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・前置き、登場人物

 ・前置き

 舞台は日本、警察組織に新たな課が設立されることになる、主な業務容は密偵活動、今までの警察組織とは異質の存在であった。新しい課が立ちあげられた理由として、機密情報漏えい、テロを未然に防ぐためである。

名は〝警備部暗躍係〟別名は秘密警察。公安課の管理下のもと、日本版スパイ機として日々活動することとなる。職員(エージェント)はほとんど本部(警視)にいることがなく、日本各地の身近な場所に伏、入して生活している

 エージェントの一人、リカは女性だけで構成された大手劇に所していた。彼女が秘密警察の一員であることを知る者は限られていた。彼女は死とり合わせの日々を送り、葛藤しつつ、あらゆる危機や難事件に立ち向かうという使命を与えられたのであった。

・主な登場人物 

リカ

 本作の主人公、大手歌劇の人スターを務める一方、秘密警察の一員というがある。まれた体格、類まれな美しさで多くのファンを湧かせてきた彼女であったが、歌劇創立周年記念の年に退団発表することを決意する。 

ツバキ 

 歌劇の劇員の一人。新人時代からスターになる素質があり、でも名をあげて力を兼ね揃えていた。しかし、ある任務で敵の罠にはまり、相棒であるリカを救って自分の身をにした。おさげ髪と左目下の黒子が特徴。 

ノリコ 

 歌劇の劇員の一人で、リカの新人時代にトップスターとして君臨していた。ダンスが得意で、特な表現力で舞台を引き立てる力者。では単独で行動して、犯罪組織を滅しており、威嚇で相手の動きを封じる能力があると噂されている。 

ハナ 

 リカの同期でダンスを得意とする劇団員で、一期先輩のツバキを慕っている。秘密警察に属していないが、その存在を知っている。 

安藤ユウ 

 警視庁の若手捜査員の一人で、元々、捜査一課の刑事であったが、自分の意志で秘密警察に異動することとなった。ノリコと組んで難事件を担当しているが、後にリカとパートナーを組むこととなる。 

水口茉緒 

 リカの幼馴染み。高校卒業後、親が経営している旅館〝美楽荘〟で仲居として働いている。 

水口沙耶 

 茉緒の母親で、〝美楽荘〟の女将。一見、優しい女性に見えるが、気が強く、自分にも厳しい性格である。特に娘の茉緒には二代目の女将を継いでもらうため、厳しく教育している。 

水口雅春 

 茉緒の父親で〝美楽荘〟の主人。彼は脱サラして旅館経営を始めた。当初、赤字続きであったが、家族の協力で繁盛していった。突如、リゾート地開発計画の案が持ち上がり、彼は反対運動活動に参加している。

 中山祥子 

〝美楽荘〟の仲居の一人。清楚で真面目な女性であるが、彼女はある闇を抱えていた。 

西野伶亜 

 茉緒の姪っ子。小学三年生で学校が夏休みで、〝美楽荘〟に遊びにやって来た。リカと初めて会い、今回、彼女は身の毛もよだつ体験をすることとなる。

 古谷孝三 

 リカと同じ日に〝美楽荘〟に宿泊しに来たが、その日、近くの裏山で遺体となって発見された。死亡した彼は、恐ろしい秘密を隠していた。

 平松昭 

 高級タワーマンションのオーナー。普段は気さくな好青年であるが、裏の顔を持ち、ある事件の捜査対象となる。


堕天使の鎮魂歌

 ある平な夜、リカは、稽古場フロアのエレベーターホールで自主稽古を行っていた。   

 彼女は納得いくまで、長い時間をかけて稽古をしていた。普段、エレベーターホールはひんやりと冷たい空間であるが、リカのする熱で、著しく度に化が起こった。床はリカの大量の汗が垂れていき、水浸しになるほどであった。

 

ふう、ちょっと休憩するか

 

 リカはひとまず休憩し、水浸しになった床をきれいに拭き取ってから腰を下ろした。このエレベーターホールはリカのおに入りの稽古場で、新人時代から利用しているわけだが、それには理由があった。

 しかし、それは、彼女の口から語られることはなかった。じっとエレベーターホールにいると、リカはあることを思い出す、それは、今から年程前の出事であった

 

 東京 都某所

 

 二月中旬の寒い夜、ある高層ビルに二つの影が忍び寄っていた。 影の正体は、公安部の密偵の女性であり、一人は若手時代のリカであった。

 当時のリカは、稼業である密偵活動を始めたばかりであった。表の舞台の仕事、稼業は共に未熟な面がまだ目立っていた。先輩や係者たちからは、「まだ粗削りな部分があるが、素質はある」と評を得ている。

 ビジュアル面では、肌が白く、容姿が美しく、身長は一七三センチメートルと日本女性としては長身な方で、プロのモデルのような体型である。好きな色は紫で服の色も紫色が多い。異常なほど大食いであり、アルコールはワインなどを好む。よく眠り、性格は口が少ない方で、仕事以外ではマイペースな一面を見せる。

 趣味はスポーツ観戦、ゴルフ等、愛車はアルファロメオ。この時から射能力が優れており、あらゆる銃器、火器に精通している。 

 もう一人の名はツバキ。リカより一年先輩で頭が切れ、本業である舞台女優の仕事では、若手ホープとして注目されている。稼業では新人ながら々の難事件を解決している者である。外見は、少年のような容姿で性格は優しく、ムードメーカー、後輩の面倒をよく見たりと世話き。

 

 ツバキは、自分の過去のことを一切話そうとしない。驚異的な身体能力を持っているが、体の線が細いため体に負 かかってしまうという弱がある。よって長時間の戦闘活動は不可能とされていたが、後に公安部が開した物で活動できるようになった。趣味は旅行、チェス等。

 

 任務で使用する武器は小太刀やし武器など。武術は、道、空手、柔道と日本武術を得意とする。

 二人が侵入した高層ビルには追っている犯罪組織(組織の名は不明)の幹部が伏していた。

 

 世界中のあらゆる情報をみ、家の機能を停止させようとする犯罪組織が現れ、日本も標的となっていた。

 難易度はさほど高くないため、新人のリカたちに任されて、組織を追うこととなったが、捜査力者に通者がいることが発覚した。手がかりをむためにその通者を尋問しようとするが、その人物は、口を割らず自ら命をった。よって、捜査が難航しそうになったが、組織係者が東京に伏しているという情報が入り、捜査けていくと、死んだ通者と情報交換していた人物を見した。リカたちは、その人物を慎重に尾行し、幹部がいる場所を突き止めたのであった。

 

 リカとツバキは苦を重ね、敵陣に踏みもうとしていた。

 潜入したビルは、不味なほどかで、とりあえず、リカたちはエレベーターに、幹部がいると思われる、最上フロアへと向かおうとした。 標的がいるフロアにいた瞬間、リカたちは武器を構え、を集中させながら通路を通った。

 そして、ツバキは標的がいると思われる部屋の扉を蹴破り、リカと共に室に突入したが、そこには誰もいなかった。二人は不審に思った。

 

かすぎる、どういうこと?」

 

「おかしいな、場所はここのはず

 

 標的を見失ったリカたちは不安げな表情を浮かべた。

 

「あらら、はめられちゃったかな?」

 

 ツバキが嫌な予感を察知して悟った。

 

「グゴー!」

 

「!」

 

 その時、突如、部屋に巨大モニターが現れて電源が入った。 そこには一人の男が映っていた。

 

「ようこそ、よくたね、するよ、間けなスパイたち!」

 映像に映っている人物こそ、二人が追っている犯罪組織の幹部の一人であった。は、暗闇のため見えなかった。

 

迎するにしては寂しい部屋だわ、やっぱり私たちを誘いむための罠だったようね?」

 

 ツバキは、い視線で幹部の男に話しかけた。

 

「そういうことだ、ここで君らお得意のどんぱちをすることは勝手だが、失った部下はすぐに補充できないでね、だからすぐらしたよ

 

 犯罪組織の幹部は、リカたちの行動を全て見いているようであった。

 

へえ、部下には優しいんだ、それでこれから私たちをどうする?」

 

 ツバキは、落ちいた表情で彼に質問した。

 

「このビルと運命を共にしてもらおうか?」

 

「ピッ

 

 すると、犯罪組織の幹部は何かのスイッチを押し、その直後、モニターの映像が切り替わった。面にはタイマーのカウントが表示された。

 

「ビルの何かに、このビルを吹き飛ばすほどの威力がある高性能爆が仕掛けてある、もうここは必要ないんでねちょうど邪魔なものがいっぺんに分できるいい機!」

 

 犯罪組織の幹部は、余裕の笑みを浮かべ、リカとツバキは、すぐに助かる手段を考えた。

 

と言いたいが、助かるかもしれない方法が一つだけある!」

 

「!」

 

 リカとツバキは、犯罪組織の幹部の意外な言に驚いている子であった。

 

「いいかい?よく聞くんだ、ここを出するには非常用エレベーターを使うしかない、ただ、そのエレベーターは細工してあってね、れるのは六十キロ以下の重さの物だけで、重さが認証されれば、正常に作動する仕掛けだ一度一階まで下りればもう使えなくなる、これで一人は助かるということになるわけだ、ご理解頂けたかな?じっくり相談するといい、見たところ二人とも同じくらいの体型のようだがどうだい、僕は優しいだろ?……

 

