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目次

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プロローグ
三題噺
お題その01:「晩夏」「羅列」「がらくた」
お題その02:「おもちゃ箱」「誰もいない」「ごめんなさい」
お題その03:「聖職者」「荘園」「貨幣」
お題その04:「宇宙人」「ロストテクノロジー」「晩夏」
お題その05:「システムアナリスト」「絵日記」「安全地帯」
お題その06:「必要悪」「多数派」「船」
お題その07:「サヴァン」「はじめて」「誘蛾灯」
お題その08:「雨」「自転車」「階段」
お題その09:「玉繭」「少年時代」「夢」
お題その10:「約束」「館」「人々」
お題その11:「破綻」「オルゴール」「思い出」
お題その12:「写真集」「天井」「鬼」
お題その13:「シュレディンガーの猫」「椅子」「振り子」
お題その14:「しおり」「地図」「空」
お題その15:「座敷童」「双子」「毬」
お題その16:「仁」「乾燥機」「障子」
エピローグ
後書き
奥付

プロローグ

 義弘達は合コンの二次会にカラオケボックスを選んだ。
 しかし、これは義弘達にとって失敗だった。
 会ったばかりの人間を前に歌を歌うような女の子は一人もいなかった。加えて義弘達自身それ程歌に覚えがあるとは言いがたく、歌う者のいないカラオケボックスに自然と不自然な時間だけが過ぎていく。
 どうしたものか……そんな焦りばかりが義弘を苦しめた。
 すると義弘のとなりの赤いワンピースの女が義弘に向かってこう囁いた。
「三題噺でもしない?」
「さんだいばなし?」
 二人だけの秘密の会話をしているようで、少しゾクゾクしながら義弘は彼女の言葉の意味を訊く。
「三題噺というのは三つのお題に従ってお話を作るの」
「ふむふむ」
「お話を完成させた人が次の三つのお題を決めて次の人を指名するのよ」
 なんだか面白そうじゃないか。
 果たして女子連中がこの提案にのってくれるかどうかだ。
「大丈夫よ、女子三人に男子三人。人数的にも丁度良いと思うわ」
 赤いワンピースの女は義弘の耳元で囁き続ける。
「そうか、そうだね」
 せっかくの提案だ。乗ってみるとしよう。
 義弘は椅子の上に立ち上がって高らかに宣言した。
「三題噺始めるぞ!」

お題:「晩夏」「羅列」「がらくた」

 今は、夏の終わり……。
 世間一般の常識に照らし合わせてみても、これほど凄惨な事件を私は他に知らない。
 しかし、事件は実際に起きてしまったのだ。

 そして部屋に集まった私を含む関係者を前に探偵は彼の推理を語り続けている。

 だが、私の目の前にいる探偵が紡ぎ出すその解答は私にとっては何の意味も無い単なる
言葉の羅列に過ぎなかった。
「……という訳なのです」
 ある女性は部屋いっぱいに立ちこめた血なまぐさい臭気に耐えられず部屋の隅に屈み込んでいる。
 その側で男性があからさまに気丈な様を演じて、女性に言葉をかけている。
「大丈夫かい?」
「ええ、何とか……」
 その女性は探偵に向かってこう尋ねた。
「しかし、一体そんながらくたを使って本当に殺人など可能なのですか?」
 彼女はとても探偵の言葉を信用出来ないといった様子だった。
「可能です。いえ、がらくたに見えるからこそ犯人はこの凶器を選んだのです」
 探偵は私の足下に転がっているそれを指して自信満々にそう答える。

 探偵の発言は間違っている。

 しかし私は身動き一つ取る事が出来ず探偵の言葉を聞くだけだ。
「では、犯人は一体誰なのですか?」
 探偵の雇い主でもある屋敷の主が尋ねた。
「ずばり犯人はこの部屋の中にいます」
 探偵はあっさりとそう言ってのけた。
 私を除く部屋にいる誰もが探偵のその言葉を聞いて息をのんだ。
 だがそんな周囲の様子には一切関心が無いといった様子で探偵は続ける。

 真犯人が一体誰であるのかをみんなに伝えるために。

「あらゆる観点を鑑みて犯人は……」
 私は知っている。
 彼がこれから名指しする人物は犯人では無い事を私は知っている。
 なぜなら私は真犯人を知っているからだ。

 この晩夏に起きた凄惨な事件は私の身に起きた事だから。
 
 しかし死んでしまった今の私には真相を伝える術が無い。

 部屋の中央で血だまりの中横たわったままの私に時折目をやりながら、
今まさに嘘の語り部はこの事件を強制的に解決しようとしている。

「「犯人はお前だ!」」


お題:「おもちゃ箱」「誰もいない」「ごめんなさい」

 僕は既視感にとらわれる。

 そう、これじゃまるであの時と同じだ。
 僕が小学生だった頃、部屋いっぱいにおもちゃ箱をひっくり返した時と全く同じじゃないか。しかし、あの当時と決定的に違う事は、今の僕を叱ってくれる人間は誰もいない事。
 僕は真っ暗な部屋で一人涙を流す。

