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ある日のこと

そんなある日のことです。

ケンカをしないはずのざりおと「おともだち」。

ハサミをつかみあい、ケンカをしているようです。

ざりおが「おともだち」の上にのり、 

「おともだち」のハサミは、ざりおのハサミにおさえつけられています。

ふうたくんもこうたくんも、ビックリして大きなこえをあげました。

 

「やめてっ!」

 

ざりおと「おともだち」もビックリしたのでしょうか、

はなれておたがい、いえの中に入っていきました。

 

しかし これはケンカではなかったのです。  

これは、どうぶつたちのせかいでは、

「こうび」とよばれるもので、

お父さんやお母さんになるために、おたがいをだいじにして、

うまれてくるたまごたちや赤ちゃんたちをまつのです。

 

「ざりおはやっぱりオスだったんだよ。ざりこはメスだったんだよ。」

お父さんとお母さんは、そういいました。

ふたりはキョトンとして、それをきいていました。

 

でもふたりは「おともだち」というよびかたをやめ、

「ざりこ」というかわいいなまえをつけてあげたのです。

「お友だちは、女の子だったから、やっぱり『ざりこ』だね」

 


さよなら

「ざりおとざりこ」

そんななまえをつけてあげたら、

ますますふたりがなかよしに見えます。

そして、ふたりはほんとうになかよしだったのです。

 

あつい夏がおわり、秋がやってきて、

秋も少しずつ、冬にむけてのじゅんびをはじめたころ、

4回目のとうみんをまたずに、ざりおはしんでしまいました。

さいごはねむるように、しんでいきました。

よこをむいて、ハサミを前におろして、

まるで、ねむっているかのように。

 

うちに来てから3年。

きっともうおじいちゃんだったのかもしれません。

4回目の夏は、いちどもだっぴをしませんでした。

 

ざりおがいなくなってから、

ざりこは、うえきばちから出てこなくなってしまいました。

ふうたくんもこうたくんも、しんぱいしています。

ざりこはごはんもあまり食べません。

 

「とうみんするのかなあ。それともざりおがいなくて、さみしいのかなあ。」

 

ざりこのきもちは、なかなかわかりません。

 


いのち

その秋はとてもみじかく、冬のおとずれは、かけ足のようで、

あれほどあつかった夏のあつさは、 

消しゴムで消されたかのようでした。

 

そんなころ、ざりこのおなかに、

たくさんのたまごがついているのを見つけました。

はじめはたまごだとわからずに、

それを見つけたふうたくんは、ビックリしていました。

ざりこは、たくさんのたまごがついたおなかを、 

しっぽをまるめてだいじそうにまもっています。

ざりこは、お母さんになろうとしていたのです。

 

ふうたくんはいいました。

「ざりおの子どもだ!」

しかしこうたくんはいいました。

「ざりおの子どもじゃないよ。だって、ざりおはしんじゃったから、もうお父さんにはなれないんだよ。」

ふうたくんはいいました。

「でもざりこがお母さんだから、お父さんはざりおだよ。」

だんだん、こうたくんのこえがおおきくなってきました。

「でもざりおは、しんじゃったんだよ!」

ふうたくんはだまってそれをきいていました。

ふうたくんも、じしんがあるわけではありません。

 

ふたりはたまごを見ながら、

ざりおのことをずっとかんがえていました。

「ざりお。おまえはほんとうに、お父さんなの?」

 


お母さん

正月がおわった1月4日、

ざりこのおなかのたまごたちが、

つぎつぎたまごのからをやぶり、

ちいさなザリガニになっていきました。

40ぴきくらいのちびザリガニが、

お母さんのおなかにくっついています。

 

お母さんは、たまごのときとおなじように、

しっぽをおりたたみながら、

おなかにだいた赤ちゃんたちをだいじにまもります。

おなかにあるたくさんのすじをうごかしながら、

赤ちゃんたちにたいせつなさんそを、

ずっとあたえつづけています。

 

まいにち、まいにち。ねむることもなく、

ざりこはおなかにだいた赤ちゃんのために、

ゆらゆら、ゆらゆらと、

しっぽをうごかしつづけています。

それはまるで、ゆりかごのようです。

 

赤ちゃんたちも お母さんがだいすきで、

すこしさんぽをしても、

すぐにお母さんのおなかにもどってしまいます。

なかにはいたずらな赤ちゃんもいて、

お母さんのひげやあたまの上、

そしてハサミの上にのぼってあそぶ子もいます。

 

でもふうたくんやこうたくんがちかづくと、

赤ちゃんたちはみんなビックリして、

お母さんのおなかにかくれてしまいます。

 

赤ちゃんたちは、おかあさんのおなかのすじにある、

ねっとりしたものをたべています。

お母さんもそれをたべさせるために、

赤ちゃんたちをおなかにあつめるのです。

 

「なんだ。こうたがおっぱいをのんでいたのと、おんなじだね。」

ふうたくんがいいました。

こうたくんは、おもしろくないかおをして「兄ちゃんだって!」。

 

お母さんは小魚をたくさん食べ、

赤ちゃんたちのためにえいようをとっています。

 

ザリガニは、ねるときはいつもよこを向くのですが、

ざりこはよこを向きません。

ゆりかごのように、しっぽをうごかしつづけます。

ゆらゆらとゆれながら、赤ちゃんたちはきっと、

しあわせなきもちになっているのでしょう。

 

こうたくんがいいました

「みんな、ちっちゃい『ざりお』だね。」

こうたくんも、いつのまにか、

この赤ちゃんのお父さんは、ざりおなんだと思うようになりました。

りゆうはわかりません。


おおきくなったら

赤ちゃんたちがうまれて2しゅうかんがたちました。

それでもお母さんのおなかにくっつこうとする赤ちゃんたち。

もうずいぶん大きくなってきたから、

もう赤ちゃんではありません。

子どもたちがいっせいにくっつくと、

お母さんは、ふりまわされてしまいます。 

40ぴきの子どもたちは、

お母さんのおなかでは、

おさまりきらないくらいの大きさになってきました。

 

お母さんもあるくのでさえやっと。

エサをたべるのにもひとくろう。

ふうたくんがいいました。

「お母さん。がんばっているね。でもすこしかわいそうだね。」

 

そしてとうとう、お母さんと子どもたちを、

べつべつのすいそうにわけることにしたのです。

ふうたくんが こんどはこういいました。

「ざりこ、またひとりになっちゃって、かわいそうだね。」

 

お父さんがふうたくんにききました。

「じゃあどっちのほうが いっぱいかわいそうなんだろう?」

ざりこをしばらくみつめながら、

ふうたくんはこたえました。

「どっちもかわいそうだけど、どっちもしあわせだね。」

 

子どもたちはとび回ったりケンカしたり、

じゆうにやっています。もうお母さんをさがすこともありません。

じぶんたちでエサをたべるようにもなりました。

あのお母さんのゆりかごも、わすれちゃったみたいです。



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