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ラシャはどこ?

 ポクポクポク
 また止まった。
 この家は……また違った。
 ポクポクポク
 止まった。この家も違う。
 ポクポクポク
 止まった。今度は……また違う。この家にもラシャはいない。
 何かを持って行ったり、持ってきたり。この人は荷物の運び屋さんなんだな。
 それにしても、いったい、いつになったらラシャのところに行ってくれるんだろう? ふわああああ。もう眠くなっちゃったよ。
 あれっ、シーボクが走り出した。こりゃまずい! ああっ、待って~。
 そんなに速く駆けて行かれたら追いつけないよ。
 ど、どうしよう? どんどん遠くにいっちゃう。
 あ~、見えなくなっちゃった。
 なにくそ~、ぼくだってロジャのはしくれ。鼻はいいのさ! 匂いを追っていこう。くんくん。こっちだ。スタタタタ
 くんくん、こっち。テケテケスタタタ、テケテケテ
 くんくん。あれっ? 雨? 大変だ。匂いが消されちゃう。
 う~、わからない~。ラシャ~~~~、どこにいるんだよお?
 ザアザア降りになっちゃったよ。しかたがない。ちょっと木陰で雨宿りっ! 
 それにしても、お腹すいたなあ。あっ、おいしそうな木の実が落ちている。ぱくっ。こっちにも。ぱくっ。上のほうには、もっといっぱいありそうだ。ひょいっ。
 木登りは得意なのだ。うん、やっぱりある。ぱくっ、もぐもぐ。
 おおっ、エサがいっぱい這っている! 虫も大好物なのだ。ベロベロ~ン。
 う~ん、満腹!
 はっ、こんなことをしている場合ではない。
 ラシャは……、え~と、困った。どっちに行ったらいいんだろう???
 エサを探しているうちに、雨は上がったけど……。
 おや? さっきのシーボクと会士じゃないか?
 また、ついて行けば……。ありっ、シエラが渡した荷物がない。もう届けたんだ。ということは……、会士がやってきた道を行けばいいんだ。
 ぼくって頭いい! あっちだ。テケテケテ。
 おっ、この人間、ぼくに気づいたみたいだ。
「これはラシャさまが、よく肩にのせていた動物では?」
 そうだよ。ぼくは《ラシャさま》の一番の友達さ。えっへん。ぼくって有名動物!
 でも、君たちにもう用はないんだ。さようなら~。スタタタタ

 会士がやってきた道は一本道~。やったね。おっ、門がある。続く階段を上がって行こう。スタタタタ。建物が見えてきた。ということは、大正解!
 人間がたくさん……でもないか。でも、きっと、ここにラシャがいるんだ。
 ラシャ~、ぼくは来たよ。もう少しだ。待っていてくれ!


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食堂

 おや? くんくんくん。あっちのほうから、いい匂いがする。テケテケテ。
 ほお。人間たちが食べ物を作っている。おいしそうだなあ。おおっ、ちゃんとぼくの分も取り分けてあるじゃないか。じゃ、遠慮なく。テケテケテ。
 う~ん、よだれが出てきた。
 パクッ。モグモグ。ベロ~ン。
 たくさん用意してくれてるなあ。ぼくが来ることわかってたみたい。
「おい、こら。何してんだ! しっしっ」
 もっと食べたい。パクパクッ。モグモグモグ。
「人間に馴れてるな。近づいても全然、怖がらないし、逃げない」
「何だこいつ? 見かけない動物だなあ」
「感心している場合じゃない。お前も追い出すの手伝え!」
「ああ」
 ぼくを捕まえようったってそうはいかない。ひょ~いっ。
「やっと逃げたか。いや、止まったな」
 まだ食べたいから、お皿のところに戻るよ。
「おいっ、こらっ。そっちはだめだ」
「どうする? もう五人前も食われたぞ」
「少し、本気出すか?」
「本気?」
「人間さまを馬鹿にすると痛い目にあうってことをわからせてやる」
 うわあっ。この人間、急に動きが速くなった。まるでラシャみたいだ。うわっ。
 ひょい~っ。ひょいっ。
「畜生! すばしっこいやつめ。あわわわわ」
 ガッシャーン
「何やってんだよ。料理、ひっくり返すな」
「素手じゃだめだ。障害物が多すぎて、ぶつかっちまう。あっちのほうが体が小さいからな」
「こいつを使うか?」
「そうだな」
 槍? 物騒なものを持ち出してたけど、まさか、それでぼくを突いたりしないよね。人間はロジャの友達だ。えっ、あれっ、槍を持って。こっちに来る。
「それっ、とおっ」「やあ、ふんっ」
 きゃあ~~~~。
 ひょいっ、テケテッ。ひょいひょいっ。
 やめて~~~~~。
 ピュウーーーーン
「やっと逃げたか」
「またやってきたら、今度は本当に突き刺してやる」

