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食堂

 おや? くんくんくん。あっちのほうから、いい匂いがする。テケテケテ。
 ほお。人間たちが食べ物を作っている。おいしそうだなあ。おおっ、ちゃんとぼくの分も取り分けてあるじゃないか。じゃ、遠慮なく。テケテケテ。
 う~ん、よだれが出てきた。
 パクッ。モグモグ。ベロ~ン。
 たくさん用意してくれてるなあ。ぼくが来ることわかってたみたい。
「おい、こら。何してんだ! しっしっ」
 もっと食べたい。パクパクッ。モグモグモグ。
「人間に馴れてるな。近づいても全然、怖がらないし、逃げない」
「何だこいつ? 見かけない動物だなあ」
「感心している場合じゃない。お前も追い出すの手伝え!」
「ああ」
 ぼくを捕まえようったってそうはいかない。ひょ~いっ。
「やっと逃げたか。いや、止まったな」
 まだ食べたいから、お皿のところに戻るよ。
「おいっ、こらっ。そっちはだめだ」
「どうする? もう五人前も食われたぞ」
「少し、本気出すか?」
「本気?」
「人間さまを馬鹿にすると痛い目にあうってことをわからせてやる」
 うわあっ。この人間、急に動きが速くなった。まるでラシャみたいだ。うわっ。
 ひょい~っ。ひょいっ。
「畜生! すばしっこいやつめ。あわわわわ」
 ガッシャーン
「何やってんだよ。料理、ひっくり返すな」
「素手じゃだめだ。障害物が多すぎて、ぶつかっちまう。あっちのほうが体が小さいからな」
「こいつを使うか?」
「そうだな」
 槍? 物騒なものを持ち出してたけど、まさか、それでぼくを突いたりしないよね。人間はロジャの友達だ。えっ、あれっ、槍を持って。こっちに来る。
「それっ、とおっ」「やあ、ふんっ」
 きゃあ~~~~。
 ひょいっ、テケテッ。ひょいひょいっ。
 やめて~~~~~。
 ピュウーーーーン
「やっと逃げたか」
「またやってきたら、今度は本当に突き刺してやる」

 はあはあはあ。びっくりした。
 でも、なんでだよお? ぼくのエサを用意してくれてたんじゃなかったのか?
 あっ、わかった。食後の運動をさせてくれたんだ。ぼくが太らないように。やっぱり人間はいい動物だ。 


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博物館

 テケテケテ。
 この建物は何だろう? おっ、ちょうどいい隙間がある。
 ぬうっ。すい~っ。ひゅん。
 静かだな。置物がいっぱい。壷? 中には何が入っているんだろう?
 転がしてやろう。
 コロン。
 何もないぞ。あっちの大きな壷はどうかな。壷の口に上がってやれ。ひょいっと。
 あれ~、何も入っていない。つまんないの。
 こっちは? ひょいっ、ひょいっと飛び上がって、のぞいてみたけど、こっちも何も入っていない。
 あっあ~、倒れる~。おりなくちゃ。ひょいっと。
 ガッシャーン。
 割れちゃった。ま、いっか。形あるものは、必ず壊れるのだ!
 うん? 足音? 誰か来る。
「な、何事だ? こっ、これは~~~~~。愛弟子の作品が~~~~。なんとしたことだ。いったい誰が……?!」
 この白髪のおじさん、誰だろう? 髪、かきむしって、どうしたのかなあ?
「なんと言って詫びたらいいのだ。せっかく労作を寄贈してくれたのに……うっうううううっ」
 泣いてる。この人の壷だったのかなあ。ごめんね。
「うん? なんだ、これは?」
 あ、ぼくに気がついた? はあい! こんにちは。
「こいつが……、こいつが壊したのか?」
 あれっ、なんか怖い目してる。ぼく、そんなに悪いことした? たじたじ。この人間からは逃げたほうがいいかも。そそそお~っと。
「ま、待て!」
 待たない。テケテケテ。ピュウーン。
「なんと逃げ足の速い……。しかし、この調子でほかの展示室にも入られたのでは、美しい作品たちが危ない」


