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2001/07/21 地球の恋人たちの朝食

 

 

 

 

リーリーリーリーリーリー 

リーリーリーリーリーリー 

(虫が 鳴いて るわ) 

 

10月7日 

地球を旅立つ日 船内にひとつだけ持ちこめるリュックに想いでの品をつめていると ナビゲーターのヴァニラウエハーが音もなくあたしの部屋に実体化した 

「用意はできた?」ヴァニラウエハーがきいた 

あたしが地球から持ち出す想いでの品はつぎのとおりだ 

①両親・妹・黒ウサギ・桐壷の写真 ②桐壷がくれた指環 ③黒ウサギの骨壺(骨を粉末にしたもの入り) ④あたしと桐壷の愛した紅茶の葉(500グラム) 

 

「これだけ!?」ヴァニラウエハーはとてもおどろいた 

毎年 あたしのように何人かが地球を出てゆくけど だれもが地球から持ちだす品をきめられなくてたいへんだという 

想いでの本 想いでのレコード 想いでのドレス 想いでのアルバム 想いでの宝石 想いでの人形 想いでの手紙 想いでの食べ物 想いでの 想いでの 想いでのうつくしいものたち  

〈自分の背中の幅よりはみだしてはいけない〉決まりの 小さなリュックにつめこむ品を泣きながらえらぶとき あたしたちはこんなにも地球が可愛ゆいものだったと思い知る 

 

黎明のひととき あたしはヴァニラウエハーに写真をみせて家族の紹介をした 小さな骨壺をみせて むかし飼っていた黒ウサギの灰をなめさせてあげた  

どんなにいい家族だったか どんなに可愛ウサギだったかを 言わずにいられなくて 最高だったの最高だったのとくりかえした 

 

さいごにヴァニラウエハーは紅茶の壜に目をとめた 

「すきだったのね?」 

「若いころのあたしと桐壷が大すきだった紅茶なの あたしがブレンドしたの 青い花入ってるの」 

「何ていう名前?」 

「地球の恋人たちの朝食っていうの」 

ふぁん ふぁん ふぁん ふぁんふぁんふぁん…… 

 

「来たわ」ヴァニラウエハーはいった 

ついに ゆくときがきたのだ 

「船の中で 飲ませてくれる?」 

「飲ませてあげる」あたしは意志と無関係にそう答えていた 

あたまが真っ白のあたしと 冷静にベランダへ船を誘導するヴァニラウエハー 

 

ああやっぱりヴァニラウエハーは 数えきれないほどの地球人の地球脱出を助けてきたプロのナビゲーターなのだ そしてあたしはこの星を出るのは初めてなのだ と おもった  

 

あたしはリュックを背負うことができず胸に抱きしめて船に乗った


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2002/06/05 猯 と ルートヴィヒ ③ 

 

 

 

 

猯は便所の水を1度しか流さない女だった。 

 

それまでの女はみな便所で2回水を流していたので 

 

女は2度流すものだとおもっていた 

 

3度流すのもいた 

 

1度目で放尿の音を消し 2度目で尿と紙を流す。 

 

なので 初めて会った日に猯の尿の音をきいたとき 

 

そういえば自分は女の放尿の音を聞いたのは初めてじゃないかとおもい 

 

ドアに耳を当てて始終を聞いた。 

 

そのティリリリリリという音から 夜のうちに一曲のピアノソナタを書いた 

 

このフレーズは 

 

いずれ十番目の交響曲に発展するかもしれない 

    

     

 

    

それからこの女は どこをどうやってかおれの家を探し当ててきて 

 

召使にしてほしいといったが 

 

安っぽく田舎っぽいなりのくせに ハンドバッグの中に札束がごろごろ入っていた 

 

そのことをいうと 

 

これは葉っぱだから1か月しかもたないとか 

 

おかしなことをいい 

 

気がくるっているのかとおもったが ほかの反応はいたってまともで  

 

ほんとうに1か月のあいだに 【葉っぱ】の金で 

 

勝手に増築してじぶんの部屋を作って 

 

おつりが出たといっておれに燕尾服を10着新調した。 

 

いったいどういう娘なのだろう 

 

【葉っぱ】の金が底をつくと どこからか仕事を見つけてきて 

 

毎日 弁当を作って通っている 

 

