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平穏が無い

リトルウィング支社のあるクラッド6。
その社内があるマイルームの一室。

 

 

 

『ナヴァちゃん・・・』

 

ゴージャス間溢れるとあるマイルームで、部屋の持ち主であるアリンが顔色を暗くして室内のイスに座っていた。
手には、以前とある存在と別れた場所に咲いていた紅い薔薇が持たれていた。

 

この薔薇は普通の薔薇ではなく、フォトンを栄養素として育てられた特殊な薔薇だ。
そのため与えるのは、水では無くフォトン要素。

その薔薇を見て、アリンはとある存在の事を思い出していた。
実験体として逃げ、目の前で処理されてしまった可哀想な1人の存在の事を。

 

アリンはその事を考えるたび、目に涙を浮かべていた。

 

 


「アリン、入るぜ。」

 

アリンが顔を暗くしていると、マイルームの扉が開くのと同時に声がした。
名前を呼ばれ顔を上げると、そこにはギラムが立っていた。

 

「ギラムさん・・・」
「やっぱりな。 あのナヴァルの事を考えてたな。」

 

ギラムはそう言いつつ、アリンの座っているイス周辺の別のイスに座った。

 

「・・・ あの子への対応、本当にコレで良かったのでしょうか・・・」
「ああ。 本人もそれを望んでいたからな。」

 

アリンからの問いかけにギラムはそう答え、手にする薔薇を見た。
薔薇は不思議な光を放っており、普通に目にする薔薇とは違う輝きを見せていた。

 

「自分がもっとも大切だと思った存在、自分が秘密で守っていた薔薇の園。 そんな大切な存在だからこそ、その花園の花を見せたかったんだろ。」
「ええ・・・」
「今はその花園は、俺達しか知られない場所に静かに咲いている。 託された俺達だ、今後もあの花園を見守って行ってやろうぜ。 アイツのためにもな。」

 

ギラムは励ますように、アリンに言った。

 

「・・わかりました。 きっと、あの子もそれを望んでいたのですよね。」
「ああ、きっとな。」

 

アリンも話を聞いて納得したのか、その場を立ち上がり、フォトンドロップの入った綺麗な花瓶に薔薇を入れた。

一本だけでも、綺麗に咲く薔薇。
その薔薇を見るだけで、2人はあの存在が、常にそばにいる気がした。

 

 

 

 

 


「アリンさん! 大変です!」
「主!! やばい奴が来た!!」

 

そんな穏やかな雰囲気を乱すかのように、2体のマシナリーが部屋に飛び込んできた。

 

「フィル、どうした?」
「ベルちゃん、どうかしたんですか?」

 

2体のメカ龍の慌てっぷりを見て、2人は不思議そうに見た。
そして、

 

 

「異世界人が来た!!」
「異世界人が来ました!!」

 

 

2体は1回息を整え、ほぼ同時に言った。

 

 

「異世界人?」

 

 

こちらもほぼ同時に、質問を聞きなおすように言った。
すると、

 

 


「あ、見つけた~☆」
「ヘイユー達! エスケープとはどう言う事だい?」

 

フィルスターとウィンドベルの後方から、1人の1体の声がした。

 

「出、出たぁあーーーー!!」
「ッ~・・・」

 

その場に立つ2人を見て、フィルはもうダッシュでギラムの背中に隠れた。
ベルはと言うと、その場に気絶し倒れてしまった。

 

「べ、ベルちゃん!?」
「メ・・ メイド?」

 

アリンは慌ててベルを抱え上げ、ベットルームへと運んでいった。
ギラムはと言うと、その場に立つ女性を見て唖然としていた。

 

そう、そこに立っていたのは。
1人のメイドと、1体の白龍だったのだ。

 

 

 

 

 

 

「クラウチ・・・ 一体コレはどういう意味だ?」

 

アリンの部屋での一騒動をひとまず終え、ギラムはアリンと共にクラウチの元へ。
もちろんギラムの右肩にはフィルスターが、アリンの両腕の中にはウィンドベルが。
そしてその後方には、先ほどのメイドと白龍が目を丸くして立っていた。
ちなみにその後の一騒動とは、簡単に言うと自己紹介だ。

