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ギュンターの系譜





 中央護衛連隊長に就任し、間もなくだった。
中央護衛連官舎で父を見かけた。
そしてその横に居た人物が振り向いた時…ギュンターは心底、ギョッ!とした。

「俺の上司の顔を、拝みに来た」
そっくりな顔でブルーの瞳の、父がそう言い、横で振り向くグリンの瞳の…やや老けた、それでもそっくりな顔立ちの男は、陽気に笑う。

ギュンターがその、官舎廊下で固まって居ると、ギュンターの父ラフィアンはギュンターの視線に気づき、横見て告げる。
「俺の、親父だ。
お前にとっては…」

「祖父だな」
そっくりの顔の、グリンの瞳の男はそう笑う。

ギュンターはつい、並ぶと兄弟のような二人に、絶句し続けた。


中央護衛連隊、客間のソファで二人は喋り続ける。
「…息子が上司じゃ、お前もやりにくいだろう?」
祖父の言葉に、父ラフィアンは頷く。
「祝う気にも成れない」

そうだろう。と頷く、グリンの瞳の祖父。
ギュンターは正面で二人を見ながら、俯いた。

さっきお茶を出してくれた部下は、自分含めそっくりな三人の顔見て、持ってきたティーセットのトレーを手から床へ、落としそうに成った。

…つまり、自分も二人そっくりだと言う事だ。

「…どうして今迄紹介してくれなかったんだ?
しかし、紫の瞳とは珍しいな」
祖父の言葉に、父はぶっきら棒に言う。

「見分けがついていいだろう?
大体あんた、予告なく現れるし、使者を送る時に限って留守だ」

祖父は笑った。
「俺だって、遊んでる訳じゃない」
「…それにこいつ(ギュンター)は若年の頃、成人の旅とやらで行方が解らなかったし、教練に入ったかと思ったら近衛に入り、その後いつ尋ねても出動で居ない」

「…近衛官舎に、来てたのか?」
ギュンターの言葉に、二人は顔、見合わせる。
「三度来て全部、留守だった」

祖父の言葉に、ギュンターが頷く。
「手紙で祖父と訪問した事くらい、告げてくれれば良かったんだ」

父は肩竦める。
「…どうせお前が暇な時、親父は捕まらない」
祖父は笑う。
幾つなんだ?
と言う程、若々しかった。

祖父は気づいたように笑う。
「エシャルを喰ってる。
近衛で常食してる、簡易栄養補給若返りの木の実より、もっと効能が高いヤツだ」

エシャルは珍しい植物で、滅多に見つからないばかりか馬鹿高い。

「親父は右の王家の男だからな」
ギュンターは父の言葉に、咄嗟に顔、上げる。
が、祖父はギュンターの反応に素っ気無い。
「…血筋はいいが、身分は大貴族。
大公じゃない」

ギュンターはとうとう、じりじりして呟く。
「…どういう経歴か、いい加減説明してくれないか?!
だって親父は、普通の貴族だろう?!
なんで右の王家の血が流れてるって、教えといてくれないんだ!
そうすれば俺だって近衛でももう少し…」

父と祖父は顔、見合わせ合って肩竦める。
「近衛には全然コネが無い上、アルファロイスのような右の王家のサラブレッドにゃ、顔合わせる機会も無い程端っこに居る」

祖父が素っ気無く言い、父はまた祖父を見つめながら呟く。
「俺は正式には、こいつの息子じゃないしな」

ギュンターはすすった茶を、吹き出しそうになった。
「…………」
父は更に素っ気無く呟く。
「お前も正式には、俺の息子じゃない」
ギュンターがつい、肩怒らせ怒鳴った。
「代々浮気性の垂らしって事か?!」

「そう言えばお前も隠し子が居たって?」
祖父が屈託無く告げる。
「女の子だって聞いたな」
父の言葉に祖父が笑う。
「俺の母はこの顔だ。
母の母…祖母は、女の子が二人で男の子はどう頑張っても出来ず、結果…もう子供は無理だと言われ、旅先の素性の知れぬこの顔の男と、やけになって…やった所、母が出来たそうだ。

祖母は旅先の行きずり男とそっくりな顔の母を、どうやっても誤魔化せないと思い、旦那に隠してひっそりと田舎に、母と乳母とを匿った。

母は四歳まで乳母と二人で、森で暮らしていたそうだ」

祖父はそう言い、ギュンターの顔を見るので、ギュンターは続けろ。
と軽く顎しゃくる。

「だが中の上程度の家柄で、男の子が産まれて家名を上げる事を切望した旦那は、男の子に恵まれずせめて娘が、玉の輿に乗る事を期待したが…。
産まれた娘二人は、気立ては大層いいが、美貌には恵まれず…。

どう頑張っても、美人で更に、性格までいい上流の女達には勝てない。
としょげてたらしい。
が旦那は娘二人が大層可愛かったから、身分高い男を娘で釣る事は諦めたが、上級に仲間入りする夢は捨てきれなかった。

…で、森に隠れ住む母に、白羽の矢が当たった。
母は…この顔だ。
本家に移り、連日素晴らしいドレスを着て上流のパーティに送り込まれ、見事…「右の王家」の男を射止めた。