そうね、そんな優しいあなたのめなくて念だわ

 

 ツバキは、犯罪組織の幹部を睨み付けながら言葉を返した。

 

やれやれ、君らのような連中が現れてから動きにくくなったよ、そのうち君たちの組織と峙する時がくるだろうけど……生きていればいいね幸運を祈るよ

 

 犯罪組織の幹部は機嫌よく喋りけ、そのまま映像と音が途えた。 タイムリミットは容赦なく迫っており、冷に考える時間はないのに等しかった。

 

「どうする?」

 

  リカはツバキの指示を待った。

 

ここは高層ビル四十九階の密室、出ルートはエレベーター一基、出に使えそうな道具もないを探す時間もない、色んな任務をり越えてきたけど、これは最なケースね、ちなみに訊くけど、あんた体重は六十キロ以下よね?」

 

「ええ、そうだけど

 

「私ももちろん六十キロ以下だけどブツブツ

 

 ツバキは、作動するエレベーターの前に立ち、何やらいていた。リカの方は、冷に物事を考える余裕がなく、冷や汗が止まらなかった。そんな時

 

!」

 ツバキは何か閃いたのか、ある決をして、問題のエレベーターのボタンを押した。

 

「さあ、早くエレベーターにって!」

 

「え?」

 

 その時、リカは自分の耳を疑った。

 

「な何言ってん

 

「ドッ!」

 

 すると、ツバキは、素早くリカの腹部に一を与えて気絶させた。

 

「あなたはまだ死んではいけないわ、この仕事はね、何かを牲にしないと成り立たないの、組織のルールの一つあなたに未を託すわ、だから生きて」  

 

 ツバキは、悟を決めて気絶したリカをエレベーターの中へと移した。エレベーターは正常に作動して、そのまま一階に下りて行った。

 

「さようなら

 

 ツバキは、リカに別れの挨拶を言って、かに爆破時刻を待った。

 

 そして、時間が流れ、夢のような夜が過ぎていき、朝日が昇り始めた。リカとツバキが閉じめられた高層ビルは、瓦礫の山と化していた。

 早朝、警察が爆現場にけつけ、現場証と被害者の索が始まり、リカの方は奇跡的見され、重傷ではあるが生き延びていた。一方、ツバキの方は見されず、死亡したとされた。

 報道番組ではリカたちのことや犯罪組織についてのことは伏せられ、謎のビル爆破事件と報道された。

 

 爆破事件から日後、ツバキの葬儀が係者だけでしめやかに行われた。遺体はないため、棺の中には彼女の遺品だけが入れられた。親族や係者は、棺の前で手を合わせて悲しさをあらわにした。  

 リカは入院中のため、列出来ずにいた。

 

 公安部は、ツバキを殺した組織を全力で索したが、有力な手掛かりはなかった。それから一切、謎の犯罪組織と接触することはなく、警察組織ならび、世界各の秘密情報機、謎の組織の索から手を引いた。

 

「目を閉じれば、あの時の劇が甦る大事な人が消えて味のい爆音と暗闇に包まれる、あの時の

 

 かな病室のベッドには、包でぐるぐるきにされた一人の女性が、体を丸めてそべっていた。その患者女性は、起きているが精がなく、植物人間に近かった。

 

「グォー

 その時、彼女の病室に、一人の者とダークスーツをた男性が入室してきた。

 

……今の彼女の容体は?」

 

「昨夜に意識を取り怪我は酷いものでしたが、順調に回復しています脈も正常ただ

 

ただ?」

 

 者は表情を曇らせ、患者の女性の容体をスーツ姿の謎の男に告げようとした。

 

体力は回復していますが、精神面に問題が……よほど怖い体をしたのか、何かに怯えているようです確かに、あんな事故にまれたらどうにかなるのは然かと思います睡眠はあまりとらず、ほとんどこうやって体を小さくしたままです部屋のりを消せば、異常なほどぐことがあります

 

これではまだ使い物にならんなもう少し子を見るか

 

はい、また何か化があればご報告します

 

 二人は、しばらくたわっている患者女性のことについて話して、病室から去って行った。

 

 たわっている患者女性は、まだちゃんと口が利けない態ではあるが、耳はこえており、者たちが話していたことを理解していた。

 

お腹減ったな〜」

 

 患者女性は、心の中でそういた。この女性の正体は、リカであった。

 

 リカは、追っていた犯罪組織の罠にはまって瀕死の重傷を負ったが、奇跡的に助かった。それでも彼女が失ったものは大きく、悔やんでも悔やみきれなかった。それは、パートナーのことである。目を閉じれば、フラッシュバックでツバキと別れた時の記憶が甦るので、リカは、ずっと目を開けた態でいた。

 

 意識を取りしてからかなりの時間がっていて空腹態であるが、体が思うように動かず、食事を受け付けることが出なかった。

 

 しかし、その態はずっとくことはなく、時間って、リカに異が起こった。

 

「♪!」

 

……先生!例の患者さんが居る病室のナースコールが!!」

 

……何だと!?」

 

 担当医療スタッフは、急いでリカがいる病室へとけこんだ。すると、彼らの目の前には生き生きとしたリカの姿があった。

 

そんな体でないでよ、びっくりするじゃない!」

 

……ようやく正常な態にったようだねよかった心配したぞ!」

 

 担当医は、リカの姿を見てほっとした子であった。

 

「私はどれくらいここに?」

 

「そうだな今日で一ヶ月になる

 

「そうこの体酷い有り

 

これでもまだましな方だ酷い怪我だったが驚異的な回復力だ、順調に回復していっている!」

 

体は丈夫な方なんでね……

 

「だからといって、まだ安心は出ない元の態にすには、かなり時間が掛かる

 

そのようね……一つみたいことがあるんだけど

 

「何だね?」

 

「お腹減った何か食べさせて!」

 

 リカは、無邪な表情で担当医たちに空腹を訴えた。

 

よし、君のことだ、病院食では不だろうと思うから、ちゃんとした料理をご馳走しよう〜」

 

 担当医の許可が出て、リカがいる病室にぞくぞくと料理が運ばれていった。リカは、それをあっという間にたいらげ空になった皿が積まれていった。周りの療スタッフは驚愕のあまり口が開いたままであった。

 

 そこに一人訪者が向かっていた。

 

分と賑やかじゃないか

 

「!!!」

 

 リカは突然の訪者に驚き、食べていた物が喉に詰まりそうになった。彼女は慌てて水を含み、食べ物を飲みんだ。

 

「病み上がりで一に食べるのは体に毒だぞ

 

……課長!」

 

 その訪者は、公安部の課長であった。つまり、稼業のリカの上司である。

 

になったじゃないか、お祝いの花を持ってきたが、お前の場合、花より子だったかな?」

 

「いえいえ、ありがたく頂きます!!」

 

 リカは、赤面しながら食事を止めた。課長は、リカと二人で話がしたいようなので、スタッフはかに席を外した。

 

「予想より回復が早かったのでびっくりしたよ、さすがだな

 

「ご心配をおかけしましたるだけ早く仕事復しますので

 

そう焦ることはない、物事には順序がある今のお前では普通の生活も困難だろう

 

はい、そうですね

 

それにお前には報告しないといけないことがある」

 

?」

 

 課長の暗い表情から、それはいい報告ではないとリカは察知していた。

 

思い出したくはないだろうが、例の任務はご苦であったよくあんな墟から生きったなまさに奇跡だ運を分使い切ったんじゃないか?」

 

………

 

 リカは、嫌な予感がして課長の冗談に答できなかった。部長は答を待たず率直に報告けようとした。

 

しかし見放された者もいる………念だが彼女は……ツバキは助からなかったもうこの世にいない!」

 

………!!!」

 

 リカは、ツバキのことについて、薄々勘付いていたが、それは耳にしたくないことであった。

 

「先輩が……死んだ……!やはりそうですか……

 

 凶報をいたリカは、分が沈んでいく一方であった。彼女はそのまま俯き、けて話すことが出なかった。

 

お前が昏睡態の時に葬儀をませた今更なんだが、まさかこんな事態になるとは夢にも思っていなかった想定の範あの爆破したビルの中で何があった?今話せるのはお前しかいない話せるか?」

 

 課長の問いにし、リカは、重い口を開こうとした。

 

私もはっきり言って、簡な任務だと甘く見ていました彼女も同じ持ちのはずでも、相手は予想以上に手強かった追い詰めてもうちょっとのところで、取り逃がしあげくの果てには、罠にはまりこの通りです大事な仲間を失った

 

……想像以上に規模が大きかったということだな?」

 

ええ、結局、尻尾を掴むことが出ませんでした謎に包まれたままです

 

なる情報のっ取り屋ではなかったわけか……これでまた振り出しだな

 

申しありません」

 

「お前が謝ってもどうにもならんただ、不思議なことに例の爆破事件が起きてから情報漏えいによる被害が無くなったんだ世界中の秘密情報機がなくなった一件落と言えるだろうか……?」

 

もう犯人を追わないんですか?」

 

ああ、有力な情報がないからな動きようがないんだそれで捜査から手を引くことになったお前にはいが、無念を晴らすことが出ない

 

………

 

 リカは悔しさのあまり下唇をんだ。

 

………一つ訊きたいんだが、同じ場所にいてどうしてお前だけ助かったんだ…?明出来るか?」

 

………それは……先輩がツバキの機が利いたからだと思います

 

