閉じる


<<最初から読む

13 / 13ページ

隼人「嘘だろ…だってあいつ仙台帰る時一言もそんなこと・・」 

誠二「子どもをダシにしておまえを引き止めるようなことしたくなかったんじゃないのか。あの子、そういうとこあるだろ」 

隼人「みゆき・・」 

誠二「せめておまえに黙ってたみゆきちゃんのそういう気持ち、わかってやれよ。」

 隼人「…」 

誠二「俺、正宗ぬけるわ。もうおまえにはついていけない」 

 

   誠二が出ていき、ドアの閉まる音 

 

隼人「みゆき・・ごめん、俺・・ごめんな」 

 

   川の流れる音 

 

隼人「ここに来ると高校生の頃を思い出すな」 

みゆき「よく授業サボって二人できたよね」 

隼人「そうだな。もうずいぶん昔のような気 がするよ」 

みゆき「だってもう昔だもん」 

 

   小石が川に沈む音 

 

隼人「みゆき」 

みゆき「ん」 

隼人「悪かった」 

みゆき「隼人」 

隼人「俺、自分のことしか考えてなかった。おまえのこと考えてやれる余裕がなかった。ほんとに自分勝手だった」 

みゆき「謝るなんて隼人らしくないよ」 

隼人「ほんというと俺こわかったんだ。おまえがそばで支えてくれればくれるほどこわかった。このままはいあがれなくなるような気がして。でも誠二に言われてわかった。俺は結局みゆきに甘えてたんだ。男だったら全部引き受けて歩いていかなきゃきゃい けないんだよな」 

みゆき「隼人」 

隼人「仕事が残ってるからどうしても今夜中に東京に戻らなきゃなんないけど、またすぐ迎えに来る。そしてもう一度俺とおまえとお腹の中の子どもと3人で暮らそう」

 みゆき「え…」 

隼人「絶対に迎えに来るから」 

みゆき「ほんと?信じていい?」 

隼人「うん。みゆき。今度こそ幸せにする」 

みゆき「隼人・・」

 

みゆき(M)「広瀬川は抱き合う私達のそばでいつもと変わらずに、流れていた。遠い海を目指して、ただひたむきに流れていた」 

 

   高速道路の音

 

   車が急ブレ-キをかける音

 

   ガシャ-ンと激しく車のぶつかる音 

 

みゆき(M)「東京に向かう途中で隼人の乗 った車が事故にあったという知らせを受けたのはそれから2時間後だった。まだ私の肩に腕に髪に隼人のぬくもりが残ってい 

 た」 

 

   雨の音

 

   お経を読み上げる声 

 

誠二「みゆきちゃん、これあいつの部屋にあったテ-プ。たぶんみゆきちゃんのために作った曲だと思う」 

みゆき「隼人が私のために?」 

誠二「あいつが生きていたらみゆきちゃんに真っ先に聞いてほしかったんじゃないか

  な」 

 

   音楽(隼人が歌っている)

 

みゆき(M)「テ-プからは隼人の歌声が流れてきた。もう隼人の身体はこの世のどこにもいなくなってしまったのにこの中には隼人が生きている。私は隼人が死んでから初めて声を上げて泣いた」

 

みゆき「(泣く声)」

 

みゆき(M)「皮肉なことに『政宗』は隼人が死んだ後、再び人気を盛り返した。隼人の残した曲はメモリアルソングとして若者の間で話題に上りたちまちヒットチャ-トをのぼりつめた。それから1ヶ月後、残されたメンバ-たちは突然『政宗』の解散を

  ファンに告げ、芸能界から静かに消えていった」 

 

   広瀬川。ブラスバンドの音楽と人々が行き交う声。 

 

誠二「ここは変わらねえな。俺たちはずいぶん変わったのに。広瀬川だけはあの頃のままだ」

みゆき「他のみんなは元気なの?もう何年も会ってないけど」

誠二「春樹はあのまま東京に残ってサラリ-マンやってるし、俊彦は結婚してこっち

 にいる。確か嫁さんの実家の会社を手伝ってるはずだよ」

みゆき「誠二くんは?」

誠二「俺?家業ついで和菓子屋の若旦那」

みゆき「誠二くんちのお菓子おいしかったもんね。あの頃良く食べた」

誠二「結局隼人だけが今でも21のままか。何もかもが夢だったのかもしれないな」 

 

みゆき(M)「私は息子の圭太と一緒に灯篭をそっと水辺に置いた。オレンジ色の光が川に溶け合うようにゆっくりと流れに沿って滑り出した」 

 

圭太「ねえ、お母ちゃん。これってどこまで流れて行くの?」

みゆき「お父さんのいるところまでよ」

圭太「ふうん」 

 

みゆき(M)「灯篭は何度か草むらに姿を隠しながらやがて見えなくなった。圭太の肩 を抱きながら『隼人に帰って来て欲しい』 私は痛切にそう思った。できるなら私も強くなりたい。どんな時でも淡々と流れ続けるこの広瀬川のように。10年の時が流れ、今ようやくすべてのシ-ンが想い出という名に形を変えて私の中を通り過ぎていっ た」 

 

   音楽 


この本の内容は以上です。


読者登録

雪姫さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について