 はあはあはあ。びっくりした。
 でも、なんでだよお? ぼくのエサを用意してくれてたんじゃなかったのか?
 あっ、わかった。食後の運動をさせてくれたんだ。ぼくが太らないように。やっぱり人間はいい動物だ。 


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博物館

 テケテケテ。
 この建物は何だろう? おっ、ちょうどいい隙間がある。
 ぬうっ。すい~っ。ひゅん。
 静かだな。置物がいっぱい。壷? 中には何が入っているんだろう?
 転がしてやろう。
 コロン。
 何もないぞ。あっちの大きな壷はどうかな。壷の口に上がってやれ。ひょいっと。
 あれ~、何も入っていない。つまんないの。
 こっちは? ひょいっ、ひょいっと飛び上がって、のぞいてみたけど、こっちも何も入っていない。
 あっあ~、倒れる~。おりなくちゃ。ひょいっと。
 ガッシャーン。
 割れちゃった。ま、いっか。形あるものは、必ず壊れるのだ!
 うん? 足音? 誰か来る。
「な、何事だ? こっ、これは~~~~~。愛弟子の作品が~~~~。なんとしたことだ。いったい誰が……?!」
 この白髪のおじさん、誰だろう? 髪、かきむしって、どうしたのかなあ?
「なんと言って詫びたらいいのだ。せっかく労作を寄贈してくれたのに……うっうううううっ」
 泣いてる。この人の壷だったのかなあ。ごめんね。
「うん? なんだ、これは?」
 あ、ぼくに気がついた? はあい! こんにちは。
「こいつが……、こいつが壊したのか?」
 あれっ、なんか怖い目してる。ぼく、そんなに悪いことした? たじたじ。この人間からは逃げたほうがいいかも。そそそお~っと。
「ま、待て!」
 待たない。テケテケテ。ピュウーン。
「なんと逃げ足の速い……。しかし、この調子でほかの展示室にも入られたのでは、美しい作品たちが危ない」


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図書館

 はあ。もう大丈夫。人間の足は遅いからな。え~っと、この部屋は何だろう? 本がいっぱいあるな。テケテケテ。人間は本の紙を一枚一枚ゆっくりめくって遊ぶけど、あれの何がおもしろいのか、ぼくにはよくわからない。
 棚から下ろして遊ぼう。
 くいくいっ。
 しっかり詰まってなかなか抜けないなあ。
 ぐいっぐいっ。
 ドサッ。 
 やっと落ちた。本棚から引っこ抜いて落とすのは、ちょっと楽しいんだ。それっ、もう一冊。
 くいっ。
 ドサッ。
 一冊抜ければ、あとは簡単さ。
 くいっ。
 ドサッ。
 そうそう。この音が好きなんだ。
 くいっ。
 ドサッ。
 くいっ。
 ドサッ。
 落とした本はこうしてやろう。
 ビリビリッ。ビリッ。
 ははははは。楽しいな。
 ぎくっ! 背後に感じるこの殺気……、この臭いは、さっきの人間じゃないか?
「ふっふっふ、もう逃がさないぞ」
 ひょえ~、遊びに夢中になって気がつかなかった。この人、歩いてくる気配が全然しなかったし。そんなことができる人間はラシャだけだと思ってたよ。ちょっと、怖いな。目が血走っているじゃないか。
 に、逃げよう……。すい~っ、すい~っ。テケテッ。
「逃がすものか! それっ」
 げげっ、何だこれは? 網? うわあっ。もがもがもが。捕まっちゃった。どうするの? ぼくをどうするの? 
「このあたりでは見かけない珍獣だ。なんという動物だろう。医務方に持っていけば、喜ばれるかもしれない。とにかく一件落着。いままでこのようなことはなかったが、このような小動物からどのように作品を保護するのかを検討しなければならないな」
 もがもが。もがもが。出してよ~。もうしないから。どこ行くのさ? もがもが。