 

「まぁそう怒るなって。 お前らにも悪く無い話だぜ?」
「だからって、勝手に決めるな。 俺らが困るだろ。 『メアンでーす』って、明るく自己紹介されたぞ。」

 

ギラムは態度を変えず、クラウチを対面していた。

 

 

 

「クラウチさん。 彼女と彼はいったい・・・」

 

そんなギラムをよそに、アリンは少々困りつつクラウチに問いかけた。

 

「ああ。 アレは簡単に言うと、メイドだ。」
「そんなの見りゃ解る。」

 

クラウチは相変わらず苦笑したまま、そう言った。
もちろん、そんな答えで納得するギラムではない。

 

「そうだそうだー」

 

フィルスターも同じく賛同した。

 

 


「家庭の事情で金を集めてるらしくってな、いい金儲けがメイドという考えに行き着いたらしい。 ココに来た理由は、小遣い稼ぎだ。」
「はぁ!?」

 

クラウチの答えを聞き、ギラムとフィルスター、ほぼ同時にそう言った。

 

「傭兵の方がよっぽど金稼げるだろ!?」

 

今まで得た情報で、メイドより傭兵の方がよっぽど稼げる事を知っていたのか、フィルスターはそう言った。

 

 

「第一なんでメイドが、小遣い目当てでリトルウィングに所属の傭兵になったんだ?」


驚くフィルスターを置き、ギラムは冷静に答えを聞いた。

 

「そのままだ。 メイド修行には金が必須、金稼ぎが楽なのは傭兵って事らしい。」
「だったら傭兵になれよ・・・」

 

クラウチからの答えを聞き、ギラムは呆れつつ、後方にいるメアンと名乗るメイドを見た。
メアンは楽しそうに白龍メカと話をしており、意気投合しているのは目に見えた。

 

 

 

「クラウチさん。 彼女が私達の所へ来た理由は、何ですか?」

 

ギラムにはもう追求するネタが途絶えた事を悟り、アリンは続いて質問した。

 

「ああ。 丁度よさそうなパーティがそこでな。 俺があんなのを相手にしてたら疲れちまうからな。」
「厄介払いみたいな良い方だな・・・」

 

クラウチの答えを聞き、ギラムは再び呆れた様に言った。

 

「ま、腕はあるのは保障するぜ。 メイドより傭兵の方がよっぽど向いてるくらいにな。」
「そうなのか?」

 

フィルスターはクラウチが言った事を聞き、そう言いつつ2人を見た。
すると、2人はその視線に気が付き、こちらへとやってきた。

 

 

「じゃ、改めてこいつらに自己紹介しろ。」
「は~い。」

 

クラウチにそう言われ、メイドはギラム達の方へと向き直った。

 

「改めて自己紹介するね。 アタシはメアン・スムロ。 メイドになりたくてココに来ました~☆ で、アタシの相棒のベリリー」
「マイネームはラスベリーだ。 ナイストゥミーチュー」

 

2人は相変わらずのテンションを忘れずに、ギラム達に自己紹介した。

 

 

「・・・」

 

その自己紹介を聞き、4人はその場に立ち尽くすしかなかった。

 

「じゃ、よろしく頼むぜ。 新参パーティ『ジュライ☆エターナル』」

 

クラウチにそう言われ、6人は支社を後にした。

 


希望が無い

「で、お前らはそう言われて俺らの所へ来た訳か・・・」


クラウチとのやり取りを一通り終え、支社を後にした一行。
その後6人は、その足でカフェへとやってきた。

 

「そう~ で、2人のパートナーマシナリーの龍を見つけて、追いかけてきたの☆」
「そ、そうか・・・」

 

陽気に話すメイドを見て、ギラムは少々相手するのに困っていた。
ここまで陽気に話す相手は、エミリアぐらいなものだからかもしれない。
そう、ギラムにとって一番対応が苦手なタイプだ。