ツバキが?」

 

「はいあの高層ビルから出する手段は、エレベーターしかなかったでもそれも奴の手により細工されていた…一人しかれないエレベーターに、私を強引にせたから助かっ

 

わが身を牲にして、お前を助けたわけか

 

「そういうことです!」

 

さすがはツバキだな、苦の決だが仕方がないことだ…それだけ甘い世界じゃないことをお前も重々承知しているはずだ親身に受け止めろ」

 

「分かっています

 

だから今回の件は諦めろ他にもすることがたくさんあるこれから忙しくなるぞお前は表でもでも期待されているホープだからなツバキは、これからの輝かしい未をお前に託したんだ!」

 

はい」

 

ところでお前は今までサポート役に徹してきたわけだが、もうそれは卒業だ、これからは、自分で判して動かなくてはならない自信はあるか?」

 

今は何とも言えませんとりあえずこの怪我を早く治すことが先決かと

 

ああ、そうだな、根性のあるお前ならリハビリに耐えて、すぐ復できるだろう

 

「はい、頑張ります!」

 

とりあえず今はぐっすり眠ることだまともにてないだろ?」

 

そうですね、お腹いっぱいになったんで、眠たくなってきました今夜は安心して眠れそうです

 

そろそろ失するよ、そうだ、後日、歌劇理事長も見舞いに訪れるだろう

 

「そうですかわざわざありがとうございますお休みなさい

 

 リカは安堵の表情を浮かべ、課長はとりあえずほっとして病室を後にした。その夜、リカは劇の夢を見ることなく、爆睡して朝を迎えた。ここから彼女の過酷な試練が待ち受けていたのであった。

 

 翌朝、リカは、担当医を自分の病室に呼び出していた。

 

もう本格的にリハビリを始めるだって!?」

 

 担当医は、リカの思いがけない言に開いた口が塞がらなかった。

 

ええ、もうだいぶ怪我は治ってるからいいでしょう?」

 

「確かに異常な速さで回復しているが、リハビリするにはまだ早すぎるぞ奇跡的に靭帯は影響がないが、骨は完全につながっていない立つことなど……

 

ほれ」

 

!!」 

 すると、リカはどやで地に足をついて、バランスを保って立ちだした。担当医は、驚きのあまりが出なかった。彼は念のため、レントゲン真で確認しようとしたが、結果、リカの体の骨折部分は、ちゃんとつながっていた。

 

これは驚いた!ここまで回復しているとは

 

「これならオーケーでしょ?」

 

……分かった、リハビリするのを許可しよう

 

 リカは、自信にちた表情を浮かべてリハビリ施設に連れられた。こうしてリカの復の幕が開かれようとしていた。


エージェント・リカ

 都病院リハビリセンター

 

 リハビリを受けにきたリカは、車椅子から立ち上がり、自力でこうとしていた。周りを見渡すと手足がなく、義手義足を取り付けた者がたくさんいて、リカのように現場復するために誰よりも真んでいる者ばかりであった。

 リカは、看護士の指示のもと、リハビリに集中した。まず普通に練習を始めようとした。初級の行練習用通路は、三十メートルほどあった。はじめはさすがに思うようにいかず、すぐつまずいて倒れみ、悪戦していた。リカは、まず壁に手をついて、ゆっくりとこうとした。それは、スケートリンクではじめて滑る時のような感であった。

 リカの怪我は、治りが早いと言ってもしばらく昏睡態だったため、筋力がかなり落ちており、その態ですぐリハビリを行うのは、担当医の言った通り無謀なことであった。病室で立ったのも、やせ我慢だったかもしれないと担当医はふと思った。

 

どうだね?まだ無理だろう?自分の体が一番分かっているはずだ病室にろう

 

……嫌よ、この一直線の通路でけるまでらないわ

 

 リカは負けず嫌いなところがあり、志を燃やしていた。担当医は、呆れて溜め息をついた。

 

すまないが、私も他に仕事があるからいつまでも君にかまっていられない無理は絶対るな、本に体がれるぞ!」

 

 リカは、担当医の忠告に笑で受け答えした。担当医が去った後も、彼女は諦めず懸命にリハビリをけようとした。

 看護士がリカを見守る中、他に彼女の子を見している者が居た。それはグレーのスーツをて、サングラスをかけた、いかにも怪しい男であった。

 

………

 

 謎の男は、しばらくリカのリハビリしている姿をそっと覗いていた。

 

……ちょっと休憩したらどうですか?すごい汗の量だし、色も

 

 看護士は、リカの体調がになり優しくを掛けた。

 

大丈夫よでも、お腹空いてエネルギー切れかもはは

 

食は用意してありますただ、お願いしたいことが

 

何?」

 

食事についてですが、制限させてもらいますこちらで決めたメニューを食べて頂きます

 

そんな〜」

 

あなたの食事スタイルは、はっきり言って以上です今のあなたは、病人なんですか昨夜は特別ですよ今後のことを考えて、こちらのルールにってもらいますリハビリが終わっても身体検査があるんで、異常なデータが出ない為にも我慢してもらいます!」

 

「え!身体検査までってこと!?」

 

そういうことですね〜」

 

 リカにとって、食事制限は拷問に近いことであり、それで一に力がけたようであった。

 

「どうします?」

 

 看護士の容赦ない問いに困り果てたリカであったが、分後ようやく念した。

 

………います、けさせて下さい

 

了解しましたそれでは食を取ってからあと一時間頑張りましょう」

 

は〜い」

 

 リカは重い腰を上げて、看護士のサポートのもと、ちゃんとけるよう念した。

 

リハビリ初日は、ひとまず夕刻までけて、リカは、病室へとって行った。さすがに疲れたのか、彼女はベッドでになった途端、鼾をかいてていた。

 同じ頃、リカのサポートをしていた看護士は、担当医にリハビリの結果を報告していた。

 

でどうだった?」

 

……やはり食事制限のことがかなりショックだったのか、前半は調子がかったです

 

だろうな、それで今日は少しもけなかったのか?」

 

 看護士は、担当医の問いにしてゆっくり口を開こうとした。

 

……はっきりいって、今日はちゃんとくことは無理だと思ってました……しかし、最後の最後できましたゆっくりではありますが、壁に手をつかず三十メートルきました……!」

 

何だって!?」

 

これは真です!」

 

とても信じられん骨がくっついたばかりで立つのがやっとのはずそれに筋力はかなり落ちている初日でちゃんとけるとは!」

 

同感ですが、事なので

 

無理しすぎて異常はないだろうな?忠告はしておいたが

 

検査の結果、化はしていませんでした足の包も交換しておきましたしもうほぼ足の怪我は回復しています

 

彼女の回復力には驚かされるばかりだそれならもう少ししくやろう、飴と鞭で、飴はあまり与えるなときつく言われてな極限まで追いめとのことだそれを行するこっちの身にもなってほしいが

 

「了解ですそれでは明日から次のメニューに移ります

 

うむ、それで現在彼女は?」

 

寄り道させないよう病室まで送りました今は疲れてぐっすりてるかと

 

するななんといっても食欲にしては要注意だ監視を怠るな

 

「心得ていますまた後で子を

 

「よろしく

 

 こうして、一日目のリハビリが無事終わり、リカの試練がいた。

 それから週間後、担当医は、リカのリハビリ結果の報告書に目を通して、落ちかないであった。

 

想像以上にしませてくれるな彼女は!」

 

ええ、々と二百キログラムのベンチプレスを持ち上げていましたリハビリでする行為じゃないですよやけになってるんでしょうか?」

 

それもあるな好きなものが食べられないからストレス散だ何はともわれ順調のようだな報告しておこう」

 

 こうして、リカのリハビリは、問題なく進んでいき、それから一ヶ月近くとうとしていた。

 

 その日、リカはリハビリを終えて無事退院できるかどうかの身体検査を受けていた。

 

……は若干高いが神使う仕事だから仕方ないか……退院を認めよう!」

 

え?いいの?」

 

「ああ、怪我も完治したし、おめでとう」

 

「やった〜!やっと解放される!」

 

「お疲れでした!」

 

「ありがとう!世話になったわね!」

 

……退院したとはいえ、くれぐれも無理しないようにな特に食事は

 

「分かってるって!」

 

 リカは、担当医に苦笑いを浮かべ、を言った後、病院を出ようとした。彼女は迎えのタクシーを待っていたが、なかなかないので困り果てていた。

 

プァプァ!」

 

 その時、クラクションの音がこえ、その音は病院入口前の駐車スペースに停まっているメルセデスベンツからであった。

 

!」

 

 クラクションが鳴った直後、ベンツの運手が車から出て行き、リカの方に近づこうとした。その運手は、スーツを二十代後半くらいの男性であった。

 

初めまして、あなたを迎えにました、家までお送りしましょう

 

私を迎えに?あなたは一体?」

 

安藤ユウといいます、驚かせて申しないお見舞いでを出そうとしたんですが忙しくて

 

面のあなたがどうして迎えに?」

 

僕は……公安の人間です!」

 

え?」

 

 安藤はリカに近づき、自分が公安の係者だと小で明かした。

 

ここで話すのもなんですから、きは車の中で話しましょうどうぞ」

 

………

 

 リカはまだ半信半疑のまま、安藤の車にんだ。安藤は、運しながらリカと話をしようとした。

 

