目次
1.南米に生息する不思議なナメクジ
2.牙をむくヤツら!
3.女房
4.ポチの絵
5.汝のパンを水の上に投げよ
6.廃ビルの夜の結婚式
7.「スミレの栞」レクイエム編
8.電話の声
9.デザイアー
10.魔法のティーカップセット
11.ベコニアの花言葉
12.あたしの慎吾さん
13.蛍─浴衣の女
14.過去からの来客
15.足首
16.フェイク
17.月明かりの教室
18.戦うマシン
19.二心同体
20.シャル・ウィー・稲刈り?
21.テディーベアの面接官
22.落葉のジュウタン
23.ど根性スミレ
24.約束の時が来て
25.スイカドロボウの夜
26.たった一つのラヴストーリー
27.大きなスーツケースを押す少女は?
28.サイボーグ少女
29.水晶球の光の中に!?
30.人魚姫の島
31.黒い花
32.ある結婚サギ師の涙
33.遠いキミの星
34.瞳の色は深い海の色
35.龍の目ン玉
36.花嫁のブーケ
37.色のない世界
38.麗さん―神に身を献げた女
39.ずっと好きだった
40.爆走!─キミはハーレーにまたがって!
41.つねって確認
42.巨大スクラップ
43.望郷
44.記憶を捨てた天使
45.恋のジンクス
46.福をまねく猫?
47.白い犬
48.人外境
49.沈丁花の香り
50.桜吹雪の似合う女
51.オカルト調査会社
52.水辺の美女
53.非情な指令…死神の涙
54.夏の日の記憶
55.朝顔─お花のおじいちゃん
56.干物─河童伝説の寺
57.ゆびきり
58.小さなこだわり
59.サッカーボール
60.おかえり
61.呼ぶ声
62.親の遺産?!
63.拾った金の指輪
64.散歩が好き?!
65.白い石膏像の見える窓辺
66.薄幸な女の絵?!
67.雨の夜の来訪者
68.白い鳥
69.老朽ロボ
70.死神研修生─少女が大人になる日まで
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1.南米に生息する不思議なナメクジ

刑事さん。南米のジャングルにはね、不思議ナメクジがいるって、知ってらっしゃる

 

 オレの目の前にいるのは、「天才的女泥棒」とまで言われる、宝石泥棒で有名な

 が、このビル最上階の宝石店に展示されていた五十カラットのダイヤナイルの女王」を狙っていることは知っていた。

 その「ナイルの女王」を、は今、手にしている。

 我々警察は、情報を元に厳重な警備を敷いていたが、にまんまと裏をかかれ、ダイヤを奪われてしまった。

 だが、今、オレたちは、をこのビルの屋上に追いつめている。の逃げる場所はない。

 

知らん! そうやって逃げる時間を稼ぐつもりか知らんが、もう袋のネズミだ! おとなしく逮捕されろ

フフフ、聞いて。 その不思議ナメクジはね、九九%水分なの」

「それがなんだ?!

「そのナメクジは、自分の体蒸発させて、木の枝から、別の木の枝へと空中移動するのよ」

なっ?!

 オレ自分の目を疑った。しゃべっている上半身が、から霧のようになって消え始めている。

 

こんな風に…」

 目の前で、女の体は、着ている物も一緒に、「す~~っ」と消えていく。まさにそのナメクジ蒸発していくかのように。

 

 道路隔てた向かい側に、このビルと同じような高さのビルがあった。

 消えかかっていが、手で指し示すの、そのビル屋上に目をやると、なんと! 女姿がある。

 こちら側姿薄れ、逆に、小さく向かいに見えているは、次第に輪郭ハッキリしてくる。

 

クソッ! やられた!

 向かい屋上が「ニヤッ」と笑っているのが分かる。を振ってオレたちあざ笑っている。

 目の前にいたはずのはもうここにいない。蒸発させ、こちらから向こうへと、空中移動した女は、

 ひるがえし向こうビル屋上ドアへと姿消してしまった。

 

追え! 追え!

