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 目覚めが良かった例しがない。

 今日だって,もう忘れちまったけど,やっぱり何か悪い夢を見てたはずだ。

 当然だけど,やっぱり鈴木は死んだんだろうから,これで丁度10人死んだことになる。

(じゃあ…)

 鈴木は何で死んだんだろう。

 中岡が見付けたとか言ってた機能を使って,端末で調べてみる。

 思わず笑いそうになる。

 だって,作っておきながら千賀が自分で引っかかった法だった。

 まったく,バカとしか言いようがない。

 ここでの生活に絶対必要な物なんてない。

 完全に自由じゃないけど,一応食い物とか服には困らない。

 だから,鈴木だって,千賀だって,別に盗んだりしんじゃないだろう

 ってことは,誰かの物を自分の物だと思ったかなんかだ。

 おれには絶対起こらないことだ。

 だって,自分の物と,そうじゃない物なんて分かるだろう,ふつう。

 どんな勘違いをしたって,おれには,そんなことない。

 それに,自分で作った法に自分が引っかかるなんて,そっちもあり得ない。

 法を作るなら,自分の役に立つか,何があっても自分は引っかからないようなものだ。

 それか,他の誰かより有利になるか,誰かを引っかけられるものだ。

 そうなるようにしなくちゃいけないし,そういう法じゃないんだったら作っちゃいけないんだからな。

 起きてる間,いやいや,寝てる間だって,ずっと絶対気を抜けないなんてまっぴらだと思う奴はいるだろう。

 というか,みんなそのはずだ。

 だから,お互い見張り合うため,寄りかかり合うため,何人かで集まる。

 おれも誰かといるとき,気を抜いたふりをしたりする。

 その方が目立たないし,他の奴が気を抜く。

 だけど,気を抜いたりするのは最後の一人になってからでいい。

 しかも,最後の独りなるのが,あと3週間後ってわけでもない。

 おれ以外が全員いなくなれば,今日にでもあり得ることだ。

 おれから仕掛けるってのは,危険だし,そんなことしないのがいい。

 誰か気の短い奴がやってくれないだろうか?

 

 

 どうしてだろう?

 何を考えて?

 不思議でしかない。

 考えたって俺には解らない。

 想像しようとしても,何も思い浮かばない。

 ただ,感じるのは,俺がいつも正しい判断ができるわけじゃなくても,あんな奴よりは正しい判断ができるはずだってこと。

 それなのに,あいつはあんな奴と一緒にいることが急に増えた。

(・・・・・)

 そういえば,大翔は「言わないことが伝わるわけない」と言ってたっけ。

 確かに大翔の言うのが正しいかもしれない。

 でも,だからって,あいつに言うわけにはいかない。

 大体,何から先に言っていいかも判らない。

 結局,どう言っていいのかだって判りゃしない。

 それに,今日は何日だと思ってるんだ?

 10日…

 最初の日から,ずっと同じことを考えてきたが,おとといくらいからは余計考えなくちゃいけなくなった。

 10日で10人死んだ。

 このスゴく下らない状況に乗って他人を追い落とそうとしてる奴がいる。

 そいつにすれば,いいペースなんだろうか。

 それとも遅すぎるんだろうか。

 まあ,そんな奴が何をどう考えているか考えても仕方ない。

 俺はあいつを守りたい。

 俺だって,俺が自分の身を守るのだって難しいだろうことは解っている。

 あいつがもし誰かに自分を守って欲しいと思っていても,その誰かが俺とは限らないし,まあ,俺であるはずないというのも解っている。

 でも,もし,守ろうと思っていることを伝えられれば…

 でも,もし,誰に守って欲しいのか訊ければ…

 

(言わないことは伝わらない…か)

 

 

 口に手を当てて溜息をする。

 ゆっくりと,ホントにゆっくり周りを見る。

 夜の集会が終わったので,集会室を出て行く人もいるし,残って話をしてる人もいる。

 変に見られないように注意して,集会室の床を見渡す。

 やっぱり,ないみたいだ。

 

 集会室を出る。

 ゆっくりと,ホントにゆっくり全身を触る。

 ホントにないかどうか,もう一回探る。

 それでも,ない。

 バッグの中を引っかき回しながら,来る途中の廊下を,ちり一つ見逃さないようにして歩く。

 どうしてないんだろう?

 安齊さんが言ってたことは,スゴく良く分かったつもりだった。

 いつのまにか,自分の物じゃない物が入れられないように気を付ける。

 そのために,ずっと肌身離さず荷物を管理する。

(あ,でも…)

 もし,「これは誰の?」なんて訊かれたら,どう答えればいいんだろうっ,て聞いておけば良かった。

 だって,自分以外の物を持ってたとかいうことになって,理璃も死んでしまった。

 だから,あたしだって,いつ訊かれるか分からない。

 でも,今気にしなきゃいけないのは,そんなことじゃない。

 早く見付けないと。

 ほんの少し前のあたしだったら,のん気に聞いて回ってただろう。

 今は,聞けない。

 きっと,安齊さんなら,聞いても大丈夫だと思うけど,一緒に探してもらうわけにもいかない。

 とにかく,あたし一人で,どうにかして見付けないと。

(それにしても…)

 増えることばっかり気にしてたら,減ったのは気付かないんだろうか?

