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  古い団地(外観) 

    朝。 

 

  玄関ドア。 

    表札に「二階堂みさき・あき」の名。 

 

  二階堂家・茶の間 

    狭い部屋に不似合いの大きなグランドピアノが置いてある。

     やけにピカピカ。

     たんすの上に数個の写真立て。

     金髪の少女が赤ん坊を抱いている写真。

     みさき(三十二)の鼻歌が聞こえている。

     曲は八十年代に流行った「横浜銀蝿」。

  

  同・洗面所

     赤とピンクの歯ブラシが二本。

     みさきが歌いながら髪を束ねている。

     茶髪に化粧気のない顔。

     ふと、鏡を覗く。 

みさき「(鼻の下に手をやり)ヤバ。ヒゲはえてるよ……ま、いっか」

  

  同・寝室兼あきの部屋 

    学習机。二組の布団。 

    一つはすでにたたまれ、片方に娘のあき(十五)が寝ている。

 みさきの声「あきIっ!遅刻遅刻!」

 あき「(布団にくるまり)う-ん、まだ眠い……」

     ガラッと襖が開いて、みさきが入ってくる。

 みさき「(思い切り布団をはがし)ほら、さっさと起きる!」

 あき「何だよ……もう少し優しく起こせないのかよ。それでも母親?」

 みさき「甘ったれたこと言ってんじゃないよ。もうおかあちゃん仕事行くよ」

  

  同・台所

     立ったまま食パンを口にくわえるみさき。

     ジャムの蓋をあけようとするが――きつくてあかない。 

 みさき「……けっ」           

     あきらめてパンをそのままムシャムシャとかじるみさき。

     あきが起きてくる。

 みさき「今日ピアノの日だろ?さぼるんじゃないよ」

 あき「……(無視して自分のパンを焼く)」

 みさき「おかあちゃん、発表会楽しみにしてっからさ。ねっ!」

 あき「(思いつめたように)おかあちゃん、あのさ……」

 みさき「ちゃんとしっかり食べてくんだよ。朝礼で倒れちゃうからね」

 あき「わかってる……」

 みさき「あ、それとゴミ出しといて。頼んだよ。じゃ、行ってきまIす!」

  慌ただしくバタバタと出ていくみさき。

 あき「(ため息)……」

      焼けたパンを取り出し、ジャムの蓋をあけようとするあき。

      が……やはりあかない。

 

   団地の階段

     歌いながらかけおりるみさき。

     入れ違いに主婦(五十五)が上ってくる。

 みさき「おはようございます!」

 主婦「おはよう、いつも元気ね」

 みさき「はい!それだけが取り得なもんで。行ってきます!」

 主婦「行ってらっしゃい」

     と見送る。

 

   車の中

     テ-プを差し込むみさき。 

    流れてくるのは「横浜銀蝿」。

     機嫌良く歌いながら運転するみさき。

     ル―ムミラ―の横。あきが作ったマスコット人形が揺れている。

     人形の胸のところに「おかあちゃん」と縫い付けてある。

  

  ゴミ集積場 

    ゴミ袋を置くあき。 

    あきの同級生、美穂(十五)が父親と二人で来る。

 父親「じゃあな、美穂」

     ゴミを置いて出勤していく父親。 

美穂「行ってらっしゃい」 

あき「(見ている)……」 

美穂「おはよう、あき」 

あき「(明るく)おはよう」 

    連れだって学校に向かう二人。 


        車の中 

    信号待ちで停車している。

     車窓の外。 

    出勤する夫に妻子が手を振っている。仲良さそう。 

    複雑な表情でその家族を見ているみさき。 

    信号が青に変わる。 

    車を発進させるみさき。 

 