そんなに警戒しないで、どうも殺ちている腕を組む振りをして、上ポケットに利き手を深く突っこむのは、止めてもらえるとありがたいここでてば大きな事故につながる

 

……!」

 

 リカは、いざという時のためにひっそりと銃をく準備をしていたが、安藤に見かれていた。彼女は素直にい、利き腕を銃から放した。

 

プロだということは分かったけど、まだあなたを信用していないわ証明出来るものは?」

 

警察手帳や経歴の書類はいくらでも見せるよ、僕が敵なら、もうとっくにあなたを殺しているちなみに今日はオフでね銃は持っていない

 

まあいいわ、少しでも怪しい素振りを見せれば、強引に降りるわよ

 

分かったよ、話をけても?」

 

どうぞ」

 

かなり酷い怪我だったようだけど、予定より早く退院したようだね係者は皆、驚いているだろう?」

 

意外と体が丈夫なのが取柄でね、早く仕事したいし

 

表では舞台の仕事をしているようだけど、結構人あるみたいだね〜」

 

まあね、まだまだ未熟だけど……舞台をに行ったことは?」

 

ないんだよ、歌劇のことも最近知った出演者が全員女性というのは凄いね男も演じるわけだ?」

 

「男役をねはっきり知らないあなたからすれば不思議な感じでしょう?」

 

いいや、興味深いね、話のタネにに行きたいもんだがあなたは男を演じるのか?」

 

男役門よ、劇後、男役と女役を選るわ途中、役を替えられるし

 

どうして男役を?」

 

「背が高いからよ、あんまり背が高いと、ドレスとか女性用の衣が似合わないわ

 

「普段はひらひらの衣とかないのか?」

 

そうね、入してからスカートは一度も履いたことないわまず持ってないし

 

成程、役を忠に演じるためだね」

 

かなり興味を持ってくれているようね男性のファンがえてくれるとなんか嬉しいわ

 

 リカは表情が和らぎ、安藤と打ち解けようとしていた。

 

「もう少し話をけたいが、寄り道する所があってねそっちの用件をましてからの話をしよう

 

に行くの?」

 

あなたにいたいという人を待たせているんだ、これからってもらうよ」

 

それは誰なの?」

 

連絡を受けただけだからは知らないが、あなたがよく知っている人物だと思うよ

 

 リカは、待っている相手を知らないまま、安藤に待ち合わせ場所へと連れられた。

 

 待ち合わせ場所は都の公園であった。

 

並木道を通って場のベンチに座っているようだ行けば、すぐに分かるとのことだ

 

あなたは?」

 

僕はないように言われた、ここで待ってる、用がんだらってきてくれ」

 

 リカは素直に安藤にい、一人で公園へと入って行った。場に向かうと、ベンチに座っている者が一人居て、リカは、恐る恐るその人物に接触しようとした。座っている人物は女性で、サングラスをかけて、シックな感じの服こなしており、とても一般人とは思えない風貌であった。

 

あれ?まさか!」

 

 リカは、待っている人物の正体が分かったようであった。

 

いつまでぼけっと突っ立っているの?早く座りなさいよ!」

 

 ベンチに座っている女性は、命令口調でリカに話し掛けた。どうやら目上の人間のようであった。

 

「まさかあなただったとは驚きましたでもなぜ?」

 

可愛い後輩が入院したんだから、心配するのは然でしょ?見舞いに行こうと思ったけど行く暇がなくてね

 

「それは別に構いませんが

 

 リカを待っていたのは、先輩のノリコであった。

 リカの新人時代に就任した劇班トップスターの一人で、クールな一面が特で、ダンス技術が長けている。の世界では、孤高の狩人(ハンター)として恐れられている。

 

体の具合はどう?もう完全に回復しているの?」

 

 ノリコはサングラスを外し、淡々とリカに質問した。

 

……えっとはい!的確な治療とリハビリで、だいぶ良くなりました!」

 

そう、それなら安心ね、皆、あなたがってるのを待っているわ

 

私も仲間のを早く見たいです」

 

……あなたの相棒のことは念に思うわ彼女のことはよく知っていてねはっきり言って、あなたよりしっかり者で将来が期待された

 

……そうですよねどうして彼女が?どうせなら私が……!!」

 

 その時、リカは、表情が固まり、冷や汗をいた。それはまるで、金縛りにあったかのようであった。

 

その先のことを口にすれば、また病院送りになるわよ……!」

 

 リカが小刻みに頷くと、謎の金縛りは解けたようで、それはノリコの影響かどうかは不明であった。

 

……でも悔しくてたまりません、私がもっとしっかりしていれば……!」

 

自分を責めてもしょうがないわ、そういう運命だったのよあなたにも大物になる素質があるからツバキは、あなたの才能を見んで、自らの命を牲にしたんだと思う彼女はそういう人よ、未熟なはこれから補えばいい……今のあなたはプロとしての自が足りないわ

 

………

 

 リカは曇った表情のままであった。

 

「このままではツバキが浮かばれない先を目指すがあるのなら、くよくよしてないで心を入れ替えなさい!」

 

 リカはノリコのお叱りの言葉を浴び、それが身に染みて、今の自分の姿を恥じた。

 

ノリコさんの言う通りです、私はネガティブだから

 

「だからもっと自信を持ちなさい!」

 

はい、すみません」

 

……あとこれは辛いことだと思うけどツバキの件はしばらく忘れなさい相手がかったわ、とても敵わないわらない方がいいじきに決する時はるわそれまで待つのよ!」

 

分かりました」

 

 リカは、をこらえてノリコにった。

 

でもきついリハビリをり越えて、少しでも早く復する持ちには感服したわこれだと先が期待できるわね!」

 

「ありがとうございます!」

 

「今はとにかく、本業である舞台の仕事に重を置くのよ、あなたもいずれ私と同じように上を目指す立場になるそろそろ私たちの班の公演稽古が始まるわうかうかしている暇はない今までよりしく行くから悟して!」

 

はい!」

 

 ピリピリとしたムードに包まれる中、ノリコは、まだ何か言いたげであった。

 

……それとこれは正式に表してないけど、特別にあなたに話しておくわ

 

何でしょうか?」

 

……歌劇を退しようと思うの」

 

え?」

 

 リカは、ノリコの衝的な言で目がになった。

 

まだ先のことだけどね、周りに言いふらさないでよ〜後からちゃんと表するんだから

 

「それは自分の意志ですか?」

 

いちいち詮索しないで、トップスターなんてずっとなれるものじゃないし未練はないわそろそろ世代交代ってことよ

 

「私は困ります教えてほしいことがたくさんあるのに

 

だからめるまでちゃんと指導するわあなたを含め、若手を成長させるためにみっちりと鍛えてあげる!それなら納得でしょ?」

 

はい」

 

「よし、これで全て伝えたわ、あなたの元な姿を見れて良かった今度は稽古場でいましょう」

 

 ノリコは、サングラスをかけ直して、颯爽とリカの前から去ろうとした。リカは、ノリコの姿が見えなくなるまで呆然と立ったままの態であった。

 

 しばらくして、車で待っていた安藤は、ってきたリカにそっと話し掛けようとした。

 

用事はんだようだな」

 

……ええ、分と待たせたわね」

 

別にいいさ、それじゃあ行くか

 

 安藤は、車を進させてリカを家まで送ろうとするが、なぜか移動中に話しようとしなかった。リカもまた話し掛けようとせず、車まずい空が流れた。安藤は、リカの思い詰めた表情を見て、安く喋り掛けてはいけないと察していた。沈の時間がき、づけば安藤がする車は、リカの自宅マンションの前に停まっていた。

 

ここで合ってるだろ?」

 

「ええ、ありがとう、短い間だけど世話になったわもううことないわね」

 

………

 

 その時、安藤はリカの言にして、何か言いたげな表情を浮かべた。

 

どうしたの?」

 

は永遠の別れにはならないんだ上の命令でなこれから俺がお前の新しい相棒になるわけだ改めてよろしく!」

 

えー!!!!!!!?」

 

 安藤は急に馴れ馴れしく接し、リカは、驚きのあまり車を張り上げた。こうして、リカの新しい生活が始まろうとしていた。

 

 それから日後、リカが所する班が出演する舞台作品の稽古が始まり、彼女は、久々に仲間とを合わせて喜に沸いた。

 

 ある日、忙しいスケジュールの合間を縫って、リカは亡くなったツバキの墓りに訪れていた。その日の彼女の服は、男性用の喪服であった。リカはツバキの墓前で立派な男役、舞台女優になると誓って、分手を合わせた後、その場を後にした。

 

 それから長い年月が流れた。記念すべき周年の年が近づき、歌劇は、より一層活づいていた。

 女性ファンが多いとされる歌劇であったが、徐々に男性ファンもえていき、海外のファンも現れて、一層注目されることとなった。こうして、歌劇が盛り上がってるわけだが、そのであることが蠢いていた。

 

 打ってって、その年のしい東京。都某所のオフィスビルの一室で、待っている者が一人居た。

 待っている部屋は、CEO(最高経営責任者)の部屋で、その人物はアポイトメントを取っておらず、無で社へとんでいた。会社の人間は、そのことにづき、急いで侵入者のもとへと向かった。

 

……誰だ、お前は?どうやって入った?」

 

 CEOが警備を引き連れて、侵入者の前に現れた。侵入者は慌てることなく、ゆっくりと立ち上がった。その侵入者は、オーダーメイドの紫がかったダークスーツを身に纏って、腕を組んで姿勢よく立っていた。