 オレたち全員、その屋上あとにして、向かいビル殺到したが、大勢の客に紛れたを、ついに逮捕することは出来なかった

 

 

 不思議ナメクジが、南米のジャングルに生息していると、オレずーっと信じていた。

 あとになって、双子の妹がいたことを知るまで。

 そしてが、過去売れないマジシャンだったってことを知るまで……。

 

     〈ion─ドキ出来ショート(683)〉

 


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2.牙をむくヤツら!

 このところシトシト長雨が続いていた。

 その日、美弥は久しぶりの晴れ間となった休日赤い愛車に出掛けた。

 

 ショッピングを楽しみ、すっかり遅くなっての帰りは思わぬ事故渋滞にハマってしまった。

 辺りは闇が迫っている。の列は少しも動かない。

 美弥は、朝来たとは違う海岸沿いの道迂回することにした。

 

 意外にも選んだ道ガラガラに空いていた。だが、それもつかの間。

 しばらく行くと前方に、進入禁止トラ柵黄色いランプ点滅するのが見えた。

しまった」と思った。

 けれども、近づいてみると道の端に寄せられ、車一台分すき間が開いている。

 どうやら通行止め解除されたらしいと勝手解釈し、彼女侵入することにした。

 

 片側にを削った急斜面がそそり立つ海岸沿いは、最近舗装し直されたばかりで、走行快適だった。

 スピード控え目に、ためらいつつ進んだが、どこにも工事らしき箇所はない。

 

 だが、前方ハザードランプ点滅させて停止しているワゴン車見えた時、に言いようのない不安が湧いた。

 赤くブレーキランプ灯したまま、道の端寄せているに、警戒心から美弥は少し手前ブレーキを踏んだ。

 

 愛車を左に寄せて停めると、そのワゴン車からドアを開けて男たち降りるのが見えた。

 街路灯明るさで、離れていても彼らハッキリと分かる。アラブ系外国人のようだ。

 ジーンズ黒革ジャンパーという服装の若い男ばかり三人バツ字交差させ美弥駆け寄って来る。

 近頃、外国人若者による暴行事件ニュースになっている。ハンドル握る手がにじんだ。

 女一人で、渋滞避けてとは言え、こんな淋しい道選んだことを悔んだ

 

 男たち大声怒鳴り運転席側を荒っぽく叩いた

 一人は分からない外国語で、他の一人日本語にも聞こえるが、分からない言葉わめいている。

 怖ろしくなり発進させようとするを、残り一人両手拡げて立って、塞いだ

 

 男たちは更に激しく叩き、「開けろ!」という仕草威嚇する。

 恐怖パニックになった抱えをよじって伏せた時だ。

ガスッガスッ!」という怖ろしい響いた

 見ると、一人が拳よりも大きな石ガラス窓叩き割ろうとしている。

 

キャーッ!

 思わず美弥悲鳴上げたのと同時に、砕けたガラス飛び散った

 男の手が伸び、ドアロック外されドア大きく開かれた

 男たちが、叫んで逃れようとする美弥捕らえから引きずり降ろす

イヤーッ! やめてーっ!

 叫んで必死抗ったが、一人に、美弥華奢な体やすやす抱え上げられてしまった。

 は、そのまま美弥抱きかかえて走り、少し離れた側道草むら無造作降ろした

 

 叫ぼうにも震えて出ない

 恐怖こわばらせ立ちはだかる男たち絶望見上げた時だった。

ズズズズーーーーーンンンンン!

 不気味地鳴りがした。

グォロゴロゴロゴロロロォォーーンッ!

 崩れる音同時に、山側斜面大きくうねり地響き立てていくつもの黒い塊落ちて来た

 

 男たち向こう側

 美弥に、落下してきた巨岩に、彼女赤い車無惨押しつぶされたのが映った

 

    〈ion─ドキ出来ショート(815)〉 


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3.女房

「どうしてうちの人さそう

 ヤツ女房から、そう言われた。

 次の仕事誘いに、ヤツのところへ仲間訪ねて行っただ。ヤツ外した合間のことだった。

 

「わりいな。けど、ヤツ今度仕事にどうしても欠かせねえんだ」

「もうやめて。うちの人には洗わせて…。いつか捕まるんじゃないかって、心配心配で…」

「そいつはできねえ…」

子供がいるんです…」

 自分をそっと押さえた。

 

 

なに話してたんでえ

 いつの間にかヤツ戻ってきていた。

 

「あ、たいしたことじゃないの…」

イヤオメエドジだって話してたとこだ」

 オレを見る。本心からてめえダンナ案じているだ。

 

オレドジだぁ

あんたちがうの

おめえ黙って! アニキ! オレがいつドジ踏んだっていうんだ?!