俺の、父だ」

言って祖父はまた、ギュンターを見るので、ギュンターは続けろ。
と見つめ返す。

「さっきも言ったが父は、「右の王家」と言えどあまり…位は高くない。
だが「右の王家」の一族だったから、ツテだけは豊富にあった。
それで俺も、宮中護衛連隊に入れた」

「…宮中だったのか?!」
ギュンターは自分の部下になるとは言え、王族か大貴族の血統しか入れない、宮中護衛連隊には特別な、違和感を感じていた。

身分の低い自分には決して、入る事の出来ない連隊だった。
ギュンターの父ラフィアンは、その声にぼそり。と呟く。
「宮中に入りたかったのか?
…俺も一時在籍していたが」

ギュンターは目だけ、見開いた。
そして恨みがましく二人を見る。
「…俺の身分がへ低いと、近衛じゃ随分嫌がらせ受けたし、中央護衛連隊長に成ったのだって、近衛の身分高い奴らと険悪な仲になったから、左将軍ディアヴォロスが俺に中央護衛連隊長の地位を与え、喧嘩になって相手を殺しても縛り首にならないよう配慮したんだ」

二人は顔、見合わせる。
「…言ったろう。
俺は近衛に顔が利かない」

祖父は言ったし、父も同様。
「近衛には丸でツテが無い」

ギュンターはつい、二人を睨み、続けろ。祖父に顎しゃくる。

祖父は口開く。
「俺は「右の王家」の血を引く父が、王家の者だとどれくらい堅苦しく苦労するか、言い続けてるのを毎度聞かされた。

俺の居た頃、宮中はやっぱり身分高く顔のいい男がふんぞり返ってたが、そいつらと仲良くは出来ず、最終的には宮中出身者が勤める別部署。
王宮の勢力図を見張る高等王宮機構に、コネを頼って引き抜いて貰った。

宮中では俺だけがモテまくるんで、殆どの男に敵意を抱かれてやってられなかったからな。

高等王宮機構は身分も能力も高い、粋な男が多かったから、顔がちょっといい位の俺をやっかんだりしない、居心地の良い部署だった。
…言わば表向きは舞踏会に出るのが仕事。
が、王宮警備の首脳部の一部署だ」

ギュンターは初めて聞くその部署の名に、疑問をぶつける。
「…王宮警備は表向きは、宮中護衛連隊だろう?
裏があるのか?」
祖父は憮然。と呟く。
「宮中護衛連隊は単なる、実働部隊だろう?」

ギュンターは俯く。
父も畳みかける。
「中央護衛連隊で宮中護衛が全て、賄えるか?
中央護衛連隊は主に対外向き。
高等王宮機構は、内部の陰謀や小競り合いに気を配る。
宮中護衛連隊とは、秘密裏にやり取りしてる。
一応中央護衛連隊長とも連携を取る事もあるが…。
中央護衛連隊は、護る範囲が広い。
王宮護衛迄、全部やれ。
と言われたら、中央護衛連隊長のなり手が無くなる」

ギュンターは項垂れる。
「…なる程…」

が、父と祖父は顔、見合わせる。
「結果、お前も中央護衛連隊に縁が出来たな」
父が言うと、祖父が笑う。
「この血筋で近衛に進むのは、珍しいと、笑ってたからな」

ギュンターは二人を睨んだ。
「…親父も中央護衛連隊には、深い縁があったのか?」
「中央護衛連隊の、公領地護衛連隊に居た。
…後に宮中護衛連隊へ行き『光の塔』付き連隊に移り、その後神聖神殿隊付き連隊に一時在籍して…結果今は、公領地護衛連隊の、補佐人員だ」

「………つまり俺の…部下…なのか?」
父は大きく、頷く。

ギュンターはブルーの瞳の、自分そっくりな父の顔、見ながらぼやく。
「だが…これだけそっくりな顔だ。
あんたが俺の親父だと、知っていそうな公領地護衛連隊長ライオネスは、俺に何も言わないぞ?」

「補佐人員を専門に呼び出したり配置する担当官は知ってるだろうから、お前と会ったらきっとびっくりするだろうが…。
彼も、あまり表には出ない。

特殊で面倒な案件のみに動く部署だからな」

「その補佐メンバーは、隊長のライオネスも…知らないのか?」
「担当官くらいは知ってるだろうが…所属人員の顔迄は、知らないだろうな」

ギュンターは俯く。
「…奥が、深いんだな」

この中では一番陽気な祖父が、眉寄せ顔しかめて小声で囁く。
「…近衛に行った。と聞いて思ったが…お前、かなり馬鹿なのか?」

そして祖父は伺うように、父ラフィアンを見る。
ラフィアンは肩竦めてみせる。

ギュンターはきっ!と二人を見た。
「幾ら同じ顔で祖父だろうが、初対面の相手にそこ迄言われる言われはないぞ!!!」

父はおもむろに呟く。
「…だって近衛の次が、中央護衛連隊長みたいな苦労の多い職だろう?」
そして二人は顔を見合わせ、無言で頷きながら
『馬鹿だ』
と心の中で言い合ってた。