 

ここはセキュリティー専門の社だと耳にしたけど、たいしたことないわねおたくの社員に化けて、お邪魔させてもらった本人は無事だから安心して」

 

……お前は一体?」

 

私の名はリカ、公安のエージェントよ、あなたに訊きたいことがあってたの」

 

……警察か?警察が何の用だ?」

 

しらばっくれないで、あなた、陰で色々なことしているでしょう?」

 

……ぐ!」

 

 CEOは、リカに指摘されて色をくしていた。

 

事をいているようだけど、今回は見逃してあげるわ別件で訪れているんでね

 

「ごちゃごちゃと喧しい女だ、警察だろうと許せないことだ、早く出て行け!」

 

私の質問に答えてくれたら出て行くわ

 

れ!自分から出て行かないんなら、力ずくで追い出すまでだ!」

 

 CEOはリカの用件にじず、警備を使って彼女を追いだそうとしていた。

 

!」

 

 警備がリカを捕らえようとするが、彼女は抵抗して、反の隙を窺い、リカは警備の一人に蹴りを浴びせた。

 

何している?どんどん行け!」

 

 リカの強さに怖づいた警備たちであったが、CEOの命令で仕方なく動こうとした。警備たちは、一にかかろうとしたが、リカには通用せずことごとく倒されていった。づけばCEOだけり、2人きりになった。リカはCEOに銃を突きつけた。

 

……さて、これで邪魔者が居なくなったゆっくり話しましょうか」

 

……警察が脅迫するか!」

 

警察、警察って五月蝿いね、私は非常勤みたいなものよ、特殊なだから問題ない、これも捜査…!

 

……何が訊きたいんだ?」

 

 CEOは身の危を感じ、リカの質問に答えようとした。

 

……あなたがある犯罪組織の一員だということは分かっている知っていることを全て話してもらうわ

 

「!……詳しいことは知らない……私はただの下っぱだ話せることはない!」

 

じゃあこれならどう?年くらい前に社が爆破事件にまれたはず爆破された社の情報は抹消されて調べようがない何か知っているでしょう?」

 

!!ああれには私が与していない……どうしてそんなことを訊く?」

 

 CEOは包みさず質問に答えようとして、リカは、CEOに追っている事件の事を話そうとした。

 

……爆破された社には私も居たのよ、そして仲間が一人爆破にまれて死んでしまったわだから犯人を追ってる!」

 

敵討ちということか

 

そうよ、絶対に許さない!」

 

 この年、リカは所している歌劇のトップスターに就任して歌劇の看板を背負う人材に選ばれた。また、の世界では、一流エージェントに昇格して、相棒の公安職員、安藤と共に凶な犯罪を捜査していた。彼女は、あらゆる困難をり越えて、仲間の敵を討とうと奮していた。 

 

 

………!あれ?私、てた?」

 

 リカは、自主稽古の休憩中に疲れ果てて眠ってしまっていた。彼女は、長く夢を見ていたようであった。すっきりしたで目めたリカは、稽古をけようとせず、る支度をしようとした

 

……今夜はこれくらいにしとくよ無理するのは体に毒でしょ?」

 

 リカはり際、彼女以外誰もいないはずのエレベーターホールで何やら語り掛けた。それは亡くなった友、ツバキに向けた言葉であった。リカは、ツバキとの約束を果たし、彼女の分まで精いっぱい生きようと考えていた。


サマーメモリー

 ある厳しい暑さが続く日本の夏、百年の伝統がある大手歌劇団は勢いが衰えず、観客の期待に応えようと奮闘していた。

 歌劇団は、六つの班に分かれて公演を行っており、公演スケジュールなどはそれぞれ異なる。さらには、拠点としている劇場の公演だけでなく、全国ツアー公演、若手スター育成のための公演などがあるため、班の中で二手に分かれることが多々ある。これにより、ファンは日本各地で歌劇団の舞台を楽しむことが可能となった。

 一班のトップスターのリカは、大作の公演を終えて一段落ついていた。次の仕事であるディナーショーは、まだ先のことなので、彼女は久々の長期休暇が取れることが出来た。

 ある朝、リカは一度目を覚まして慌てた素振りになるが、ふと休暇だということに気づいた。

 

「…ふ~焦った…」

 ほっとしたリカは、不規則と分かっていながら再び寝転がり、二度寝することにした。よほど疲れが溜まっていたのか、彼女はすぐに眠りに就いた。

 真夏といっても朝の時間は涼しい方で、リカは、冷房を点けずに眠っていた。

 

リカは、ある夢を見ていた。しかし、それは夢といっても実際にあったことで、彼女の過去の出来事であった。

 時代はリカがまだ歌劇団の新人劇団員だった頃、この頃、トップスター時代に比べれば楽な方で、彼女は安心して夏休みを取っていた。

 リカは、夏に休みを取ると、決まった場所に足を運んでバカンスを楽しんでいた。

 

その場所は神奈川県内に位置する美しい海が一望出来るのどかな田舎町、柚里浜(ゆずりはま)であった。漁業で盛んな町であるが、春は山で花見が出来て、夏はスキューバダイビング、秋は紅葉狩り、冬は外湯巡りと一年中楽しめる観光スポットとなっている。

 

 

 

 トンネルの暗闇から抜けて海沿いを走る列車にはリカが乗っていた。その他の乗客の中には、馬鹿騒ぎしている大人や子供がいて、それを迷惑そうに見ている者もいた。

 

「…コン」

 その時、酔っ払いが放ったビールの空き缶が、リカに命中した。しかし、彼女は少しも反応せず、サングラスをかけながら爆睡していた。

 

「…ご乗車ありがとうございました…まもなく柚里浜に到着いたします…お降りの際、お忘れ物がないようお気を付け下さい…」

 

 車内に聴き心地のいいアナウンスが流れ、リカは、目を覚ましててきぱきと降りる準備をした。

 

「あ~やっと着いた~暑いね~」

 

 リカは背中を軽く反らし、駅を出て強い日差しを浴びた。外は蝉の声が鳴り響き、夏の空気が染み渡っていたが、がらんとして、これといって目立つ物はなかった。駅前には、タクシー乗り場や一日に二本しか来ないバス停留所、他に小さな売店や古びた食堂がある程度であった。

 

「…!」

 

 リカにとって見慣れた風景であったが、よく辺りを見渡すと、気になる物が目に入った。「環境破壊するな!」「リゾートホテル建設反対!」等と書かれた旗が駅の隅の方に掲げられていた。さらには熱い中、だらだらと汗を掻きながら署名運動をしている町民を目にした。

 

「…あのすみません」

 

「え?」

 

 バス停に立っていたリカは、署名運動している町民の一人と目が合い、声を掛けられた。

 

「…時間は取らせないので、ご協力願いますか?」

 

「…はい、いいですけど」

 

 リカは、サングラスを一旦外して町民の話に耳を傾けた。

 

「…ありがとうございます、実は、この柚里浜に高級リゾート施設の建設の話が持ち上がって、我々町民はそれに反対しているわけでして…計画を中止しようと、署名を集めているんです…」

 

「…成程、暑い中ご苦労様です…」

 

 リカは、気立てのいい七十代前半の男性町民から事情を聴き、快く署名用紙とアンケート用紙を受け取った。

 

「…今日は、この町にご旅行で来られたんですか?」

 

「…はい、毎年、夏になると来るようにしているんです、スキューバダイビングがしたくて…」

 

 リカは、用紙に記入しながら老人男性の質問に答えた。

 

「そうですか、自慢出来る美しい海ですからね~あなたと同じ目的で多くの人が来られますよ…日帰りですか?」

 

「…いえ、泊まりです、休みは長いんで…ずっと同じ旅館に予約しています」

 

「へえ~…ちなみにその旅館の名は?」

 

「…えっと、美楽荘って旅館ですけど…」

 

「ああ~美楽荘ですか~あそこはいいですね~従業員もいい方ばかりですし…」

 

「そうなんですよ、子供に頃から家族と来ているんで気に入っちゃって~」

 

 リカは、すっかり老人男性と意気投合して、日陰にあるベンチに一緒に座り、しばらく雑談していた。

 

「…!」

 

 時間を絶つのを忘れ、気づけば、リカが待っているバスが到着して、老人と別れることになった。

 

「…すみませんね~老人のつまらない会話を聞いてもらって…」

 

「…いえいえ、楽しかったです、何か亡くなったおじいちゃんを思い出しました、無理しないようにして下さい…!」

 

「…本当にありがとうございました、どうか楽しんで帰って下さい…それでは」

 

 老人男性は、リカに別れの挨拶をして署名運動を再開した。後から分かったことだが、老人男性の正体は、前町内会会長であった。現在は会長の座を長男に譲り、悠々自適に暮らそうとしたが、リゾート計画のことが気になり、町民と共に建設反対運動に参加していた。

 リカは、バスで宿泊する旅館に向かおうとしたが、乗客は、地元の人間三人とリカのみであった。景色を見ると、道路は海と山に挟まれてまさに自然の宝庫であり、とても都会では味わえないものであった。リカは、バスの中でもう仕事の疲れが吹っ飛びそうであった。しばらくしてバスは山中を通り、リカが宿泊する旅館近辺で停車した。

 

