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黒船の前触れ

ウィーン・・・

 

 

「うーん、今日もつっかれたぁ~」

 

リトルウィング内のマイルームの一室。
任務を終えたメアンは、毎度の私服であるメイド服を身にまとい、疲れた素振りを見せつつ入ってきた。

ギラム達の活動するパーティ『ジュライ☆エターナル』に所属となってから、かれこれ1か月が経った。
今ではおなじみの様にメイド服を着て彼等の前へと現れ、そして依頼に行くこともしばしば。
恐怖の晩餐会ともなりうる、味覚を狂わせ消し飛ばすほどの料理も、毎度の様に振る舞っているのであった。
何度も言っておくが、彼女に悪意はない。

 

「お疲れマスター ランチ出来てるぜ。」

 

そんな彼女が帰宅すると、部屋の奥にいた彼女のパートナーマシナリーであるラスベリーは、小さめのエプロンを身につけ主であるメアンに告げた。
メアンが依頼等々で不在にしている時の食事当番は常に彼の仕事であり、今日も疲れて帰ってくる彼女のためにと料理を作っていた。
礼儀正しいのかマナーなのかは解らないが、お手製の桃色のエプロンが白いボディに似合っていた。

 

「やった~! 今日は何々?」
「オムライスだぜ。」
「あ、ベリリーの得意料理だね!」

 

自室のテーブルがある場所へと移動しつつ、メアンは今日のランチを訪ねながら着席した。


問いかけに対し彼はそう答えながら彼女を座らせ、近くに置いてあったウォーターポットを手に取りグラスに注いでいた。
水が注ぎ終わると、彼女は笑顔でスプーンを手にし合掌した。
そして、

 

 

「いっただっきまーす☆」

 

無邪気な笑顔を見せつつ、彼女はオムライスを頬張るのであった。

とても平和な日常がそこにあり、すでに彼女もパーティのメンバーからは認められる存在になっていた。
メイドの面では中々そうは行かないが、同じ軍事会社に所属する傭兵達にも腕を認められ、時々依頼に参加する事もしばしば。
ギラムと同じ稼ぎ頭になる事は遠いものの、それでも1人の『傭兵(戦闘メイド)』として認知されている。
無論彼女の腕前もすでに彼等の耳に入っているため、味見を頼むと皆して遠慮されてしまう。
そのため彼女の行く先が常に『ギラム』となりつつあるのが、彼の日常に困った日課が追加されてしまったようにも見える。
とはいえ、彼も彼で腹を下す事も無いため、メアンも心配はしていないのだった。

 

 

「んー 美味しい♪」

 

任務の後のランチという事もあってか、一流料理を口にしたような表情と感想をメアンは言った。
見た目は普通のオムライスではある物の、ケチャップライスの上に乗る卵は今にもとろけそうな艶のある光沢。
少しスプーンで切れ目を入れれば、表面を輝かせていた半焼き卵が静かにライスの元へとやってくる。
卵を上手く焼く事も慣れなければ難しいのにも拘らず、ラスベリーは常に美味しい料理を彼女に振る舞っている。
ちなみに、味や腕前は元々プロ流というのは、補足で付け加えておこう。


「よかった。 喜んでもらえて。」
「アタシも何時か、こうやってご主人様に言ってもらえるくらいになるんだー ベリリー、一緒に頑張ろうねっ!」

 

そんなメアンの様子を見て、ラスベリーは笑顔で返事をしつつ微笑んだ。

感想を互いに言い合うと、メアンはいつもの様に未来の自分の姿を夢見ながら食事を口にする。
それに対しラスベリーはいつもの様に何をしなければならないのかを言うと、彼女は生返事を返すのであった。
2人の居る空間はいつものランチタイムの空気に、包まれていくのであった。
すると、

 

 

『ハーイ! グラールチャンネル5、ニュースキャスターのハルです!』

 

食事を開始した直後、2人の居た部屋に備え付けられていたスピーカーから声が飛び出し、周囲に映像が展開された。
その声を聞き、メアンとラスベリーは映像へと視線を移した。

そこには紫色を主体とした衣服を身に纏うニュースキャスターの女性の姿が映っており、笑顔で画面の向こうで自分を見ている相手に手を振っていた。
彼女の名前は『ハル』と言い、グラールチャンネル5の看板キャスターである。

 

『今日のニュースを、ピーックアップ!』

 

すると画面に映るハルは画面奥にある画面を見せる様な仕草をし、映像を大きくするように手を招いた。
彼女の手につられるように小型の画面が動き、映像が変わりニュースが流れ出した。

 

『先日惑星パルム内にあるGRM本社から、所属していたパートナーマシナリー達が行方不明になるという事態があった事を発表しました。 原因はいまだに不明のため、所属する製品所持者達に注意を呼びかけています。』

 

 


「うわぁ、怖いな~・・・ べリリー、居なくなったりしないでね?」

 

オムライスを口に運ぶのをやめ、メアンは向かいの席に座っているラスベリーに言った。
ニュースで流れている『パートナーマシナリー』とは、今彼女の目の前に居るラスベリーの様な存在の事でありリトルウィングに所属する傭兵は大抵1人に付き1体所有し自室の管理を任されている。
種族としても名が上げられている『キャスト』と同じ製作段階を踏んでいるが、差別化を図り『特定の作業のみを行う個体』を『マシナリー』と呼んでいる。
彼もまたその内の1人であり、所属された主人の求める行動しか基本的には行わない。
アリンの様な人格を持っているとも言えるのだが、彼女の様に『キャスト』として呼ばれる事も扱いも受ける事も無い。


「大丈夫、マスターを捨てるような事はしないさ。 ミーとユーとの仲だろ?」
「そうだね! これからも、一緒にお料理しようね!!」

 

しかしそんな事は彼等にとってどうでも良い事であり、自分にインプットされた行動のみを行う事を優先順位としている。
それ以外を行う事は彼等も望んでおらず、自ら別の思考回路を造り行動をする事も無い。
埋め込まれたデータのみを行う、精密機械であり1体の相棒なのだ。

ラスベリーも同様の考えを持っているため、何を言っても成長が見られない彼女に勘当する事もないのであった。

 

 

 

 


ウィーーンンン・・・ プシュゥー・・・

 