 

 

「で、フィル達は急に追いかけられて、俺らの所に逃げてきたって訳か。」

 

メアンにそう言われ、ギラムはそれぞれの主の膝に座るフィルスター達に問いかけた。

 

「そうだ。」
「はい・・・ すみません。」

 

質問に対して、2人はそう答えた。
堂々とするフィルスターと誤るウィンドベル。 態度が対照的である。

 

「急に追いかけられたもので、会話の余地も無く・・・」
「目当てが何なのか、全然解らなかったからな。」
「だろうな。」

 

2人からの説明を聞き、どうしてあの様な騒動になったのかを、ギラムは納得した。

 

 

「ま、そんなわけさ。 ミー達はユー達の持つパーティにセットされたって訳。」
「クラウチさんからも話は聞いたよ~ 有能な新参パーティなんだって?」
「ゆ、有能かは、解りませんけど・・・」

 

メアンにそう言われ、アリンはしどろもどろにそう言った。

 

「とりあえず腕はあるって言ってたな。 入隊試験はココは無いから、実力は定かじゃねぇけど。 どうやってクラウチはあるって確信したんだ?」

 

ふとクラウチが言っていた事を思い出し、ギラムはメアンに問いかけた。

 

「えっと~・・・ ベリリー、何て言ってたっけ?」

 

問いかけられた事に対して答えようとし、メアンはラスベリーに聞いた。

 

「所持武器からストレンジなオーラが見えたらしいぜ。」
「オーラ??」

 

再び訳がわからない事を言われ、ギラムは再び首を傾げた。

 

「・・・ ま、クラウチがそう言うんだから事実か・・・」
「そ、そうですね・・・」

 

ギラムは追求するのに対して疲れたのか、聞くのを止めた。
アリンも口をそろえて、そう言うしかなかった。

 

 

 

 

 

『それにしても・・・ 随分とテンションが真逆な奴らが来ちまったな・・・』

 

目の前に座るメアン達を見つつ、ギラムはそう思った。

 


アリンと打って変わってテンション丸出しのメアン。
フィルスターやウィンドベルと違って積極的なラスベリー
明るいのが目に見えている2人を相手にし、疲れた自分。

もはや言う言葉が見当たらない状態とも言えた。

 

『・・・だが、今のアリンの状態を考えると、ムードメーカーも必要か・・・』

 

ふと、ギラムは隣のソファに座るアリンを見た。
先ほどの部屋でのやり取りの時の彼女と今の彼女を比べると、顔色も明るくなり、少し笑顔になっていた。
相手にしてもそこまで苦は無く、笑顔のきっかけには良いと思われた。

 

 

 

「ま、クラウチがそう言ったんだ。 否定も出来ないな。」
『えっ!?』

 

ギラムは考えた結論がまとまり、メアン達を見つつそう言った。

 

「今後とも、よろしく頼むぜ。 メアン、ラスベリー」
「そうですね。 よろしくお願いします、メアンさん。 ラスベリーさん。」

 

ギラムの言った事を聞き、アリンも口をそろえて言った。

 

「本当~☆ よかったね、ベリリー」
「ラッキーだなマスター」

 

2人は両者の言葉を聞き、嬉しそうに言った。

6人に笑顔が戻った・・・ と思われた。

 

 


「ちょ、主!!」

 

 

だが1人、否定派がいた。

 

「なんだフィル。 どうした?」

 

否定派とはもちろん、フィルスターだ。

 

「こ、こいつらと今後の任務を共にするのか!?」


ギラムの着ている服を軽く引っ張りつつ、フィルスターは答えを求めた。
気のせいか、涙目になっている様子だった。

 

 

「クラウチの命令だしな。 それに4人だけじゃ、任務が辛い時もあるだろ。 人数調整も丁度良い。」
「だからって!!」

 

自分の考えと同意して欲しいのを丸出しに、フィルスターは言った。
もちろんそれで答えを変えるギラムではない。

 

 

 

「え~ 駄目~?」

 

 

 