「好きで中央護衛連隊長に就任したんじゃない!」
「選択出来ない程切羽詰まってた訳だ」

ギュンターはぐうの音も出ず、顔揺らし、下げ、俯いた。

祖父は孫のその様子を見、頷く。
「まあ、中央護衛連隊長がどれ程大変か、言った所で今更だな」
父も、頷く。
「成った以上、やるしかない」

だがギュンターは、中央護衛連隊を良く知る二人が、どれ程大変かを事細かに話出さず、ほっとした。

成ったばかりだ。
苦労は覚悟していたが、具体的に語られると逃げ出したくなるから、詳細を二人から聞かされず、どれだけほっとした事か。

二人は項垂れるギュンターを見、呟く。
「…大変だとは、知ってるようだな」
「まあまるきりの、馬鹿じゃないか」

ギュンターが、顔上げる。
そっくり同じ顔の、ブルーの瞳とグリンの瞳が自分を、見つめていた。

「…紫の瞳だと、もっと気取った感じに見えるのにな」
祖父が言うと、父も言った。
「気障に見える。
それで余計に反感買いやすいのかもな」

二人は顔見合わせて頷いていて、ギュンターは脱力して再び顔、下げた。

父が、言った。
「この顔は、男には大抵好かれない。
俺も親父に会うまでは、男友達が出来なかった」

ギュンターはふ…と気づいて、顔上げる。
「あんたはどうして…じいさんの正式な息子じゃないんだ?」

じいさん。と呼ばれても同じ顔の若々しい祖父は気にも留めず、口開く。
「本人に聞け」

父ラフィアンは顔、下げる。
そして口を開いた。

「俺の正式な父は、血が繋がってない」
ギュンターは顔揺らす。
「それってつまり…あんた、母親が浮気して出来た子って事か?」

ラフィアンは顔上げ
「ばあさんの、時と同じだ。
夫婦の間に子供が出来なかった。
何年も。
子供がどうしても欲しかった母はノイローゼ気味で…。
たまたま出会ったこの、軽い祖父と関係を持ち…」

祖父が肩竦める。
「たったの一夜だったのにな。
出来ちまったらしい」

「ばあさんの時同様、俺は完全に親父似で、母にも、血の繋がってない父とも当然、似てないから…」

祖父が付け足す。
「夫婦は長年待ち望んだ妊娠を、心から喜んだ。
が、こいつの母はずっと…もしかしたら俺の子かも。
と疑念を抱き続けたそうだ。
育ち始めるとこいつの顔は俺そっくりで、旦那は完全にキレた。
が、相手の俺は「右の王家」の血筋だ。
更に…子供が欲しかった愛妻から、子供を取り上げる事が出来なかった」

ギュンターは気の毒げに父を、伺い見る。
「…苦労したか?」

父は吐息吐く。
「義理の父は普段、近寄りもしなかったな…。
が、俺が崖から落ちそうに成ったり…木の枝から落ちそうに成った…危ない時だけは凄い勢いで駆けつけて…助けては、くれた」

「…いいヤツだな…」
ギュンターが呟くと、父も頷く。
「全くだ。
事情が分かり大人になった時、義理の親父には感謝しか、湧かない」

ギュンターは、祖父を見た。
「それでもあんたは彼を、引き取らなかったのか?」

祖父は吐息吐く。
「こいつの母親が、やっと授かった子供を手放すか?
引き取っても良かったが…俺にも妻子がある。
第一…絶対子供が出来ないから、一晩でいいから情けをかけてくれ。
と言われたんだ。
…それでどうして出来るのか、聞きたいのはこっちだ」

祖父の言葉で、ラフィアンもギュンターも男として気持ちが解りすぎて、同時に溜息を吐き出した。

父は小声で言葉を続ける。
「…まあ、あんまり俺が、男親と親交が無い上、男友達も出来ず喧嘩しかしないから…母が、実父の彼と…引き合わせた。

以来…突然現れては、遊び相手になってくれたし…男でも、外見で判断しない奴とは、友達に成れると教えてくれた」

「…意外と、子煩悩なんだな」
祖父に言うと、祖父は肩竦めた。
「…俺の子は、上が男で下が女。
が、どっちも俺に似てない。
これだけ似てると…気にかかって性が無い」

ラフィアンも、頷く。
「俺もギュンターに出会った時、あんたの気持ちが解った」
祖父が『そうだろう』と頷く。

ギュンターは、二人を見て顔がそっくりの娘を思い浮かべた。
彼女は母と…父親代わりの母の恋人で満足し、自分を必要としない。
がやはり…いつも心の片隅に、引っかかっていた。

彼女に…困った事が起これば自分も多分…飛んで行くだろう………。

「…で…この顔は、身持ちが悪いのか?」
ギュンターが、ぼそりと尋ねると、祖父は肩竦める。

「親父の武勇伝を聞いたのか?」
ラフィアンは即座に返す。
「俺は、話してない」
父の言葉に、ギュンターがぼそっ…と囁く。
「…だってあんた、婚約者が居たのにお袋と寝たんだろう?」

祖父が見つめると、ラフィアンは顔、下げる。
それで祖父が、代わって言った。
「まあこいつは、女に『寝て』と言われたら断れない」
ギュンターが、下目遣いで顔上げ、そっと聞く。
「スケベだから?」

祖父が笑う。
「女に甘いから」

ギュンターが、頷く。
「…自分の子じゃないのに、一度寝ただけの女に
“あんたの子”だ。
と言われ、押しつけられても引き取るしな」

父ラフィアンはそっぽ向いて、ばっくれた。

ギュンターは俯き加減で尋ねる。
「…だから…お袋に頼まれても断れなかったのか?」
ラフィアンは溜息交じりに告げる。
「婚約者が居て、直彼女と結婚する。
と言ってるのに…それでも。
と言われりゃ…。
無理だとも言った。
惚れないだろう。とも。
一度きりでこの後の付き合いは出来ない。と迄」