  小田島運輸・倉庫 

    トラックに荷物を積み込んでいるみさき。

     社長の小田島(五十八)が話しかけてくる。 

小田島「みさきよ。おめえんとこのあれ、あきちゃん、いくつになった?」 

みさき「(手は止めず)十五です」 

小田島「もうそんなになるか。ということは……?おめえはもう三十……(計

   算する)」 

みさき「(嫌々と)一応、二です」 

小田島「まあなんでもいいけどよ。俺も年取るわけだ。なあ。それにしてもよ。おめえが初めてうちに来たときは、どうしようもねえ不良娘だったっけなあ」 

みさき「大昔のことですよ」 

小田島「ところでおめえ。男はいねえのか、男は。いつまでも一人じゃ大変だろ。いろいろとな」 

みさき「男なんてもうコリゴリですよ。いいんです。娘さえいてくれれば」

 小田島「コリゴリねえ・・あ、おい。こっちこっち」

  呼ばれて、若生哲太(二十二)が走ってくる。

 小田島「(みさきに)今日入った新人。おめえ、しばらく面倒みてやってくれや。(哲太に)じゃしっかり頼むぞ」

 哲太「はいっ」

     小田島、行く。

 哲太「若生哲太です。よろしくお願いします」

 みさき「(ぶっきら棒に)どうも」

     黙々と荷物を積むみさき。最後の一箱――重い。

 哲太「俺やりますよ」

 みさき「いいって」

 哲太「せっかく男がいるんスから。(荷物を持ち)これは女の人には無理です

   よ」 

みさき「え、女ってあたしのこと?」

 哲太「(笑って)当たり前じゃないですか」

 みさき「(何となく照れ臭い)……」

     テキパキ荷物を積む哲太。

 

   教室 

    休み時間。

 美穂「あき、今日渋谷行かない?」

 あき「(即座に)行きたい!」

 みさきの声(今日ピアノの日だろ。さぼるんじゃないよ)

 あき「(思い直して)やっぱり今日はだめ。ごめん……」

 美穂「そ。じゃまたね」 

あき「ん」 

     数人の友達と連れ立って出ていく美穂。 

あき「……」 

 

  公園 

    ベンチで休憩をしているみさきと哲太。

     コンビニの袋から、ガサガサと弁当を取り出す哲太。

 哲太「あ-腹減った。」 

    みさきはお茶のみ。 

哲太「(気付いて)あれ、先輩何も食わないんスか?」

 みさき「ん、いいの」

 哲太「いいのって……それじゃもたないっスよ。まだ荷物いっぱい残ってるし」

 みさき「給料日前はちょっと苦しいからさ。節約節約。あ、気にしないで食べて」

 哲太「……」

      余分に買っていたおにぎりを袋から取り出し、差し出す哲太。

 哲太「もし良かったらどうぞ」

 みさき「(素直に)いいの?じゃ遠慮なく」

     早速、おにぎりにパクつくみさき。

 哲太「(微笑して、自分も食べ始める)一つ聞いていいですか」

 みさき「なに?」

 哲太「先輩は何でこんなきつい仕事してるんですか」

 みさき「何でって、生活かかってるからね」

 哲太「女の人だったら、なんつ―か普通のOLとか、花屋とか、ケ―キ屋とか、

 とにかくもっと楽できれいな仕事いろいろあるじゃないですか。こういっちゃ

 何ですけど、やっぱ金ですか。まそれにしたって割が合わないと思うけどな」

 みさき「……」

      二人の前を、女子高生の集団が通り過ぎる。

 みさき「あれくらいの頃なんだ。私が娘生んだの」

 哲太「え?」

みさき「不良だったからね、高校には行ってなかったけど。相手の男がヤクザの

 卵みたいなろくでもない奴でさ……私ね。娘を生もうって決めたとき、誓った

 んだ。この子を絶対きちんと育ててみせる。誰の世話にもならない。一人で何 

不自由なく育てるんだって」 

哲太「……」 

みさき「大体さ。私バカだから頭使う仕事はできないし、この通り色気もないし。

   結構この仕事向いてるんだよね」

 哲太「(しみじみと)強いんスね」

 みさき「え?」

 哲太「強い女性って……いいですよね。そのへんのチャラチャラしてる女より全

   然いいですよ」

 みさき「(動揺して)う、うちの娘さ。三才からピアノやらせてんだ」

 哲太「へえ、ピアノスか。上品スね」

 みさき「ガキの頃、ピアノ習ってる友達がすごいうらやましかった。うちは貧乏で兄弟も多かったからそんな余裕なくて。だから、自分の子供には絶対ピアノ を習わせようって、それが夢だったんだ。金かかって大変だけどね。ま、娘のためなら苦になんないから――ごちそうさん」

 手をパンパンと叩くみさき。 


   鍵盤 

    ピアノを弾くあきの手。 

    上から別の手が伸びてきて、バ-ンと鍵盤を叩く。 

ピアノ講師「全然できてないじゃない。ちゃんと練習してるの?」 

あき「(うなだれて)……」 

ピアノ講師「こんな調子じゃ発表会に出すわけにはいかないわよ」 

 