そのやり取りを聞き、メアンが残念そうな声を上げた。

 

「ユーはミー達が嫌いか?」
「なっ・・・」


メアンとラスベリーにそう言われ、フィルスターは答えに困った。
内心は否定たが、賛同の5人に対して自分が勝ち目が無いのを知っており、答えに困っていた。

 

「フィル、素直に首振っとけ。 勝ち目は無いぞ。」
「私は、どちらでも構いませんよ。」
「僕もですよ、フィル。」
「お、お前ら・・・」

 

ギラムから楽な道を進めれ、アリンとウィンドベルの答えをフィルスターは聞いた。
そして悟った。

 

 


『勝ち目、ねぇ・・・』

 

 


完全に劣勢である事を。

 

「・・・解った。」
「よかった~☆」

 

フィルスターの答えを聞き、再びメアンは表情を明るくした。
先ほどの時とあまり変わってはいないものの、まあそこは突っ込まないでおこう。

 


『・・クソッ どうしたらいいんだっ・・・』

 

言ってしまった答えを後悔しつつ、フィルスターは頭を悩ませていた。
苦な理由はもちろん、フィルスターにとって一番苦手なタイプだからだ。
ギラムと似たような理由だが、こちらの方はプラス思考率は低い様子だった。

 


静けさが無い

その後チーム内での面接を終え、カフェを後にしたギラム達。


入社時のエミリアの時同様、彼等はこれからメアンのために用意された自室へと向かっていた。
すでに彼女には配属されたマシナリーが居る事もあり、荷物整理等々は当に済んでおり、簡単に部屋へ招待するという流れだ。

ちなみに言い出したのは、部屋主であるメアン本人だ。

 

 

 


「・・・そういやお前。」
「メアンで良いよー」
「あぁ、悪い。 メアン、メイド修行って言ってたが・・・ どんな事をするんだ?」

 

住居区へと繋がる廊下を歩きながら、彼は素朴に思っていた事を彼女に問いかけた。

 

 

元々彼の中には『メイド』という単語は無いに等しく、見た目は解るが大まかにどんな仕事をするのかを知らない。
その上奇想天外すぎる程に濃いキャラが出てきた事もあり、仕事内容がいささか気になるのだろう。

 

「んーっと~ 基本はご主人様である旦那様ーや奥様ーの、日々の多忙なスケジュールの合間の住居に対する仕事を賄うのが、アタシ達メイドー」
「元々は『使用人』と呼ばれています。 男性の方でしたら『執事』女性の方でしたら『メイド』と言う、新しい呼び方で呼ばれることが最近は多いんですよ。」

 

そんな彼からの問いかけに対し、メアンはいつも通りの調子で彼に説明をした。
説明に対する補足をアリンは付けたし、より分かりやすく理解出来る単語に置き換え再度説明した。
2人の話を聞き、ギラムは軽く頷き解釈を改めていた。

 

「ギラムさんの普段の暮らしを考えると、フィルがメアンさんの役目をおってる感じです。」
「フィルと似たような仕事をするのか・・・」

 

最終的な結論をウィンドべルが言うと、彼は納得したように言葉を漏らしつつ、肩に乗っていたフィルスターを見た。
だが、

 

 

 

「はあぁぁーーー・・・」

 

 

しかし今の彼は、そんな和やかなムードに馴染める体調では無かった様だ。
和解し新たに入ったメンバーを出迎えるのがベテランであり、なおかつサポートをするフィルスターには大事な仕事だ。
それがおろそかになる理由と言えば、カフェでのやり取りしかない。
マシナリーにあるまじき溜息ばかり付いている。

 

『・・・さっきから溜息ばっかだな。 そんなに嫌だったのか・・・?』

 

そんな彼の調子を見て、ギラムは横目で見ながらナーバスな彼をそっとしておいてあげる事にしたようだ。
軽く頭を撫でるも嬉しそうにしない彼を見て、無理にフォローを入れても逆効果になると察したのだろう。
心の中で軽く詫びつつも、彼は再び目線を前に戻した。

 

 