 リカが宿泊する旅館〝美楽荘〟は、こじんまりした二階建てで、周りの旅館と比べると古びていた。しかし、それに風情があって、魅力的で多くの旅行者が宿泊していた。何よりリカのような常連客が多かった。また、前会長が言ったように従業員はいい人材ばかりで、細やかなサービスが行き届いていた。

 

「いらっしゃいませ~」

 

 リカが旅館に入ると、気品あふれる和装で出迎える美人女性がいた。

 

「あの…またお世話になります~」

 

 リカは、美人女性に愛想よく挨拶した。どうやら二人は顔馴染のようであった。

 

「…リカちゃん、今年も来てくれたのね、お気に入りの部屋はちゃんと取ってあるから…」

 

「ありがとうございます!」

 

 美人女性は、美楽荘の女将であった。名は水口沙耶、四十七歳。実年齢より若く見えて、優しそうであるが怒ると怖い一面が出る。

 

「ゆっくりしていって、あの娘に案内させるから…茉緒、お客様よ~!」

 

 すると、一階へ降りていく足音が聴こえ、一人の若い仲居がリカたちの前に現れた。

 

「あ~リカ!待ってたよ!」

 

 その仲居もまた、リカと顔馴染であった。彼女は沙耶の実娘で、名は水口茉緒、十九歳。リカの幼馴染みであった。

 高校卒業後、親が経営している旅館で仲居として働いていた。母の跡を継ぐため、幼い頃から厳しい教育を受けていた。

 

「さ~リカちゃんを部屋まで案内してあげて!ちゃっちゃとね!」

 

「分かってるわよ、ちゃんとするから!」

 

 リカは、茉緒たちの親子喧嘩を見て、くすくすと笑っていた。茉緒は、リカの荷物を持って、宿泊部屋まで案内しようとした。

 

「結構、様になって来たわね、まだ仕事は大変?」

 

「…まあね、常連客が多いからやりやすい方だけど…さっき見た通り、まだ一度も褒められてないわ…小さい頃から仕事を手伝わされで厳しいったらありゃしない…」

 

 リカたちは、宿泊部屋に向かいながら雑談していた。

 

「…怒ったら怖いかもしれないけど、いいお母さんじゃないの…全然変わらないわね、おばさん…いつまでも綺麗~」

 

「…一切、疲れた表情を私たちの前で見せないからね…その辺がプロよ…家族の中で一番プライド高いし…リカのお母さんの方が綺麗だと思うけど…」

 

「……そうかな?なんか変わった人だからね~そこが似たんだけど…」

 

「……あんたの方こそどうなのよ、舞台の仕事は順調なの?」

 

「…ええ、まあ…まだチョイ役ばかりだからなんとも…今さらだけど、自ら舞台に立って歌ったり踊ったりするなんて考えられないかも…」

 

「…考えられないと思っているのは、私たち身内よ…まさかあんたがあの歌劇団に入団するなんて信じられなかった…友達全員驚きっぱなしだったわ…てっきりモデルになるかと…」

 

「…私もモデルになるつもりだったんだけど、歌劇団は親に薦められたのよ、母は歌劇団のファンだし…絶対人生の役に立つって言われて…」

 

「歌劇団専属学校の入学試験は大変だったんでしょ?全く会えない時あったし…倍率がえげつないって聞いたけど…よく一発で合格出来たわね…」

 

「…まあ奇跡ってやつじゃないの…」

 

「…運も実力のうちって言うしね…これからのあんたの活躍が楽しみだわ~ふふ」

 

「からかわないでよ…それよりこの町、随分揉めているみたいね?」

 

「え?」

 

「…リゾート施設を建てる計画で騒ぎになっているんでしょ?」

 

「…ええ、今年の春くらいから建設会社側と対立しててね…今頃、公民館で言い争っているでしょう…うちの父さんも代表で反対運動に参加しててね…駅前で署名してくれたのね?」

 

「…うん、偶然、署名運動しているおじいさんに会ったのよ、感じがいい人だったから気分よく同意したわ…」

 

「…おじいさんね」

 

 茉緒は、頭に前町内会会長の顔がよぎったが、あえて、リカに正体を明かさなかった。

 

「私も今のこの町、好きだから早く中止になるのを祈っているわ」

 

「ありがとう、確かに最近、町は寂れてきたけど、必要としてくれている人は大勢いるわ、町の人はいい人ばかりだし…もし高級ホテルなんて建ったら柚里浜ではなくなってしまうわ…なんとしても中止にさせないと…」

 

「私に出来ることがあったら何でも言ってね!」

 

「ありがとう、気持ちだけ受け取っておくわ、あんたは思い存分楽しんでくれたらいいから……!」

 

 その時、リカたちの前に一人の仲居が現れた。

 

「…あら、茉緒さん…そちらはお友達?」

 

「はい、客でもあるんですけど、毎年、この時期に泊まりに来るんです…」

 

「そうなの、綺麗なお友達ね」

 

「…あっありがとうございます…!」

 

「…彼女には今年の春から働いてもらってるの」

 

「…中山祥子と申します、よろしくお願いします」

 

「…リカです…よろしくお願いします!」

 

 祥子は、リカたちより年上で大人の女性の色気を出し、実に魅力的であった。

 

「それじゃあ、リカさん、ごゆっくり~」

 

 祥子は、リカに上品な姿勢で振る舞い、その場を去って行った。

 

「…今の仲居さん、綺麗な人ね~」

 

「そうでしょう、仕事の覚えもいいし、もう人気者よ、かなりの戦力になってるわ」

 

「そうでしょうね~」

 

 リカは祥子に見とれていた。

 

「…さあお気に入りの部屋に入って」

 

 リカは、茉緒に扉を開けてもらって、部屋に足を踏み入れた。

 

「…?」

 

 その時、リカの宿泊部屋のはずであったが、なぜか人の気配を感じ、奥の部屋につながる襖をそっと開けようとした。

 

「…!!」

 

 部屋には人影があり、それは、一人の女の子であった。

 

「こら!何してんの!」

 

 茉緒は、部屋にいる女の子にきつく声を上げた。

 

「………」

 

 女の子は茉緒の怒号に動じず、何食わぬ顔を浮かべて部屋から出て行った。

 

「…あの娘、誰?」

 

「うちの姪っ子よ、今、小学校は夏休みだから遊びに来ているの、一人でね…ほんとお転婆で…悪いわね、驚かせちゃって…」

 

「…別にいいわよ、全然平気だから」

 

「あの子どっか汚してないでしょうね…せっかく綺麗に掃除したのに…」

 

「やっぱり子供にも分かるのよ、ここがいい部屋だってことが…」

 

 リカの言う通り、予約した部屋からの風景は素晴らしいものであった。自慢の美しい海が一望出来る絶好の場所であった。リカは、毎年この部屋を予約していた。

 

「まあ自由にやってよ、早速泳ぎに行くんでしょう?」

 

「うん、今日は天気がいいからね~」

 

「昨日は滝のように雨降ってたのに…あんたは、確か晴れ女だったわね」

 

「うん、結構天気は恵まれているわ」

 

「…じゃあ私が旅館の車で下まで送ってあげるよ~」

 

「ありがとう、ちょっと待ってて、用意するから~未来の女将さん~♪」

 

 リカはスキューバダイビングを目的にやって来たわけだが、ダイビングライセンスを持っていなかった。まず彼女が向かったのはダイビング体験の施設であった。

 

「……それじゃあ私はここで…今日は忙しいからすぐに戻らないと…夕方に迎えに来るから」

 

「うん、ありがとう、頑張って、未来の女将さん~♪」

 

 リカは、茉緒に礼を言って、一人でダイビング教室へと入っていた。

 インストラクターとは顔馴染で、スタッフたちはリカを温かく迎えた。

 

「いらっしゃいませ、お待ちしていました」

 

「よろしくお願いします~」

 

 リカのインストラクター担当は、こんがり焼けた肌で健康的な好青年であった。

 

「今日は天候が良くて水温が高い方だから気持ちよく潜れますよ~」

 

「はい、楽しみにしています~」

 

 リカは、期待しながら水着の上からレンタルのダイビングスーツやシュノーケルセットを身につけた。その後、彼女は小船に乗せてもらい、ダイビングポイントに向かった。

 

「それじゃあこの辺りで潜りましょうか」

 

「はい」

 

 リカは、インストラクターに指導してもらいながら海に潜ろうとした。澄んでいる海の中を覗くと、それは神秘的な光景であった。海中には、優雅にさまざまな種類の魚が泳いでおり、リカたちを少しも警戒せず、歓迎しているように見えた。視界がいいため、海中の様子がはっきりと分かり、リカたちも海の住人になった気分であった。彼女は、海中でインストラクターに写真を撮ってもらい、その光景は、地上での観光と変わらない行為であった。リカは時間を忘れ、初日から満喫していた。彼女は時間を忘れるくらいの海の中が好きであった。

 

 一方、美楽荘は忙しいようで対応に追われていた。そんな中、また一人、宿泊客が訪れようとした。受付には急いで戻ってきた祥子が待機していた。

 

「…いらっしゃいませ、ようこそ……!」

 

 祥子は、訪ねてきた男性客の顔を見るとなぜか青ざめた表情を浮かべた。

 

「…予約した古谷ですが…」

 

「え…はい,承っております…」

 

 祥子は、どうにか気持ちを切り替えて応対した。

 

「…!」

 

