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オーガスタスを倒す日


銀髪のアルシャノン。
黒髪巻き毛、この中で一番小柄で美形のザッダン。
栗毛、大柄なドナルド。
金髪、ごつい顔で鼻の上にハデな傷のあるシャンク。

 



「…また、やるのか?」
アルシャノンがザッダンに尋ねる。

ザッダンは黒髪で巻き毛。
そして整いきった美青年だったが、一年の頃から手込めにしようとする上級生を、殴り倒す気の荒い男なのを、アルシャノンは思い知っていた。

一年の時宿舎が隣部屋で、部屋に傾れ込んで来た上級生をザッダンが、部屋から吹っ飛ばした時扉を開けて、それを見て以来の悪友だった。

扉の外で転がる、自分を犯そうとした上級生をドアノブを握り見つめ、横で惚けてる自分に
『何見てんだよ!』
ときつい瞳で睨め付け、バン!
と戸を閉めた。

廊下に転がる先輩は、暫く起き上がって来ない。
あんまりそのままで、アルシャノンはつい、屈んで様子見た。

良く見ると股間が真っ赤で、顔寄せて恐る恐る尋ねる。
「…大丈夫か?」
「あ…いつ……噛みつきやがった…!」

「……………………………大事な部分に?」
先輩は苦しげに首縦に振る。
アルシャノンは結果医療室に行き、一年宿舎廊下に転がってる。と告げに言った。

その後、ザッダンにいちゃもんつけられた。
「あいつの事、世話したそうだな?」
敵意剥き出しで。
アルシャノンは言った。
「医療室に告げただけだ。担いでない」
が、ザッダンはまだ敵視する。
「あいつが俺にナニしたかしりたいか?」

アルシャノンは心から首横に振った。
が、ザッダンは続ける。
「寝てる俺の部屋に勝手に入って、寝台の上に土足で上がり、出して言った。
『銜えろ』」

「…………俺なら足蹴りで寝台から飛ばす。
噛むのも触るのもごめんだ」
ザッダンが、歯を剥いた。
「使い物にならなくなったら、二度と俺の前に現れないだろう?!」

アルシャノンは妙に納得し、頷いた。
が自分なら足で蹴りつける。
と、やはりそんなモノに口付けるザッダンを、怖気て見た。

それ以来だ。
重い物とかがある時、腕引かれるようになったのは。
半端なく重そうな馬具を指し示す。
それを見る。
ザッダンは気が利かない。とばかり唸る。
「持て!」
「…お前の仕事だろう?」
「お前のがデカい!」

だがこの時丁度ドナルドが来て、ひょい。と担いだ。
「…重いな」
「奴でも重いんだ。
俺で持てるか?」
言うと、ザッダンが怒鳴る。
「俺じゃ完全に無理だ!」

ドナルドは木訥(ぼくとつ)で気のいい力持ちで、ディアヴォロスに次いでデカかった。

最初の頃歴史の講義で隣に座り、解らない単語を教えて以来連んでた。
上級に喧嘩売られると、生き生きと買って出る。
その半端ない暴れ振りに呆れたが、ヤツは言った。
「俺の暴れるとこ見ても、お前は逃げ出さないな」
「………俺も故郷じゃ、手に余る暴れ者だったしな」
「そうか!」

それ以来奴は何かあると寄って来る。

が、もう一人問題児が居た。
ゴツイ面でガタイのいい金髪。

先輩にからまれ、凄まじい戦い振りを見せ、狂犬のような男、シャンク。
根っからの女好きで、二人で連んで女を犯した。と、ザッダンが連れて来た。

が、ドナルドはその仲間に入り味をしめ、それ以来仲間に成った。
一度一緒に犯したが、嫌がる女に群れるのは趣味じゃなかったから、それ以来抜けた。

やはり嫌がる相手なら男だろう。
アルシャノンは思っていたから、同学年の美少年を一人、手込めにした。

仲間に白い目で見られたが、二人目の時ドナルドに連れられて他が来て、一緒に犯して以来、奴らも気に入った様子だった。

が、往々にして女だろうが同学年の美少年だろうが、権利を主張する上級生が居るものだから、そいつらと毎度、ブツかった。

その時は最上級生に、「右の王家」のアルファロイスが居たから、奴が出た途端、先輩達は大人しくなる。

 



ザッダンが、邪魔するその端正な顔立ちの最上級生に殴りかかり、たったの一撃で沈められた。

アルファロイスは拳引き、笑った。
「悪い遊びは終わりだ。
俺がここを仕切ってる限り、被害届が出たらお前らの処分を検討する」

シャンクが怒鳴った。
「退校に出来る権限が、あるってのか?!」

大人しくなった先輩達は、馬鹿を見る様にシャンクに振り返る。
『「右の王家」の男だぞ?』

…が、アルファロイスはやっぱり笑って言った。
「いや。拳でも剣でも、容赦しない。と言う意味だ」

シャンクは直ぐ、拳構えた。
あっ!と言う間だった。

殴りかかるシャンクの間合いに頭屈め一気に潜り込むと、腹にズドン!