   

    夕暮れ。あきがトボトボ歩いている。 

 ピアノ講師の声(こんなこと言うのは講師として無責任かもしれないけど、二

    階堂さん、あまりピアノには向いてないんじゃないかしら。やる気のない子

    には指導したくないのよね私。やめるなら早い方がいいと思うけど)

 あき「……」 

    あきの横を、買い物帰りらしい親子連れが通り過ぎる。

     母親と中学生の女の子。

 娘「お母さん、ケ-キ食べて帰らない?」

 母親「いいわね」

     うらやましそうに振り返って親子連れを見るあき。

  

  二階同家・台所 

    夕食を作っているあき。 

みさき「ただいま―っ」 

    と、みさきが帰ってくる。 

あき「お帰り」

 みさき「今日ピアノどうだった?ちゃんと行っただろうね」

 あき「うん……(言葉を濁す)」

 みさき「(ピアノを見て)ところであんた最近、ピアノの練習してんの?」

 あき「今、試験だから……」

 みさき「試験も大事だけどさ。ピアノもちゃんとやんなよ。おかあちゃんそのた

   めに昼食代けちって月謝払ってんだから。ねっ」

 あき「……」

 みさき「(覗き込んで)おっ、うまそうじゃん。着替えてくるワ」

  

  同・茶の間 

    食卓を囲むみさきとあき。 

あき「ねえおかあちゃん」

 みさき「ん?」

 あき「おかあちゃん、毎日仕事ばっかりしてて楽しい?」

 みさき「楽しいもクソも、稼がなきゃ食ってけねえだろうが」

 あき「おかあちゃんさ……何で私を生んだの」

 みさき「何でって腹に入っちまったもん、しようがないじゃないか」

 あき「だってまだ十八才だったんでしょ。おろすじゃん、フツウ」

 みさき「(呆れて)おまえね……子供が親に言う言葉かそれが」

 あき「……(思い切って)おかあちゃん、たまにはさ。二人で買い物とか行か

   ない?」 

みさき「買い物?何それ。いつも団地のス-パ-に行ってるじゃん」

あき「そうじゃなくて。デパ-トで私とおかあちゃんの服買って、外で食事して

   さ、あっ、ケ-キも食べたい」 

みさき「ばっかじゃないの。服だのケ-キだのって、うちにそんな贅沢できる余

   裕があるわけないだろ。どこから金持ってくんだよ」

 あき「ケチ!」

 みさき「はいはい、ケチで結構」

     憮然として台所に立つあき。

 みさき「(テレビを見ながら)あき、ちょっとお代わりちょうだい」

 あき「自分でやれば!」

 みさき「反抗期!」

     憮然とした表情のままのあき。

 

    

    あるアパ-トの前。

     みさきの運転する小田島運輸のトラックが停車する。助手席には哲太。

 みさき「ここで最後だから私が行ってくる。待ってて」

 哲太「はい」

     トラックから降りるみさき。 

 

  アパ-ト・通路 

    荷物を抱えたみさきが来る。 

    配達表と表札を交互に見ながら歩く。 

    あるドアの前で立ち止まる。  

    チャイムを押す。 

    中から不気味な感じの男(三十八)が顔を出す。 

みさき「中村さんですね?お荷物です」 

    みさきを異様にジロジロ見る男。 

みさき「あの、ハンコお願いします」 

    無言で奥に行く男。 

 

  トラックの中 

    一服する哲太。 

 

  アパ-ト・ドアの前 

    イライラしながら男を待つみさき。 

みさき「(奥に)あのう、まだですかあ」

     ようやく男が来る。

     ハンコを差し出す。

     受け取ろうとするみさき。

     突然、みさきの手を掴み、みさきを抱きよせようとする男。

    驚くみさき。 

 

  トラックの中 

    時計を見る哲太。 

   「遅いな」という風にアパ-トを見上げる。 

    トラックを降りる哲太。   

 

  アパ-ト・玄関 

    男から離れようと必死でもがくみさき。 

みさき「やめて下さい!」 

男「(みさきの耳元で)ちょっとだから、ね。おたくも若い子みたいにキイキイ

  騒ぐんじゃないよ」 

  強引にみさきを室内に連れ込もうとする男。 

みさき「やめてってば!」 

    ドアが閉まる寸前に駆けつける哲太。 

    慌てて助けに入る。 

哲太「やめろ、離せ!」 

    男を突き飛ばし、みさきの手を取って駆け出す哲太。 

 