「ふぅ、ようやく止まったか。」


一方その頃、惑星ニューデイズに存在するアガタ諸島の先にある小さな廃寺院では、寺院内で行動していたマシナリー達の止まる音が聞こえていた。
その場に居たのはメアンとは別の仕事に出ていたギラム達であり、相棒のフィルスターと共にアリンとウィンドベルもおり、4人でその場に赴いていた。
彼等の元にやって来た依頼は暴走気味の『バイシャ』シリーズを止める事であり、甲乙ある種類問わず彼等は暴走を食い止めるために来ていた。
その際壊しても良いと言う事になっていたため、比較的派手に行動したためか、破損状況が目立っていた。


「熱源反応は、全部途絶えました。 アリンさん、お怪我は無いですか?」
「えぇ、大丈夫よベルちゃん。 ギラムさんがほとんど倒してくださったので、私は安全に行えました。」

 

使用していた武器をしまうと、ウィンドベルは近くに居たアリンの元へと向かい身体に損傷が無いかと気にかけていた。
しかしそんな彼の心配もないほどに彼女は無傷に等しく、同行していたギラムの援護をしていた事もあってか、被弾は基本無い。
感謝しながらギラムの元へと向かい、彼に静かに笑みを見せた。

 

「『難なら壊しても良い』って言ってたから、主も派手にやったよなー お転婆メイドの時はなーんも出来なかったし、身体が暇を持て余してたんじゃねぇか?」
「まぁ、それもあるかもな。 あの時は様子見ることくらいしか出来なかったから、俺もどっかで満足してなかったのかもしれない。」

 

そんな彼の元にはフィルスターがライフルを担ぎながら主人を見ており、軽く小馬鹿にする様な言動を口にしていた。

 

小馬鹿にされた主人は否定する事なく同意し、先日の行動で左程自分から率先して行動する事が今日の結果に結びついたのかもしれないと言った。

とはいうものの、実際には4人全員で協力して依頼を片づけたに等しい。
先導を切っていたのはギラム本人だが、彼も目立つ怪我等はしておらず比較的疲れも感じさせないほどに元気だった。
種族柄といえばそれで片付いてしまうのかもしれないが、手を抜いて行動していないのも事実。
それだけ、仕事熱心なのであった。

 

「さ、そろそろ帰還しようか。 依頼の報告は、俺からしておくぜ。」
「ぁっ、ギラムさん。 以前貴方に全てをお任せしてしまったので、今回は私に任せてもらえませんか? 不得手な部分は有りますが、私も慣れておかなければいけませんので。」

 

依頼を片付け終えた事を確認すると、ギラムはそう言いマイシップを止めた場所へと引き返そうと言った。
すると近くに居たアリンが彼を呼び止め、コロニーで行う作業を任せてもらえないかと提案した。
前回の彼女の依頼も彼が面倒事を全て引き受けた事もあり、アリン本人がギラムと共に行った依頼をクラウチの元へ報告へ行ったことは無い。
まだまだ経験不足な面もあるため、個人的に補いたいのだろうと思われる言動だった。

 

「あぁ、構わないぜ。 フィル、ベルの端末に依頼のデータを送っておいてくれ。」
「了解主ー」


そんな彼女の意気込みを聞き、ギラムは依頼のデータを彼女の相棒であるウィンドベルの元へ送るようフィルスターに指示した。
主人からの命に返事を返しつつ、フィルスターは即座に送るべきデータを纏め送信していた。

データを送り終えた事を彼の口から聞くと、4人はその場を後にして行った。

 

 


『・・・』

 

そんな彼等が寺院の広間を後にしたのを見届けると、彼等の死角に居た影が静かに動いた。
影は壊れたマシナリーの元へと向かうと、静かに屈み何かを調べる様にマシナリーの破損状況を見ていた。
表面には武器で殴られた跡と削れた跡があり、所々にテクニックによって焼け焦げた跡等々があった。

 

『これで奴等のデータは揃った・・・ 我等のクーデターの時だ・・・!!』


影は1人機械的な声で叫ぶと、マシナリーの中に埋め込まれていたチップを抜き取り、その場を去って行った。


波立ちの無い畔

惑星ニューデイズの依頼を終えたギラム達はマイシップに乗り込み、彼等の住まいのあるスペースコロニー『クラッド6』へと戻ってきた。
その後別行動を取るアリンの後姿を見送ると、ギラムはフィルスターと共に自室へと戻ってきた。

 


ウィーン・・・

 

「ただいま。」
「お帰り主ー」

 

ドアのロックを解除し部屋へと入ると、主人の後ろを歩いていたフィルスターはそれに返事をするように部屋へと入った。
その後ベットのある部屋へと向かったギラムの横をフィルスターは歩き、ベットに腰かけた主人のためにとコーヒーを作っていた。
ベットサイドには備え付けられたコーヒーメーカーがあり、いつもフィルスターはコーヒーをそこで作っている。
珈琲豆は買い置きで貯蓄されており、主人の今の好みを聞いたり体調具合を見て彼がチョイスしている。

 

「今日はどんな味の豆が良い? 主。」
「ちょっと苦みのあるのが良いな。 ミルクは少しで頼むぜ。」
「OKー」

 

今日は依頼後と言う事もあり主人の今の飲みたい味をフィルスターは聞くと、それに見合う豆を取り出しミルにセットし挽き出した。
豆が出来上がるまでの間にフィルスターはミルクを取り出し温度を調整し、漂い出したコーヒー豆の香りを主人に当てながら豆を取り出し、機械にセットしお湯を注いだ。
すると自動的にコーヒー豆にお湯が注がれフィルターを通して下の容器にコーヒーが溜まり、あっという間に出来立てのコーヒーが主人の元へと向かった。
要望であるミルクはすでに入っており、コーヒーの表面にミルクで描かれた渦が浮いていた。

 

「ありがとさん、フィル。」

 

出来上がったばかりのコーヒーをギラムは受け取ると、静かにカップを口にした。
疲れた彼の身体に強い苦みのある珈琲が喉を通り、その後にミルクの優しい味わいが口の中をリセットする。
爽やかさとは違った味が彼の舌先を楽しませる、ギラムのお気に入りの一時だった。

 

「ん、やっぱ旨いな。 また豆も新しいのを買ってくるか。」
「そうだな。」

 