ドタン…!
倒れるシャンクを見、拳引くアルファロイスを見る。

金の髪が日に鮮やかに靡き、やはり笑顔。
もう一度、シャンクを見た。

ムウ…とも言わない。
気絶、していた。

奴が気絶する様なんて初めて見たから、皆一斉にごくり。と唾飲み込む。

アルファロイスは襲いかかられていた獲物の一年美少年の腕を引き、抱き上げて振り向く。

先輩達はやはり顔下げる。

アルファロイスが去った後、先輩達は乱暴に惚けてる俺達を突き飛ばし、歩き去る。

一人が振り向く。
「…奴に、見つからない様相手探すのが大変なんだ!
一年は、大人しくしてろ!」

…間もなく、犯した女がアルファロイスに訴えたのか、呼び出しを食らった。

講師に
「またやったら退校だ!」
と言われ、その場に残ったアルファロイスにやはり、微笑で言われた。

「次やるようなら、全員医療室から当分出られない程殴る」

ザッダンとシャンクが同時に、顔下げる。
アルファロイスも去った後、ドナルドが二人に怒鳴った。
「…やるだろう?!」

ザッダンがジロリ。とドナルドを見上げる。
シャンクは俯いたまま。

そしてシャツの、裾上げた。
もう一週間経っていたのに、奴の腹にはくっきり、アルファロイスの拳の痕が、残っていた…………。

その後部屋を後にし、ドナルドが怒鳴った。
「本当に、止めるのか?!先輩なんて、チョロいだろう?!」

俺も、言った。
「一人じゃなく、四人なら?」

ザッダンもシャンクも、顔上げた。


…アルファロイスを、待ち伏せした。
がその時通りかかったのは、同学年のディアヴォロスだった。

 



「左の王家」の血筋。とかで偉そうにしてるのが気にくわなかったから、シャンクが顎しゃくる。

ザッダンが真っ先に、襲いかかりその後に続いた。
飛び出した時、奴の姿が消えた。

脇腹に焼き付く様な痛み走り…気が遠くなった。
その時、先に出た三人が倒れ伏す姿が目に映り…ディアヴォロスが…その整った、偉そうな顔でじっ…と自分に視線注ぐのを、見た。