  停車中のトラック 

    トラックに飛び乗るみさきと哲太。 

    すぐにトラックを発進させる哲太。 

 

  道端 

    自動販売機でジュ-スを買い、みさきに差し出す哲太。 

みさき「サンキュ」 

哲太「大丈夫ですか」 

みさき「(肯く)」 

哲太「しかしあの野郎ムカツクなあ。訴えてやりますか」 

みさき「あんたがそんなにアツくなることないでしょ」 

哲太「先輩、腹立たないんですか」 

みさき「たまにあるからね、こういうの」 

哲太「(驚いて)そうなんですか?」 

みさき「女一人で生きてるとま、いろいろあるから」 

哲太「そんな……危ないっスよ」 

みさき「あの……さ」

哲太「はい?」

みさき「ありがとね。助けて……くれてさ」

哲太「当たり前じゃないですか。男として当然ですよ」

みさき「……今日飲みに行こうか」

哲太「え?」

みさき「付き合ってよ、ね、決まり!(と、哲太の肩を叩く)さ、さっさと終わらせちゃおう!」

  張り切ってトラックに乗り込むみさき。

  あとに続く哲太。  


   ピアノ教室・ドアの前 

    あきが立っている。 

    入ろうかどうしようか迷っている。 

    ドアノブに手をかけるあき。 

ピアノ講師の声(やめるんなら早い方がいいんじゃない)

 手を離して引き返すあき。 

 

   

    あきがうなだれた調子で歩いている。

     美穂と数人の友達が来る。

 美穂「あき!」

 あき「美穂……みんなも」

 美穂「私たち今から遊びに行くんだ。静香がおもしろいとこ知ってるんだって。

   あきも一緒に行かない?」

 あき「(喜んで)行く行く!」

  

  クラブ・中

     激しい音楽。

     踊っている若者たち。

     一人、ソファに座って休んでいるあき。

     美穂が山口剛(十八)を連れてくる。

 美穂「あき。剛くん、あんたのこと気にいったんだって」

 あき「えっ……」

 剛「どうも(と、軽い調子で)」

 あき「(戸惑いながら)どうも……」

  

  居酒屋・カウンタ- 

    並んで飲んでいるみさきと哲太。

 みさき「ここは私のおごり。どんどん飲んでよ。」

 哲太「すいません。(ハッと気付いて)あっ、いやそんな。いいですよ。俺も払

   いますから」

 みさき「大丈夫大丈夫、心配しないでもここはツケきくから。ほら飲む飲む!」

  哲太のグラスにビ-ルを注ぎ足すみさき。 

 恐縮しながら受ける哲太。 

みさき「ところでさ、私も一度聞こうと思ってたんだけど、あんた何でうちでバ

 イトしてるわけ?あんただったら、見てくれもいいし、もっとましな仕事いく

 らでもあるんじゃないの」

 哲太「俺、こう見えても役者志望なんですよ」

 みさき「役者?」

 哲太「はい。一応小さい芸能事務所に所属してるんです。でも回ってくるのはエ

   キストラみたいなチョイ役ばっかですけどね。それだけじゃ食ってけないん

   で」

 みさき「そうなんだ……じゃあ私は今、将来の大スタ―と飲んでるかもしれない

   ってわけか。今のうちにサインもらっとこうかな」

 哲太「(投げやりに)いや、最近はもう半分あきらめてるというか」

 みさき「なんで?」

 哲太「才能ないみたいです。俺。オ-ディションは受けても受けてもおっこちて

 ばっかだし。世の中そんなに甘くないってことがわかりました。もういいんで

 すよ。夢は夢で」

 みさき「情けないなあ、若いのに。あのね。よく聞きなよ。私くらいの年になっ

 たらね。夢なんか持ちたくても持てなくなるんだよ。人間、年と共に可能性っ

 てやつがどんどん狭くなってって、もう子供に夢を託すしかなくなっちゃうん

 だから。」

 哲太「はあ……」

 みさき「あんたなんかまだこれからじゃない。頑張んなよ。応援してっからさ」

 哲太の肩を叩き、激励するみさき。

 哲太「なんか先輩にそう言われるとその気になってきました。もう一回オ-ディ

   ション受けてみようかな。俺」

 みさき「その調子!飲もう飲もう」

 哲太「(突然気が付き)あ、でもいいんスか。もうこんな時間……娘さんが待っ

   てるんじゃ……」

 みさき「いいのいいの。あの子はしっかりしてるから。(おどけて)なんていっ

   てもこの通り、親の育て方がいいからさ。おじさん、ビ―ル追加ね」

     盛り上がる二人。

 