望んだとおりのコーヒーで楽しませてもらった様子で、ギラムは笑顔でそう言いフィルスターの頭を撫でた。
軽く動物に近い扱いにも感じるが、ギラムなりにフィルスターへの感謝のしるしだ。
元々言葉でどうこう言う事は彼は得意ではないため、相棒でもあるフィルスターにはこれでなんでもお礼として伝わる。

 

お金やいろいろな品でお礼をしても彼等には仕方がないと言う事から、ギラムが考えたお礼。

 

それが撫でる事であり、フィルスターも嬉しそうにその撫でを受けるのであった。

すると、

 

 


ピンポーンッ

 

「ん、はーい。」

 

マイルームにインターホンの呼び鈴が響き渡り、来客者が来た事を告げた。
音に対しギラムが返事をすると目の前に電子盤の画面が浮かび上がり、誰が何を持ってやって来たのかが即座に表示された。
それに対し迎え入れるかどうかを問われ、彼は『YES』を選びフィルスターはやってきた荷物を受け取りにドアへと向かって行った。

 

しばらくするとベットに座る彼の元に荷物を持ったフィルスターが戻り、小包を彼へと手渡した。
彼の太腿の上に置かれた箱は大きくも小さい分類に入り、太腿から少しだけはみ出す程度の長さ。
奥行きも長さと同じくらいの大きさで、高さも同等の八面体の箱であった。
包みの上に張られた紙には『GRM(ガルム)社より・当選傭兵様へ』と書かれており、下には送り主であろう担当者の名前が記載されていた。
正式な社から送られた事の証として紙には会社のロゴマークが印刷されており、正式な場所からの品である事が表示されていた。

 

「何が来たんだ、主ー」
「GRM社からのボーナス品だな。 前にも何回か来ただろ?」
「ぁー 『ツーヘッドラグナス』とか『ツイントルネード』とかか。」
「そう。 今回のは・・・射道具(シャドゥーグ)みたいだな。」

 

中身を確認しようとする主人にフィルスターは何が来たのかを問いかけると、大体中身は決まっている様子でギラムはやってきた箱の正体を言った。

 

依頼をこなす傭兵達への給与は所属する軍事会社が依頼先からの依頼金を渡すが、それ以外にも彼等に必要な道具がいろいろと存在する。
道中の危険な作業によって削られた体力を回復する薬品もあれば、身体に有害な状態異常を直すための治療薬。
他にもフィールドに備え付ける爆弾などがあるが、一番重要なのが『武器とユニット』だ。
試験的に造られた物も中には存在するが、会社の中で取り扱う高級な武器を働く傭兵達に出す事がしばしばある。
そのうちの内金は全て提供した社の負担であり、それを持ってさらに依頼に励んでほしいと言う意味も込められている。
しかしどの相手を倒したらどの品を貰えるかは決まっている様で定かでは無く、道中に出てきた『SEED』を倒した際も貰える事があるらしい。
そのあたりのシステムは、ギラムもイマイチ把握していない。

 

送られてくる箱の外見から傭兵達は『赤箱』と呼んでおり、中には普段使っている物とは違った武器が入っているとしてとても重宝されている。
中には赤箱を越えるレアリティが詰まる『虹箱』と呼ばれる伝説の箱も存在している事から、傭兵達の手にある事すら稀な希少な物も確認されている。
大抵それは名の売れた会社が作る事もあるのだが、中には未知の場所から送られてくる事もある。
しかしその姿を拝んだ傭兵達も少ないため、どんな外見で来るのかが分かっていない。

 

 

送り先が分かって居る事から、ある意味個人情報がダダ漏れと言えるのかもしれないが、実際には軍事会社が公開している情報を元に送られてくるのが基本。
決して悪用されたデータからは送られていないので、ご安心を。

 

「んー・・・ でもさ主、コレいつものと違うんじゃねぇか? いつも外見は『赤い』だろ? コレ赤くないぞ。」
「そう言われるとそうだな・・・ 何を送りつけてきたんだ・・・?」

 

そんな彼等の元に今回届いたのは、時折送られてくる箱とは違った外見の箱だった。
普段は外から見ても分かるほどの赤い箱なのに対し、今日送られてきた箱は包みで丁寧に梱包された謎の箱。
梱包される事が基本ないため、これはとても意外な配慮である。

 

「丁寧に包装するっていう制度が、会社側で出来たのかもしれないな。 外見的に赤い箱って言うのは、あんまりイメージとして良くないのかもしれないぜ。」
「ふーん。」

 

謎の箱に不思議そうな目を向けていると、気になったフィルスターは捲れていた包装紙の一部を摘みながら剥がした。
するとそこから光が漏れ出し、七色の煌びやかな光が箱から放たれ出した。

 

 

「ぁ、主! これ赤箱じゃねぇ!! 虹箱だ!!」
「ぇっ、虹箱!?」

 

彼等の元に送られてきたのは、今まで送られてきた箱とは桁違いの光りを放つ七色の箱。
その姿を目撃したフィルスターは慌てて主の背中へと隠れてしまい、定位置である肩の上から何が入っているのだろうかと恐れながらも興味津々な眼差しを向けていた。
驚いているのか楽しみなのか解らない相棒に苦笑した後、ギラムは残された包みを剥がし箱を開けた。


すると中からフィルスターの様な外見をした射道具が顔を出し、背中に着いた小さな羽を羽ばたかせながら彼等の前に浮き出した。
小さな手足と羽根が印象的な愛らしいマシナリーであり、外見はフィルスターそっくりだが色合いはウィンドベルと同じく青と白を基調とした色合いになっていた。
軽く周囲を飛びかう射道具を見て楽しんだ後、箱の中に残された説明書をギラムは手にした。

 

 

「ぇーっと・・・ GRM社が誇る最新射道具『ディーラカーナ』だってさ。」
「へぇー シャドゥーグなんだ・・・」

 

やってきたマシナリーは『ディーラカーナ』と呼ばれる援護射撃を行うマシナリーであり、しばらく周囲を飛んだ後ギラムの膝元に再び戻ってきた。
それを見た彼は軽く頭を撫でつつやって来たマシナリーを歓迎し、コーヒーメーカーの隣に置いた。
ベットサイドに置いといても違和感のない愛らしさであり、少しだけギラムとはミスマッチな気もしなくはない。

 

「何か主とは正反対の見た目だな。 可愛いし、ベルそっくり。」
「余計なお世話だ。 ・・・とはいえ、中々出回る事が無いマシナリーみたいだし丁寧に扱わないとな。」
「だなっ」

 

軽く茶々を入れられるもギラムは返事を返し、フィルスターを肩に乗せたまま立ち上がった。
その後近くに置かれていた財布を手にし、食事を取りに出かけて行くのであった。

 


暗雲の波際

タッタッタッタッ・・・
ババババンッ・・・!