その時の恐怖は今でも、忘れない。
『殺しても良かった。
が、加減した』

そんな…目つき。

以来奴を見るとその恐怖が沸き上がる。
たった拳一撃で、『死』もたらす男に………。


だから…二年に上がり、アルファロイスが卒業して消えても駄目だった。
ディアヴォロスはまだ二年だと言うのに…先輩達は全員、ディアヴォロスに道開ける。

それに…剣の全校生徒集う試合では最低だった。
ディアヴォロスは上段に構え、勝ち上がった相手と戦うのみ。

が、アルファロイス去った後ディアヴォロスにとっては、誰もが相手じゃない。

ものの数分。

剣はたったの一振り。

相手が倒れ伏す。

場内は静まり返り、次第に…興奮に満ち、全員が気狂いの様に叫び出す。
ぎょっ!とした。

津波の轟きを聞いた事等無いが、きっとこんな風だろう。
どぉぉぉぉぉぉっ!と声が響き、一気にどっと…皆が立ち上がり様叫ぶ。

そして次第に声。
「ディアヴォロス!」
「ディアヴォロス!」

そのばらばらな声は次第に一つに成り、講堂中の、男達が足踏みならし、その名を熱狂的に叫ぶ。

「ディアヴォロス!」
「ディアヴォロス!」
「ディアヴォロス!」

まるで奴を、讃えるように………。

その大騒ぎの中で中央に立つ奴は、二年だと言うのに落ち着き払い、顔上げる。

さっ!と奴が、応えるように手上げると

ぅおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

全員がそれに応えるように叫ぶ。

耳をつんざく男達の叫びはいつ迄も続き、奴を讃え続けた。
横を見たが、仲間達も同様。

熱狂的に足踏み鳴らし叫ぶ男達の中、椅子にかけたまま、皆俯いていた。



…だから…一年に入学したての美少年を、犯すのも大変だった。
ディアヴォロスは…アルファロイスとは違い、被害者の申し立てを聞く必要が無かった。

その場にいつも、現れる。
そしてジロリ…と見るだけで俺達は獲物放し、竦んだからだ。

が一年「左の王家」、グーデンは違った。


奴の一年配下が寄って来る。

「…連れて来れば、あんた達にも堪能させると。
グーデン様は言っている」

…グーデンも「左の王家」の王族。
だから期待した。
が、結局奴の部屋にもディアヴォロスは現れた。

グーデンこそが小柄な美少年だったが、奴は初物を楽しそうに嬲ってた。
が、ディアヴォロスの登場にグーデンは凍り付く。

「…悪い遊びが、止められないか?」
ディアヴォロスに言われ、ジロリ…と見られただけで、グーデンは顔下げる。

…以来、俺達はグーデンと連んだ。
グーデンは娼館に俺達を招き、代わりに俺達は、グーデンの気に入らない相手を殴り続けた。

…ディアヴォロスの、目を盗んで。

まるで冬の畑枯れの時のように…少ない獲物を奪い合う獣のように…俺達は上級の奴らに取られないよう…ディアヴォロスに見つからないよう…校内の美少年らをこっそり…拉致しては味見した。

上級の奴らとブツかると、力尽くでの奪い合い。
奴らも必死だった。

幾ら…グーデンに娼館を世話されようが、拉致され怯える美少年を犯す楽しみは別格だ。

が、その時立ち塞がったのは、一年ながら堂とした体格見せつけ、どう見ても一年に見えないオーガスタスだった。

 



赤毛。そしてギラリと光る、鳶色…いや、黄金に見える瞳。
その時奴はまだディアヴォロスより低く、ドナルドとその長身を争っていた。

だからか…ドナルドはムキになった。
ディアヴォロスに負けるのは…仕方無い。
まだ二年なのに…教練中が認める男だ。

たから年下の、オーガスタスに怒鳴った。
「何様のつもりだ!
一年坊が!!!」

ズガン!
ドナルドが空振ったのは滅多に無い事だった。
同様デカい三年との時も、相手を捕らえ血を吐かせた。

最もそれだけデカい相手だと、一発ではまず沈まず血を吐きながらも拳振り、ドナルドも喰らって血を吐いた。

結果壮絶な殴り合いとなって、美少年を犯す頃にはボロボロだった。
だから…ドナルド同様デカいオーガスタスが意外と俊敏に身屈め、ドナルドの腹に拳叩き込んだ時、俺達は目を、見張った。

シャンクが飛び出す。
一年に、舐められてたまるか!
そう拳振る。

がっ…!
顔に喰らい口の端に血を滴らせ凄まじい瞳で、殴り返す。

がっ…!

オーガスタスが顔振る。
ヤツも口の端に血を滴らせ…それでもにやりと嗤う。

ザッダンが滑り込んで、オーガスタスの足払おうと蹴りつける。
どかっ!

オーガスタスの長い足に吹っ飛ばされ、その間にシャンクがもう一発、ヤツの顎に叩き込む。

がっ…!

ドナルドが起き上がり、左を軸足に、くるりと身毎回りそのまま右足を、ヤツの腰にブツける。
がっ!

がブツかる寸前、オーガスタスはその足掴み、そのまま回転してぶん投げる。
シャンクに、向かって。

俺は呆れた。
あのデカいドナルドを、勢い付けて回転し捻り入れた蹴りを…受け止めそのまま…投げ飛ばすなんて…!

がっ!

だがもう突進していた。
右で顔に拳を入れ、ひょいと避けるヤツの腹に左を叩き込む。

つい、顔を腕で拭い腹を押さえて屈むヤツを見る。
シャンクが上で呻くドナルド押しどけ、飛びかかる。
屈むヤツの、背に。

後ろからヤツの首に腕回し、締め上げる。
ザッダンが再びヤツに飛びかかる。

「…馬鹿…!」
つい…叫んでた。

オーガスタスの長い足。
真正面から蹴られる。ザッダンはそう読んだが、オーガスタスは横から回し蹴った。

どっ!