 

 

 今日は村井くんが王様だった。

 朝起きた頃には,まだ法を作ったっていうメールが来ていなかったけど,ご飯食べ終わってから端末を見たら来てた。

 法の違反を告発された者は他の者を告発できない

 ちょっと後ろ向きな感じはするけど,連鎖的っていうか,みんな次々と破滅していかないようにはすることができる。

 もちろん,普通の感覚だったら,みんな破滅するようになんてしないだろう,自分も含めて破滅するなんてことは。

 普通だったら…

 でも,わたしも,もう自分が普通でいれてるなんて思ってない。

 あんなことを選ぶんだから,普通なんかじゃ,もうない…

(・・・・・)

 普通じゃないって言えば,鈴木さんはホント普通じゃなかった。

 当たり前だ。

 双子なんだから,ほとんどの時間一緒に過ごしてきたんだろうし,どっちかがいないなんてこともなかったと思う。

 ずっと同じ部屋だったから,わたしも二人の様子を見てた。

 顔もほとんど同じだし,合わせ鏡みたいな感じで頑張ってた。

 それなのに,昨日突然,ホントに突然終わってしまった。

 わたしに想像しようもない絶望。

 鈴木さんがおかしくなってしまうのも当たり前だ。

 精気が抜けてしまったっていう表現が正しいのかどうか分からないけど,何も見えない何も聞こえないんじゃないかな?と思ってしまうくらいの様子。

 実際,時間になったので集会室に行こうと声を掛けても,全然反応がなかった。

 でも,まさか,部屋に置き去りになんてできないので,集会室の行き帰りに手を引いてあげた。

 鈴木さんからは何の反応もなかったけど,ここに来て一番正しいと感じた行動だった。

 せめてご飯くらい自分でできるようになってくれれば,いいんだけど…

 もちろん,別に鈴木さんのことが面倒だとか,そんなんじゃない。

(そんなんじゃない,はず・・・・・)

 

 

 いつもの部屋に着いてしまった。

 結局集会室にも廊下にもなかった。

 じゃあ,この部屋なの?

 部屋には,舟山さんと一ノ木さんの二人だけがいた。

 あたしを見た一ノ木さんが,こっちに来る。

 「…ちょっと」

 あたしの横に来たところで,小さな声を出した一ノ木さんが部屋を出て行く。

 「?」

 何だか分からないけど,付いてきてってことなんだろうから,あたしも廊下に引き返す。

 

 一ノ木さんは,廊下の突き当たりで左の部屋に入る。

 「え?」

 あたしでも,知ってる。

 柚島さんが閉じ込められてた部屋。

 何の用があるんだろう?

 でも,今さら一ノ木さんの後に続かないわけにもいかない。

 あたしも入ろうとすると,一ノ木さんは,ホントに戸口のところに立って全然中にいなかったので,ぶつかりそうになってしまった。

 「あ,ゴメン」

 「…これ」

 一ノ木さんは,あたしに何かを押し付けると

「…」

横をすり抜けて,走って出て行ってしまった。

(何,これ?)

 見ると,探してた物だった。

 どこかに落としてたんだろうか。

 部屋に置き忘れてたんだろうか。

 一ノ木さんが見付けてくれて,そっと渡してくれた。

 

(良かった…)

 安心したら,思い出した。

 いつだったっけ?

 あたしは一つ決断した。

 あたしがここで危ない目に遭ったりしなかったのは,あたし以外のみんながあたしを守ってくれてからだ。

 理璃もその中の一人だったのに,あたしは理璃の役に立つため何もできなかった。

 あたしも誰かの役に立ちたい。

 そんな気持ちだけあって,実際には何もできないできた。

 でも,本当は結局あたしを頼りにしてくれる人なんていなかったのかもしれない。

 分かってたはずだった。

 みんながみんな助け合おうとしてるわけじゃない

 誰かを蹴落とそうとしてる人がいて,実は自分一人を守ろうとするのだってできるかどうかって。

 あたしの決断が,今まで自分を守るためにそれが役立ってきたような気がしてた。

 

(え…)

 急に背中と腰の辺りがゾゾゾォーッとする。

 あたしにこれを渡して,走って行ってしまった一ノ木さんの背中…

 なんか,頭の中がグルグルグルグルしてきた。

 何かが,つながりかけてる。

 でも何だか全然分からない。

 希望に関わる何か,かもしれない。

 絶望に関わる何か,かもしれない。

 役に立たない何か,かもしれない。

 

 ちょっと別なことを思い出す。

 そういえば…

(良かった?)

 あたしが,自分の気持ちを伝えた,あそこに…

 一ノ木さんがいなかったっけ?

 つながってきてる…

 一人で探そうとか思う前に,一人になっちゃいけなかった。

 あたしに何ができたってわけじゃないんだけど,理璃と一緒にいれるように,がむしゃらに何かしなきゃいけなかった。

 一人で決めちゃいけなかった。

 思い上がってたんだろうか。

 あたしなんかに声を掛けるくらいだから,理璃はとっくに聞いてただろう。

 「理璃は,どうするの?」

 聞いておけば良かった。

 聞いてみたかった。

 そっかぁ…

 あたしのやることなんだから,やっぱり正しい決断なんかじゃなかったんだ。

 

 床の上の右手を見た途端,急に頭の中がチカチカチカチカし始めた。

 つながった…

 何だか分かった…

 希望に関わる何か,じゃなかった…

 絶望に関わる何か,じゃなかった…

 役に立たない何か,じゃなかった…

 あたしには?

 あたしだけ?

 

 明日が来…

 ない・・・・・

 

 

 

 裁きに因る死亡者

 

  曽根嶋茉莉亜

 

 

 裁きに因らない死亡者

 

  なし

 

 

 国家の人口

 

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この本の内容は以上です。


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