 そこに茉緒が現れて、祥子は冷静さを装った。

 

「…いらっしゃいませ~……祥子さん、すみません…!皆バタバタしていて…」

 

「…別にいいのよ…部屋までご案内するからここをお願い…」

 

「分かりました」

 

 祥子は、茉緒に受付を任せて古谷という男性客を部屋まで案内した。

 

「…お荷物お持ちします…」

 

「…いえ、結構…大丈夫ですから…」

 

「………!」

 

 古谷は何処か無愛想で、気まずい空気が流れた。祥子と古谷は、とても初対面とは思えなかった。

 

「……夕食の時間になりましたらお知らせしますので…それまでごゆっくり…」

 

 祥子は、若干早口で旅館内の説明をして、逃げるように部屋から去ろうとしていた。しかし、古谷の手が伸びて、彼女は引き止められた。祥子は、古谷に肩を掴まれ、脅えている様子であった。

 

「…まあ、そう怖がるなよ、久しぶりに会えたんだから…」

 

 その時、古谷の様子が豹変し、祥子に馴れ馴れしく話し掛けた。

 

「……私は、あなたのこと知らないわ…!」

 

「…その割には、顔をちゃんと覚えてくれているようじゃないか…少し整形したんだが、効果なしかな…ふふ」

 

「…顔を変えても分かるわ、あなたの嫌な部分が滲み出ているから…」

 

「さすがだな…長く一緒に居たからな、また会えて嬉しいよ…」

 

「…何の用なの?」

 

「…ゆっくりと話したいが、今は忙しいだろう…落ち着いたら部屋に来てくれ…」

 

「………」

 

 祥子は首を縦に振らず躊躇していた。

 

「…俺からは逃げられんぞ、住み込みで働いているんだろう?警察にも言えないしな…」

 

 祥子は、古谷に何やら弱みを握られて、拒否することが出来ないようであった。この二人が接触したことで、ある問題が巻き起ころうとしていた。

 

 気づけば夕刻となり、夕日が澄んだ海を赤く染めていた。リカは、ずっと海中散歩を楽しんで、そろそろ引き揚げようと陸に上がっていた。

 

「今日はありがとう~また明日よろしく~」

 

 リカは、ダイビングスタッフたちに手を振って、茉緒が運転する車で、宿に戻ろうとした。

 

「今日は、満喫出来た?」

 

「ええ、何度潜っても全然飽きないわ~泳ぎ疲れたけど良かったわ~」 

 

「でしょうね~でも楽しみはまだあるわ、日頃の疲れを吹き飛ばす温泉に今日はいい魚が大量に獲れてね…豪華な夕食が待っているわ、でも、あんた確か…海鮮類、苦手だったわね…?」

 

「うん、でも火が通っていれば大丈夫…生が苦手で…」

 

「あんた臭いに敏感だからね…魚の生臭さが耐えられないのね…まあ、肉料理もあるし、メニューは豊富だから問題ないでしょう?」

 

「うん、エビフライとか陶板焼美味しいね~刺身以外なら食べられるよ!」

 

 リカは無邪気に友と語り合い、幸せな一時を過ごしていた。

 

 美楽荘の宿泊部屋数は六室あり、その日は満室となった。リカは、夕食前に温泉に入ろうとしたが、脱衣場の人の多さに嫌気が差し、夕食後に入ろうと決めた。ダイビング後、しっかり海水を洗い流したので特に問題なかったようであった。

 

 リカは、風呂を諦めて部屋に戻ろうとしたが、その途中、受付ロビーで茉緒の姪を目にした。彼女は椅子に座り蹲っていて明らかに様子がおかしかった。

 

「…どうしたの?お腹の調子でも悪いの?」

 

「………」

 

 リカは茉緒の姪を気にかけるが、彼女の応答がなかった。茉緒の姪の体は、震えており何かに怯えているようであった。

 

「……帰ってきてからずっとその調子なのよ…」

 

 リカたちの前に汗を掻いた茉緒が現れた。

 

「部屋で会った時は元気そうだったのにね…今の状態だと、名前も訊けそうにないわね」

 

「…名前は西野伶亜、小学三年生よ…お転婆だけど、まだ甘えん坊な一面があってね…急に親が恋しくなったのかな…?仕事が片付いたら、事情を聴こうと思うんだけど…」

 

「………」

 

 リカは、伶亜が何か深刻な事情を抱えているではないかと推測していた。

 

「…さあそろそろ夕食よ、リカ、悪いけど、この娘と一緒に食べてあげてよ、賑やかなところで食事した方がいいでしょう?」

 

「そうね…伶亜ちゃん、お姉ちゃんと一緒に広間の方に行こうか…」

 

 伶亜は無言のまま、リカについて行こうとした。

 

「……あのすみません」

 

 その時、スーツ姿の男性数人が美楽荘に訪ねて来た。

 

「…いらっしゃいませ……あの…宿泊でしたら今日は生憎満室でして…」

 丁度ロビーに居た茉緒が、男性たちに応対しようとした。しかし、突然訪ねて来た男性たちは、茉緒が予想していたこととは違う反応を見せた。

 

「…すみません、我々は宿泊で訪れたんじゃないんです、実は刑事でして…」

 

「え…?」

 

 刑事と名乗る男性たちは、証明するために警察手帳を提示した。茉緒は、突然のことで気が動転しそうになった。

 

「…ある捜査をしていまして、ご協力願いますか?」

 

「…はい、どういったことでしょうか?」

 

 すると、刑事の一人が上着の内ポケットから写真一枚を出して、茉緒に見せようとした。

 

「この男性なんですが…こちらに宿泊していませんか?」

 写真に写っている人物は、古谷という宿泊客で、茉緒は彼と顔を合わせていた。

 

「!……はい、今日、ご予約頂いておりますが…古谷様が何か…?」

 

「………さきほど遺体で発見されました」

 

「…え?!」

 

 その時、茉緒は自分の耳を疑い、リカたちの耳にも届いていた。

 

「……!!!」

 

「…伶亜ちゃん?」

 

 リカは伶亜の異変に気づいた。彼女は、何かを思い出したようで酷く怯えていた。

 

「…申し訳ないですが、事情聴取したいので従業員の方、全員呼んで頂けませんか…勿論、業務が終わってからで結構です…宿泊客に騒がれないよう寝静まった時間がいいでしょう…それまで待ちます、どうかご協力を…!」

 

「……分かりました、女将に伝えて来ますので…」

 

 茉緒は緊急を要して、女将である母に伝えに行こうとした。

 

 謎の宿泊客、古谷の死亡により、リカは、ある重大事件に巻き込まれようとしていた。

 刑事たちが訪ねて来たのを耳にした女将、沙耶は他の宿泊客に刺激を与えないよう、彼たちを速やかに使用されていない大部屋に誘導した。夕食の支度や段取りは沙耶の娘の茉緒に任された。

 その頃、リカは、茉緒の姪にあたる伶亜と広間で夕食を取っていた。

 遊び疲れたリカはご馳走にありつき、箸の動きが止まらなかった。しかし、それと比べ、伶亜の箸があまり進んでいないようであった。

 

「…どしたの?結構残っているけど…お腹空いてないの?」

 

「………」

 

 リカは心配して伶亜に話し掛けたが、彼女は無言のままで、彼女が旅館に戻ってからどうも様子がおかしかった。伶亜は少しも心を開かず、リカは困り果てていた。

 

「……綺麗に食べてくれてるわね、ご飯もまだお代わりあるけど…」

 

 リカたちに話し掛けたのは、仲居の祥子であった。

 

「…いいえ、もうお腹いっぱいなのでこれくらいにしときます…すみません」

 

「…そう、じゃあデザートの杏仁豆腐持ってきますね」

 

「ええ、お願いします」

 

「…伶亜ちゃんは……あれ?いっぱい残してるわね…」

 

「…そうなんですよ、なんか元気なくて食欲ないみたいで…」

 

「どうしたのかしらね?伶亜ちゃん、何かあったの?」

 

「…!!!!」

 

 その時、伶亜の態度が豹変して、ますます顔色が悪くなった。彼女の体の震えは止まらなかった。

 

「…伶亜ちゃん?」

 

「あらあら、本当にどうしちゃったのかな?はじめに会った時は元気よく挨拶してくれたのに…」

 

「…!」

 

 その時、伶亜はリカたちと目を合わさず、広間から逃げるように走り去って行った。リカと祥子はお互い目を合わせ、首を傾げていた。リカはまだ、ことの重大さに気づいていなかった。

 

 一方、大部屋では従業員数人が集められ、古谷の件で事情聴取を受けていた。まず、事情聴取を受けたのは沙耶であった。

 

「…では古谷氏は今日、こちらの予約を取っていたわけですね…?」

 

「…ええ、うちは大体、常連のお客様が多いんですが、古谷は新規のお客様で、馴染がなくて…」

 

「…そうですか、最後に彼を見たのはいつですか?」

 

「…午後四時過ぎくらいに外出されまして…街を探索したいとおっしゃったので下まで車でお送りました…」

 

「…女将さんが運転されたんですか?」

 

「ええ、新規のお客様は、私か主人が対応するようにしています…主人は居なかったものですから…」

 

「今日、ご主人はどちらに?」

 

「…公民館に行っています…討論会に参加するために…」

 

「…討論会…?…ああ、リゾート地開発の件ですね…成程…」

 

「あの…何か私たちを疑ってます…?」

 

