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僕が麻奈のことを捲くし立てると、今日子はじきに、普段の様子からは到底考えられないくらい暴れだした。獣のように泣き、喚き、暴れる。そんな今日子を見て、僕の心はどんどん冷静になっていった。思ったよりあっけないな、と思った。

 

そして今日子はそのまま、バッグだけ持って家を飛び出していった。それから一週間、さっきまで戻ってこなかったのだ。

 

心配じゃなかった、と言えば嘘になる。自殺でもされたら後味が悪い。今日子の携帯にメールや電話をし、共通の友人にも連絡をとってみたが、今日子の行方は分からなかった。

それがひょっこり帰ってきたかと思うと、またたちどころに居なくなってしまった。

 

ま、生きてたならいいか。

 

今日子はいい女だ。すぐに代わりの恋人も見つかるだろう。心配は要らない。

 

僕は手にしていた瓶を見た。この無花果はあまり日持ちがしない。作りたてのうちにさっさと食べてしまおうと、僕は蓋を開けて中身をつかみ出した。

 

ぱくん。

 

無花果は思いの外つるんとしており、僕は思わず一飲みにしてしまう。

 


最後の一つだからゆっくり味わって食べたかった、と、少し惜しい気持になりながら、僕は瓶を流しに片付けようと立ち上がった。

 

そういえば「返す」って何のことだ?

 

今日子が瓶を渡すときに発した不可解な言葉。一瞬疑問符が頭に浮かんだが、瓶を見てすぐに思い直す。この瓶は料理が好きな今日子に、僕が以前雑貨屋で買ってあげた物だ。そのことだろう。

僕は瓶を流しに置いた。

 

その時、不意に携帯が鳴った。

 

今日子の勤め先の産婦人科からだ。

 

ああ勤め先。そういえば今日子が居なくなったとき、勤め先への確認はしなかったな。

 

そんなことを考えながら電話を取る。

 

「はい、春日です」

電話の向こうの声は切羽詰っている。

「春日英彦さんですね?実は先日の、吉崎今日子さんの手術のことで――」

 

電話の声は早口で捲くし立てる。それを聞いているうちに、自分の顔から血の気がどんどん引いていくのが分かる。

 

僕は思わず流しの方を見た。まだ赤黒い汁の残った鍋も見た。

 

腹の中で無花果が動いた。

 

 

 

-終劇-


この本の内容は以上です。


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