夜を迎え、新たな日がやって来た頃。
開店前のショッピングモールでは、1人のマシナリーがハンドガンを持ち走り回っていた。
足音と共に銃声も聞こえるが、辺りには人の気配はない。

 

 

「クッ・・・! 何者なんだ! ユーは!!」

 

走っていたのはラスベリーであり、敵に向かって叫びつつトリガーを引いた。
しかし弾丸は命中することなく影は避け、一気に相手との間合いを詰め囁いた。

 

「!」

【君達の、司令塔だ・・・】

 

 

「ノォオオーーーー!!!」

 

 

早朝の朝日が昇りかけたモール内に、彼の悲鳴が木霊した・・・

 

 

 

 

 

「・・・ぇっ? ラスベリーが行方不明?」

 

日が昇り朝を迎えた住居区、昼食を終えたギラム達の元に一本の凶報が舞い込んだ。
髪のセットをしていた彼とドライヤーを持っていたフィルスターは、伝言を持ってきた相手に不思議そうな顔で返事を返した。

 

「そうなの!! いつも早朝に出かける事なんてないからどうしたんだろうーって思ってたら、もうお昼になるのに帰ってこないのっ・・・!! ベリリーが出て行っちゃったぁああー!!」
「とにかく落ち着けって。 メイド服もロクに整えられない程動揺してるのは、もう解ったから・・・」

 

シャワー後に襲撃をかけてきた彼女の恰好は、いつもと違い清潔感の無い乱れた格好でしかなかった。
何時もならばメイド服の上にエプロンを付けているのにも関わらず今日は付いておらず、ボタンを最後まで止める程のゆとりが無いのか胸元は中途半端な位置までしか止められていない。
そのため、先ほどから出そうで出ない程の彼女の胸が、揺れながら見え隠れしている。
年頃のギラムにとって、目に毒である。


「えぇーんっ・・・」
「とはいえ、心配だな。 ラスベリーが帰ってこない事って、今までにあったか?」


そんな彼女を落ち着かせようと椅子を置き、ギラムは泣いている彼女を座らせ問いかけた。
するとメアンは持っていたタオルで目元を拭いつつ、震える声で言った。


「ぐすっ・・・ 長期の調達で、3,4回・・・」
「じゃあそれじゃねーの。 アイツの事だし、メモ位お前ん所に入ってんじゃねーか?」

 


「メモなぁいもぉおーんっ!!!」

 

彼女の返答にフィルスターは適当な仮説を立てるも、即効で彼女に怒られ再び泣かれてしまった。
おまけに泣きながら『彼の経緯がどうこう』だの『今までにそんな事は無かった』と言われる始末であり、先ほどよりもとても対応が面倒になってしまった。


「フィル、怒らせんな・・・ 不安定なんだからさ。」
「あぁ、わりぃ。」

 

そんな彼の言動で怒る彼女を見て、ギラムはフィルスターに無暗に言わない方が良いと口止めするのであった。

 

 

「アリンの所には、何か連絡行ってるか?」

 

泣き止むどころか怒りだす彼女に罰としてフィルスターに世話を任すと、ギラムは通信を開き別室に居るアリンの元へと連絡を取った。
画面先に出る彼女は静かに顔を横に振り、皆の所に何も連絡が行っていない事を悟った。

 

『いいえ、ベルちゃんの所にも何も・・・ ラスベリーさんが不在にするなんて、少し不安ですね。 GRM社から発表されたニュースもありますし・・・』
「そうだな・・・」

 

不安げに話す彼女の話を聞いてギラムは自室に備え付けられたテレビを付け、連日報道されているニュースを見た。

 

そこではハルが連日同じような内容で『パートナーマシナリーが居なくなってしまう』事を報道しており、事件の解決の目途も今の所立っていない事を発表していた。
最近ではGRM社トップの記者会見の模様も公開されており、経営責任者であろう白髪の青年が眼鏡を何度かかけなおしつつ会見を行っている。

 

「そっちは、あの事件と関係ありそうな話。 何か聞いてないか?」

 

報道されているテレビを一通り見終えると、ギラムはアリンに気がかりな点は無いかと質問した。
すると彼女は、考える様に頬に手を付け考える素振りを見せた。

 

『特にそう言った件は・・・ ぁ、でもクラウチさんが【居なくなってしまったパートナーマシナリーを持つ傭兵の方々の話を、クレームとして送らないといけない】と言って、書類を幾多も作っているところは、以前お見かけしました。』

「クラウチも大変だな。 まぁとりあえず、ラスベリーの捜索願を俺達も出しておくか。 仕事を増やすのは、気が引けるけどな。 後でデスクで合流しよう。」
『かしこまりました。』

 

しばし考え込んだ彼女が話し出したのは、以前の依頼の報告をしにクラウチの元へと言った際の話だった。

 

依頼の報告をする前としている最中に他の傭兵達が上司の元へと訪れ、誰もが心配そうにクラウチに捜索願を出すよう頼んでいた。
それを聞いた彼は面倒そうに話を聞き入れ、1つ1つ書類に持ち主とマシナリーの名前を入力し相手側に送信する。
その上報告を1つ1つ送る際にも他の人達から話がひっきりなしに来るため、量が膨大になり圧縮しなければならない。
いろいろと作業が増えて行く事に、彼もお手上げ状態の様だ。

 

そんな彼の元で、皆と合流しようとギラムは提案したのち通信を切った。

 

「うし。 フィル、メアン。 クラウチの所に行って、ラスベリーの事を探してもらうよう頼んでみようぜ。」
「おう、了解主ー」
「うん・・・ ・・・ありがとう、ギラムぅ。」
「気にすんな。 ・・・とりあえず、服はちゃんと着てから行こうか。 胸、さっきから見えてるぞ。」
「ぁっ、ゴメン。」

 