ギュンターは顔を深く、下げた。
自分もそう言って、それでも…。
と寄って来る女を山程…抱いたからだ。

「…で?
浮き名を流しまくったのか?」
ラフィアンがやはり、即座に返す。
「お前もだろう」

ギュンターは一言も、言い返せなかった。

祖父が孫を労る。
「まあ近衛は…それでなくとも女が群がるしな」

ラフィアンは下げた顔から、チラリ…とそう言う祖父を、睨んだ。
が祖父は無視して息子の遊び人ぶりを披露する。
「公領地護衛連隊から宮中に移ったのも、身分の高い女がもっと頻繁に、こいつに会いたいと思って無理矢理移動させた。
公領地じゃ、暇持て余してる年増の身分高い女と、遊び放題だったろう?」

ラフィアンは、むっ。とした。
「…相手から誘って来るし、旦那に警備不行き届きだといちゃもん付けられても、俺のコネで毎度何とかなったんだぞ!」

ギュンターは顔、下げた。
『公領地護衛連隊は、暇なご婦人の相手をどれだけするか。
で、旦那の見当外れのいいかがりから逃れられる』
とディンダーデンに聞いていたからだ。

勿論、愛妻家のディンダーデンの兄、ライオネスは、寝室の相手は断って、それ専門の騎士を代わりに送り込むそうだが。

もし婦人の相手をしてなかったら、公領地護衛連隊の顔ぶれは、身分高い旦那が警備不行き届きを怒鳴り込む度、クビを言い渡されて変わっていただろう。

「呆れた部署だな」
かつて自分がそう感想を、ディンダーデンに告げたその連隊に、父が居たとは。

が、ふと『宮中護衛連隊』に移った。と聞いて、顔上げる。
「王宮警護では…」
祖父はくすくす笑った。
「こいつは垂らしまくってた」

が父ラフィアンは、祖父を睨む。
「あんたも宮中護衛連隊で、垂らしまくったろう?」
祖父は肩竦める。
「あそこはそういう部署だ。
俺の居た頃は、身分高く腕っ節も強く見目も良く…。
女達が『宮中護衛連隊』の名でどれだけ心、ときめかせた事か…!
今はどうやら、顔だけいい身分高いクズが、体面の為入ってるようだな」

ギュンターはグーデン思い浮かべ、その通りだと顔、下げて頷いた。

「こいつはずっと男から顔が柔だと喧嘩ふっかけられ続け毎度、受けて立ってたから腕っ節は強いと認められ一時、『光の塔』付き連隊も所属し、重要人物の護衛を割り振られてた。
が、あそこは『影』とも、付き合いがある」

父、ラフィアンは顔、下げる。
「…正直、ついて行けなくなった」

ギュンターは自分が戦った『影』思い出し、顔下げる。
「…ぞっとするバケモノだから?」

が父ラフィアンは顔上げる。
「いや?
呪文が長すぎて更に難解で、覚えるのが最悪に面倒だったからだ。
始めは良かった。
先輩らがそりゃ長けていたし、『光の王』が『影』なんか寄せ付けない。
が、『光の王』の力がお年で衰え始めて以来、俺も呪文を覚えろ。
と言って来るんで試したが、丸でモノに出来ない。
結果、「後任を探してくれ」
と言って辞職し、神聖神殿隊付き連隊に移ったが…あっちは短い呪文が使えればいい。
神聖神殿隊騎士はデカくて美形で皆荒っぽいんで、気は、合ったな」

ギュンターはふと…始めの偶然の出会いから、父が自分の経歴話すのを聞くのは初めての事だな。
と顔上げる。

いつも…俺の事ばかり、父は聞いていた。
どうしているのか。と。
「…だが、結果宮中に戻ったんだろう?」

「婚約してな。
ふとした紹介で地元の女に出会った。
身分がそこそこ良い。
美人じゃない。
…俺も多分、疲れていたんだろうな。
彼女はとても、居心地良かった。
空気のように俺を包んでくれる。
多分、『光の塔』付き連隊に行かなきゃ、そんな事にも気づきもしなかった。
で、結婚を考え、国中走り回る神聖神殿隊じゃ落ち着かなくて、宮中のコネを頼り、公領地護衛連隊での補佐の仕事を貰った。

面倒事の収拾じゃ、出来る奴は限られてるしそこら中にコネが無いと務まらなくて、人員が真剣に不足してると言われて。
お陰で待機が長く仕事は少ないが、一旦出動となると確かに厄介だ」