 沙耶は、刑事たちの質問の仕方が気に入らないようであった。

 

「…いえいえ!そんな滅相もない!これも仕事なので気にしないで下さい…ただ、こちらの旅館に宿泊しているということが分かったのでお伺いしたまでです…」

 

「…それならいいですけど」

 

 沙耶を落ち着かせたところで、また別の若手刑事が聴取を続けようとした。

 

「……遺体が発見された場所は、裏山の崖下でした…崖上を調べると、彼の足跡があったため、そこから足を踏み外したと考えられます…事故として捜査しているんですが…」

 

 若手の担当刑事は、手帳を片手に何か疑問に思っている様子であった。

 

「…事故なんでしょ?」

 

「…実は不可解な点がありまして…発見された遺体は、仰向けに倒れ込んだ状態だったんです…自ら転落した場合、うつ伏せになるのが自然です…」

 

「…確かにそうですね」

 

 沙耶は、刑事の話に納得して聴き続けた。

 

「…それに気になることはまだあって…頭部の怪我なんですが、仰向けになって落ちたのなら、後頭部にダメージが集中するはずなんですが…何故か前頭部の損傷も酷くて…とても事故で負った怪我とは思えないんです…」

 

「…つまり、自ら落下したのではなく、誰かに危害を加えられたということですか?」

 

「ええ、殺人事件…かもしれません…!」

 

「…そんな!」

 

 沙耶は、とてつもない恐怖を感じ、しばらく俯いた状態であった。

 

「……まだはっきりと決まったわけではありません…現場にはビールの空き缶が発見されましてね、彼が飲んだものと分かり、酔っぱらって滑り落ちたとも考えられる…事故か殺人か両面で捜査しています」

 

「……ショックです、今まで宿泊客とのトラブルはなかったのに…しかも死亡するなんて…」

 

「お気持ちは充分わかります…評判を下げるような行為は、絶対にしないのでご協力願います…!」

 

「……分かりました」

 

「それでは聴取を続けさせてもらいます、女将さんの後に他の従業員の方、呼んで頂けますか?すぐ済むので…」

 

「え…はい、手が空いた者から順番に呼びますので…」

 

「…お手数をお掛けして申し訳ありません……!」

 

 若手刑事は、先輩の視線を感じ、一旦身を引こうとした。そこからベテランが交代して、沙耶に何かを告げようとした。

 

「…女将さん、重ね重ねすみませんが、もう一つお願いしたいことが…」

 

「…と言いますと?」

 

「…実は、この死亡した古谷という男…身元がはっきりせんのです…職も派遣やらで転々としていて……堅気じゃないかもしれません…彼が宿泊した部屋と荷物を調べさせてもらいたいんですが…」

 

「…ええ、構いませんが」

 

 こうして、謎の男、古谷の転落死事件に関する事情聴取が密かに続いた。

 

 夜も更けていき、リカは、疲れを取ろうと露天風呂に向かっていた。その時間、入浴する客はほとんどおらず、リカは、それを狙ってゆっくりと湯船に浸かろうとしていた。脱衣場に入ると、脱衣籠は一つだけ埋まっており、彼女の機嫌はよくなる一方であった。風呂場に行くと、湯気がテレビ番組の演出で使うドライアイスのように噴出され、真っ暗な空間が神秘的であった。リカは、その場をぺたぺたと歩いていき、夜景が見える岩風呂へと向かった。

 

「…!」

 

 すると、そこに人影が見えて、リカは自然と目が合った。

 

「…あら、あなたは…」

 

「…どうも~こんばんは」

 

 リカより先に湯船に浸かっていたのは祥子であった。祥子の肌は美しく白く、これが大人の美貌だとリカは見とれていた。二人はお互い愛想よく振る舞って、一緒に湯船に浸かった。

 

「随分と遅い時間に入るのね」

 

「ええ、あまり人が多いと落ち着いて入れないので…」

 

「…そうよね、私たちは仕事の関係でどうしても遅くなるから…それが醍醐味でもあると思うんだけど…今日はとにかく忙しくて…茉緒ちゃんも必死だったわ」

 

 祥子は笑いながらリカに語りかけた。

 

「…彼女もなかなか慣れないと言ってましたが、仕事の方はどうですか?」

 

「…まあ大変だけど、楽しいわ、仕事が上手くいかないなんて当然のことだし…失敗から色んなことを学ぶわ…何より従業員の人たちはいい人ばかりだし…」

「…祥子さんは、ここの人じゃないんですか」

 

「ええ、以前は都内に住んでいてね…都会の生活が嫌になってきて、ここに引っ越してきたわけよ」

 

「…成程、確かにここはのどかでいい町ですからね~」

 

「……でも来たばかりの時、職探しがなかなか上手くいかなくてね…ここから都内に勤めるには不便だし…そんな時、助け舟を出してくれたのが女将さんよ、面接して即時採用してくれた…本当に彼女は女神に見えたわ…だから期待に応えて頑張らないと…」

 

「…そんなことがあったんですか、いいな~環境に恵まれてますね~」

 

「そうね……ところであなたは舞台女優されてるそうね?」

 

「…ええ、まだ新人ですけど…」

 

「…茉緒ちゃんから聞いてね、あの有名な歌劇団の劇団員だからたいしたものね~」

 

「…いえいえ、それほどでも~これからが大変なもので…」

 

「…これからの活躍を楽しみにしているわ、大役が決まったら教えてね、観に行くから」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

「…何か逆上せてきたわ、先に上がるわね」

 

「はい、ご苦労様です……!」

 

 その時、リカはあることに気づいて、視線がある場所に集中した。

 

「どうかした?」

 

「…あの、膝、どうかされたんですか?」

 

 祥子の右膝を見ると大きな絆創膏が張られ、せっかくの綺麗な足がそれのせいで台無しになっていた。

 

「!……ああ、これ?急いでお客さんお迎えする時に階段から転げ落ちちゃって…本当に私ってドジね…」

 

「気を付けて下さいね、大怪我にならなくてよかったですね!」

 

「ええ、ありがとう…それじゃあごゆっくり~」

 

 祥子が去ったことで、風呂場はリカ一人になり、彼女の貸切状態になった。

 

 しばらくして、リカは風呂場から上がり、浴衣姿で脱衣場を出ようとすると、渡り廊下に一つの人影があった。

 

「あれ?リカちゃんかい?」

 

「…はい、おじさん今晩は~」

 

「やあ、リカちゃん、いらっしゃい、挨拶が遅くなったね、今日は何かバタバタしていてね…」

 

 リカの前に現れたのは美楽荘の主人、茉緒の父親であった。名は水口雅春、五十歳。彼は大学卒業後、旅行会社営業をしていたが、退職して旅館経営をしようと考えていた。当初、妻の沙耶はそれに大反対であったが、雅春がどうにか彼女を説得して、二人で開業することとなった。当時、茉緒は幼稚園児でしばらく彼女は祖父母に面倒を見てもらうこととなった。開業当初は困難を極めて赤字が続いたが、彼らはめげず、旅館経営を続けた。そして、長年の苦労が実り、徐々に有名旅館へと変化していったのであった。

 

「…偶然耳にしたんですが、宿泊客の一人が事故に遭って亡くなったそうですね…」

 

「ああ、私は今日、ほとんど旅館に居なかったからよく状況が分からないんだ…さっきまで町民たちと居酒屋で集まっていたから…勿論、仕事でだよ…!」

 

「…ふふ、分かってます、リゾート地開発の討論会に行っていたんですよね?」

 

「ああ、討論会の後も怒りが収まらず、仲間と行きつけの居酒屋で話し合っていたんだ…その時に女将から電話があってね…地元の警察署に呼ばれて、女将と一緒に彼の遺体を確認したよ…常連じゃないから顔は知らないんだがね…」

 

「こんなこと初めてですもんね…」

 

「当然だよ!全く…どうしてこんなことのなっちまったんだ…」

 

「…おじさん、そう落ち込まないで下さい…!不慮の事故なんですから、お客さんは離れていきませんよ」

 

「…ありがとう、リカちゃんみたいなお得意様を失うわけにはいかないからね…」

 

「お疲れの顔してますね…今夜はゆっくり休んで下さい…」

 

「ああ、そうさせてもらうよ、従業員の皆も、ようやく事情聴取が終わったみたいだ、これからゆっくり湯船に浸かるよ…」

 

「はい、お風呂気持ちよかったですよ~」

 

「…また落ち着いたら茉緒たちと話をしよう、それじゃあお休み~」

 

「お休みなさい~」

 

 リカは雅春と別れ、自分の部屋に戻った。部屋に戻ると従業員により、布団が敷かれていた。

 

「…!?」

 リカが部屋の灯りを点けると、衝撃の光景を目にすることとなった。彼女は、驚きのあまり、なかなか声が出なかった。

 

「………どうして?」

 

 敷かれた布団を見ると、何故か伶亜が横になっていた。

 

「…コンコン」

 思いがけないことに戸惑うリカであったが、問題はどうやら解決しそうであった。リカの部屋を訪ねて来たのは茉緒であった。

 

「…あっやっぱりここだったか!マスターキーまで盗んで!」

 

「…そうか、マスターキーで入ったのか」

 

「ごめんね、すぐ追い出すから!」

 

「いいわよ、ぐっすり眠っているから急に起こしたら可哀そうよ、特別に朝まで寝かし