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図書館

 はあ。もう大丈夫。人間の足は遅いからな。え~っと、この部屋は何だろう? 本がいっぱいあるな。テケテケテ。人間は本の紙を一枚一枚ゆっくりめくって遊ぶけど、あれの何がおもしろいのか、ぼくにはよくわからない。
 棚から下ろして遊ぼう。
 くいくいっ。
 しっかり詰まってなかなか抜けないなあ。
 ぐいっぐいっ。
 ドサッ。 
 やっと落ちた。本棚から引っこ抜いて落とすのは、ちょっと楽しいんだ。それっ、もう一冊。
 くいっ。
 ドサッ。
 一冊抜ければ、あとは簡単さ。
 くいっ。
 ドサッ。
 そうそう。この音が好きなんだ。
 くいっ。
 ドサッ。
 くいっ。
 ドサッ。
 落とした本はこうしてやろう。
 ビリビリッ。ビリッ。
 ははははは。楽しいな。
 ぎくっ! 背後に感じるこの殺気……、この臭いは、さっきの人間じゃないか?
「ふっふっふ、もう逃がさないぞ」
 ひょえ~、遊びに夢中になって気がつかなかった。この人、歩いてくる気配が全然しなかったし。そんなことができる人間はラシャだけだと思ってたよ。ちょっと、怖いな。目が血走っているじゃないか。
 に、逃げよう……。すい~っ、すい~っ。テケテッ。
「逃がすものか! それっ」
 げげっ、何だこれは? 網? うわあっ。もがもがもが。捕まっちゃった。どうするの? ぼくをどうするの? 
「このあたりでは見かけない珍獣だ。なんという動物だろう。医務方に持っていけば、喜ばれるかもしれない。とにかく一件落着。いままでこのようなことはなかったが、このような小動物からどのように作品を保護するのかを検討しなければならないな」
 もがもが。もがもが。出してよ~。もうしないから。どこ行くのさ? もがもが。


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医務方

「おや、シシーブ師匠ではありませんか。それは何ですか?」
「イーハ先生にもわかりませんか?」
「う~ん。どこかで見たことが、あるような……。そういえばエリースにこんな動物がいましたね」
 エリースに行ったことがあるの? そうそう。ぼくはエリースの人気動物ロジャだよ。おとなしくて、従順で、かわいい人間の友達!
 この人の服は真ん中が白いな。知ってるぞ《やくぶ》の人はこういう服を着ているんだ。
「エリース? ふ~ん。外来の動物でしたか」
「これがどうしたんです?」
「博物館の作品を壊し、図書館の本を台無しにしてくれたのですよ」
「なるほど。私の記憶が正しければ、この動物はロジャと言いまして、好奇心が旺盛で、きちんとしつけないと家の中をしっちゃかめっちゃかにされるとかで、エリースでは困っている人も多かったですよ」
「そうでしょう。こんなのが家にいたらたまりませんな」
「いや、なかなか頭のいい動物で、ちゃんとしつけさえすれば、言うことをよく聞くらしいですよ。並の四足動物より手足が器用にできているので、芸をしこんだりして楽しむ人もいました」
「ふ~ん」
 なんだよ。その顔は。本当だぞ。ぼくは器用なんだ。
「新種の動物なら医務方で喜ばれるだろうと思ったのですが、ご存知のものでしたか。では、実験動物にでも、お使いになりますか?」
 実験? 何の実験?
「そうですね。では、その辺においておいてもらえますか」
「気をつけてください。すばしっこいですからね。逃げたら、薬部の方が捕まえるのは一苦労だと思いますよ」
「まあ、逃げたら、逃げたで……」
「それは困ります。また作品を壊される」
「はいはい。では逃げないように、しっかりつないでおきます」
「よろしくお願いします」
 え~、つながれちゃうの? でも、怖い人間がいなくなった。よかった。
「つないでおくには紐がいるなあ。ひも、ひも……向こうの部屋にあったかな」
 エリースを知っている人間もどっかに行ったちゃった。よし、今のうちに逃げるぞ。もぞもぞ。どうやったら出られるの? もぞもぞ。う~ん、こんがらがっちゃって、よくわからない。早くしないとあの人、戻ってくる。つながれるなんてヤダ。もぞもぞ。もぞもぞ。あっ、出られた。
 テケテケテ。
 あ、さっきの人間が戻ってきた。
「あ、しまった。ほら、いい子だ。こっちにおいで、エサをあげよう」
 その手にのるもんか。ひょい、ひょい、ピューッ。
「あっ、本当にすばしっこい。これ、これっ。こっちだ。悪いようにはしない。戻ってきなさい」
 やだよ~。テケテケテ。
「あ~、逃がしてしまった。困ったな。シシーブ師匠に申し訳ないことを……。お~い、博物館や図書館にはもう行くなよ~」
 わかったよ! あの怖い人間には、もう会いたくないしね。人間はたいてい親切なんだけど、たまに変なのがいる。
 そうそう、ぼくは何をしに来たかというと、ラシャに会いに来たのだ。初心忘るべからず! ラシャ~、どこにいるの~?