「仕事の内容、聞いて良いか?」
ギュンターが言うと、祖父は笑った。
「中央護衛連隊長としての、職務の為か?」

ラフィアンはうんざり気味で囁く。
「折角身内で居るんだ。
仕事の話から離れられないのか?」

ギュンターは言われ、そっくりな顔で目の色だけ違う、二人を見た。
そして吐息吐く。

きっと三人並んで歩いたら、年が少しずつ離れた兄弟に見えるだろう。
そう思うと急に自分が、二人の一番下の弟に思えて俯く。

「…だってあんたら、中央護衛連隊長に成るなんて馬鹿だ。
と思ってるだろう?
俺だって自分が成るなんて思ってなかった」

二人は顔、見合わせて同時に言った。
「そっちの経緯を、聞きたいな」

そして二人また顔を見合わせ、祖父が
「思ってないのに成るなんてアリか?」
と言い、父は
「なんでロクに知らないのに成るなんて、言うかな…」

と言い、結果尋ね顔の二人に、ギュンターは経緯を話し始めた。
途中二人は眉間寄せまくっていたから、かなり…後悔したが。

話し終えると二人は乗り出した身を引き、おもむろに祖父が呟く。
「…成る程。
要するに、北領地[シェンダー・ラーデン]大公子息に惚れたのが最大の原因か…」
と口を濁し、父迄も大きな溜息を付く。

「まあもう一応子供は居るんだから、相手が…だろうが問題ないだろうが………」
と父は言って祖父を見、祖父も浮かない顔で『そうだな』と、一応相づち打って頷く。

ギュンターは二人の様子に斬り込む。
「…男相手に…しかも北領地[シェンダー・ラーデン]大公なんて大層な身分の子息に、本気で惚れるなんて馬鹿だと、思ってるな?!」

二人同時にギュンターからさっ!と顔背け、その顔には
『その通りだ』
と書いてあった。




       ー END ー


後日、ギュンターは二人から書状を受け取った。

そこには揃って、言葉こそは違うものの

『中央護衛連隊長はお前の“隠し子”か?』
と、知り合い全部に、こっそり聞かれた。

と恨みがましく責めるように書かれてあって、ギュンターは憤慨して羊皮紙二つとも、力一杯床に叩きつけた。









 ラフィアン

 



 ギュンターはその後気になり、父ラフィアンの経歴や仕事内容を知る為、公領地護衛連隊の隊長ライオネスを呼び出す。

ディンダーデンは横のソファで沈んでいた。
兄、ライオネスが姿を見せても、まだ。

ライオネスは室内に足踏み入れると、一つ礼をし、執務室の机の前に座るギュンターへと進み来る。
「公領地護衛連隊特殊機構のラフィアン。
その経歴について、調査が済みました」

ギュンターは机を挟んで立つ、隙無い美男を見上げる。
全く…見事に礼儀正しく、気品もありかつ、頼りがいのある申し分無い幾らか年上の男。

暫くライオネスを惚けて見つめる。
ライオネスは一つ、咳ばらうと告げる。
「報告を、してよろしいんで?」

ギュンターはつい、頬染めて顔下げる。
ライオネスは微笑むと、そっと言った。
「私に何か、ご意見がおありで?」

ギュンターはとうとう、音を上げた。
「…頼む。
他では長としてちゃんとするから…人の居ないここでは、俺に敬語は使わないでくれるか?」
「…それは、命令で?」
「…そうだ」

ライオネスは、では。
と居ずまいを崩すと、斜め横のソファに沈み込む、弟をチラと見る。
ギュンターは気づき、呟く。
「…あいつも美男だが、あんたとは全然印象が違う」
ライオネスは肩竦めると
「まさか私が美男だったから、惚けて見てたのか?」
「…そうだ。
ディンダーデンは見慣れてるが、あんたは違う」

ライオネスはとうとう、クスクス笑い出す。
「君の方が、やりにくそうだな?」
ギュンターはふて切った。
「当たり前だ!
補佐は二人まで据えていいと言われたから、出来ればあんたに補佐になって貰いたいが…」

「が?」
「それを言った人事部長が、途端真っ青に成った。
…あんたが公領地護衛連隊から抜けたら…暫くは凄い混乱が起こるし…あんたにぞっこんの公領地の身分高いご婦人達らに怒鳴り込まれ、どうして移動させたのか!
とどれだけ嫌味を言われる事か。と。
説得役が居ないと、無理だそうだ」

ライオネスはくすり。と笑い
「…それで、特殊機構ですか?」
ギュンターは父の経歴が知りたかっただけだったが、面倒事の収拾とはまさに、こんな場合だと突然思い当たる。
「…まあな。
ラフィアンの、顔はあんた、知らないのか?」

ライオネスは肩竦めると
「特殊機構は本当に特別な部署なので。
束ねる役職も、長が付かずに担当官。と呼ぶし」

「…どんな部署か、詳しく知りたい」
と目でライオネスの横の椅子を目で指す。
ライオネスは直ぐ察し、椅子にかけて口を開く。

「さっき君が言ったように、面倒な案件を受け持つ。
中央護衛連隊は宮中護衛連隊、公領地護衛連隊と、身分の高い者らを大勢相手にするから。
もめ事ですら、ほんとに些細な事でも大事になりやすい。
そう言った場合、特殊機構に依頼すると、こちらの都合の良いように収めてくれる。
あらゆるツテやコネを使って。
…時には、贈り物も欠かせないので、小さな部署だがかなりの予算を使う事を認められている。
…時には小さな火種が原因で、中央護衛連隊長ですら辞任に追い込まれる場合すらあるので…」

「…辞任を回避する為なら、どれだけでも予算を使え。
と命じるだろうな。
歴代中央護衛連隊長らも、皆揃って」
「今は君だ」

ギュンターは頷く。
「出動は少ないと聞いた」
「ラフィアンは知り合いなのか?」
「俺の実父だ。表向きは他人だが。
顔がそっくりだから、一発で親子だとバレる」

ライオネスは一瞬惚け、だが真顔に戻る。
「…つまり正式な親子じゃなく…」
「ああ。
母は結婚せず彼の子の俺を産んだ。
だが俺の実父だからって特別扱いする必要は無い。
その…給料上げるとか、特別待遇するとか」