その後合流する話を2人にも告げると、メアンは目を赤くしたままお礼を言った。
彼女のお礼に対し返事をしようとするも、先ほどから視界に入ってしょうがない彼女の身だしなみを指摘し、早めに直すよう言うのだった。
指摘された場所をメアンも見てボタンを締めると、いつもの彼女の顔になるのだった。

 

 

 

ウィーンッ

 

 

「クラウチ、ちょっといい」

 

「あの子がもう3日間も帰ってこないんです!!」
「可愛い俺の嫁が、朝から姿が見えねえンだ!! なんとかしろ!!」
「落ち着けってお前等! 上司のデスクで、クレームを言うんじゃねぇ!」

 

 

『・・・』

 

その後身だしなみを完璧に整えたメアンと共に、ギラム達はリトルウィングの支部へと向かって行った。
扉を開けたと同時に上司の名前を言おうとした途端、やってきたのは他の傭兵達のクレームの嵐。
上司のデスクは完璧に囲まれており、長身のギラムでも相手の姿すら見えない状態だ。

 

「ぁっ、ギラムさん。」
「凄い数だな・・・ あれは全員、パートナーマシナリーが行方不明って連絡か?」

 

そんな彼等を見て、デスク側の扉の近くに立っていたアリンとウィンドベルが彼等の元へとやって来た。
話の内容に予測を付けつつギラムは質問すると、彼女は顔を立てに振った。

 

「はい。 先ほどから皆さんのお話を聞いていますが、恐らくそうだと思います。」
「こんなにあの子達が行方不明って言ってる人が居るんだぁ・・・ どうしよう、ギラムぅ。」
「何はともあれ、人波は中々引きそうにないな。 チェルシーの所に行って、俺達の分の書類くらい制作して行くか。」
「そうですね。」

 

自分と同じく相棒が家出してしまったのだろうと不安に思い、メアンは心配そうに彼等の様子を見ていた。
泣きながら訴える者も入れば、怒りながら捜索作業を早めるようせかす者もいる。
それに対し1人1人ではなくまとめて応対するクラウチの姿は、とてもじゃないが書類を頼める状態ではなかった。

現状を見たギラムは彼の手伝いも出来て連絡が早く行く手段を検討し、反対側に位置するチェルシーのデスクへと向かって行った。

 

 

 

「チェルシー、ちょっといいか。」
「あらギラム、いらっしゃーい。 どうしたノ?」

 

向かった先に座っていたのは、アリンと同じくキャストの女性の受付嬢『チェルシー』
クラウチとウルスラの代わりに仕事を行う事もしばしばある中、自分の店を経営し切り盛りする働き者だ。
見た目はキャバクラ嬢だが、仕事はいたって真面目に行っている。

 

「メアンのパートナーマシナリーが行方不明になっちまってな。 書類を代わりに書きたいんだが、ここでもできるか?」
「シャッチョサンの書く書類なら、ワタシもデータ持てるヨ。 何枚か書いたからネー」
「あぁ、良かった。 一部貰えるか。」
「了解ヨー」


やって来た要件をギラムは伝えると、チェルシーは書類を取り出し代わりに何枚か書いている事を彼等に告げた。
予想していた通りの物が貰えると、ギラムは横にずれメアンに書く様指示した。
それを聞いたメアンはペンを取り出し、1つ1つの項目に必要事項を記入して行った。

 

 

「・・・それにしても、被害は出まくってるんだな。」
「ガーディアンズでも出てるみたいヨ。 エミリアがルミアから聞いたーって教えてくれたからネ。」
「そうなのか?」

 

書類を記入するメアンを横目に、ギラムは再びクラウチのデスク周辺を見ながら呟いた。
彼の呟きにチェルシーは話をしつつメアンに記入する部分を軽く指さし、2人で仲良く記入していた。
彼女の言った事に問い直すと、チェルシーは静かに手招きし彼を近くへと移動させ、耳元でささやいた。

 

「一部の人の話では『パートナーマシナリー本人が、持ち場を離れて何処かに集まってる』って話みたいヨ。 ウルが得た情報ヨン。」
「集まってる・・・か。 了解、俺達も警戒しておくぜ。」
「お願いネー」

 

近くに呼んで話したのは『メアンに聞かれては悪いから』という配慮の様だ。
話を聞きギラムは返事をした後、記入を終えた彼女と共にその場を後にした。

 


荒れ出す大海

リトルウィング支社での『ラスベリー捜索願』を出し終え、ギラム達はひとまず集まろうと言う事になりマイルームへと向かっていた。
ギラムを先導にアリンとメアンが歩き、その後をフィルスターとウィンドベルが歩いている。

 

 

「ベリリー見つかると良いな。」
「ガーディアンズでも捜索活動が行われてるって言うし、すぐ見つかると思うぜ。」

 

心配ではあるものの明るく振る舞う事に決めた様子で、メアンは心配しつつ待ち遠しい様子でそう言った。
そんな彼女にギラムは励ます様に一言いうと、彼女も嬉しそうに返事をしつつアリンとギラムの手を取り「ありがとう」とお礼を言った。

 

「そしたら、しばらく1人で買い出しやお料理しないとなー 毒味はギラムにお願いするとしてー」
「さらっと毒味って言うんじゃねぇよ・・・ 付き合ってるこっちの身にもなれよな。」
「はーい、頑張りまーす。」

 

しかしお礼が毒味役と言う非道なのは相変わらずであり、心配する必要はないなとギラムは改めて思うのだった。
その後部屋で会議をしようと言うのだった。

 

「気楽な奴等。 俺等なんて使いまわしなんだから、んなに一生懸命にならなくても良いだろうにさー」

 

 

「・・・」

「ん、ベル?」

 

そんな主人達を見ていたフィルスターはボヤキながら一言言いつつ、隣に居たウィンドベルを見た。
しかしいつの間にか歩いていた彼は遠い場所に立っており、入って来た扉を見つめる様に立っていた。

 

「どうした。」
「さっき、別のマイルームから僕達と同じナンバーの個体が歩いて行くのを見ました。 おそらく。」
「例のアレ、か。 どうする。」

 

見ていたのは別の部屋から出てくるマシナリーの姿であり、扉を見ていたのは丁度出て行った所だった様だ。
無断外出をするのはフィルスター以外には基本居ない事をウィンドベルも把握しているため、妙だと感じた事を彼に告げた。
すると先ほど提出した書類が彼等の脳裏に過り、恐らくそれではないかと言った。

