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ベラチェクの転向

 エリース軍はアルメノ包囲を解き、ベラチェクから撤退した。敵の脅威がなくなったのでラード軍もまた国へ戻った。しかし、その後のベラチェクの対応にラード王宮政府は震撼した。王も政権も変わらなかったが、手のひらを返したようにラードとの同盟関係を破棄、親エリースへと方向転換を図ったのだ。
 そして、反ラードの気運が高まっていたベラチェクの人々の間にはエリース側につくことに対する抵抗があまりなかった。また、反乱は元々エリースの援助を受けていたから、エリースが引けば政権が同じでも反政府運動はおとなしくなる。
 ラードとベラチェクとは長年寄り添って信頼関係も強かった。ベラチェク、特に都アルメノはラードの首都シフォンの対岸にある。ここがエリースの影響圏に入ったとあっては心臓に刃物を突き付けられているようなものであった。
 ラードは再び出兵を考えたが、そのころにはアルメノから引き上げたはずのエリース軍がいつのまにか再び入りこんでいて、もはや奪回の見込みはなかった。

 ベラチェクの親エリース路線への転向はアシュによる《交渉》の功績とされた。しかし、アシュ本人は褒章されてもあまりうれしくなかった。自分が王を説得したわけではない。王女の気を引くことはできたのだが、娘の口ぞえで父王がエリースに鞍替え? 考えにくい。気持ち悪さの残るベラチェク遠征であった。

 ところで、王がエリース支持を表明する前にベラチェクの一地方都市モスで地震があった。建物がほぼ全壊し、多数の死傷者が出た。人々は祟りと恐れ、ラードが反乱鎮圧時に寺社を破壊したり、信仰を集めていた大木が傷つけられたためと、もっぱらのうわさであった。うわさは全国的な広がりをみせた。ラード兵士が傷をつけた御神木ほか聖なるものは各地にあったので、恐れおののく住民が祟りを避けるには冒涜者と手を組んでいてはいけないと王にラード離れを促す集会が各地でもたれた。中には暴動に発展するところもあった。内戦を恐れる王は再度反乱を起こさせないために、ラード圏から離れることを宣言した。
 エリースへの転向の表向きの経緯は以上であったが、これにはさらに裏があった。

 ベラチェク王は城の居室の窓から外を眺めていた。城からはメノ側をはさんだ対岸のラードが見える。じっと川向こうを眺めていた。憂いに満ちた王の目は寂しそうであった。 
「ハザーは大地をも揺らすことができるのか?」
 王の背後にはターシュ。
「信じがたいことですが、あくまでもラードに信を尽くすというのであれば、次はアルメノであると彼が警告してきたことは事実です」
「この都を破壊するわけにはいかない」
「王……。ご無念、お察しします。いずれ、いずれはまた……」
「エリースでもラードでも、どちらでもいいのだ。ただ、ベラチェクに栄えあれ……と、そう祈るばかり」
「御意」
 王は窓に背を向け、部屋の内側にいるターシュに向き直ると、
「ターシュ、リントはどうしている?」
「利発なお子でいらっしゃいます。もう字を覚え始めにおなりです」
「そうか」
 王子の成長を思いながら、王の表情が少し和らいだのもつかの間、すぐにまた暗く沈んだ。
「あの子が大きくなる頃、このベラチェクはどうなっていることであろうなあ」
「王、私どもの力が至りませんで……」
「いや、力不足はこの身である。ブリューのほうが、よほどやり手かもしれんな」
 ターシュは息を呑んだ。
「王、ご退位などお考えではありますまいな」
「心配するな。ブリューはまだ若すぎる」
 ターシュはほっと胸をなでおろした。
「リント王子もすくすくとお育ちになっていらっしゃいます。早まったことはなさいませんよう!」
「うむ。ところで、地震のあったモスの町にはエリースが早速救援を送ってくれていると聞いた」
「壊しておいて、善人面で救援というのが、厚顔無恥というか、何と言うか……あきれたものです。でも、人身掌握術はラードのはるかに上をいっておりますな」
「まったくだ」

   第七章 『ベラチェク』 完


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奥付



鳳凰の舞8 ~ベラチェク~


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著者 : 慈鈴(じりん)
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