ライオネスはくすり。と笑う。
「特殊機構を、全く知らないな?
特殊機構の要員は少ない。
だがその給料は馬鹿高いし、待遇だって今更良くしなくても、十分いい。
勿論表だって動かないから、中央護衛連隊の騎士らと面識は無く、尊敬も受けないが」

「……………」
ギュンターは机に肘付き、両手を目の前で重ね、囁く。
「馬鹿高い?」
「私はまた、その小さな部署が一連隊程の予算を使ってるから、削る為に内情を調べろ。と言われたのかと思った」
「いや」

「私も公領地ではかなりのコネがあるし、不祥事は出来るだけ収めるようにしてる。
だがそれでは済まない、滅茶苦茶な言いがかりをつける身分の高い御仁も居る」

「そんな時、特殊機構部隊は動くんだな」
ディンダーデンがのそり。とソファから上体起こし、後の言葉をかっさらう。

 



ギュンターが、ディンダーデンがにやり。と笑うので、顔下げる。
「俺の懐刀の意見では…あんたにもう一人の補佐になって貰って、堅実な事はあんたに頼み、女を垂らす必要がある時と、脅しが必要な時、ディンダーデンに出向いて貰えと」

ライオネスはかったるそうにソファの上で上半身起こし首回してる、弟ディンダーデンを横目に言った。
「だがあいつが、私と一緒に肩並べて仕事をするかと、懸念してるんだな?」

ギュンターは顔揺らし、ディンダーデンを見る。
ディンダーデンは顔下げるが、すっ。とライオネスを見る。
「肩並べろと、ギュンターは言わない。
殆どの仕事はあんたがやる。と。
俺は楽出来るそうだ」

ライオネスは吐息吐くと
「多分、そうなるな」

だがディンダーデンは顎、しゃくる。
「奴の親父の、話続けたらどうだ?」
ライオネスはギュンターを、見る。
「何を、聞きたかった?」

「………この間、俺が親父の上司になった。
と不機嫌だったから…その、体面を保つようにした方がいいのかな。と思って。
つまり親父の」

「昇進か?」
ディンダーデンが上体すっかり起こし、片膝立ててその上に腕乗せる。

が、ライオネスが首竦めた。
「必要無いでしょう?
だって給料は一連隊長より高い。
酷く面倒な案件なら、報奨金も上乗せされる。
つまり一年間、仕事が無くても給料は支払われ、報奨金に拠っては君より高い給料を受け取る」

「…………………………………つまり………」
「中央護衛連隊長も大変な役職だが、特殊機構も、やれる人材はそうそう居ない」

「…宮中護衛連隊長より高いのか?」
「そうだ。仕事内容が丸で違う。
宮中護衛連隊は現在殆どがご婦人の相手。
以前宮中警護は『光の塔』付き連隊も手伝っていたが、今はほぼ『光の塔』付き連隊がしてる。
それで給料を、上げられる筈が無い。
結果特殊機構が動き話を付けて、今の宮中護衛連隊長に支払われる給料は、実は「左の王家」が払ってる」

「そんなとこでも特殊機構が動くのか?」
「以前の中央護衛連隊長が困ってね。
補佐が依頼してみる。
と言った所、見事に片づいた。
但し、「左の王家」から支払われるのは、グーデンが宮中護衛連隊長の時だけだ」

ギュンターは呆れた。
「「左の王家」に、グーデンの給料支払えと?
そんな交渉、成立させるのか?」
ディンダーデンも笑う。
「凄腕だな。
で何人居るんだ?今現在」

「四人」
ライオネスの即答に、ディンダーデンもギュンターを見たが、ギュンターもディンダーデンに振り向く。

「…そんな少数で、足りるのか?」
ライオネスは肩竦める。
「人手が足りない場合は、中央護衛連隊の指名された手隙の騎士が駆り出される」

「なる程」
ライオネスは言ったディンダーデンに振り向く。
「興味あるなら、特殊機構が指名出来る騎士の人員表に、名を乗せるか?」
ディンダーデンは笑った。
「面白そうだな」

「出番があるかは、解らんがな」
戸口からのその声に、三人が一斉に振り向く。

が、ライオネスとディンダーデンはびっくりし過ぎて声も出ない。
ギュンターだけが
「親父…」
と声かける。

ラフィアンが三人の元に歩を運ぶ間中、ライオネスとディンダーデンはその人物を見つめ続けた。

「…どうして…」
ライオネスの横に並び正面から見つめ来るラフィアンに、ギュンターが呟く。

「担当官が。
お前が特殊機構の調査をしてるって。
で、大抵就任したての中央護衛連隊長からウチは毎度、予算を使い過ぎてる。
と疑惑を抱かれる。
息子に必要性をちゃんと、説いて来い!
と送り出された」

言って横をのライオネスを見る。
「君、ウチの担当官に調査は予算を削る為かも。
とほのめかしたろ?」

ライオネスは横でその男を見、正面のギュンターを見…。
やっと、違いを見つけてほっとする。
「ああ瞳の色が…!」

ディンダーデンもソファの上から、首振って二人を…間違い探しのように見つめ、呻く。
「確かに…!
ブルーと紫だな…!」

ラフィアンは一気に安堵するライオネスに頷く。
「違いが分かって、良かったな…!
で?どこ迄話した?」
「…貴方の給料が、ヘタしたら中央護衛連隊長より多い。と」
「でその理由は言ったのか?」

