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プロローグ

 義弘達は合コンの二次会にカラオケボックスを選んだ。
 しかし、これは義弘達にとって失敗だった。
 会ったばかりの人間を前に歌を歌うような女の子は一人もいなかった。加えて義弘達自身それ程歌に覚えがあるとは言いがたく、歌う者のいないカラオケボックスに自然と不自然な時間だけが過ぎていく。
 どうしたものか……そんな焦りばかりが義弘を苦しめた。
 すると義弘のとなりの赤いワンピースの女が義弘に向かってこう囁いた。
「三題噺でもしない?」
「さんだいばなし?」
 二人だけの秘密の会話をしているようで、少しゾクゾクしながら義弘は彼女の言葉の意味を訊く。
「三題噺というのは三つのお題に従ってお話を作るの」
「ふむふむ」
「お話を完成させた人が次の三つのお題を決めて次の人を指名するのよ」
 なんだか面白そうじゃないか。
 果たして女子連中がこの提案にのってくれるかどうかだ。
「大丈夫よ、女子三人に男子三人。人数的にも丁度良いと思うわ」
 赤いワンピースの女は義弘の耳元で囁き続ける。
「そうか、そうだね」
 せっかくの提案だ。乗ってみるとしよう。
 義弘は椅子の上に立ち上がって高らかに宣言した。
「三題噺始めるぞ!」

お題:「晩夏」「羅列」「がらくた」

 今は、夏の終わり……。
 世間一般の常識に照らし合わせてみても、これほど凄惨な事件を私は他に知らない。
 しかし、事件は実際に起きてしまったのだ。

 そして部屋に集まった私を含む関係者を前に探偵は彼の推理を語り続けている。

 だが、私の目の前にいる探偵が紡ぎ出すその解答は私にとっては何の意味も無い単なる
言葉の羅列に過ぎなかった。
「……という訳なのです」
 ある女性は部屋いっぱいに立ちこめた血なまぐさい臭気に耐えられず部屋の隅に屈み込んでいる。
 その側で男性があからさまに気丈な様を演じて、女性に言葉をかけている。
「大丈夫かい?」
「ええ、何とか……」
 その女性は探偵に向かってこう尋ねた。
「しかし、一体そんながらくたを使って本当に殺人など可能なのですか?」
 彼女はとても探偵の言葉を信用出来ないといった様子だった。
「可能です。いえ、がらくたに見えるからこそ犯人はこの凶器を選んだのです」
 探偵は私の足下に転がっているそれを指して自信満々にそう答える。

 探偵の発言は間違っている。

 しかし私は身動き一つ取る事が出来ず探偵の言葉を聞くだけだ。
「では、犯人は一体誰なのですか?」
 探偵の雇い主でもある屋敷の主が尋ねた。
「ずばり犯人はこの部屋の中にいます」
 探偵はあっさりとそう言ってのけた。
 私を除く部屋にいる誰もが探偵のその言葉を聞いて息をのんだ。
 だがそんな周囲の様子には一切関心が無いといった様子で探偵は続ける。

 真犯人が一体誰であるのかをみんなに伝えるために。

「あらゆる観点を鑑みて犯人は……」
 私は知っている。
 彼がこれから名指しする人物は犯人では無い事を私は知っている。
 なぜなら私は真犯人を知っているからだ。

 この晩夏に起きた凄惨な事件は私の身に起きた事だから。
 
 しかし死んでしまった今の私には真相を伝える術が無い。

 部屋の中央で血だまりの中横たわったままの私に時折目をやりながら、
今まさに嘘の語り部はこの事件を強制的に解決しようとしている。

「「犯人はお前だ!」」


お題:「おもちゃ箱」「誰もいない」「ごめんなさい」

 僕は既視感にとらわれる。

 そう、これじゃまるであの時と同じだ。
 僕が小学生だった頃、部屋いっぱいにおもちゃ箱をひっくり返した時と全く同じじゃないか。しかし、あの当時と決定的に違う事は、今の僕を叱ってくれる人間は誰もいない事。
 僕は真っ暗な部屋で一人涙を流す。

「どうしてこんな事に……」
 僕は心の声を口にするが声にならない。

 よくよく考えてみれば、なんてことは無い話しなのに。
 普通のカップルなら笑って済ますであろう事なのに。

 でも、今日の僕にはそれが許容出来なかった。
 なぜなら僕はそれを、それだけを目標に今日まで頑張ってきたのだから。
 それなのに彼女はそれが何でも無いかのように、まるで当たり前だとでも言わんばかりに、あろうこうとか僕の目の前で……。

