 

「もしそのお嬢ちゃんが帰ってきたときに、お兄ちゃんいなかったらどうだぁ? すごく寂しがるだろぉ? お兄ちゃんはお嬢ちゃんを出迎える役をやってくれ、頼むよぉ」

 

「でもよぉっ!」

 

「健吾、おばあちゃんの言うとおりだ。第一土地勘のないお前が言ったところで、ミイラ取りがミイラになるだけだ。ここは村の人達に任せてくれんか」

 

「……わかったよ」

 

健吾は俯き、しぶしぶ駐在から手を放した。

 

「なぁに、本官がきっと見つけて見せますよ。心配ゴムヨー! ははは!」

 

都会の若者による無礼を気にするそぶりもなく、犬の駐在は自転車にまたがってもこもこした足で器用にペダルを漕ぎ、去っていった。


視界が暗闇に包まれた状況の中、美佳は意識を取り戻した。ほぼ真っ暗に近いが、かろうじてぼんやりとした光が向こうに見える。どうやら、目を何かで塞がれているらしい。おまけに、手足も自由に動かせない。拘束されているのではなく、動かそうとしても力が全く入らないのだ。助けてと叫ぼうとしても、全く力が入らない。それに、背中を除く身体全体が、何か柔らかいもので包まれている。

 

一体、自分に何が起こったのか。しばらく考えてみて、分かったことはただ一つだけ。自分は、無理矢理着ぐるみを着せられている……?

 

「おまえさんは、今から神様になるんだよぉ」

 

どこかで聞き覚えのある声。

 

(やめて、お願いたすけて……)

 

助けを求める声が、全く出せない。背中に、何か熱いものが近づけられているのを感じる。

 

(やめて! やめてえええ!)

 

それが背中に当てられた瞬間、ジュッと何かが蒸発するような音がして、激しい痛みが彼女を襲った。

 

(んぎいいいいいい!)

 

身体全体が小刻みに痙攣する。声に出して激痛を訴えることができず、苦悶が体中を駆けめぐる。

 

「これからなぁ、ずうっと死ぬまで、この着ぐるみと一緒になれっだ。有り難いこと、有り難いことじゃらぁ」

 

焼けただれた背中に、何か液体のようなものが流し込まれ、それが更なる激痛を呼ぶ。

 

 


(死にたい……! こんなに痛いなら、死なせてぇ)

 

 

あまりの苦しさに全身をガクガクと震わせながら、美佳は一刻も早い苦痛からの解放を必死で望んだが、その願いは無慈悲にも退けられることになる。


真夜中、貢が宿泊部屋として使っている教室の扉がノックされた。ひょっとしたら健吾が仕返しにきたのかと、戦々恐々としつつ、扉から離れている窓から外の様子を覗いてみると……。

 

そこには、南の姿があった。扉の前で、申し訳なさそうに俯いている。

 

「み、み、南さん……」

 

貢の声に南は振り向き、ぺこりと一礼した。

 

 

「同じサークルなのに、あまり話したことなかったですね……」

 

今は使われていない、小さな校舎の狭い運動場。その上に瞬く星空を、二人は下駄箱前の段差に腰掛け、眺めていた。

 

「お、お、俺、人と話すの、苦手なんで……」

 

「いいんですよ、アタシもあの二人に適当に合わせてるだけで、自分では何もできないし……」

 

「み、美佳さん、今頃どこにいるんでしょう。心配だなあ……」

 

「貢さん。美佳さんや健吾さんのこと、本当に心配ですか?」

 

「え、え、そ、それはどういう意味で?」

 

「……こんな時に言うのもなんですけど、あの二人、あまり好きじゃないんです。すごく偉そうで、図々しくて、あなたのことなんて人間として扱ってないみたいで、見ているこちらも嫌になるんです」

 

 

 



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