が途端ディンダーデンが、ほぼ叫ぶ。
「首振る仕草も、そっくりだな…!」
ライオネスは心からほっとして
「だが目を見れば解る。
これで上司を間違えなくて済む!」

ギュンターは二人の反応に俯き、ぼそり…。とラフィアンに言った。
「じいさん迄来たら…二人は気が狂ってないか?
もしかして」
「目の色の違いに安堵するさ!
質問の答えは?」
そうライオネスに催促する。

ライオネスが返事しようと口開くが、ディンダーデンが怒鳴った。
「じいさん?
まさかじいさんも、そっくりだってのか?!」

ライオネスは言いそびれ、開けた口から吐息吐き出す。
ギュンターがすかさず言う。
「エシャルを食ってるから、年だってせいぜい、長男に見える位若々しい。
だがじいさんの目はグリンだ」

「…………つまり顔はそっくりで、仕草や雰囲気も似てるが、目の色だけは違うんだな?」
ディンダーデンの言葉に、ラフィアンはギュンターを見る。
「そっくりか?
俺の方が、こいつよりクールだ。
奴のじいさんで俺の親父は、こいつや俺より陽気だしな」

ギュンターもおもむろに口開く。
「「右の王家」の血を継いでるだけあって、そっち系だな」

が、ディンダーデンは眉寄せる。
「それだって僅かで、比べてみて初めて解るんだろう?
個別じゃ目の色以外は、ほぼ一見では判別できないぞ?」

ギュンターとラフィアンが顔、見合わせる。
が、ラフィアンはライオネスをじっ。と見る。
「…失礼。
調査と言われ担当官より概要は聞かされたが…。
実は今日は、詳細な調査条項をききに来たんです。
正式な調査依頼は今日で」

ラフィアンは上から目線でジロリ…。
とライオネスを見る。
「なる程。流石公領地護衛連隊長だけあって、打つ手が早いな」

そしてギュンターを見る。
「長のお前より給料が多くたって、必要経費が馬鹿高いし給料から出す。
ってのが昔からの決まりだとかで…。
つまり自前がありゃ、多く給料を受け取れる。
ってだけだ」

「自前?」
ギュンター、ライオネス、ディンダーデンの声が揃う。
「どこに出入りして話付けると思う?
時には王宮舞踏会だ。
いつも早々同じ服も着ていられない。
衣服や装飾品にどれだけかかると思う?
王族に会いに行く服だって、見窄らしい服で行けるか?!」

「…つまり…そう言う礼服は自分で用意しろと?」
ライオネスが聞くと、ラフィアンは頷く。
「贈り物は必要経費で計上できるが、衣服はサイズがあるから自前で用意しろとぬかす。
装飾品は一応偽物が幾つか用意されてるが…。
出動がかかると全員で取り合いになる。
それに偽物を直ぐ見破る相手には、本物付けてかなきゃならん」

「……………………」
三人が押し黙り、ギュンターが囁く。
「結果、自分で買うしか無いのか?」
ラフィアンは頷く。
「本物の宝石なんて、そうそう借りれないからな」

そしてギュンターを見る。
「お前だって、舞踏会に頻繁に呼ばれる。
隊服で押し通すか、そうでなけりゃかなり衣服代がかかるし、迂闊な格好すると身分高い奴らに舐められる」

「……………そんなに高いのか?
俺は一応、否応なしに押しつけられた形だから、エルベス大公とダーフス大公が用意してくれる」
「いつ迄だ?
任期中ずっとか?
いずれ自分で用意する日が来る。
まあそれがかなり先なら、礼服も溜まるから使い回しも出来るかもな!」

ギュンターが、ライオネスをそっ…と見る。
「あんた、公領地護衛連隊長だろう?
やっぱ、舞踏会は頻繁に出てるんだろう?
礼服ってそんなに、高いのか?」

ライオネスがじっ…とギュンターを、見た。
「…一通り用意出来るまでは、結構かかる。
が、20着程作っておけば、後は…順繰りに変えて行けばなんとか凌げる」

ギュンターは今度はディンダーデンに顔向ける。
ディンダーデンはむっ。として言った。
「…お前の就任舞踏会だって、大公家の借り物だ。
一枚だって、持ってないぞ?
近衛時代は隊服にしか、金かけて無かったからな!
それだって王宮舞踏会に出る礼服と比べれば、うんと安い!」

ギュンターは俯くと、呟く。
「…つまり中央護衛連隊の隊服を少し高級にすれば、それで何とか凌げるんだな?」

ラフィアンは、頷く。
「隊服ってのは、一種のステイタスだから、礼服ほど高くなくても皆直ぐ連隊が解って、敬意を払うからな」

ギュンターは、ほっと吐息を吐いた。
「…つまり親父は、連隊を堂々と名乗れないから、自前で馬鹿高い礼服、毎度用意しないと駄目なんだな?」
ラフィアンは大きく、頷いた。

