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プロローグ

 「っつーことだ、わかったか」

 「わかんない。要はその三つの宝石を集めて秘法をとってくりゃいいんだろ」

 「そ、そうね。それでいいわよ、もう」

 ため息をつく少年少女。もう一人の少年は難しい顔で頭をかいている。

 その様子を見て、説明していた少年の手にある本が、より大きく開かれてしまう。

 「お前、人に調べさせといてそりゃねぇだろ」

 「悪かったって。まさか魔法に関わることだとは思ってなかったからさ」

 「グリシェに聞かなかったの」

 「あんたじゃわかんないよの一点張りで教えてくんなかった」

 「そりゃそーだ、現にわかってねぇし」

 「そっち関係頼むよ、意味不明だし」

 「わかろーともしないわけね」

 しょうがないじゃん、と開き直る赤黒い髪の少年。育ちざかりで体格は一番がっちりしている。

 一方、同じ年頃の少年は勢いよく本を閉じ立ちあがる。タキシードを着たらかっこよく決まりそうな見た目は、ひとり立ちしているせいか、よく映えた。

 「仕方ねぇから頭脳戦は任せとけ。お前は切り込み隊長な」

 「りょーかい」

 「あんたたちねぇ」

 昔から配置が決まってるでしょ、と、思わず頭を抱える少女。慣れているせいか、肩より長い髪の毛を少し揺らしながら、

  「とにかく行きましょ。時間がもったいないもの」

  男の子二人に異存はない。

  遊び盛りの少年少女たちは、闇へと冒険にでかけた。

 彼らが住まう町、ウラカのはずれにある三階建ての洋館にやってきた。ここは十数年前からお化け屋敷とされていて、暗がりの中では暑い季節にもってこいの風景である。

 「うわ~、おっかねぇな」

 「何だよリュイ、びひってんのか」

 「んな、んなワケねーだろ。バカがっ」

 「しーっ、何かでてきたらどうすんのよ」

 「大丈夫だって、フィリスのほうがよっぽどこわ」

 鈍器で奏でられた音は、少年を黙らせるのにうってつけのようだった。

 「なあクガク、お前の知能指数を上げるにゃどーしたらいいんだかな」

 返事がない。

 「ちょっとクガク、こんなことでヘバらないでよ」

 「どこがこんなことなんだよ」

 「あんたも試してみる」

 「結構でっす。って、クガク、いつま」

 で、といいかけたところで言葉が飲みこまれた。妙に感じた三つ編みの少女は、視線を下にむける。

 そこには、人型の穴が、あいていた。

 目をまんまるにした二人は膝をつき、落ちてしまった友人の名前を呼ぶ。数回ののちようやく言葉が返ってきた。

  「あっててて。こらフィリス、お前覚えとけよ」

 「ごめんごめん、いくら何でも地面が抜けるとは思ってなくて」

  はっ、という音をもらし、わかっていない様子のクガク。数十秒ほど黙りこむと、

  「ここどこだよ、何にも見えないぞっ」

  「炎ぶっこんでやるよ」

  「殺す気かっ」

  「いや、真面目にいってんだって。たいまつ持ってんだろ」

  「渡すからつけて投げこんでくれよ」

  「見えねぇのにどうやってこっち投げんだ。いいから準備できたらいえよ」

  ふくぶさと文句をいうクガクだが、リュイのほうが正しいので手探りで目当てのものを探しあてる。友人に合図を送り、クガクの頭上が、ゆっくりと赤く燃えあがってくる。

  たいまつでうまくキャッチした彼は、地上へお礼を口にし、身辺を見渡した。

  人の手で掘られたのだろうゴツゴツと固められた土肌を手で触れてみる。ひやりとした感覚が、頑丈さを教えてくれた。

  広さは自分たちが並んでも余裕があるほど。なんのために作られたのか、中に入ればおそらくわかるだろう、とクガクは考える。また、片方は、木の板でバツマークがでかでかと打ちつけられていた。

  「リュイー、フィリスー。お前らどうすんだ」

  「どうするって、ねえ」

  「だな。どこにつながってんのかもわかんねぇし」

  「洋館じゃないのかな」

  「何でわかんだよ」

  「感、テキトー」

  「アホか。そうだな、とりあえずオレたちだけで洋館に行ってくるぜ」

  「あたしたちがロープを持ってくるから、そこにいなさいよ」

  やる気のなさそうな声で、あいよー、というクガク。やれやれと立ちあがり、リュイとフィリスは月明かりを頼りに建物にむかう。

  一方のクガクはというと。

  まるでガキ大将のように奥へと進みはじめた。

 リュイたちは道のようでそうでない足場に気をつけながら洋館の前にたどりつく。巨人でもとおりそうな高さの門はさびついており、動きそうにない。

  「こりゃ無理だな。手がまいっちまう」

  「回ってみようよ」

  「だな。あるいは登るか、か」

  ぜひ乗りこんでください的に立っている木を指しながら、対策を見つけるリュイ。フィリスは最終手段にしてほしいと主張し、崩れかけているレンガ造りの壁を回ってみた。何とか一人とおれそうな隙間を発見し、フィリスは喜ぶ。

 「あたしは大丈夫そうね」

  「オレは絶対ムリ。壊す時間がもったいねぇから、木に登って飛び移る」

 うん、と返事をし、そそくさと塀の間に体をいれるフィリス。リュイは得意気に登っていき枝をつたって侵入しようと試みる。

  しかし、お互いが顔を合わせるのがだいぶ先になることを、彼らは知るよしもなかった。


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