閉じる


<<最初から読む

14 / 16ページ

 オンボロアパートの一室で、部屋に似合わぬブランド服を着た男がつぶやいていた。
「あぶない、あぶない。あわや、全面核戦争に巻き込まれるところだった。もしあいつがもう少し物分かりの悪いやつだったら、完全にアウトだっただろう」

 せまい部屋の中をひと通り物色したが、案の定、たいした物も金も見当たらなかった。だが、男はさほど気にするでもなく、どっかりと畳の上にあぐらをかいた。
「やはり政治家への献金はしておくものだな。あの政府閣僚からのリークが無ければ、いま頃は地獄の一丁目だった。金と政治家は使いよう、ということだ」

 男が上着の内ポケットから携帯端末を取りだし、いくつかの操作をすると、画面に何やらリストが表示された。
「いままでに手にいれた、この膨大な特許技術を登録すれば、こちらの世界でもすぐに富豪になれるだろう。金があれば、地位も美しい女も手にはいる。もとの生活レベルに戻るのはあっと言う間さ。さて、それはそうと、落ち着いたら少し腹が減ってきたな」

 


 男は散らかった台所からカップラーメンを見つけだし、お湯を注いだ。

 三分間待つあいだに縄梯子の点検を素早くすませ、携帯端末の画面を指で軽くたたいた。すると縄梯子が音もなく天井板へと吸いこまれていき、まるで何ごとも無かったかのように、ただのオンボロアパートの一室へと戻った。
「この世界で三つ目か。なかなかまともなパラレルワールドに巡りあえないなあ」

 携帯端末を上着の内ポケットに戻し、息を吹きかけながら麺をすすりはじめる。

 その時、玄関の呼び鈴が鳴った。

 食べはじめたばかりだし、借金取りだと面倒臭いので、男は居留守を決めこむことにした。しかし、相手はなかなか諦めない。扉が激しくノックされた。

 どうやら居留守の目論見は、この相手には通じないようだった。それどころか、とうとう鍵が解錠されて、いきなり数人のいかつい男たちがなだれ込んできた。


「なっ……」

 男は、ほお張った麺を口から垂らしたまま、抵抗する間もなく身柄を取り押さえられていた。

 一団のうちの一人が、男の上着の内ポケットから携帯端末を奪いとり、他の者が部屋の隅に置かれていたノートパソコンを調べはじめた。
「警部、政府サイトおよび防衛省へのアクセスの痕跡を確認。大陸国のサーバーへ侵入、工作の形跡もあり。やはり間違いありません」
「そうか。ようやく捕まえたぞ、サイバーテロリストめ。お前のせいで日本は、危うく核戦争に巻き込まれるところだったんだ。外患誘致罪で死刑になるがいい」

 警部はそう言うと、男の両手首に手錠をかけた。

 男は目を白黒させながら、食べかけの麺をゴクリと飲みこんだ。







 


この本の内容は以上です。


読者登録

風児 不弐王さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について