 

「アリンさんに余計な心配をかけるのは申し訳ないですが、事件解決につながるのであれば僕達の手で片付けましょう。 主人に手間を取らせる様な事は、僕達はしてはいけません。」
「わかった、俺も行くぜ。 主に連絡を入れておけば、軽く繕ってはくれるだろ。」

 

2人で主人に迷惑をかけるわけには行かない、心配をかけるわけにも行かないと結論がつき、共に追ってみようと話がまとまった。
しかしもしもの事があると自分達も捜索対象になりかねないと思い、フィルスターは主人であるギラムの端末に一部データを送信し追跡出来るよう座標データも送信した。


これで大体の情報が分かれば、行先も現在地も主人の元に繋がると判断した様だ。

 

 

「すみません、フィル・・・」
「謝りは無しだ。 行くぜ、ベル。」
「はいっ」

 

その後前を歩く主人達を見送ると、2人は所持する武器を手にし走って行った。

するとすぐに追うべきパートナーマシナリーの1人『GH400シリーズ』のメイドタイプが転送器を使い何処かへ移動したのを彼等は見た。

 

すぐさま使われた転送器の転送先座標を割り出すと、2人も後を追って移動した。

 

 

 


転送器を起動させ向かった先は、華やかなモール街でもホテル街でもない虚数のVR空間。
辺りを照らしていた照明器具は最低限の明るさとなっており、どう考えても人気のない場所。
フィルスターとウィンドベルは互いに居場所を確認しコロニー内の座標を送信すると、熱源反応を頼りに追跡を開始した。

 

「こんな人気のない所に来るなんて、何をしてるんでしょう。」

 

静かに物音を立てぬ様普段から発生する足音を最小限にしながら歩きつつ、ウィンドベルは呟いた。
元々配属される身の彼等が主人の元を離れ、何かをするにしても人気のある場所が基本だ。
それ以外の場所にやってくる事は稀であり、個人的な用でなければ来る事は無い。

 

「ありえるとしたら、本体の意識じゃなくて『操作』されてる。 だけどな。」
「操作・・・? いったい誰が・・・」

「シッ。」

 

彼の問いかけにフィルスターは答えた後、何かを察し後方に居たウィンドベルに止まるよう手を出し静止した。

その後物陰に隠れ奥を覗くと、そこには周囲の明かりとは違った灯りを放つ集団の姿が居た。

 

通路を歩いて来た彼等の先には広い空間があり、そこにはネオンカラーで輝いている人工的な羽根があった。
その正体はパートナーマシナリーが装着している『シールドライン』であり、緑色が目立つ中一部は別の色で発光している。
簡単に数えただけでも、数十体はその場にいるだろう。

 

 

「さっきの人・・・ですよね。」
「行方不明になってたナンバーと大体一致するな。 こんな所に来てたのか。」
「・・・ぁっ、フィル。 中央に、別の人が居ます。」
「?」

 

物陰に隠れ様子を伺いつつ、ウィンドベルは追って来たメイドタイプがその場にいるのを確認した。
他にも『スイムタイプ、マジシャンタイプ、ナースタイプ』と、比較的傭兵達が好んで使用しているマシナリー達の姿が見え、中には珍しい個体の姿も見えた。
そんなマシナリー達を見ていると、不意にウィンドベルは彼等の中心に別の存在が居る事を目撃し、フィルスターに告げた。
その場に居たのは黒いローブを纏った陰であり、遠くからでは人なのか機械なのかも解らない。

 

【○×◆?◎・・・ !#○■。】

 

影は独特の言語と思われる声で集まったマシナリー達に何かを告げている様子で、フィルスター達の言語解読では判断出来ない話し方をしていた。
いったい何を話しているのだろうと思い様子を見ていた、その時だ。

 


《侵入者発見!! 侵入者発見!!》

 


「!!」
「なっ、やべっ!!」

 

彼等の背後に遅れてやって来たのであろうレトロタイプの個体が彼等を見つけ、普段の言語よりも機械的な音声で周囲に発した。
それを聞いた2人は慌ててその場を離れ声を発する相手をなぎ倒し、元来た道を大急ぎで戻って行った。
別個体が居た事を知った集団達も動き出した様子で、彼等の後から幾多の足音が聞こえてくる。

 

「マズイって、これじゃ俺等もラスベリーの二の舞になっちまう!!」
「まだアリンさん達に正確な情報も渡してないのに、僕達が捕まったら・・・!!」
「主ぃいいーー!!!」

 

 


《素体ニ別概念有。 記憶ヲ排除セヨ、記憶ヲ排除セヨ。》

「邪魔だぁあ!! 退けぇええ!!!」
「ラ・フォイエッ!!」

 

持っていた武器で前方に立ちはだかろうとするマシナリー達を迎撃しつつ、2人は転送器が無いかと一生懸命に探した。
しかし元来た場所にその痕跡は残っていないどころか、どんどん彼等の周りに熱源反応がやってくるのを彼等は観測していた。
なるべく追手の少ない路地へと入ると、何時しか彼等は道の無い観測路へと迷い込んでしまっていた。

 

「クッ、行き止まりかよ・・・!!」

 


「フィル!!」
「!!」

 

慌てた2人の来た道にはすでに操られているであろうマシナリー達が立ちはだかり、後から中心であろう影が彼等が開けた道を通ってやって来た。
その姿は人間と同等だが少し小さな体系だが、肩幅があり怪しい目の色を彼等に見せていた。

 

【どうやらお前等は、我々の観測領域に入り込んで情報を漏洩するつもりらしいな。 GH500・ウィンドベル、GH501・フィルスター】
「ッ・・・ お前、何者だ! ラスベリーをどうした!!」
【知ってどうする。 ココは観測領域を剥奪した過去の通路、回線はとっくに遮断しているぞ。】

 

完全に逃げ道を失った彼等に影は話しかけると、フィルスターは個体名を認識されるもその場に居るであろう友人の名前を言った。
しかし相手は知った所で外部に情報を流す事は出来ない事を改めて言うと、フィルスターはライフルを構え知ってもなお抵抗する意志を見せた。

 

「ラスベリーさんを、メアンさんの元に送り届けるだけです。 アリンさんにもフィルにも、手出しはさせない!!」
【フッ、話し合う余地も無いか。 ならば・・・お前等の意識回路を、いただくまでだ!!】

 


バッ!