真横から腰に喰らい、ザッダンは再びふっ飛ぶ。
「どいてろ!」
叫び横に回り込む。
ヤツの、足を折る為に。

が、足のスネ蹴ろうと後ろに引いた隙に奴は身前に屈め………。
ヤツの後ろに居た筈のシャンクが、振って来る。

背負い投げ、シャンクの体を、横に居た俺に向かって投げ飛ばす。
つい背向け、逃げ出すが、背にどんっ!とシャンクの体が音立ててブツかり、前につんのめる。

「…野郎………!」
ドナルドが息吹き返し、怒鳴る。

拳振り、ヤツの腹に、ズドン!と音立てて振り込む。
一瞬…奴は顔下げ、髪にその顔埋め、動かない。
ドナルドがもう一発。
と拳振り上げ様、ヤツは咄嗟に顔上げる。

瞬間、怒りに燃えたぎった奴の黄金の瞳が、ギラリ…!と光り、がっ!
と素早く拳振りきる。

ドナルドはガツン!と左側頭部に喰らい顔下げる。
がっ!

オーガスタスの蹴りをだが、咄嗟に蹴り返す。
そこからは…キレた野獣同士の戦いになり…シャンクもザッダンも、吹っ飛ばされた痛みに暫し、体を休めていたし俺も…入る隙無く、デカブツ同士の戦いを見つめる。

がつっん!
ドナルドの決死の一発がヤツの頭を捉え、ががつん!
腹に喰らいがまた…!

どっちも最早理性なんて無い。

ドナルドは厚みある筋肉でまだそれでも細く見える一年坊を圧しようと拳振り…が、燃える様な赤毛散らし、ぞっ…とする黄金の瞳光らせた、まさしく手負いの野獣のようなオーガスタスは、どれだけ喰らっても戦意が衰えない…!

むしろ…喰らえば喰らう程、その瞳は暗く鋭く輝き、拳の威力増す…!

「…なんて…ヤツだ」
シャンクが呻いたが、同感だった。

がドナルドはオーガスタスが向かって来れば来る程、やはりどれだけ喰らおうが、制圧しようと拳振る。

突然、二人共が痣だらけで血を口から滴らせ、一瞬で動きを止める。
ピタリと。
…静止したように………。

どうしてだ?

…がその向こうから…あいつが姿現した。

ディアヴォロス。

静かに歩み寄るその男の“気”が、戦う二人を凍り付かせていた。そう気づいたのは直ぐ後。

ディアヴォロスが二人に殺気を送ってる。
そう解った時。

二匹の野獣はその殺気に反応し、動き止めた。

が、有り得ない。
二人同時に、幾ら奴(ディアヴォロス)でも、倒せるはずが無い。
なのに…ドナルドもオーガスタスも動きを止めたまま、顔引きつらせ俯いている。

きっ!と先に…顔上げてディアヴォロスに振り向いたのは、オーガスタスの方だった。

こちらから殆ど髪に隠れ、その表情は覗えなかったが
『邪魔するのか?!』
とその瞳で異論訴えてた。

ディアヴォロスは静かに二人に寄ると、ドナルドに体向け囁く。
「…解っていると思うが…オーガスタスはこの先どれだけ君に傷を負わせても、処分は受けない」

小さな…声だったにも関わらず、底に響く音があり…確かに耳にその言葉は聞こえた。

ドナルドが目見開いてそう告げる、ディアヴォロスを見る。
オーガスタスが顔を思い切り揺らし…自分庇うディアヴォロスに振り向く。

オーガスタスの、驚愕に見開かれた瞳で、普段から二人に繋がりがある訳じゃないと、解った。

が、ディアヴォロスは続ける。
囁いている。と言うのに良く響く低音で。
オーガスタスに、振り向きながら。
「…だからと言って、足腰立たなくしていい。と言う事じゃ無い」

オーガスタスが、自分の心覗かれた様に、俯く。
ディアヴォロスはドナルドに向き直るとはっきりと言った。
「…最後迄やりたいだろうが…結果は解っている。
怪我をしない内にここを去れ」

そして、じっと見るドナルドに言い直す。
「失礼。
大怪我をしない内に。だ」

ドナルドは、呻いた。
「…それはあんたがこいつ(オーガスタス)に加勢する。と言う意味か?」

が、ディアヴォロスはじっ…とそう言ったドナルドを見る。
「後二撃はほぼ相打ち。
が次に知恵使ったオーガスタスが、隙を見せた君を殴り飛ばす。
その後は一方的にオーガスタスの拳が決まる。
君は寝台から起き上がれない体になり…殴ったオーガスタスは講師に呼び出されるが、私の注進により、処分は受けない」