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医務方

「おや、シシーブ師匠ではありませんか。それは何ですか?」
「イーハ先生にもわかりませんか?」
「う~ん。どこかで見たことが、あるような……。そういえばエリースにこんな動物がいましたね」
 エリースに行ったことがあるの? そうそう。ぼくはエリースの人気動物ロジャだよ。おとなしくて、従順で、かわいい人間の友達!
 この人の服は真ん中が白いな。知ってるぞ《やくぶ》の人はこういう服を着ているんだ。
「エリース? ふ~ん。外来の動物でしたか」
「これがどうしたんです?」
「博物館の作品を壊し、図書館の本を台無しにしてくれたのですよ」
「なるほど。私の記憶が正しければ、この動物はロジャと言いまして、好奇心が旺盛で、きちんとしつけないと家の中をしっちゃかめっちゃかにされるとかで、エリースでは困っている人も多かったですよ」
「そうでしょう。こんなのが家にいたらたまりませんな」
「いや、なかなか頭のいい動物で、ちゃんとしつけさえすれば、言うことをよく聞くらしいですよ。並の四足動物より手足が器用にできているので、芸をしこんだりして楽しむ人もいました」
「ふ~ん」
 なんだよ。その顔は。本当だぞ。ぼくは器用なんだ。
「新種の動物なら医務方で喜ばれるだろうと思ったのですが、ご存知のものでしたか。では、実験動物にでも、お使いになりますか?」
 実験? 何の実験?
「そうですね。では、その辺においておいてもらえますか」
「気をつけてください。すばしっこいですからね。逃げたら、薬部の方が捕まえるのは一苦労だと思いますよ」
「まあ、逃げたら、逃げたで……」
「それは困ります。また作品を壊される」
「はいはい。では逃げないように、しっかりつないでおきます」
「よろしくお願いします」
 え~、つながれちゃうの? でも、怖い人間がいなくなった。よかった。
「つないでおくには紐がいるなあ。ひも、ひも……向こうの部屋にあったかな」
 エリースを知っている人間もどっかに行ったちゃった。よし、今のうちに逃げるぞ。もぞもぞ。どうやったら出られるの? もぞもぞ。う~ん、こんがらがっちゃって、よくわからない。早くしないとあの人、戻ってくる。つながれるなんてヤダ。もぞもぞ。もぞもぞ。あっ、出られた。
 テケテケテ。
 あ、さっきの人間が戻ってきた。
「あ、しまった。ほら、いい子だ。こっちにおいで、エサをあげよう」
 その手にのるもんか。ひょい、ひょい、ピューッ。
「あっ、本当にすばしっこい。これ、これっ。こっちだ。悪いようにはしない。戻ってきなさい」
 やだよ~。テケテケテ。
「あ~、逃がしてしまった。困ったな。シシーブ師匠に申し訳ないことを……。お~い、博物館や図書館にはもう行くなよ~」
 わかったよ! あの怖い人間には、もう会いたくないしね。人間はたいてい親切なんだけど、たまに変なのがいる。
 そうそう、ぼくは何をしに来たかというと、ラシャに会いに来たのだ。初心忘るべからず! ラシャ~、どこにいるの~?



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