 

「チッ!」

 

そんな彼等の思考回路を奪おうと影は合図をするように手を前に出すと、後方に待機していたマシナリー達が一斉に彼等に向かって襲撃をかけた。
手にはそれぞれが普段使用している武器を手にしており、操られていることもあり戦闘力は通常以上であると認識した。

 

「させない!! 燃え盛れ炎よ!!」

 

やってくる敵の波を見たウィンドベルはロッドを構えテクニックを演唱し、自身を中心に炎の波を発生させた。
波に飲まれたマシナリー達は吹き飛ばされ後方に居た他のマシナリー達の上に転落し、一時的ではあるが隙が生まれた。
それを見かねたフィルスターはライフルを上空に向けチャージショットを放ち、陰に向けて攻撃を仕掛けた。
しかし、


【甘いな。】

「何っ!!」

 

攻撃を一瞥し影はそう言うと、自らの身体に弾丸が直撃しても微動だにせずその場に立っていた。
代わりに影を覆っていた黒い布地が弾丸によって裂かれ宙に舞うと、影の素顔が彼等の前に現れた。

 

「シ、シノワビート・・・!! マシナリーがマシナリーを管理する気か!」
【その程度の思考回路しか持たぬ貴様らに、理由を話す事などない。 頂くぞ!!】
「ッ!」

 

影の正体は彼等と同じマシナリーの分類に入る『シノワビート』だった。
白色のボディと藍色の肩パーツが印象的な機械であり、人型に近い形をしているもキャストとしては分類されない。
相手は問われた質問に答える事はせず、腕を構え彼等に特攻を仕掛けた。
その時、


「フィル、隠れて!!」
「ぇっ!」

 


「いっけぇぇぇぇぇ! SUVウェポン 全力展開ーッ!」

 

後方に居たフィルスターに自分の背中に隠れるよう指示した直後、ウィンドベルは両手を上空に向け支援武装機械を呼び出した。
すると彼等の前に周囲を一掃するレーザー砲が降臨し、彼は機械を操作し相手をなぎ倒し出した。

 

【クッ・・・!】
「これに捕まって!! 通信回路が遮断されていても、これなら外部へ戻れます!!」
「ベル、お前も!」

 

形勢逆転とばかりにレーザーを受けたマシナリー達は外へと吹き飛ばされる中、ベルは攻撃が止む前にと彼に呼び出した機械の上に乗るよう指示した。
彼の声を聞いたフィルスターは急いで機械の背中に乗ると、ウィンドベルも乗るよう手を伸ばした。
しかし彼はハンドルを握ったまま顔を横に振り、彼に笑顔を見せつつ言った。


「お願いです。 アリンさんを、僕達の主人を・・・護って下さい!!」
「ベル!!」

 

【させるかぁあ!!】

 

そんな彼等の脱出する隙を見て、敵は塀を駆け上りフィルスター達に無数の針を発射した。
しかし針が彼等に命中する前にとウィンドベルは呼び出した武装機械を再び転送しかえし、フィルスターを転送手段のある場所へと送り返した。
異次元空間へと送られるフィルスターは前を見ると、そこには相手の攻撃を自らの身体に受けたウィンドベルの姿が映っていた。


「フィル・・・ アリン・・・さん・・」
「ベルーー!!!」

 


パシュンッ!

 

針を身体中に当てられたウィンドベルはその場に倒れると、敵は彼の前へと降り立ち残っていたマシナリー達に負傷した皆を連れるよう指示した。
指示を受けたダンサータイプとウェイトレスタイプ、ボーイタイプ達は丁寧に彼等を担ぎ上げ、そのまま何処かへと向けて運んで行ってしまった。
その場を離れて行ったマシナリー達を見送ると、シノワビートは当たりを見渡し跡形も無く一体を逃がした事を悟った。

 

【小癪な真似を。 ・・・だが。】


目を光らせながらウィンドベルの行動に苛立つも、一点を見つつハズレではなかった事を敵は悟った。
そこには中途半端に折れた針の姿があり、空間干渉によって損壊した物である事が分かった。

 

【直に奴も、我等の手に堕ちる。 その時が、襲撃の時だ・・・!】


使用した針を根こそぎ消し飛ばすと、敵はその場を後にしマシナリー達の後に続いて何処かへと消えてしまった。


深海へ堕ちる相棒

ウィンドベルの呼び出した支援武装機械の転送回路を利用し、現場を脱出したフィルスター
その後自身の知るルートを使用しリトルウィングへと戻ると、すぐさま自分が管理を任されているギラムのマイルームへと向かって行った。

 


「早く・・伝えねぇと・・・ やべぇって、コレ・・・」

 

しかしその頃には最初の元気は無く、徐々に蝕まれているであろう思考回路を一生懸命に自意識に向けていた。
放たれた刺が一本だけ彼の足先に命中してしまっていた事が今の状態であり、それ以上受けていれば今の自分は個々には居ないだろうと彼も思っていた。
それだけ強力な上書き変換を行われていると言う事であり、庇ってくれたウィンドベルのためにもと彼は扉のロックを解除し、中に転がる様に入室した。

 

「あ、るじ・・・!! 主ぃ・・!!」

 

体制を崩しつつも部屋へと入ると、部屋に居るであろう主人にフィルスターは力を振り絞って声を放った。
しかし奥からは返事が返ってくる事は無く、奥のシャワー室からも物音がしなかった。

 

「クッ・・そっ あのメイド・・だな・・・ ・・・っ、怒ってる場合じゃねぇんだっつ・・の。」

 

一番の助けが不在の理由に予測が付きフィルスターは苛立つも、そのまま意識を失うわけには行かないと首を何度も横に振った。
その後意識が少しだけ戻ってくるのを確認すると、壁に手を付け壁伝いにビジフォンの元へと向かって行った。
そして電源を入れ、両手でしがみつく様に棚の上に身体を乗せた。

 

「早く・起動・・・しろっ!!」

 

 

《・・・》
「・・・?」

 

