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ざりお

これは、げんきな子どもたちと、

そんな子どもたちがだいすきなお母さんと、

そんなお母さんがだいすきなお父さんのおはなしです。

 

おにいちゃんのふうたくんが、

ようちえんにかようようになった4才のころ。

いえのちかくの池(いけ)で、ザリガニをたくさんつってきました。

 

ようちえんにもっていくためです。

その中から1ぴきだけ いえでかうことにしました。

まだ小さかった、おとうとのこうたくんもおおよろこびでした。

 

その1ぴきのザリガニを「ざりお」となづけました。

ざりおは、にんげんがちかづいてくると 大きなふたつのハサミを広げて、「ごはん ちょうだい!」といってきます

ざりおは、どんどんごはんをたべて、なんどもだっぴして、

どんどん大きくなってきました。

 

ざりおは冬になると、うえきばちの中に入って、とうみんします。

とうみんとは、どうぶつたちが、あたたかい春が来るまで、

巣(す)の中で、ぐっすりねてくらすことをいいます。

ざりおは、たくさんごはんをたべて、だっぴして、

冬になったらとうみんして、

そしてうちにきて4回目の夏がやってきました。

 


ざりこ

ざりおをつってきたふうたくんも、もう小学生になっていました。

まだ小さかった、おとうとのこうたくんも、 

りっぱな、ようちえん生になっていました。

 

こんどはこうたくんが、ザリガニつりにいくばんです。

こうたくんは、たくさんのザリガニをつった中で、

1ぴきだけつれてかえり、ざりおといっしょにかうことにしました。

なまえはまだありません。

そのあたらしいザリガニを、ふうたくんとこうたくんは、

「ざりおのおともだち」とよんでいました。

「おともだち」とよびたくなるほど、ふたりはなかよしになっていました。

うえきばちにはいっしょに入ってねています。

あんなに大きなハサミをもっているのに、ふたりはぜんぜんケンカをしません。

それはふしぎなほどでした。


ある日のこと

そんなある日のことです。

ケンカをしないはずのざりおと「おともだち」。

ハサミをつかみあい、ケンカをしているようです。

ざりおが「おともだち」の上にのり、 

「おともだち」のハサミは、ざりおのハサミにおさえつけられています。

ふうたくんもこうたくんも、ビックリして大きなこえをあげました。

 

「やめてっ!」

 

ざりおと「おともだち」もビックリしたのでしょうか、

はなれておたがい、いえの中に入っていきました。

 

しかし これはケンカではなかったのです。  

これは、どうぶつたちのせかいでは、

「こうび」とよばれるもので、

お父さんやお母さんになるために、おたがいをだいじにして、

うまれてくるたまごたちや赤ちゃんたちをまつのです。

 

「ざりおはやっぱりオスだったんだよ。ざりこはメスだったんだよ。」

お父さんとお母さんは、そういいました。

ふたりはキョトンとして、それをきいていました。

 

でもふたりは「おともだち」というよびかたをやめ、

「ざりこ」というかわいいなまえをつけてあげたのです。

「お友だちは、女の子だったから、やっぱり『ざりこ』だね」

 


さよなら

「ざりおとざりこ」

そんななまえをつけてあげたら、

ますますふたりがなかよしに見えます。

そして、ふたりはほんとうになかよしだったのです。

 

あつい夏がおわり、秋がやってきて、

秋も少しずつ、冬にむけてのじゅんびをはじめたころ、

4回目のとうみんをまたずに、ざりおはしんでしまいました。

さいごはねむるように、しんでいきました。

よこをむいて、ハサミを前におろして、

まるで、ねむっているかのように。

 

うちに来てから3年。

きっともうおじいちゃんだったのかもしれません。

4回目の夏は、いちどもだっぴをしませんでした。

 

ざりおがいなくなってから、

ざりこは、うえきばちから出てこなくなってしまいました。

ふうたくんもこうたくんも、しんぱいしています。

ざりこはごはんもあまり食べません。

 

「とうみんするのかなあ。それともざりおがいなくて、さみしいのかなあ。」

 

ざりこのきもちは、なかなかわかりません。

 


いのち

その秋はとてもみじかく、冬のおとずれは、かけ足のようで、

あれほどあつかった夏のあつさは、 

消しゴムで消されたかのようでした。

 

そんなころ、ざりこのおなかに、

たくさんのたまごがついているのを見つけました。

はじめはたまごだとわからずに、

それを見つけたふうたくんは、ビックリしていました。

ざりこは、たくさんのたまごがついたおなかを、 

しっぽをまるめてだいじそうにまもっています。

ざりこは、お母さんになろうとしていたのです。

 

ふうたくんはいいました。

「ざりおの子どもだ!」

しかしこうたくんはいいました。

「ざりおの子どもじゃないよ。だって、ざりおはしんじゃったから、もうお父さんにはなれないんだよ。」

ふうたくんはいいました。

「でもざりこがお母さんだから、お父さんはざりおだよ。」

だんだん、こうたくんのこえがおおきくなってきました。

「でもざりおは、しんじゃったんだよ!」

ふうたくんはだまってそれをきいていました。

ふうたくんも、じしんがあるわけではありません。

 

ふたりはたまごを見ながら、

ざりおのことをずっとかんがえていました。

「ざりお。おまえはほんとうに、お父さんなの?」

 



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