「ついたー はい、ココがアタシの自室兼修行の場所だよ~」

 

しばらくすると、彼女の自室がある一室の前へと到着した。
外見は何処も同じではあるものの、表札からわかるほどに何処となく違う雰囲気を醸し出している。

一般の傭兵達の表札は『看板』に近い物を使っており、人によっては壁際にネームを入れる形を採用している。
女性の傭兵はそれとは少し違い、可愛らしい物を使っていたり無難な物を使っている事が多い。
が、彼女はどれにも値していなかった。

 

「・・・」『ネオン・・・?』

 

彼女の扉の前に掛かれている表札、それは電気街で使われていそうな『ネオンボード』だったのだ。
常にフォトンを使っているのか煌びやかに発行しており、何処となく周囲が明るい。
室内灯とは違った色合いが、辺りを明るい雰囲気へと変えていた。

 

 

「ささ、入って入ってー お2人様ーごあんなーい!」

 

その後部屋のロックが解除され、おもてなしをするかのようにメアンは2人を部屋へと招き入れた。
声に軽く戸惑いつつも、ギラム達は彼女の部屋へと入った。

 

 

 

 


「うわっ・・・」
「まぁ・・・ 素敵な部屋ですね!」

 

室内は外のネオンボードに負けじと、どこもかしこも電光掲示板を使ったかのような壁を使っていた。
所々に設置されているルームスタンドには異国雰囲気を醸し出す造りをしており、ライトの外には鉄格子と思われる装飾が施されていた。
『黒』を基調としたその部屋は、客人を招くと言うよりは『ゲーム』をする場所と言った方が近いかもしれない。
それだけ、客人と話をする場所としては似つかわしくない部屋である。

とはいえ置かれている家具は日用品であり、ガラス張りのオシャレなテーブルに椅子が置かれていた。
こちらも英国風とは程遠い物ではあるが、彼女の正確にマッチするセンスであった。
所々に置かれている観葉植物は、そんなセンスの中修行する場としての意識を示しているかのようにも見えた。

 

「・・・なんか、凄い部屋だな・・・」
「本当~? アタシ、地味ったれた物ってあんまり好きじゃないからかなーこういう賑やかなのが好きなんだよね~ 楽しいのが一番!って感じー」
『見たまんまじゃねぇか・・・』

 

軽く部屋の雰囲気に圧倒されつつも、ギラムはとりあえずと感想を一言述べた。

 

 

それに対し彼女は嬉しそうに話だし、部屋の雰囲気は趣味のみで構成されている事を自慢げに話していた。
とはいえ、見たままであり丸出しの趣味に対する突っ込みは飛んでこないはずがない。

それを一番強く思っているのか、フィルスターは心の中で呆れながらも唸っていた。

 


優美さが無い

突如上司から強制的に入隊する報告を受けたギラム達は、メアンのマイルームへと通されテーブルと椅子の置かれた場所へと案内された。

 

そこにはすでにセッティングが整ったテーブルがあり、ナプキンとフォーク等の食器達が綺麗に並んでいた。
使う物全てが綺麗に磨かれており、おもてなしの準備が完璧に整えられている事が分かる光景であった。

そんなテーブルに足りない分の椅子が置かれると、メアンとラスベリーはギラム達に座れるよう行動していた。

 

 


「ではご主人様方、今夜のディナーはこのメアンがご用意致します。 少々お待ちくださいませ。」

 

4人を椅子に座らせると、メアンは丁寧な言葉使いで彼等に挨拶をし奥に特別に用意したキッチンへと向かって行った。
残されたギラム達は軽く唖然としつつも、言われた通りその場に座りやってくる料理を待つこととなった。

 

「・・・どーしてこうなったかな。 食事のもてなしを受けるとは、聞いていたが。」
「でも、少し懐かしい感じがします。 メアンさんも、一生懸命なんですよ。 きっと。」
「それもそうか。」

 

