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文化三年 四月

「馬鹿だねえ、おまいさん。お稲荷さまが、あんな小娘なわきゃあないよ」

 けらけらと、おつたさんが笑った。

 おつたさんは、御用聞きの万蔵親分の、おかみさんだよ。

 万蔵親分は、小柄でずんぐりとした体つきだけれど、おつたさんはゆったりとした

大柄で、縦にも横にも大きいから、蚤の夫婦と呼ばれている。

 万蔵親分としちゃ、大いに心外らしいけれどね。

 

 長屋の普請が成った、祝いの酒盛りだった。

 安普請の裏長屋なんかは、あっという間に建つ。

 ……壊すのも、燃えるのも、あっという間だけれどね。

 それはともかく、誰一人欠けることなく、もとの長屋に戻ってこられたのは、めで

たいことさ。

 家守の喜兵衛さんだけじゃなく、地主の両国屋さんからも気前良く金が出たから、

みんなほくほくだった。

 この金で、何日食い繋げられるだろうか、てなことばかり考えてちゃいけない。

 人間は、飢えずにおまんまが食べられさえすりゃあそれでいいってわけじゃ、ない

んだよ。

 万蔵親分は、この長屋に住んでいるわけじゃないけれど、こんな時には首を突っ込

まない訳が無い。

 それでも感心に、ご祝儀代わりに一升下げてきた。

 威張り散らしてただ酒にありつこうなんて、ケチな真似はしない。

 えらいものだ。いい親分さんだよ。

 

「なになに? お稲荷さんが、どうしたのさ?」

 あたしも、話に割って入った。

「あっ、いや、何でもねえんだ、おあいちゃん」

 泡を食ったような顔をして、万蔵親分と長次が、声を揃える。

「あたしがね、本物のお稲荷さまに会ったことがあるって話をしていたんだよ」

 おつたさんが、胸を張った。

 おつたさんの、稲荷信心は、ここらじゃ有名だった。

 長屋の祠に毎日供え物をして手を合わせるのはもちろんのこと、行く先々で稲荷が

あると、必ず頭を下げて通る。

 江戸には、お稲荷さんが滅法多いのだよ。

 だから、始終ぺこぺこしながら歩かなきゃならない。

 しかも、お供え物には一言あって、

「生の油揚げなんかじゃ、駄目だ」

 と、必ず稲荷寿司と、それにお酒をつけて供える。

 おつたさんは、稲荷の狐は大変な酒好きだと、信じて疑わないのだ。

 

「あれはね、あたしがまだほんの十二の小娘だった時分のことさ」

「へへぇ、おつたさんにも、そんな時分がありやしたかい」

 長次が混ぜっ返して、たちまち、おつたさんはもとより、万蔵親分にまで睨まれて

いた。

「その頃あたしは深川の、木場の丸木屋っていう、わりと大きな材木屋で、子守奉公

をしていてね、ふうちゃんだの、おふうだのって、呼ばれてた」

「――え?」

 先生が、ふと杯を止めた。

「ひい、ふう、みい、のふうだよ。二番目の小女ってことさね。小僧や小女のうちは、

使い物にならないと分かるとすぐに帰されてしまうから、出代わりが激しくて、いち

いち名前なんぞ覚えていられないってんで、そうした勝手な名前をつけられるのさ。

ちゃんと取り立てられて、初めてほんとの名前で呼んでもらえる」

「なるほどな――」


天明三年 夏の或る日――

~おつたによって語られた話~

 

