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右手

 目が覚めて何気なく鏡を見てみると俺の右手が消えている……。

 別になにも痛くもないし、血も出ていない。肩から誰かに引きちぎられたような感じだ。違和感もさほどなく、利き手が左手というのもあるのかもしれない。そんなことよりも、どうして俺の右手がなぜなくなったのかを少し冷静になって考えてみた。

 日ごろの行いが悪かったのかな?

 昨日の晩ごはんのシチューかな?

 それとも、道端に落ちていた変なカタチの花を触ったからかな?

 それかもしれない……。

 いや、絶対それだ!

 俺はその花があった場所まで走って行った。通勤時間も重なり、周りにはたくさんの人達が歩いているのをよそに、俺は右手がないことも忘れて夢中で走った。

 あった!

 俺はその花をもう一度、恐る恐る手に取り顔を近づけた。

 その花のカタチは、人間の体の様なカタチをしている。

 昨日にこれを見た時は、あまりにも気持ち悪いので、すぐにその場を離れ家路に着いた。毎日の様に続く過酷なブラック企業の地獄労働と残業時間に体力と精神力を徐々に奪われ、俺はもうギリギリだった。俺は昨日の花のことはただ疲れているだけだと思い、ご飯も食べずに布団に入り、朝起きるとこんなことになっていた。

 花は本当に人間そっくりで人面花というよりも花でできた小さい人間という方がいいだろう。一見ゴムの人形のように見えるが、ちゃんと足の下には茎があり、根もついている。ただ、他に同じようなカタチの花は咲いているのだが、その花だけは髪の毛もついており、男の体で性器もリアルそのものだ。

 俺はしっかり寝たせいなのか、小学生の頃に初めてカブトムシを見たときと同じような気持ちでしばらくその花を見つめていた。

 その花の右手に少し触れてみた。

 俺の右肩が少し動いた。

 これは俺の右手なのか?

 恐る恐る、俺はもう一度触れてみた。

 やっぱり動く。

 俺は意を決して、その右手を引きちぎった。その瞬間、俺の右肩辺りで今までに経験したことがない激痛が走った。その花にも、俺の右肩からにも大量の血液が勢いよく流れでてくる。止まる気配がなく、俺は徐々に意識がなくなっていった。



 目が覚めて何気なく鏡を見てみると俺の右手が消えている……。

 別になにも痛くもないし、血も出ていない。肩から誰かに引きちぎられたような感じだ。違和感もさほどなく、利き手が左手というのもあるのかもしれない。そんなことよりも、どうして俺の右手がなぜなくなったのか少し冷静になって考えてみた。

 日ごろの行いが悪かったのかな?

 昨日の晩ごはんのシチューかな?

 それとも、道端に落ちていた変なカタチの花を触ったからかな?

 完


この本の内容は以上です。


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