 

オレたち仕事に、もうオメエジャマなんだよ」

オレジャマ?!

今度ヤマ失敗許されねえ。捕まったらしめえだ」

だからこそ、オレ必要なんとちがうんか?!

オメエ仲間引っ張るだけだ」

冗談じゃねえぜ! オレハバにしようってえのか?!

 

「もう、オメエいらねえ。今日はそれ言いに来た。洗え

アニキ!

あばよ!

 

 ヤツ後ろで、にじませ合わせていた。

 

 

 ヤツ抜けたのは痛手だった。

 オレたちは仕方なく、若いチンピラを引き込んで仕事決行した。

 だが、この若いのがとんでもねえ誤算だった。

 けたたましくベル鳴りパトカー駆けつけオレたち警官囲まれた

 

 

「すいませんでした、すいませんでした…」

 ヤツ女房ブタ箱オレ面会に来てくれ、何度も何度もさげた

 そして、ヤツが、堅気着くこと出来た話してくれた。 涙流していた。

 

うらやましい…」

えっ?

「イヤ、元気ヤヤ子でかせよって、言ったんだ。ヤツためにな」

 

 オレ心ン中つぶやいたんだ。「いい女房持ったよ、オメエは…」

 

     〈ion─ドキ出来ショート(689)〉

 


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4.ポチの絵

 売れない画家がいた。

 自分才能限界を感じていた。

 

 ある時冗談で、飼っていたポチしっぽ絵の具を付け、描かせてみた。

 しっぽカンバスの上を縦横に走り、なかなか出来上がった

 画商は、「すばらしい絵だ!」と、その絵高値買い取ってくれた。

 

 味をしめて、次々にポチ描かせた

 次々売れ画家はいっぺんに広まった。

「ネオ・シュール・レアリズムの旗手」

 と、は、惜しみない賛辞を受け、作品展黒山人だかりとなった。

 

 には、自分サインがある。

 だが、賛辞ポチへのものだ。

 

 画家ポチ嫉妬した。

 自分芸術家のはしくれ。

 嫉妬心は高じ、ポチつらくあたるようになった。

 画家いじめで、ポチ衰弱していった。

 だが、しっぽ絵の具を付けると、忠実ポチ描き続けた

 

 やがてポチ死んだ

 そして、作品出せなくなった画家瞬く間廃れ忘れられていった。

 

 * * * *

 

ママこの絵買って。」

 母親引かれた少女が、路上売る画家で、を挙げた。

 少女は、画家から、嬉しそうに、受け取った

 

 落ちぶれ果てた、売れない画家の、たった一枚売れた自分の絵

 丹精込めて描いた生前の「ポチの絵だった

 

 〈ion─ドキ出来ショート(5)〉

 


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5.汝のパンを水の上に投げよ

 ――汝のパンを水の上に投げよ。

   後の日に、汝はそれを見出すであろう。――

 

 

 ある暑い夏夕方

 田舎国道一人走らせていた。

 家に帰っても待っている人がいる訳でもない。夕飯はどうせ、カップラーメンにお湯を注ぐだけだ。

 

トウモロコシ一本百円

 見ると、男の目に、前方道ばた農家無人野菜を売っている直売所看板が映った。

トウモロコシ茹でたヤツかぶりつきたい

 

 だが停め、降りて覗くと、棚の上には貧弱トウモロコシひとつ残っているだけ。

 ガッカリはしたが、は、その貧弱トウモロコシ手にし、ポケット小銭入れを取り出した。

 見るとに、折り畳んだ五千円札一枚あるだけ、小銭ない

 棚の上料金箱空っぽで、お釣りももらえそうもない。

 五千円札を広げ、風で飛ばないようにと小石を乗せて入れた

 

 