 万太郎坊っちゃんは、癇の強い子で、昼も夜も泣いてばかりいる。

 とても、お乳母さんの身が持たないっていうんで、あたしにお鉢が回ってきて、昼

間の係になったのさ。

 お店の者はみんな、もういい加減泣き声にはうんざりしている。

 外に出たって、一つ所に留まっていると、うるさいと叱られたり、そうでなくても、

また下手な子守が赤子を泣かせているっていう目で見られるから、肩身が狭い。

 毎日毎日、うろうろとあてども無く歩き回って、これじゃあ、あたしの身が持たな

いよ。

 そこへ、追い打ちをかけるように夕立がざあっと来て、よく行く近くの稲荷へ駆け

込んだ。坊っちゃんを濡らすわけにはいかないからね。

 わずか二間四方くらいの小さなお社だけど、雨宿りするには丁度良かった。

 だけど、思わずはっと足を止めたのは、先客がいたからだ。

 社の端っこに、ちょこんと座っている。

 お侍だ。

 それも、どう見たって、まっとうなのじゃ無い。

 髪はぼさぼさで、ほとんど蓬髪と言って良かった。

 よれよれの単衣を着流しにして、膝に鞘のはげちょろけた刀を抱いている。

 怖い、とは思ったけれど、とにかく坊っちゃんを雨に濡らして風邪でも引かせちゃ、

ことだ。お店にいられなくなってしまうかも知れない、その方が何倍も怖かったから、

お侍とはなるたけ離れた反対側の端っこへ這い上がって、坊っちゃんを下ろし、手ぬ

ぐいを出して濡れた頭や着物を拭いた。

 折良く坊っちゃんが眠っているのは、幸いだった。

 目を合わさないように、ちらりちらりと盗み見る。

 お侍は、あたしになんか気付いてもいない風情で、ぼんやりと宙に目を彷徨わせな

がら、竹筒に入った酒らしき物を時々、ちびりちびりと飲んでは、うっすらと笑って

いた。

 酒飲みは、嫌いさ。

 おとっつぁんが、酒飲みだったからね。

 酒飲みに、ろくな人間なんか、いやしない。

 だけど――そのお侍はどこか、雨に濡れそぼった仔犬みたいに見えた。

 どうしてそう思ったのか、よく分からない。

 お侍は、こっちを見もしないで、不意にぽつりと、

「雨、止まねえなぁ――」

 と、言った。

 あたしに言ったのか、独り言だったのか、分からないけど、あたしはつい、釣られ

るように、

「うん」

 返事をしちまった。

 

 ほんの夕立だと思っていたのに、雨は本当に止まない。

 だんだん薄暗くなってくるような気がして、あたしは不安になった。

 このまま、夜まで止まなかったら、どうしよう。

 今のうちに、走って帰るべきだろうか――

 そのうち坊っちゃんが目を覚ましてぐずりだし、とうとう泣き出した。

 こうなったら、あやしてもすかしても、滅多な事じゃ泣きやまない。

 どうしよう。

 うるさいって、怒りだしたら、どうしよう。

 あんな刀、どうせ竹光か、そうでなくったって、なまくらの赤鰯に決まってる。

 でも、どうしよう――

 ちらりと盗み見ると、お侍は気にしたふうでもなく、ぼんやりと空を眺めている。

 それでちょっとは安心したけれど、雨はどんどん強くなるし、坊っちゃんの泣き声

もどんどん高くなる。あたしも、泣きたくなった。

 ――ふわっと。

 坊っちゃんが取り上げられて、あたしは悲鳴を上げた。

 坊っちゃんに、何かされると、思ったからだよ。

 いつ動いたのか、二間の距離をまるで飛んできたように、そのお侍がすぐ隣に座っ

て、坊っちゃんを抱いていた。

 坊っちゃんは、嘘みたいに、泣きやんだ。

「なん…で……」

「昔々に、子守をしていたことがあって――」

 あたしがびっくりしたのは、必ずしもそこじゃないけど。

 それにしても、一体、お侍さまも、子守なんてするものかね?