ドナルドは暫く、固まったままそう素っ気無く言う、「左の王家」の男のその、端正な顔を見つめた。

そして俯くオーガスタス同様、項垂れた。
そこで察した。

奴に関わるのは馬鹿げている。と。
こんな一年の…図体と態度のデカい餓鬼をディアヴォロスは、庇うと言いやがる。
教練中の猛者をひれ付させる男が。

そしてディアヴォロスは、激しい戦闘で俺達がすっかり忘れ果てていた喧嘩の発端、裸に剥かれ床に這いつくばる美少年の腕を持ち上げ、抱き上げて振り向く。
オーガスタスに。

「彼は私がこの後の世話をする」
言われ、オーガスタスが弾かれた様に頷く。

美少年がディアヴォロスの腕の中から、オーガスタスに視線向ける。
自分の為に戦ってくれた男への、感謝滲ませて。

オーガスタスが微かに笑い、彼に一つ、頷く。

「お前の…想い人か?」
つい…聞いた。

ヤツは俺に振り向くと言った。
「…一年にお前らが手出しすれば、そいつらは全部俺の想い人みたいなもんだ。
覚えてろ!
俺は仲間陵辱され、黙って見ていない!」

『ふざけるな!』
『デカい口叩きやがって!』
シャンクからも、ザッダンからも声にならない言葉を聞いた。

が奴らがそれをオーガスタスに言わない理由も良く、理解出来た。
オーガスタスの気迫だ。

飾り言葉じゃないぞ。と、全身から目に見えそうな激しい“気”沸き立たせ、ヤツがその言葉を吐いたからだ。



…それ以来、俺達はディアヴォロスを毛嫌いした。
グーデンの為に、校外で美少年をさらい奴の隠し屋敷で犯す手伝いをし…グーデンに逆らう奴らを、殴り飛ばし続けた。
但し…闇に紛れて。

オーガスタスとはその後、ディアヴォロスの目の届かぬ所で散々、やりあった。
奴は俺達を飛び越し、一年に手出ししようとする三年、四年とも喧嘩し、四年のぞっとする程残酷な男、タイラーとも真っ正面から殴り合った。

タイラーに足や腕折られた男らは一斉に、オーガスタスに声援送った。
ヤツは一年ながら既に校内ではその名を轟かせ、ガタイと態度のデカさはダテじゃない。と知らしめた。

一年の餓鬼を廊下で小突いただけでしゃしゃり出て来る。
が結局、自分らは勿論、三年。四年ですらたった一人のあいつを、完全に沈める事は出来なかった…。

どれだけ隙を狙おうと…あいつは決まって牙を剥く。
四年に右腕折られ、負傷時を狙い四人がかりで襲いかかったが、あいつは右腕をだらりと下げたまま、ギラリと黄金に光る、ぞっとした獣の瞳向け、長い風に嬲られた髪を真っ赤に燃やし、睨め付け喧嘩を買った。

…三年に成ってようやく、ヤツを足腰立たない程叩きのめした。
…が、こちらも同様で結局、医療室の寝台でヤツと枕並べた。

一度は校内を出た所を、真剣で襲いかかったが…ムダだった。
ヤツは剣向けても、怯みもしない。

…どころか一層鋭さ増し、結果剣をヤツに叩き落とされ、伸されたのはこっち。

卒業迄にはヤツを沈めてやる。
と執念燃やしたが…結局出来なかった。

だから俺はその書状を目で追った後、顔を上げた。
「…今は四年で王族のグーデン差し置き、教練仕切ってる。とのたまうデカい面した下級を、伸しに古巣に出向くか?」

「…オーガスタスか………」
近衛に入り、再び一番下っ端扱いされ、腑煮えくりかえってたドナルドが直ぐ、立ち上がる。

「…上の威張る奴殴って、営倉入れられるのにも、飽きたしな…」
シャンクも立ち上がる。

「…“夜付き人”に間違われ夜伽命じる上官不能にするのももう、うんざりだ…!」
ザッダンが吐き捨てるように怒鳴り、顔上げた。

皆に見つめられ、俺は嗤った。

今度こそ…奴を足腰立たない程に沈めてやる。
どの顔もそう、言っていたから。





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