 ほどなくして、その同じ道を、自転車日本列島踏破目指す若者が通った。

 若者は前の晩泊まった安宿で、サイフをなくして文無しになっていた。

 今夜泊まる所もないが、何より今、腹ペコで死にそう。

 見ると、道ばた無人野菜直売所がある。

 自転車を止めて覗くと、料金箱の小石の下に五千円札があった。

 天の助けだ。これで今夜にありつける。そう思い、若者五千円ポケットにねじ込んだ。

 

 若者は、今夜目的地に着き、昨夜宿問い合わせ電話を入れた。

 返事は朗報だった。サイフ見つかったという。

 明日朝一番で、自転車を走らせて取り戻ろう

 とって返す道で、あの直売所五千円返そう思った

 

 

 その夜泊まった宿自殺騒ぎがあった。

 の部屋近く非常口ドアが開いていて、階段手すり乗り越えようとする姿が見える。

 若者駆け寄り、「離して! 死なせて!」と叫ぶ女押さえ大声呼んだ

 幸い、すぐ、数人駆けつけなだめ説得して思い留まらせることはできた。

 

 警察沙汰にはしないでという女の願いは聞き入れたが、いつまた実行に移すか分からない。

 若者自分から買って出て、一晩中女のそばについていた。

 は、に、自分日本列島踏破目指し自転車をしていることを話した

 両親離婚し自分育ててくれた過労死んだ、その悲しみから逃れる旅であることも話した。

 

 

 は、同棲していたが、自分別れ別の女結婚すると知って人生絶望していた。

 だが、若者聞く内に、思い直し、ついには再出発決意した。

 田舎帰って一から人生やり直そう思った

 

 

 遠い田舎で、都会に出たきり帰ってこない心配する両親に、電話があった。帰ってくるという。

 しばらく手伝いをして過ごすことになるがいいか、と聞く娘両親は、喜んで待っているから、と応えた。

 飛び出したきりになっていたが、どんな事情があったか知らないが、我が家帰ってくる。

 浮き立つ気持ちを、母親地方紙投書欄に「子を思う母の気持ち」と題して投稿した。

 

 

 長年、そりの合わない母親との諍い絶えなかった娘がいた。

 は、地方紙投書欄載った子を思う母の気持ち」を読んだ

 最近、自分生き方反省させられる小さな出来事があった。

 自分教師をしている小学校クラスで、母親事故なくした生徒作文書いた

「もっとお母さんいうこと聞いておけば良かった

 読んで涙があふれたそんな時また、新聞の「子を思う母の気持ち」の投書を読んだ。

 は、母の言葉素直聞こう思った

 

 好きな男がいなかった訳ではない。だが、この人となら思える相手いなかった

 母親が勧める縁談を、真剣気持ち考えてみようと思った

 母親が、口うるさく言うのは、自分将来一生懸命考えてくれるからだ。

 結婚しても、今の仕事続けられる。そう思った。

 女教師の勧める男性見合いをし、まもなく結婚した。小学校教師止めず続けた

 

 

 この女教師と、とても仲の良い同僚の友人がいた。

 彼女は、仕事を取るか結婚を取るか悩んでいた。最近好意を感じていた男性からプロポーズを受けた。

 仕事にはやりがいを感じている。

 しばらく結婚した仲の良い同僚は、結婚後仕事続けている。その同僚相談した。

 同僚は、「仕事続けられるぜひプロポーズ受けるべきよ」と、励ましてくれた。

 

 

 暑い夏夕方田舎国道一人走らせていた。

 は、気持ち浮き立っていた。

 には温かいご飯用意して待っていてくれる人がいる。

 

 半年前好きだった女性自分の気持ちをうち明けた。

 小学校教師をしている彼女は、結婚しても教師仕事続けられるか、迷いがあったという。

 だが、同じ教師をしている同僚の女性から、心配いらない教えられたという。

 その同僚助言もあって、彼女素直に、プロポーズ受け入れてくれた。

 

 前方見ると、無人野菜直売所がある。

トウモロコシ一本百円

 その看板を見ては、数年前、同じこの道走ったことがあるのを思い出した

 

トウモロコシか。茹でてもらってかぶりつくか」

 そう思って、は、直売所停めた

 

     〈ion─ドキ出来ショート(652)〉 



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