が、ライオネスがラフィアンにそっと言う。
「けれどそれだけの予算を使うだけの仕事をする部署だと、貴方の子息は理解してますよ」
「本当か?」

ギュンターは、ゆっくり頷いた。
「…今の説明で更に、良く理解出来た。
が、一年仕事が無くても高い給料払うんだろう?」

が、ラフィアンが唸る。
「馬鹿か?お前」
ギュンターは今度は真顔で言った。
「あんたとじいさんの、俺への評価はそれ、ばっかだな」

「一年出動が無いからと言って、あちこちに顔出さない訳に行くか?!
出動かかって突然顔出して、相手がこちらの言う事を聞くか?!」

ディンダーデンが、ぼそっ…と言った。
「つまり日頃の根回しが重要で、交際費がかかる。と?」

ライオネスが俯いた。
「そういう相手なら大抵、費用のかかる場所ばかりでしょうね?
お付き合いするのは」
ラフィアンは流石。と大きく頷く。
そしてギュンターに振り向く。
「お前、こんなデキる年上の部下で大丈夫か?
お前よりこいつの方が、よっぽど相応しい。
そう言われる日が、絶対来るぞ?」

ギュンターは机に両手付いて項垂れ、呟く。
「俺だってそう、思い知ってる」

ラフィアンが、大きく頷く。
「だがそれでライオネスが次期中央護衛連隊長になる迄の腰掛け気分で務まる、役職じゃ無いぞ?」

「…………ちゃんと、真面目にやる」
「それじゃ全然足りない!」

言われて、ギュンターは顔上げ、怒鳴る。
「真剣に!全力でやるさ!!!」

ラフィアンはライオネスに向き直ると
「あんたよりうんと馬鹿だが、こう言ってる。
出来すぎのあんたにとって、大層歯がゆいだろうとも思う。
が、悪いが奴を、助けてやってくれないか?」

ライオネスは感じ良く笑って
「上司なので。
助けるのは当然です」

と言い、ラフィアンは感極まってライオネスの腕をぽん。と叩き俯き…そしてギュンターに、向いて言った。
「お前よりよっぽど、中央護衛連隊長の器だ」
ギュンターは反射的に怒鳴った。
「あんたに言われなくても、痛感してる…!!!」

が、ディンダーデンがぼそり…。と呟く。
「兄貴大好きな母は、ライオネスの中央護衛連隊長就任を心から望んでるが…兄貴は
『あんな大変な役職に就かずに済んで良かった』
って言ってるの、聞いたぞ?
本心か?」

皆が一斉に、再び長椅子に背を倒してるディンダーデンを、見つめる。

ライオネスはギュンターとラフィアンにじっ。と見られ、顔下げる。
「ああその…。
つまり母は、私の身分が高ければ高い程自慢出来る。
が、歴代の中央護衛連隊長らは皆、家庭が巧く行かず、結婚しててもほぼ、別居状態で双方愛人に走ってる。
子息らは皆
『父が大嫌いだから、中央護衛連隊にだけは入隊したく無い』
と、口揃えて言う。
私は妻を愛してるし、将来子が出来たら出来るだけ関わりたいから、そんな状態には成りたくなくてね…」

ラフィアンがギュンターを、再び見ると、ギュンターは思いきり顔下げた。
「…つまり、愛する女との結婚生活は諦めろと?」

ライオネスも俯き加減で頷く。
「大抵、中央護衛連隊長の重圧で性格が激しく非情に成って、妻はついて行けなくなるそうだ…」

ギュンターはもっと、顔下げた。
「そうか………」

ラフィアンは吐息吐くと半ば、怒鳴った。
「良かったな!
惚れてる相手が同様地方護衛連隊の長で!
どんな良く出来た嫁より、お前の苦労を解ってくれるぞ!」

が、その励ましにも、ギュンターは顔上げなかった。

ライオネスは戸惑うように弟に首振り、尋ねる。
「その噂は聞いたが…その…ローランデが北領地[シェンダー・ラーデン]地方護衛連隊長に納まっても、二人の仲は続いていたのか?
ギュンターがフラれて、二人は切れたと聞いたが」

ディンダーデンは兄に見つめられ、首横に振る。
「ローランデの地方護衛連隊長就任祝い代わりに、この馬鹿は“振られ男”の汚名を引き受け、彼を自分との不名誉な関係から、庇ったんだ」

ラフィアンは一つ、吐息吐く。
「お前を馬鹿と思ってるのは、俺やじいさんばかりじゃないんだな?」
言って、長椅子のディンダーデンに振り向く。
「一般論か?」

ディンダーデンはギュンターそっくりの実父に見つめられ、頷く。
「左将軍補佐で奴の長年の悪友も、同意見だ」

(やっぱりそうか…)
の代わりに、実父ラフィアンに長い、深い溜息を吐かれ、ギュンターはきっ!と父を見る。
「俺をどれだけ馬鹿よばわりすれば、気が済むんだ!」

が、ライオネスが即座に言った。
「私は同様の溜息を弟から聞いた。
見捨てられる相手なら、溜息は付かない。
馬鹿だと知っていても、見捨てられないから皆、溜息を吐くんだ」

ギュンターは実父を見、中央護衛連隊長に成りたくない事情を、バラした代わりにライオネスに本心をバラされ、顔背けるディンダーデンを、見た。

「…見捨てる気は、無いのか?」

聞いた同時に、ラフィアンとディンダーデンは俯き、やはり深く長い溜息で、それに返した。




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