 お侍は、あたしの頭をぽんぽん、となでた。

 子ども扱いにされるのは、面白くない。

「泣かしちゃならねえと、かりかりしてちゃあ、いけねえよ。赤ん坊が泣くにゃあ、

それなりの訳があるもんだ。訳もなく泣いてるように思える時はたいがい、周りの者

の気持ちが――」

 声が、不意に途絶えて……

「おふうちゃん」

 お乳母さんが、傘を持って立っていた。

「良かった。雨に降り込められて、往生したろうね」

 迎えに来てくれたのは、もちろんあたしじゃ無く、坊っちゃんの心配をしたからだ

けど、それでも助かった。有り難かった。

 それにね、お乳母さんは、ちょっとばかり負い目を感じているらしく、あたしには

優しかったんだ。

 振り返ってみると、お侍はいなかった。

 変なのと一緒にいたと思われちゃいけないから、その方が良かったけれど、なんだ

かちょっと寂しい気がした。

 こんな雨の中、どこへ消えたんだろう。


翌日――

 昨日は、雨宿りをしていたんだ。

 いるわけないと思ったのに、そのお侍は、昨日とおんなじ場所におんなじ様子で、

ちんまりと座っていた。

 どうしてわざわざ、確かめに来たのかも、分かんないけど。

 ようく見ると、ちっといい男なんじゃないかと思う。

 こんな風体だから、年の頃も、よく分からない。

 でも、三十にはなって、いないだろう。

 頭の中で、よれよれの着物とぼさぼさの髪、そして、薄い無精髭を除いていく。

 日に焼けてはいるけれど、地は色白だろう。

 目は切れ長で、鼻筋の通った――ほうらね、しゃんとしさえすれば、ずんと男ぶり

が上がるのにさ。

 だけど、背(せい)の低いのが瑕だね。

 あたしとあんまり変わらないくらいなんだもの。

 そんな値踏みをしているうちに、もう、あんまり怖いという気は無くなって、あた

しは、そうっとにじり寄った。

「なんで、ここにいるのさ」

「他に、行くところが無いからさ」

 お侍は、あたしの方を見もしないで答える。

「なら、あたしとおんなじだ」

「――おふうちゃんには、帰るうちが、あるんだろう?」

「そうだけど、坊っちゃんが泣くとうるさがられるから、今はお店に帰れないもの」

 本当の「うち」には、なお帰れやしない。

「なるほど」

 なんで、この人はあたしの名前を知っているんだろうと思ったけれど、そういえば

昨日、お乳母さんが迎えに来た時、「おふうちゃん」と呼んだのだったと、思い出す。

 どこにもいないようだったけど、どこかで聞いていたんだろう。

「ねえ、名前は?」

 向こうだけがこっちの名前を知っているっていうのは、なんだか気分が悪い。

「最近は、みんな、竹光の先生って呼ぶなぁ」

 ちゃんと名乗ってくれたなら、あたしも本当の名前を教えてやろうと思っていたけ

ど、やめにした。

 塗りのはげちょろけた刀を、横目に見る。

「竹光、なんだ?」

「うん――」

 言いながら、竹筒の酒を、ちびりと飲んだ。

「…………美味しいの?」

 お侍は、ちょっと笑って、

「おふうちゃんなんかが飲んだりしちゃあ、毒だなぁ」

 と、言った。

「誰が飲んだって、毒さ。酒飲みに、ろくな人間なんか、いやしないんだ」

「なるほど――ろくな人間じゃ、ねえなぁ」

 腹を立てるでもなく、笑っていた。

 

 

 この日は、それで、別れた――

 

 

     *     *     *

 

「何を、ぐずぐずとしていやがる! たかが子守っ子から、餓鬼をかっさらうだけの

ことじゃねえか」

「へえ、それがどうも、妙な浪人者がくっついていやして……」

「丸木屋の用心棒か?」

「いや、そうじゃあねえらしい。野良犬みてえな野郎で、近頃、例の稲荷をねぐらに

してるらしい。子守っ子が、勝手に親しんでいるみてえだ」

「強そうなやつか」

「そうでもねえが……おいら一人じゃ、ちょっと……」

「なら、念のため助を頼むか――」

 

     *     *     *

 