なんとなくぼやきながら彼は一言口にすると、アリンは少し楽しそうに感想を述べた。
その時間を彼女はそれなりに満喫している様子で、懐かしい感覚がすると良い笑顔を見せていた。
ナヴァルと居た時の笑顔であり、それを見たギラムは少し嬉しそうに相槌を打つのであった。

 


とはいえ、

 

 

「飯とか食える気分じゃねぇー・・・」

 

隣に居る隣人は、そんな笑顔すら気にしない様子であった。
パートナーマシナリー用の椅子に座るフィルスターにも食器の準備はされており、彼ら用の物も用意される雰囲気が漂っている。
が、そんな事では彼の気分は晴れない。

 

「フィル、いい加減気分を入れ替えろよ。 どの道ココでは入隊を阻害する手立てなんてないし、お前が情報工作した所でメアンが俺達のパーティに入った事実を変えるのは無理だぞ。」
「むぅー・・・」
「大体フィル、お前何がそんなに気に食わないんだ? アリンの時は一切否定なんかしないで、むしろこんなチームの結成を提案したくらいじゃないか。」
「そうですよ、フィル。 ラスベリーさん達の事、嫌いですか?」

 

そんな彼を見て、ギラムは仕方なく彼の苦悩する根本的な部分が何なのかを知ろうと質問した。
それに対し彼は回答を渋るも、ウィンドベルの質問もあり皆が心配してくれてる事を知り、表情を曇らせつつもゆっくり顔を上げた。

自分と共に居てくれる仲間が心配をしてくれる事はフィルスターからしたら初めての事であり、何より自分の主人が呆れている事も彼は解っていた。
それでは配属された身の彼からしたら苦痛であり、主人がこのままでは気分よく仕事をする事に支障が出てしまうかもしれない。

 

そう思い結審した様子で、フィルスターは言葉を口にした。

 

 

「・・・悪い。 俺は」

 

 

 

 

 

「ヘーイッ! ユー達、まずはウォーターをプールさせてもらうからなっ!」
「・・・ ・・・ナンデモナイデス、ゴメンナサイ。」

 


『アァー・・・』

 

が、呆気なくその言葉は打ち消されてしまった。


何かを言おうとしたフィルスターではあるが、珍しく機械的な発言をした後大人しく椅子に着席し一切口を開こうとしなかった。
それを見たギラム達は心の中で溜息をつきつつ、今のフィルスターの内心を思いそれ以上は言わないようにしようと心に決めるのであった。
そんな4人を尻目に、ラスベリーは慣れた手つきでアリンの前に置かれたグラスに水を注いでいくのであった。

 


理由を聞きそびれてしまったギラムは、仕方なく彼を部屋へと帰す事にし小声で部屋で適当な雑務をこなしてくるよう指示した。
それを聞いたフィルスターは一瞬驚いた表情をし、本当に良いのかと主人に質問を返した。
彼の心中を思い軽く頭を撫でながらギラムは再度言うと、フィルスターは思いっきり涙目になりつつも一生懸命に首を振り、そのまま部屋を後にして行くのであった。
そんな彼を見て、アリン達は苦笑しつつメアンの登場を待っていた。

 

フィルスターが部屋を後にしたのを見送ると、ギラムは静かに着席し注がれる水を見ていた。
水が注ぎ終えられると、ラスべリーはウォーターポットを持ったまま静かにギラム達に言った。

 

 

 

「ユー達。 1つだけ、ミーから事前にソーリーと言いたい。」
「えっ?」

 

不意な事だったため彼等は驚きながらラスベリーを見ると、彼は正直嬉しい報告ではない事を断りつつポットを持ち直し、こう言った。

 

 

「どうか、腹をポイズンにしないで欲しい。 後で口直しをスポンサーするから。」
「・・・」

 

その言葉を聞いた皆は、どんな料理が提供されるのだろうか。
一瞬解らなくなる発言を聞き、皆の思考が一時的に停止しそうになった、その直後。

 

 


「おっまたせしました~♪」
「・・・ !?」

 