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人生ではなくロジャ生(?)最大の危機

 ひゅんひゅん。テケテケ。ひゅんひゅんひゅん。
 あ、人間がいる。ラシャもいるかな?
 テケテケテ。
「なんだ、これ?」
「変わった動物だなあ」
「ミーミー言って、ネコみたいだ」
「鳴き声はそうだな。でも、見た感じはイタチ?」
 違う。ロジャだ! 毎度毎度、いい加減、嫌になるな。
「怒ってるみたいだぞ。毛が逆立ってる」
 ふん。君たちにかまっている暇はない。ラシャを探さなくちゃ。ラシャ~、どこだよお?
 この辺にはいないみたいだ。向こうに行ってみよう。
 あれっ、進まない。って、捕まっちゃった。ここには器用な人間が多いな。いつもなら、ぼくは人間に捕まったりしないのに。
 でも人間なら悪いことはされない。ぼくの知っている人間は、みんな親切だ。さっき、ちょっと変なのがいたけど。
「なんだ、これ?」
 ああっ、何すんだよ~。尾をひっぱるな。痛いじゃないか!
「珍しい動物だなあ。見たことがない」
「毛がやわらかくて気持ちいいぞ」
「どれどれ、俺にも触らせろ」
 いやだあ。気持ち悪い。よせよ~~。ガブッ
「いってえ。かみつかれた」
「歯はけっこう鋭いみたいだな。おまえ、指から血が出てるじゃないか」
 そうだぞ。変なことすると、また、かみつくぞ!
「やさしく撫でてやったのに、このネズミネコ、ひっぱたいてやる」
 あうっ、卑怯だぞ。大勢でよってたかって。尾っぽ、放せ! それにネズミネコって何だ? ぼくはれっきとしたロジャだぞ!
「ミーミーうるさいな」
 うるさいのは、お前らだ。はなせ~~~~!
「毛もやわらかいけど、肉もやわらかいんじゃないか?」
「そうだな、炊事場に持ってくか。料理してもらえるかも」
 な、なんだって? ロジャを食べる人間がいるの?
「でも、炊事場では鳳凰山の動物の肉は料理してくれないんじゃないか?」
「どうして?」
「理由はよくわからないんだが、そうらしい」
 ほっ。よかった~。
「じゃあ、俺たちが料理するしかないな」
 げげっ。こいつら、まだ、ロジャ食いをあきらめてない?
「おい、紐か何か、持ってるか? こいつジタバタして、抑えるのが大変だ」
「ああ、じゃ、こいつで縛ろう」
 やめろ。ぼくはエサじゃない。ラシャの友達だ。ぼくを食べたりしたら、ラシャが黙ってないぞ! うわあっ、そんなにきつく縛るなよ。いたいじゃないか。苦しいよ~。いたいよ~。ラシャ~、助けてくれえ。
「おい、火をおこせ! 丸焼きにしよう」
 生きたまま火あぶり? そんなご無体な!
 どうしよう。う~、むうっ、紐がほどけないっ。困った。薪なんか持ってきて、ひゃあ剣を持ってきた。ぼくを切り刻んで……?
「皮をはげ」
 ひょえ~。火あぶりもやだけど、皮はぎの刑なんて冗談じゃない。
 色黒の人間がいつも命令してるな。ちょっと偉そう。
「皮をはぐ? 俺が?」
 このやせた人間、いやそうにしてる。きっと動物の皮をはいだことがないんだ。ちょっと、いい人間かも。
「じゃ、俺がやる。こういうのには短剣がちょうどいいな」
 もう一人の太った人間は、食いしん坊なんだ。こういうことにも、慣れてそう。刃物をいつも持ち歩いているみたいだし……。
 なんて冷静に考えている場合じゃない。逃げなくちゃ。じたばた。
 どうしよう。もうだめかも。ラシャ~、さようなら。君とすごした時間は楽しかったよ。
 あ、誰か来る。かぎ覚えのある匂い! ひょっとして……、これは……、
「なにしてるんだ?」
 聞き覚えのある声!
「ラシャさま?」
 ラシャだ~~~。間一髪!
「ミミ!」