   道(夜)

     したたかに酔ってフラフラの哲太。

     哲太を支えるように歩くみさき。

 みさき「ほらしっかりしろって。……ったく、ビ―ルだけでこんなに酔っ払う

   か?フツウ……」

 哲太「あ。ここです。俺んちここです」

     通り沿いのアパ-トを指差す哲太。 

みさき「あ、ここね。ほい。じゃ、明日遅刻すんなよ」

     と、階段の下に哲太を置いて、行きかけるみさき。

 哲太「せんぱ-い」

     突然、みさきに抱き付く哲太。

 みさき「(驚いて)!」

 哲太「俺、先輩のこと好きになりそうっスよ」

 みさき「ちょ、ちょっと……」

 哲太「じゃ、おやすみなさ―い」

     フラフラとアパ-トの階段を上っていく哲太。

 みさき「……」

  

団地・通路 

    みさきが歩いてくる。 

    先程の出来事にまだどこか呆然としている。

     ドアの前で立ち止まる。

     チャイムを押すが誰も出てこない。

     いぶかしげに鍵を取り出し、ドアをあけるみさき。

  

  二階堂家・茶の間 

    真っ暗で誰もいない室内。 

    明かりをつけるみさき。 

みさき「あき?」 

    家中を回ってあきを探すみさき。 

みさき「あき-っ!いないの?」 

 

  道・夜 

    車が止まる。 

    中にあきと剛が乗っている。 

 

  車内 

あき「送ってくれてありがと」 

剛「(じっとあきの眼を見つめる)……」 

あき「……」 

    あきを引き寄せてキスをする剛。 

あき「(驚いて眼を開けたまま)……」 

  「俺、君に本気になりそうだよ」 

あき「うそ……」 

剛「(真面目に)俺とつきあってくれる?」 

あき「(戸惑いがちにうなずく)」 

剛「(笑顔)よかった」 

あき「じゃ……」 

    車を降りるあき。 

剛「またね」 

あき「バイバイ」  

帰っていくあき。 

    剛の携帯電話が鳴る。 

剛「(電話に出て)はい。ああ、朋美?いやヒマだよ。すっげ―ヒマ。今か 

  ら?ああ、すぐ行くよ」 

女からの電話らしい。 

    車を猛スピ―ドで発進させる剛。


二階堂家・茶の間 

   あきを心配しているみさき。 

   そこにあきが帰ってくる。 

あき「なんだ、おかあちゃんいたの」 

みさき「(怒って)いたのじゃないよ!今何時だと思ってんだ!中学生がふら 

  ふら出歩く時間じゃないだろ」 

あき「うるさいなあ。いいじゃん別に」 

みさき「何してたんだよ。こんな時間まで」 

あき「……」 

みさき「何してたって聞いてんだよ!」

 あき「遊んでた」

 みさき「誰と」

 あき「美穂たちと」

 みさき「あんたまさか、変なことしてたんじゃないだろうね。あんたはまだ中学

   生なんだからね。中学生。わかってんの?」

 あき「おかあちゃんだって私くらいの頃はメチャメチャ遊んでたんでしょ?

 いことは全部やってきたっていつも自慢してんじゃん。私にばっかりゴチャゴ

 チャ言うのはずるくない?」

 みさき「自分のことと、娘のことは違うの」

 あき「勝手じゃん、そんなの」

 みさき「おまえね―」

     さっと自分の部屋に入ってしまうあき。

 みさき「なんなんだよ、ったく……ほんと反抗期だね」

     と、吐き捨てるみさき。 

 

  同・あきの部屋兼寝室

     唇に手を当てるあき。

     剛とのキスの余韻を感じている。

  

  同・浴室 

    鼻歌を歌いながら風呂に入っているみさき。

     曲はまたまた「横浜銀蝿」。

     ふと、哲太に抱きしめられた時の感触を思い出して……。

 みさき「……」 

 

