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彼女が5歳の頃の誕生日、両親が新しくできた遊園地へと連れて行ってくれた。前々から行きたかった場所、はしゃぎ回ってうっかり両親とはぐれてしまった。

 

どこかも分からぬ広い園内で一人泣いていると、その遊園地のマスコットを模した着ぐるみが近づいて、優しくその手を取った。

 

「お父さんとお母さんのところへ案内してくれるんだ!」

 

彼女はそう思って、人形に手を引かれるまま歩いていった。だが、不思議なことに、着ぐるみはなるべく人気のない場所を歩きたがる。徐々に彼女も不安になってきた。

 

かれこれ20分ほど歩いた頃、着ぐるみがトイレを指さした。日は暮れ始め、近くにアトラクションもない場所に人がいない。

 

抵抗むなしくものすごい力で身体を抱き抱えられ、無理矢理中へ連れ込まれようとしたその時、偶々そこを通りがかった警備員が駆けつけた。着ぐるみは南を投げ捨て、慌てて逃げていった。

 

幸いにして彼女は無事な状態で発見されたが、そのまま誰にも助けられなかったらどうなっていたか、幼心にもなんとなく理解できた。


以来、南は着ぐるみに対してトラウマを抱き、遊園地やデパートのイベント会場などは、なるべく避けるようにして生きてきた。だが今回、猛は行き先の詳細を秘密にしてサークルの皆を驚かせようと考えていた。南もまさか、自分が最も苦手とするものが多数存在する場所へと連れて行かれるとは思わなかったのだろう。

 

「そうか、俺が余計なことしたせいで……。ごめんな」

 

「いえ、先生のせいじゃないです。元はと言えば、私のこの恐怖症がおかしいんですよ、だから気にしないで下さい」

 

「ともかく、落ち着いた方がいいよ。とりあえず宿に連れて行くから、今日はそこで休んでろ、いいな」

 

「……すいません」

 

「ぼ、僕も行きます。南さんが心配です」

 

「お前、健吾達と一緒にいたら苛められるもんな」

 

「そ、そんな理由じゃないですよ!」

 

「ははは、分かってるよ。一緒に行こう」


こうして三人が一足早く宿泊先に向かった。

 

残された二人、健吾と美佳は猛から宿泊先の場所を聞かされ、一通り見学を終えた後で来るように言われ、適当に村をぶらついていた。この村の人間は、一人違わず着ぐるみを身につけている。道行く度にすれ違う、デフォルメされたライオンやゴリラに最初こそ胸ときめかせはしゃいでいた美佳だったが、やがて自身の性格から来る飽きっぽさゆえ、不機嫌になっていった。

 

「なんかもう疲れた、帰りたい」

 

「え、もうかよ美佳さん! もうちょっと一緒にいようよ」

 

「だって楽しくないもーん」

 

健吾は困った。今が誰にも邪魔されず、愛しの美佳さんと二人っきりでいられる機会なのに、まだ一時間も経っていないじゃないか。この問題に対し、彼は実に安直で、なおかつ下品極まりない解決法を思いついた。

 

「ほら美佳さん、あそこに小屋があるだろ。あれ、農具とかを置く納屋だぜ」

 

「それがどうしたのよぉ」

 

「こんな変な村だ、きっとすっげえ変なものがあるぜ。なあ、中入って見てみようよ」

 

「うーん、どうしよー」

 

「ね、いいだろ?」

 

健吾は美佳の目を見つめながら、その手をそっと握る。

 

美佳もまんざらではなさそうな挑発的な顔を浮かべ、口元を緩めた。

 

「わかったわ、いいよぉ」

 

「マジ!?」


「でも、ちょっと待ってて? ほら、靴ひもが解けちゃってぇ」

 

「そんなことどうでもいいよ!」

 

「焦んないでぇ。あの中で待っててぇ」

 

ちゃんと行くから、と耳元での囁きを受け、健吾は大いに興奮し、いそいそと納屋の中へ入っていった。

 

その後ろ姿を見つめ、美佳はクスリと嘲るように吹き出した。あいつのことなんて、何とも思ってはいない。ちょっと可愛い子ぶってたらオーバーなぐらい骨を折ってくれる、ただの便利屋さん。関係を持つなんて、もっての他だ。

 

パンツ一丁の健吾が期待に胸を膨らませて待っている納屋に向かってアカンベーをして、美佳はその場から離れた。気が変わった、もうちょっとブラブラしてみよっと。でもなるべく、あいつに見つからないようにしないと。まあ、そうなったらそうなったで適当に言い訳すればいいんだけどね。

 

しばらく歩いた所に、古びた鳥居を見つけた。その奥には少々狭いが、通り抜ける分には問題のない、木々に囲まれた道が続いている。

 

(面白そう)

 

美佳は何の疑いも持たず、その道を進んでいくことに決めた。


知らない鳥の鳴き声が響く森の中を、美佳は一人進んでいく。最初の内は面白いかもと思っていたが、歩いても歩いても同じような景色が続くばかりで、足も疲れてきた。でも、今更引き返すのも何か嫌だ、せめて何かを見つけてから帰らなきゃ損よ、そんな浅はかな考えで、見知らぬ場所を闇雲に歩き続けていたのだ。

 

だが、彼女の願い叶ってか、もうしばらく歩いた時、何か小屋のようなものが見えてきた。美佳の好奇心は再燃し、先ほどまでの疲れもなんのその、一気に走った。

 

その建物は先ほど健吾が入っていった納屋と同じぐらいの大きさだった。が、白塗りの外壁や朱色の屋根、そして入り口の前に掛けられている、くずし字で書かれた札と榊の葉で装飾された飾り物が、何やら重要な場所であることを予感させた。

 

「……覗くだけならいいわよね、ちょっとだけぇ」

 

閉まっていたら帰ろうと思って引き戸に手をかけると、思ったより簡単に開いた。そっと中に足を踏み入れる。真っ暗で何も見えなかったが、側にあったスイッチを入れると、オレンジ色の豆電球が点灯した。

 

そこら中に、たくさんの着ぐるみが乱雑に放置されていた。馬や虎など、一目でモチーフが分かるものもあれば、まるで妖怪のようなおどろおどろしい造形のものまであらゆる着ぐるみが集められていた。

 



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