いったいどういう娘なのだろう 

 

猯のいないときに たんすのなかをみてみたら 

 

銀色のウォークマンが出てきて 

 

再生をおすと おれの第九が流れてきた


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2002/08/10 岬太郎 (試合中) 

 

 

 

 

僕は岬太郎 

髪と目の色が生まれつき薄いワールドカップ日本代表だ 

 

観客と無数のテレビカメラに囲まれて 

今 こうして トルコゴールをめざしてドリブルで上がっている他は まちがいなく自分には運命の人だが相手にとって自分はそうじゃないかもしれない という不安を抱えた ごくありふれた人間のひとりだ 

  

  

  

  

 

翼君  

 

君が 

卑金属にはかぶれてしまう 誇り高き体質だと知ったとき 

僕がどんなに君を抱きしめたかったかわかる 

 

「岬くん見てほらこれこんなになっちゃったんだよやっぱ安物だからかなあ」 

エレベーターの中で 君はブレスレットの跡を見せて。 

「はずしたらいいよ」 

僕は言った 

「はずしたらいいよ 翼君」 

  

  

1階から最上階まで 僕らのほかに誰もこのエレベーターに乗ってこなかったら 

結ばれると 念じて目を閉じた   

 

  

 

君がいない僕は能無しだ 

おねがいだ翼君 

おねがいだ翼君 

でも僕は君になにをおねがいしてるの 

    

(どうして誰も僕からボールを奪えないんだ) 

(僕は君のことを考えてるだけだ) 

(本気出せよどいつもこいつも) 

(若林や日向が笑うじゃないか) 

(翼と出る試合のおまえは無敵だなって) 

  

敵なんかいるわけないよ 

僕は影なんだから 

だれも影とは戦えないだろ 

  

  

 

おねがいだ翼君 

おねがいだ翼君 

僕だっていってくれ 

僕を呼んで欲しい 

僕が君の何かは知らない 

でも何かなんだ  何でもないかもしれない何かなんだ 

まだ僕と君の関係にふさわしい名は無くて 

名前を呼び合うだけでいい 

僕を想像してくれるだけで 

天上天下 あとにもさきにも 

僕には君だけなんだ 

翼君僕を想像してくれ 

ふいにまじまじと 僕の顔をみつめてもう一度 

驚いたように 「小さな顎だ」 って言ってくれよ 

僕が君を想像するみたいに 

君も僕を想像してくれ 

君も僕と同じに不可能な願いで胸が一杯になってほしい 

もうわからないんだ 

言葉にできない 「この感じ」で もう長いことぼくは一杯なんだ 

  

  

  

「岬くん!」 

浅黒い選手の向こうに翼君が見えた 

僕の脚は 大きく弧を描くパスを放つ 

心の底から君の事だけを考えているから 

確実に君の足の下へ 吸いこまれるようにパスは届く。 

当然さ 

  

  

 

シュートだ 翼君 

君の夢は 僕の夢だ 


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2002/09/07 燃ェ柴 と ヴァニラウエハー (一) 

 

 

 

 

俺は、野上燃ェ柴(のがみ・もえしば)。 

12月26日未明の街を歩いてる。 

 

俺らのパーティーに来いって言ったのに不二星らのほうに行ったってのは、やっぱ振られたことになるんかな。 

新宿からたらたら3時間歩くと、俺の町に着く。 

サーモンピンクの空に雪が降ってるんだ。世界中がバンビの背中だ。 

  

 

飲もう。 

 

ビンゴで当たったシャンパンを振って栓をあけると、コーンと音がして、どこかの家の庭に吸いこまれていった。 

 

どうして降ル雪がいいと思ったんだったかな。 

佐々木降雪。 

「……ささき、ふるゆき。『こうせつ』って呼ばれちゃうから『ル』入れてるの。」 

って、初めて会ったとき、ペーパーナプキンに名前を書いて、降ル雪は言った。 

名前も、声も、かたちも可愛い。燃ェ柴と降ル雪なんて、結婚するしかない名前じゃない? 燃える柴のうえに降る雪を思い描いてよ。 

 

そうだ、新しく買ったGパンをはじめてはいた日が、雨で、降ル雪が言ったんだ、「雨の日に履きおろされたGパンは、運命が違う気がする」。 

どうしてあんなデブで馬鹿で乱暴者の不二星のパーティーに行っちまったんだ。 

 

