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空を見ると、ぽつぽつと、タコの足の切り身が落ちてきている。

今日はたしか、降タコ確率20%だったのに。でも最近時々こうやって、ゲリラ降タコがあったりする。

「か、傘っ!!」

囚われ探偵トラウマがその場に膝を付いて崩れた。

「はいっ!!」

助手はトートバックの中から紺色の折りたたみ傘を出すと、大慌てで拡げて、探偵にパスをする。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ」

探偵は目を見開いて苦しそうに喘いでいたけれど、傘を手に再びゆっくりと立ち上がった。

「まさかタコが降ってくるとはな……。天気予報はいつだって嘘つきなのさ……」

「先生ッ、無理しないでっ!」

少女は傘を持っていない。まぁ、私だってタコ足くらいじゃあまり傘を差さないけれど。タコ足って言ったって、降ってくるのは茹でた状態のモノだからだ。

「真実から見付ければ、謎なんて生まれない! 犯人はお前だ!」

囚われ探偵トラウマが人差し指で私を差した。山高帽、黒縁眼鏡、髭、スーツ。この四つのアイコンは私の好みそのものなのに、こんなことされちゃこの先、眼鏡男子を愛せるかどうかわかんない。眼鏡男子を見る度に、名探偵トラウマのことを思い出しかねない。

なんてことしてくれるんだ。この人は。

私は黙っている。

探偵も何も言わない。

信者らしき少女も。

タコ足の切り身が探偵の肩に落ちる。

「うわっ」

探偵は顔を上げる。

「わーっ、あああああっ!」

傘には穴が開いていた。

暗雲が空に立ちこめて、タコの足がずだだだだと間断なく降り注ぐ。

生臭い。

探偵はその場に跪いた。手放した傘が、風に吹かれて飛んでいく。

「うっ、うぅっ……っ、えぇぇぇっ」

探偵が嗚咽する。

「何でっ、あぁぁぅぅうぅぅっ、もうちょッと、ってところで……また、うっうぅぅぅぅっ」

「先生、大丈夫ですよ。もう大丈夫です」

少女が探偵の背中をさする。

「おぇっ、うえぇぇえぇっ」

探偵が口元を抑えたけれど、間に合わなかったようで、口から何かの塊を吐き出した。

少し大きめのソーセージのようだった。

「うっ、うぅっ……まただよぉ……っ、また出てるよぉっ……」

少女は困ったような、悲しそうな顔付きでただ背中をさすっている。

「何で、もう……っうぅぅぅっ」

探偵がえづいて、ソーセージがまた一本出た。さっきのと繋がっている。

「こんなの、もう、嫌なのに……っ」

喉からソーセージを垂らして、探偵が泣きじゃくる。たこ足が彼の背中を叩いて、落ちた。

探偵はソーセージを掴むと、引っ張って繋がっているソーセージをずるずるずるっと4本ほど出した。

「無理しないで下さい」少女が言う。

「いや、俺は無理をするよ……」

彼は更にソーセージを引きだす。

「いい加減もうやめたいんだ……」

「でも、こんなのキリがありませんよっ! 切るか飲み込むかしないと、収まりません」

「うぅ……」

繋がったソーセージを出したまま、彼は肩を震わせる。

どうやら非常時らしくて、二人はもう私の事なんて忘れている様だ。

この隙に逃げようか、と私は後ずさりする。

すると、尻ポケットの電話がピコピコッと通知を告げた。

慌てて電話を出すと、繋がったままのイヤホンもずるるっと出てくる。

栞夏? と思って画面を見るけど、通知は、ゲリラ降タコを知らせる天気予報サービスからのものだった。

7年前から、雨の代わりに時々タコ足が降るようになっている。

理由は未だに解明されていない。

ニュースでは「異常気象」にカテゴライズしているけれど。

探偵は背中を丸めて嗚咽を上げている。

哀れな泣き声が降り注ぐタコ足の中に響いて、この人ラクになれないのかなあと思いながら、電話をまた尻ポケットに突っ込もうとしたところで、私は手の中のイヤホンに気付く。

『犯人は、持っていた紐状のモノで探偵の首を絞め……』

探偵の言葉が蘇る。

どうしよう。私はイヤホンの紐をぴんと伸ばして、考え込んでしまう。

 

 

おしまい


奥付


囚われ探偵トラウマ

2014/11/11 


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著者 : 蜂子
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