ラスベリーの後にやって来たメアンによって運ばれてきたワゴンに乗っていた料理を見て、ギラム達は表情を変え絶句した。
彼女の運んできた料理は、前菜を初めとしたフルコースの料理には変わりはなかった。
しかし、料理の色が料理とは思えない妙な色をしていたのだった。

 

前菜は青く、肉料理と思われるメインディッシュは赤く爛れていたのだから・・・

 

 


脅威しか無い

「皆お腹空いたでしょー? アタシのおごりって言うか、研修に付き合わせちゃってるからじゃんじゃん食べちゃっていいからねー♪」
「・・・」


不意に食事会となったギラム達は、メアンの持ってきた料理を見て唖然としながら切り分けられる肉料理と思われる代物を見ていた。

 

前菜として持ってきたサラダは別の意味で『青々』とした『青色』のサラダであり、とても緑黄色野菜の色とは思えない色を放っていた。
その後テーブルに並べられるであろう肉料理は逆に『赤色』をしており、何をかけたのか肉の表面である皮が爛れていた。
普通ならば綺麗な色合いがマッチして美味しく見えるのが普通なのだが、これでは魔女の料理である。

 


 このメイドは何者なのだろう・・

 

 

と、その場にいた皆が思っているであろう言葉をあえて文章で書いてみる。

 

「・・・一応聞いておくが、メアン。 今日のメニューは。」
「ぁ、まだ言ってなかったねー 今日のは『青野菜のシンプルサラダ』と『カリカリチキンにレッドペーストを添えて』だよー」
「そ、そうなのか・・・」

 

いたって料理名は普通なのが、また不思議に思える点であろう。
とはいえその料理をイメージさせる『色』そのものが現物に入る事は、基本無い。
何をどう調理したらその色が出てくるのか、とても奇妙だ。

 

 

「後失礼ついでに聞くが・・・ 食えるんだよな? コレ。」
「えっ? 何言ってるのギラムー コレね、普段アタシが作ってる料理でも上出来な分類なんだよー? 失礼しちゃうなっ」
「それは、悪かった・・・ ・・・」

 

だが本人いわく『食える』らしい。
いわゆる見かけ騙しの分類に入るのかもしれないのだが、初見で何も言われずにいたのであれば『毒』としか思えない。
状態異常が任務以外で付いてはしゃれにならないであろう。

とはいえ雑談をしている間も彼女の手は休まる事無く切り分けられ、丁寧に盛り付けされた肉料理も彼等の前へと並んだ。

地味にギラムの分だけ肉が多いのは、彼女の配慮の様だ。

『いっぱい食べてねっ♪』とのことだが、とてもいい迷惑である。

 

その後迷っているアリン達を見て覚悟を決めたのか、ギラムは静かに合掌した後前菜を取り口に運んだ。
口の中に広がるであろう未知の味に耐えようと心構えしていた、その直後に出た感想は

 

 

「・・・ ・・・あれ、普通に食える。」

 

 

いたって普通であった。
とても吐き気のする色合いをしているのに対し、野菜はとてもシンプルな物であった。
どうやらかかっているドレッシングは彼女が手がけた物では無く、相方のラスベリーお手製だそうだ。
これぞ『見かけ騙し』であろう。

 

「だから言ったじゃーんっ ギラムのアホウっ」
「はいはい。 ・・・」 『調子狂うな・・・』

 

そんな彼の毒見も済み、アリンは心なしか苦笑しながらサラダを口に運んでいた。
食材の色合いとしてタブーに入る『青色』が美味しいとなると、隣の肉料理はどんな味がするのだろうか。
軽く別の興味本位が沸いた様子で、ギラムは手にしていたフォークを別の物に変えて口に運んだ。
しかし

 

 

 

 

「・・・!! マァアアッズッ!!! ゲッホゲホッ!!」

 

 

こちらも一筋縄ではいかない味わいであった。
最初のは罠だったかのような味付けであり、こちらの料理は味覚を崩壊させるほどの劇的な代物。
どんな味かは、ご想像にお任せします。


「ギ、ギラムさん!?」
「ミスター!! アーユーオケー!?」

 