「どうしてこんな事に……」
 僕は心の声を口にするが声にならない。

 よくよく考えてみれば、なんてことは無い話しなのに。
 普通のカップルなら笑って済ますであろう事なのに。

 でも、今日の僕にはそれが許容出来なかった。
 なぜなら僕はそれを、それだけを目標に今日まで頑張ってきたのだから。
 それなのに彼女はそれが何でも無いかのように、まるで当たり前だとでも言わんばかりに、あろうこうとか僕の目の前で……。

 結局、僕は我慢出来ずに激高してしまいアパートにあるものを洗いざらいぶちまけてしまった。小学生だったあの頃と同じように……。

 だから彼女は出て行ってしまった。
 そんな僕に呆れて出て行ってしまったのだ。
 そしてきっと彼女はもう戻っては来ないだろう。

 僕は失って初めてかけがえのないものが何であったか気づかされた。
 僕は真っ暗な部屋の真ん中でうなだれる。
 
「……」

『カチッ』

 スイッチの音と共に部屋に灯りがともる。
 僕は部屋の入り口に顔を向ける。


 そこには出て行ったはずの彼女が立っていた。

「ごめんなさい」

 彼女は小さな声で呟いた。

「え?」
 思わず僕は彼女の言葉に問い返す

「だから、ごめんなさい!」
「あ、うん」
 僕は彼女の言葉の真意を図りかねた。

「あなたが未だにクック先生に手こずっているとは思わなかったの」
「クック先生? イャンクックのこと?」
 イャンクックとはゲーム『モンスターハンター』に登場するボスキャラの事だ。僕はこいつを倒すべく今日まで睡眠時間を削って頑張ってきたのだ。彼女はそんな僕の見ている目の前であっさりと倒してしまったのだ。
「クック先生は初心者にとって最初の登竜門なの」
 彼女は一冊の本を僕に手渡した。
「こ、これは?」
「攻略本よ。一緒に倒しましょう……ね?」
 暖かい彼女の言葉に耳を傾けながら僕は安堵する。 
 もうゲームなんてどうでもいいんだ。
 だから、僕は心から感謝の気持ちを込めてこう言った。

「ありがとう!」
 散らかった部屋で僕たちは抱き合った。

お題:「聖職者」「荘園」「貨幣」

 これは承久二年のお話。
「困った……」
 一見してそれなりの身分の男は部屋の中を行ったり来たりしながら呟いていた。
「実に困った……」
 同じ台詞を繰り返す男の様子を見かねて男の嫁がこう言った。
「お前様、何をそんなに困っているのです?」
 男は腕を組んだまま、難しい顔でこう答えた。
「実は先の戦の後、幕府からお達しがあったのだ」
 男の言う戦とは後に『承久の乱』などと呼ばれるようになる。
「戦の結果はお前も知っているだろ?」
「はいな」
「私がどちらについたかも知っているだろう?」
「はいな」
 男は上皇側についていた。
「まあ、結果として私の荘園は没収されることになってしまったのだよ」
 そう言うと男はガックリと肩を落とした。
「なんと! まぁ、それは大変ではありませんか!」
 この時代の嫁にしてみれば領地の没収はただ事では無い。それこそ身分の没落を意味する。
 嫁はしばらく考えた後、こう言った。
「町外れのお坊様に相談してみては?」
「ふむ?」
「あの方なら聖職者でいらっしゃる。きっと相談に乗って下さいますよ」
「それもそうか!」
 男はわずかばかりの金を包むとさっそくお坊様のところへと出かけた。

 まずはじめに男は坊様に金を握らせた。
 そして、蕩々と自分の身に迫った切実な状況を説明した。
「ふむふむ……」
 男の話を聞いた坊様は俯いたまま何度も頷いた。
「私はこれから一体どうすればよろしいですか?」
 男は坊様に尋ねる。
 すると坊様はこんな事を言った。
「この金は持って帰りなされ」
 坊様の意外な言葉に男は耳を疑った。
 少ないといえど現代の貨幣価値に照らし合わせてみれば一〇万円ほどにはなる。

「それを元手に一からやり直しなされ」
「ええ! そんなご無体な……」
 それなりの身分である男にとって坊様の言葉は酷だった。
「命があっただけでも有難い事ですぞ」
「そうかもしれませんが……」
 不満げな男の様子を見て坊様はこう断じた。
「全ては前世で犯した罪ゆえの結果なのです」
「……そ、そうですか……」
 聖職者にそう言われてしまっては男も返す言葉が無い。
 結局、男はトボトボと帰って行った。

 しかし男は知らなかった。
 坊様が幕府側に付いていた事を……。
 大勝した幕府から結果として大きな領地が与えられる事になった事を……。
 そしてその領地が敗者の荘園から分け与えられる事を……。

「これもまたワシが前世で為した善行のおかげかな。くっくっく……」
 一人含み笑いをする坊様。
 それからしばらくして、事実を知った男によって坊様は切られることになる。
 
 でも、それはまた別のお話。


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