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襲撃

漏れたライトの光に照らされ黒光する拳銃をまじまじと眺め、駐在はこれから起こる快事を想像し、胸躍らせていた。大丈夫だよ、生け捕りにはするさ、生け捕りにはな……。たらりと流れた涎を慌てて拭き取った後、彼は校舎へと足を踏み入れた。

 

「吉川さーん、いますかねー?」

 

声を掛けてみるが、返答はない。やはり、感づかれているか。こんだけコトが起こってるんだから、当然だな。

 

あまり力をかけないように歩いているつもりだが、やはり建物が古いせいか、どうしてもきしんだ音が響いてしまう。

まあいいや、確か理科室に泊まってるらしいな。駐在はいつでも撃てるように銃を構え、ゆっくりと廊下を進んだ。

 

見つけたらどうするか? 当然、ヤるのさ。さっきの溺れ死んだ女も惜しかったかもしれないが、若いだけで好みじゃねえ。一見まぐわいとは無縁そうな、大人しい女の方が俺は好きなのさ。どうせ死ぬんだ、一発ぐらいヤッても文句はねえさ。しっぽりしなきゃストレスが溜まるってんだよ。

 

理科室の看板が見えた時、ライトの調子が悪いのに気がついた。年代物の赤い懐中電灯は、カチカチと朧気な点滅を繰り返した後、とうとう点かなくなってしまった。

 

電池切れか。替えの電池を持ってくりゃよかったと思ったが、大きなアクシデントではない。この仕事柄、夜に動くことは慣れている。真っ暗な中でも、何か分かる程度に物を見ることはできる。少なくとも、都会育ちの連中よりは利いてるさ。


そっと息を殺しながら扉を開け、待ち伏せがいないか確かめた後、蒼い闇に覆われた室内に足を踏み入れた。そして間もなくして、獲物の姿を捉えた。窓にかけられたおんぼろの黒いカーテン。

 

その下から、足が伸びている。

 

予想以上の浅はかさに駐在は思わず吹き出しそうになった。都会の人間ってのはジャンクフードの食い過ぎでバカになってる。数年前、卒中で死んだ親父はしょっちゅう言ってたが、どうやら事実らしい。

 

どうしてやるか? アホらしくくるまってる所を撃ち殺してやるか?いや、殺すなと言われている。楽しみも無くなっちまうしな。気づかないふりして周りを探して、そんで徐々に近づいて、一気に銃を突きつける、それでいいだろう。後はたっぷりヤってやる。

 

彼はあたかも周囲を探し回るフリをした。なるべく、カーテンの膨らみに目をやらないようにして。そうして次第に距離を詰めていった。

 

よほど緊張しているのか、ピクリとも動かない。気づかれまいとしているのか、それとも半ば諦め、怯えているのか。

 

なに、女一人が自棄になってかかってこようが、力には自信がある。ねじ伏せて、そのまま服でも剥いでぶち込んでやる。

 

いよいよ、すぐ側までやってきた。右側の机を調べるふりをしながら、足を一歩一歩そちらにやる。やがて、十分に近づいたと判断し、思いっきりそこへと飛びつき、銃を突きつけた。だが、その感触は、彼の予想とは大きく違っていた。


唖然としている駐在の背中へ、南は思いっきりぶつかった。不意を突かれ、狼狽する彼の右腕を、ぐっと掴む。

 

勢い余って開かれたカーテンの内側には、人体模型が置かれていた。村人の襲撃を見越した南は、咄嗟にこの人体模型を囮にし、逆に迎え撃つべく待ち伏せをしていたのだ。

 

「このアマがっ!」

 

ある程度自由の利く左腕でがむしゃらに肘うちを食らわせるが、南はひるまない。銃を持っている右腕を離すまいと、むしろどんどん力を増していく。

 

駐在の肘が目に当たり、一瞬視界が見えなくなるぐらいの痛みを覚えたが、そんなことで諦めるわけにいかない。もしここで吹き飛ばされたら、それは死に直結する。

 

「やめろっていってんだこのメスがよぉ! しまいにゃこれで撃ち殺すぞこらぁ」

 

喚き散らしながら、駐在は身体全体を左右にぶんぶんと振り回す。

 

「きゃあっ!」

 

か弱い女性の体力ではさすがについていけないのか、右手にこもった力が弱まる。だが、まだ残った何本かの指が、必死にしがみついてくる。

 

駐在のふかふかな右指、そして左指がその細い手指を握りつぶそうとするが、なかなか上手くいかず、双方譲らない。やがて、銃口が南の方を向いた。

 

「このままぶっ放してやる!」

 

今がチャンスとばかりに、ほどけた指をトリガーにかけた。だが、撃たれまいとする南の左腕が、彼の右腕にぶつかってきた。

 


一発の銃声が、校内に響いた。南はその轟音に対して咄嗟に顔を背けたが、やがて自分がその犠牲にならなかったことに気がつくと、恐る恐る駐在の方を見る。

 

彼は立ち尽くしたまま、ピクリとも動かなかった。そのぶち柄の顔は、何一つ変わらず笑顔を浮かべている。だがその身体、心臓の部分にはぽっかりと不格好な穴が開き、うっすらと血が滲んでいた。やがて彼は壁にもたれ掛かったまま、ずずずっとその場に倒れ込み、そのまま動かなくなった。