飲みきれないシャンパンを、薄く積もった雪のうえに撒きながら歩いて行くと、うちの向かいのたばこ屋の電話ボックスが、異様なことになっていた。電話ボックスって透明でしょう? 今朝は牛乳の詰まった牛乳ビンみたいに白くて、中が見えない。ドアは開いていて、中から白いものがもくもくとはみ出している。 

近づくと羽毛のかたまりだとわかった。大量の羽毛がぎゅうぎゅうに詰まってるんだ。何だ、これは。 

あたりには誰もいない。 

「すっげえな」 

と、俺は自分が嬉しそうに言うのを聞いた。 

ポケットにケータイをさがす。これは、撮っておかんと。 

その時、電話ボックスの中からくぐもった声が聞こえ、羽毛のかたまりが動いたと思うと、中からごっそりと、それは出てきた。 

天使だ。 

仮装か。仮装にしては、きゅうくつに畳まれていた6枚の翼を、のびのびとひろげるさまが、ほんとうに自由そうすぎて。翼の中心には12頭身の銀色の髪の美女がいた。彼女はゆっくりと瞳だけ動かして、俺を見据えて、 

「メリー・アフター・クリスマス」と笑った。 

  

  

それが初めて会ったユーキニフ、地球ではヴァニラウエハーと名乗る、移民ナビゲーターだった。 


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2002/09/08 ゆめであえたらささきふるゆき ① 

 

 

 

 

燃ェ柴に逢ったのは12月の歌会だった。 

あたしは女子大の短歌同好会に入ってて、近所の大学と合同の歌会がたまにあるんだけど、そこに、野上燃ェ柴がきてた。誰かが連れて来た初心者だった……いや、やる気なさそうな、ひやかしっぽい感じで、彼はきた。 

  

公民館の和室に机をならべて、彼はあたしの向かいに座った。 

この日は今年最後の歌会で、忘年会もかねていて、お酒が出ていた。燃ェ柴はウィスキー(誰持ってきたの!)をストレートで飲んでいた。彼は配られたプリントも読もうとしないし、人の話も聞いてない。あたしの顔をずっと見ていて、 

「きみ名前なんていうの」 

と机の上に手を伸ばしてきた。皆があたしたちを見ている。 

「佐々木よ」 

「ササキ……」彼はプリントに並ぶ短歌を眺めて「名前書いてないじゃん、きみの短歌、どれさ」 

「皆、それぞれ、いいとおもう歌に点を入れて、結果が出るまで名前はわかんないのよ」 

「じゃあ俺きみの短歌に入れる」 

「そんなのだめ」 

「なんでさ」 

「自分で読んで、選んでよ」 

「わかんないよ、どれも同じだ」 

 

その日は、結局、燃ェ柴があたしの歌に持ち点(5点)全部を投票したため、あたしの歌が一等になってしまった。 

 

景品はピンクの地球儀だった。 

 

壁際でスプライトを飲んでると、フライドチキンの皿を持って燃ェ柴がやってきた。 

「ハーイ」 

「この、酔っぱらい」 

「ササキフルユキって、漢字でどう書くの」 

あたしは紙ナプキンに「佐々木降ル雪」と書いた。 

「コウセツって呼ばれちゃうから『ル』入れてるの」 

「最高だ。名前。しびれるよ」 

「…………」 

「俺は、野上燃ェ柴」 

「もう聞いた」 

「つきあおうよ。結婚したら野上降ル雪になるんだ」 

「何言ってんの」 

「でも、いいじゃない?」 

「悪いけど佐々木のほうがいいから」 

「俺が佐々木になってもいいよ」 

「………………」 

「気に入った女の子がいるとすぐ自分の名前と合体させたくなるんだ」 

「………………」 

「怒りっぽいんだね、降ル雪」 

野上燃ェ柴は1年生で、ほんとはアルコールなんか飲んじゃいけなかったの。 

「どうしてあたしの歌がわかったの」 

「テレパシー」 

真面目な顔で。 

「嘘でしょ」 

「ほんとなんだ。神経をほんとに集中すると、わかるんだ。ほんとにたまにだよ、ふだんは普通だ」 

瞳が赤茶色だ。 



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