しかし中々起動画面が出ず意識がもうろうとする中、フィルスターは近くに熱源反応がある事を感じた。
頑張って首を横へと向けると、そこには先日新たにやって来た『ディーラカーナ』の姿があった。
たまたま電源が入っていた様子で彼の事を心配そうに見ており、言語機能は無いものの目で「大丈夫か」と訴えていた。


「・・・頼む・・・主に・・俺達の・・・居場所を・・・! 教えて・・やって・・くれっ!!!」
《・・・》

 

最後のチャンスだろうと思ったのか、フィルスターは意識が残っているうちにと隔離しておいたデータチップをディーラカーナに咥えさせた。
彼の頼みを聞きいれたのかディーラカーナは目を数回点滅させると、フィルスターは安堵した様子で笑顔を見せその場に崩れ落ちた。

 


しばらくそのまま動かない彼をディーラカーナを見ていると、不意に起動音と共にフィルスターが立ち上がったのを見た。
しかしいつもの彼の目の色とは違い、赤い目をし言葉を呟いていた。

 

【マシナリーに・・・人権を・・・ 主人に・・・制裁を・・・】
《・・・》

 

言葉を呟きながらフィルスターは歩きだし、そのまま部屋を後にし出かけて行ってしまった。
彼の後姿を見送ると、ディーラカーナはチップを加えたままベットサイドの上へと降り立りるのだった。

 

 

 

 

「・・・ハァ、疲れた・・・ 一方に上達する様子がねぇんだよな・・・アイツ。」

 

自室を離れ、味覚を消し飛ばす晩餐会へと出席していたギラムは、疲れた足取りで部屋へと向かっていた。
半ば断るも強引に食わされてしまう事もあり本日も食していたが、今回はラスベリーが居ないと言う事もあり彼なりに心配している事もあったたため、自ら出席していた。
おかげで味覚の全てを一時的に吹き飛ばされ『マズイ』の一言を言わせるほどの味を食わされたが、今回は仕方ないと彼も諦めていた様だ。

 

「あれ、フィル・・・?」

 

そんな疲れた表情で部屋へと向かっている途中、彼の目の前に緑色の鮮やかな機械的なボディが目に映った。
顔を上げ相手が自分の相棒である事を認識するも、フィルスターは気付いていない様子でその場を離れ住居区の扉を抜けて行ってしまった。

 

『出かけたのか。 アイツにしては珍しいな、俺が戻る前に出かけるなんて。』

 

しかし彼の外出は比較的珍しい事では無かった事もあり、ギラムは左程気にしない様子で自室へと入って行った。
ご丁寧に鍵だけは締めてある事もあり、なおさら不審に思うことなく入室し、鍵を閉めた。

 

「ただいま。」

 

 


パタパタパタ・・・

 

 

《・・・》

 

部屋へと入り一声かけると、ベットルームからディーラカーナが静かに飛び出し彼の前へとやって来た。
特にプログラムした覚えはないものの出迎えてくれたのだろうと思い、ギラムは軽く笑顔を見せつつ頭を撫でた。

 

「ただいま、ディーラカーナ。 ・・・なんだ? その口に咥えてるチップは。」

 

その後彼の口に黄色いチップが咥えられているのを見て、ギラムは何かと問いかけた。
しかし特に返事をする事無く相手は静かに首を振る様に身体を動かしており、取って欲しいと言うかのように手を欲していた。

 

《・・・》
「俺に・・・か?」

 

しばし相手の動きを見た後彼は静かに手を出すと、ディーラカーナはチップを離し彼の手の上へと落とした。
それを見たギラムはチップを持ったままビジフォンの元へと向かい、起動画面が浮かんだ機械の中にデータを落とした。
するとフォルダ名は『FierSter(フィルスター)』となっており、先ほど出かけて行った彼のデータチップである事を知った。

 

「フィルのデータチップ・・・? アイツ、まさか!!」
《・・・》
「・・・ ・・・そっか。 アイツ、自分の身を犠牲にしてでも俺達に居場所を伝えに来てくれたのか・・・」

 

持ち主が誰であるのかを知り彼はディーラカーナを見るも、相手は何も言わず静かにギラムの周りを飛んでいた。
言語機能が無いだけでここまで伝える事に時間が掛かるのかとギラムは思うと、彼を静かに手に取りビジフォンの隣に置いた。
その後展開されたフォルダを開き、1つの文章データを開いた。
そこには、こう書かれていた。

 

 

『主へ。
 これを見た後に、もし俺の後姿を見かけていたのであれば、主は何も悪く思わないで欲しい。
 俺も俺自身の意識ではどうする事も出来ずに動いていて、ラスベリーとウィンドベルも自分の意識で主達の元を離れたんじゃない。
 それだけは解って欲しい。 主なら、きっと俺の言う事を信じてくれると思うから、このデータを残す。

 残せる限りの座標データと、相手の情報とおそらくの目的をデータとして残しておく。
 主、俺達を助けて欲しい。 敵の目的は何なのかは解らないけれど、主ならきっと出来ると思う。
 あの時のナヴァルの時みたいに、主の前から俺は消えたくない。 この考えだけは事実だから、そう伝えたい。
 
 
 主。 独りだって、思わないでくれよな。
 主の最愛の相棒。 フィルスター』

 


「・・・」

 

記されていたのは意識があった時の彼からのメッセージであり、残りのデータが何なのかを記すメモでもあった。
書かれていた手紙を読み潤む目を拭いつつ彼は手紙を読み終えると、一度顔を天井へと向け涙が引くのを待つかのように目を瞑っていた。
その後流れて来るであろう涙が目の奥へと引っ込むと、彼は再び顔をおろし画面を見た。

 

『お前って、本当に主人思いだな・・・フィル。 こんな俺なんかに身体を張って、死ぬかもしれないって言うのに手紙まで残してさ。 ・・・泣けてくるぜ。』
《・・・》

 

すると横にはディーラカーナが翼を動かした状態で彼を見ており、ちょっとだけ元気になったのかという様な顔を向けていた。
心配してくれているのだろうと思いギラムは彼の頭を静かに撫でると、すぐさま相棒の残してくれたデータを自分の端末へと送り、アリン達に回線を繋いだ。

 


「皆、フィル達の居場所を特定した。 これらから迎えに行く、すぐに集まってくれ。」

 

その後言えるだけの事を彼は言うと、席を立ち倉庫から可能な限りの武装を手にし、準備をするのだった。



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