  小田島急便・倉庫 

    みさきと哲太が荷積みの作業中。

     二日酔いでかなり眠そうな哲太。

 みさき「大丈夫?」

 哲太「はい……。昨日はすみませんでした。つい飲み過ぎちゃって。先輩と一緒

   だから安心しちゃったのかな」

 みさき「ねえ、今日……さ。うちこない?」

 哲太「え?」

 みさき「どうせ毎日ろくなもん食ってないんだろ。給料も入ったことだし、ごち

   そうするよ」

 哲太「ほんとですか?嬉しいな。行きますよ。行かせて下さい」

  

  二階同家・茶の間

     食卓で、みさき、あき、哲太の三人が焼き肉を食べている。

     肉をパクパクと口に放り込む哲太。

     その豪快な食べっぷりにあんぐりとするみさきとあき。

 哲太「うまいっすね。このタレがまた最高!あきちゃんが作ったんだって?」

 あき「うん」

 哲太「ほんとうまいよ。あきちゃん、将来いいお嫁さんになれるね」

 あき「うちはおかあちゃんが料理苦手だから、ほとんど私が担当してんの」

 哲太「へえ。いい娘さんですね」

 みさき「私の生んだ子だからね」

 あき「哲太さん、おかあちゃんの後輩なんでしょ?こわくない?」

 哲太「いや。なんで?」

 あき「だって男みたいだし。腕なんかこんなぶっといんだよ」

 みさき「うるせえな」

 哲太「それはさ、先輩があきちゃんのお父さん役も兼ねてるからだろ。母子家庭

 のお母さんは大変なんだよ。俺んちもさ。親父が早くに死んでずっと母子家庭

 だったんだ。」

 あき「そうなの?」

 みさき「……」

 哲太「やっぱりうちもお袋が朝から晩まで働いて、俺たち兄弟を育ててくれたか

 ら……俺みたいなのが生意気かもしれないけど、先輩の気持ちよくわかるし、

 俺に何かできることがあったら、力になりたいんですよ」

 みさき「(感動して)……」

 あき「あ、タレがなくなっちゃったね、ちょっと待ってて」

  と、台所に立つあき。

      調味料の蓋があかない。

 哲太「(その様子に気付き)どれ、貸してみ」

      簡単にあけてしまう哲太。

 あき「サンキュ。さすが」

 みさき「(見て)……」

  

  同・寝室兼あきのへや

     二組の布団が並べて敷かれている。

     パジャマ姿のみさきとあき。

     あきは机に向かっている。

 みさき「あき」

 あき「(ペンを動かしながら)ん?」

 みさき「あきはさ……お父さん欲しい?」

 あき「(ふりむいて)何。急に」

 みさき「いや、別に……ちょっとね。聞いてみただけ、うん」

 あき「おかあちゃん、まさかあの哲太って人と結婚しようとか考えてるの」

 みさき「(ギクッとして)ま、まさか……なに言ってんだよ、バカ」

 あき「冗談でしょ。あんな若い人が、おかあちゃんみたいな子持ちのババア相手

   にするわけないじゃん」

 みさき「(ムッとして)ババアって、おまえ……」

 あき「(興奮して)ほんとバカみたい。バカだよ、バカ。お母ちゃんさ、身の程

 わきまえた方がいいよ。ずっと男っ気がなかったからさ、免疫がないんだよ。

 久しぶりに男の人とちょっと仲良くなったからって、舞い上がっちゃってばか

 じゃないの」 

みさき「(怒る)なんだ。親に対してその言い方は!」

 あき「親だったら親らしくしろよ」

 みさき「私のどこが親らしくないってんだよ、え?」

 あき「うるさいなあ、勉強してんだからもう出てってよ!出てけ!」

   あきの剣幕に負け、渋々部屋を出るみさき。

 みさき「(憮然として)何なんだよ、クソッ……」

  

  -ムセンタ-・店内

     あきが美穂たちと遊んでいる。

     向こうに剛のグル-プもいる。

     あきに向かって手を振る剛。

     嬉しそうに答えるあき。

     おもしろがってはやし立てる美保たち。

  

  ---ケット・店内 

    休日の午後。 

    買い物をするみさき。 

    ルンルンと楽しそう。 

 

  二階堂家・台所 

    珍しくエプロン姿で台所に立っているみさき。

     できあがった料理をタッパ-に詰めている。上機嫌。

     あきが来る。

あき「それどうすんの」

みさき「(鼻歌)あんたには関係ないでしょ……っと」

あき「?」

  タッパーをハンカチで包むみさき。

みさき「ちょっと出かけてくるワ」

  エプロンを外し、いそいそと出かけるみさき。

あき「(いぶかしげに見送る)……」 



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