 うれしいよおおおお。ラシャ、助けに来てくれたんだねえ。
「ケイン、ミミを渡せ」
「ミミ?」
「これは僕の友達だ」
「へえ~ラシャさまのお友達ねえ。でも、捕まえたのは俺たちだ」
「どうするつもり?」
「これから丸焼きにして、食べようとしてたところ」
「冗談じゃない。よこせ」
 うん。早くほどいてよ。きついんだ。
「わかった。待ってろ」
 ラシャだけが、ぼくの言葉をわかってくれる。
「お~っと、せっかくの肉だ」
 あっああっ、ラシャ~。早く、ぼくを取り返して!
「僕の友達だ!」
「返して欲しかったら……、そうだな、何か芸でも、しれくれませんかねえ。三べん回ってワンとか」
 ふん。ラシャはそんなことしないぞ。おまえたちなんか、ラシャの手にかかれば、ひとひねりだ。
「おい、ケイン……」
「なんだよ。情けない声出して。ゲタ、こいつが恐いのか?」
「一応、会主の弟だしさ」
「ボードー、おまえもそんなことを言うのか?」
「ケイン~、おまえ、出世できないぞ」
「出世なんか、どうでもいい」
 ラシャ、早いとこ、やっつけちゃえ!
「三べん回ってワンって言ったら、返してくれるの?」
「考えないでもありませんね」
 え? なんで? ここは喧嘩しちゃいけない決まりでもあるのかな?
 うううううっ、ラシャ、ぼくのために、そんなこともしてくれるの?
 ラシャが回ってる。
「そうじゃなくて、ちゃんと四つんばいになってください」
 えっ、ひどい。人間は後ろ足で歩く動物だぞ!
 あっ、ラシャ、前足……じゃなくて手も地面についてくれちゃった。
 ごめん、ごめんね。ぼくのせいで……
 あわっ。いきなり投げるなよ。
「おもしろくない。こんな動物……、どうせ食ったって、うまくなんかない」
 でも、ラシャ、落ちる前に拾ってくれてありがとう。
「行くぞ~」
 あ、やつらが去って行く。よかった。助かった。ほっ。
「ミミ、大丈夫か? こんなにきつく縛り上げられて……。今ほどいてやるからな」
 うん。
 紐が緩んで、するするするっ。
 さすが、ラシャ。器用だね。すぐにほどけちゃった!
「ほら、もう、自由の身だ」
 ありがとう!
「礼には及ばないよ」
 ひょ~いひょいっと。やっぱりラシャの肩がいい。
「どうしてこんなところにいるんだ? ちゃんと家にいなくちゃだめじゃないか」
 でも、寂しくって。
「レイやシエラがいるだろ」
 うん。でも、ラシャの顔が見たかったんだ。チューしてあげる。ああ、くすぐったいよ。はははははは。そこ、気持ちいい。もっと! そう、こうしてもらいたかったんだ。レイは、いまいちツボがわかってないんだよな。
「でも、ここ剣山じゃあ、修行者は動物は飼えないんだよ」
 でも、ときどき来て、こうやって会うのはいいだろ?
「そんなことしたら、また変な人間に捕まっちゃうかもしれないじゃないか。今回は剣山だったから、お前の声を聞いて駆けつけたけど、剣山の外だったら、僕は出られない」
 ぼくだって、そうそう捕まるもんか。
「ミミ、何度もほかの動物に食べられそうになったじゃないか。そのたびに、かばってやったのを忘れたのか? おまえがもともと野生の子なら野に放つところだけど、野生の生活を知らないんだろう? それに、鳳凰山の気候も合うかどうか……」
 うん。この山には、ぼくの同類もいないみたいだしね。外はちょっと寒いかも。 
「じゃあ、僕の言うことを聞いてちゃんと家にいなきゃだめだ」
 ええ~~~~っ。
「そうじゃないと、紐をつけたり、檻に入れたりしなくちゃいけない。自由に動けなくなってもいいのか?」
 やだ。



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