そんな彼の感想とむせ具合を見て、アリン達は慌てて彼の元に水を運んだ。


彼女達のグラスを片っ端から彼は手にし口に入れ、食物だが食物ではない代物をさっさと胃の中へと運んでしまった。
むしろ出した方が良かった気もするが、その辺はパニックに至った彼の思考回路で唯一正常に働いていた所かもしれない。
いわゆる『一旦入れたら食べましょう』という流れだ。

 

「あれぇー? おっかしいなー、ちゃんと分量図ったのに・・・」

 

 

 

「感想はそこかぁあっ!!!」
「ギラムさん、気を確かに・・・!」

 

とはいえ、身体が丈夫な種族は伊達に腹は下さない様だ。
彼女の場違いな感想に激怒しつつ手にしていたグラスを置き、軽く怒る始末である。
無理もない、下手したら住む世界が変わる味付けであったのだから。

 

「マズイー?」
「マズイ。」

 

 

「むぅー・・・ じゃあ今度は、美味しく作るね♪ 今回のは残しても良いから、無理しないでねー」

「ぁ、おいっ!」

 

完全に本心である感想を2品の料理に言うと、メアンは軽く落ち込んだと思った途端。
何を思ったのかそう言い笑顔で謝罪と思われる言葉を口にした後、裏へと戻って行ってしまった。
後始末は、今はしないらしい。

 

 


「・・・何なんだ一体・・・」
「ギラムさん、大丈夫ですか・・・?」

 

そんなメイドに呆れていると、ギラムのそばへとやって来たアリンは身体を気遣った言葉をかけた。
彼女の心配そうな顔を見た彼はいつも通りの笑顔を見せ、平気だと良い再び水を飲んでいた。

 

「これくらいなら何とかな。 大丈夫さ、昔から野草ばっか食ってたから腹は丈夫だ。」
「無理はなさらないで下さいね。 ・・・私も、あまり味付けは好みでは無かったです。」
「使われている物は全て自然物でしたが、化学反応が測定出来ないほどに起きているみたいです。」

 

 

「ユー達は優しいな。」

 

そんな3人のやり取りを見て、ラスベリーはギラム達に感想を述べた。
彼の言葉を聞いた3人は少し驚きながら彼を見ると、1人残された食材を処分しつつ口を動かしていた。

 

「素直に言うと、マスターはメイドに向いていない。 調理は愚か、掃除も後片付けも本人は丁寧と言うが・・・ これではなかなかな。」
「ラスベリーさん・・・」

 

向いていない仕事を何故やろうとしているのかは解らないが、それでも彼女は続け上達する事を願っていた。
だが現に彼女の『嗜み』は一般常識とは外れた行いばかりであり、料理のセンスは度を越えた低ランクだ。
相方の腕前はプロであっても、これでは上達の道筋は見えはしない。

 

「ユーが初めてだ、マスターの料理を旨いと言ったのは。 ありがとう、嘘ではない言葉はハッピーに値する。」
「ぇっ、そうなのか?」


しかし今日の食事会では嬉しい感想を貰えたこともあり、相方にとっても良い時間だったと言っていた。

 

 

感想を述べられたギラムにとっても解ってはいたが意外な返答であり、そう言ってくれる相手にも今まで出会えなかったそうだ。

ゆえに彼女は落ち込む事はとうに捨て、常に前を見て進んでいる。

彼からの話を聞いて、3人は困惑しながらも彼の片づける料理の光景を見ていた。
すると、

 


「ラスベリー、だったか。」
「イエス。 なんだねミスター?」

 

不意にギラムは彼の作業を止める様に名前を呼び、テーブルに近づきながら片づけようとしていた前菜のボールを軽く手にした。
それを見た彼は不思議そうに顔を上げ、彼を見た。

 

「前菜、持って帰っても良いか。 普通に美味かったし、まだ食えるならフィルにも食わせてやりたいからさ。」
「・・・分かった。 パックに詰めよう。」
「ありがとな。」

 

とても意外な感想を述べた、彼の最大の配慮だった。

 



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