「先生も、ご酔狂なこった。あんな小便臭え小娘に、肩入れなんかしなすって」

「だって、しようがねえだろう。たまに素面でいるとな、見ねえでもいい物が見えた

り、聞かねえでもいい物が聞こえたりで、面倒なことこの上ない……が、見聞きしち

まったからには、放っても置かれめえよ」

「――普通は、放っておきやすよ。子守っ子の後を、誰かが尾行けていたってね」

「うーん……。どうもな、生まれついての馬鹿なんだから、仕方もねえやな――」

 

     *     *     *


そのまた、翌日――

 お侍は、うーんと唸りながら、お供え物の油揚げを眺めていた。

「なにしてんのさ」

「――どうして、生の油揚げなんか、供えるのだろう。稲荷寿司かなんかの方が、ず

いぶん狐も喜ぶと思うんだが……」

 どうやら、腹が減っているらしい。

「お供え物を、くすねようってのかい?! 罰があたるよっ」

「当たるかなぁ」

「決まってるじゃないか! だいたいっ――」

 あたしは、お侍の腰の竹筒を指差した。

「その酒をやめて、飯を食えばいいじゃないかよ、ばかばかしい」

 お侍は、ちょっとばかり困ったような顔をして、残りを確かめるように竹筒を振り

ながら、「まあしかし」、と言った。

「酒というのはな、米で出来ているんだ。言ってみりゃあ、米の水さ」

「ばっかみたい!」

 酒飲みは、嫌いさ。

 酒なんか、あたしに言わせりゃ、きちがい水さ。

「ばっかみたいっ」

 もう一度言って、あたしは立ち上がり、駆けだした。

「あ、おい――」

 お侍が何か言いかけたけど、無視する。

 その時――

 目の前に、男が二人、立ちふさがった。

 一人は目つきの悪いやくざみたいな男で、もう一人は見るからに強そうな、浪人者

だった。

「娘はどうでも、餓鬼さえ、かっさらやあいいんだ」

 やくざ者の方が、言った。

 坊っちゃんを狙った、拐かしなんだ。

 あたしは逃げても構わないってこと?

 それとも、あたしのことは、殺してしまえって事?

 言ってることが、よく分からない。

 だけど、坊っちゃんを捨ててあたしだけ逃げ帰ったりしたら、死ぬより悪いことに

なってしまう。それだけは、明らかだった。

 あたしは、火のついたように泣き出した坊っちゃんを背負ったまま、後退った。

「しかし、顔を見られたからには、生かしておく訳にはいくまい」

 がくがくと、膝が震えた。

 

 ぽんぽん、と頭をなでられた。

「下がってな――」

 いつ、側に来たんだろう。ほんとに、飛んできたとしか、思えないよ。

 目の前の二人だって、呆気にとられた顔をしていたからね。

 だけど、やくざ者の用心棒についてる悪浪人の方がずっと強そうで、身の丈も倍く

らいあるんじゃないかと思った。まさかにそんなことはないと思うけど、それでも頭

一つ分くらいは違ったろう。それに――

「だって、それは、た――」

 お侍が、にこっと笑って、すらりと抜いた。

 それは、金貝すら貼っていない、正真正銘の、竹光だった。

「竹光に見えるだろうがな、こりゃあお稲荷さんの霊験あらたかな神剣だからなぁ。

ようく切れるんだよ」

 にこにこしながら、ばかばかしいことを言う。

 悪浪人が失笑し、やくざ者が唇を歪めて、

「こんべらばあっ!」

 棍棒のような物を振りかぶって、躍りかかってきた。

 ふわっと風が動いたと思ったら、どんな手妻だったのか、そいつはもんどり打って、

ひっくり返って、伸びていた。

 あたしは目を丸くしたけれど、その時とうとう悪浪人が、長い刀(の)を抜いて、

ぴかりと光ったから、悲鳴を上げた。

 悪浪人は、聞いただけでも胆の潰れそうな気合い声を発して、猛然と斬りかかって

きたのだけれど――

 何がどうなったのか、よく分からない。

 ともかく、お侍が、ふっと体を沈めて悪浪人と交差した、と思った時には、

「ぎゃっ」

 悪浪人の方が悲鳴を上げて、腕を押さえて呻いていたんだ。

「ほうら、切れた」

 のんきな声で、ちょっと自慢げに、そう言った。

 その時、あたしにははっきりと分かったんだよ。

 この人は、本当に神様だったんだって。

 それからお侍――いやいや、お稲荷さまは、またあたしの頭をぽんぽんとなでて、

「気をつけてお帰り――」

 と、言ったかと思うと、もうどっかに消えていた。

 急に心細くなってあたしは、往来に走り出て、助けを呼んだ。

 そのうちお役人がやって来て、やくざ者と悪浪人は引っ立てられて行ったけど、竹

光のお侍なんてもう、やっぱりどこにもいなかった。

 

 お稲荷さまに助けてもらったんだって、あたしは一生懸命みんなに言った。

 誰も、まともに取り合ってはくれなかったけど、優しいお乳母さんと迷信深いお内

儀さんが、稲荷寿司とお酒を整えてくれた。

 お稲荷さまには、お礼をしなけりゃいけないと、知っていたからね。

 何度も何度も手を合わせて、次の日行ってみると、酒も稲荷寿司も、消えていた。

 ほんとに本当に、無くなっていたんだよ。

 だけど――

 その後は、どんなにお供えをしても、それが無くなることはなかったし、あのお侍

にも、二度と会うことはなかった。


再び、文化三年

「でもね、あたしは信じているんだよ。お稲荷さまはきっとどこかで見ていて下すっ

て、あたしが、本当に困ったことになった時には、ちゃんと助けて下さる、ってね。

だから、色々あったけれど、どうにかこうしてやっていけてるのさ」

 大真面目におつたさんが話を締めくくったのを、みんなは笑っていたけれど、

「うーん、そんなこともあるものかなあ。……世の中には、ずいぶん不思議なことも、

あるものだ――」

 感に堪えないような顔をして、先生が目を細めたから、おつたさんは元気づいた。

「あるんですともさ。信じて下さるのは先生だけですよ。ほんとに、うちの人ときた

日には、何べん話して聞かせてやっても、鼻先で笑って信じやしない」

 と、憤慨し、それからうっとりとした顔になり、

「それだからさ、お稲荷さまは、小娘なんかじゃあないんだ。それはそれはいい男で

ねえ。まるでこの世のものじゃないようだった」

 と、話の中よりだいぶん美化されている。

「……そりゃあ、神狐だからな。なるほど、この世のものではなかろう」

「そうそう、今気が付きましたけど、先生はちっとばかり似ていらっしゃいますよ」

「狐にかい? そう次々と狐がわいて出ちゃあ、ここは化け物長屋だ」

 先生が、うっすらと笑って、ちらりとあたしを横見にする。

 どういう意味だよ?!

「でも、確かに似ていらっしゃいます。丈のお小さいとことか」

「べらぼうめえ。背なら俺だって小せえぞぅ」

 赤い顔をして親分が、冴えない啖呵を切る。

「馬鹿じゃないのかい。あんたみたいなずんぐりむっくりじゃぁないんだよ。いい男

だって言ったじゃないか」

「何がいい男だ。てめえのおかめ顔を水鏡に映して見てから物を言やぁがれ。大体て

めえの図体がでかすぎるから、並みの男もずんと小粒に見えたんだろうよ」

「お黙りよ。あの頃はほんの小娘で、背だってまだぜんぜん伸びきっちゃいなかった

んだ。大体、てめえが小さいから、大きな女が好きだとか抜かしゃぁがったのは、ど

このどいつだぇ?」

 突如勃発した、ばかばかしい夫婦喧嘩を尻目に、

「……そんなことも、あるものかな」

 もう一度ちいさく言って先生は、うーんと懐の中で腕を組んだ。

「変われば、変わるもんだな。ぜんぜん、気付かなかった――」

 



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