 結局、僕は我慢出来ずに激高してしまいアパートにあるものを洗いざらいぶちまけてしまった。小学生だったあの頃と同じように……。

 だから彼女は出て行ってしまった。
 そんな僕に呆れて出て行ってしまったのだ。
 そしてきっと彼女はもう戻っては来ないだろう。

 僕は失って初めてかけがえのないものが何であったか気づかされた。
 僕は真っ暗な部屋の真ん中でうなだれる。
 
「……」

『カチッ』

 スイッチの音と共に部屋に灯りがともる。
 僕は部屋の入り口に顔を向ける。


 そこには出て行ったはずの彼女が立っていた。

「ごめんなさい」

 彼女は小さな声で呟いた。

「え?」
 思わず僕は彼女の言葉に問い返す

「だから、ごめんなさい!」
「あ、うん」
 僕は彼女の言葉の真意を図りかねた。

「あなたが未だにクック先生に手こずっているとは思わなかったの」
「クック先生? イャンクックのこと?」
 イャンクックとはゲーム『モンスターハンター』に登場するボスキャラの事だ。僕はこいつを倒すべく今日まで睡眠時間を削って頑張ってきたのだ。彼女はそんな僕の見ている目の前であっさりと倒してしまったのだ。
「クック先生は初心者にとって最初の登竜門なの」
 彼女は一冊の本を僕に手渡した。
「こ、これは?」
「攻略本よ。一緒に倒しましょう……ね?」
 暖かい彼女の言葉に耳を傾けながら僕は安堵する。 
 もうゲームなんてどうでもいいんだ。
 だから、僕は心から感謝の気持ちを込めてこう言った。

「ありがとう!」
 散らかった部屋で僕たちは抱き合った。

お題:「聖職者」「荘園」「貨幣」

 これは承久二年のお話。
「困った……」
 一見してそれなりの身分の男は部屋の中を行ったり来たりしながら呟いていた。
「実に困った……」
 同じ台詞を繰り返す男の様子を見かねて男の嫁がこう言った。
「お前様、何をそんなに困っているのです?」
 男は腕を組んだまま、難しい顔でこう答えた。
「実は先の戦の後、幕府からお達しがあったのだ」
 男の言う戦とは後に『承久の乱』などと呼ばれるようになる。
「戦の結果はお前も知っているだろ?」
「はいな」
「私がどちらについたかも知っているだろう?」
「はいな」
 男は上皇側についていた。
「まあ、結果として私の荘園は没収されることになってしまったのだよ」
 そう言うと男はガックリと肩を落とした。
「なんと! まぁ、それは大変ではありませんか!」
 この時代の嫁にしてみれば領地の没収はただ事では無い。それこそ身分の没落を意味する。
 嫁はしばらく考えた後、こう言った。
「町外れのお坊様に相談してみては?」
「ふむ?」
「あの方なら聖職者でいらっしゃる。きっと相談に乗って下さいますよ」
「それもそうか!」
 男はわずかばかりの金を包むとさっそくお坊様のところへと出かけた。

 まずはじめに男は坊様に金を握らせた。
 そして、蕩々と自分の身に迫った切実な状況を説明した。
「ふむふむ……」
 男の話を聞いた坊様は俯いたまま何度も頷いた。
「私はこれから一体どうすればよろしいですか?」
 男は坊様に尋ねる。
 すると坊様はこんな事を言った。
「この金は持って帰りなされ」
 坊様の意外な言葉に男は耳を疑った。
 少ないといえど現代の貨幣価値に照らし合わせてみれば一〇万円ほどにはなる。

「それを元手に一からやり直しなされ」
「ええ! そんなご無体な……」
 それなりの身分である男にとって坊様の言葉は酷だった。
「命があっただけでも有難い事ですぞ」
「そうかもしれませんが……」
 不満げな男の様子を見て坊様はこう断じた。
「全ては前世で犯した罪ゆえの結果なのです」
「……そ、そうですか……」
 聖職者にそう言われてしまっては男も返す言葉が無い。
 結局、男はトボトボと帰って行った。

 しかし男は知らなかった。
 坊様が幕府側に付いていた事を……。
 大勝した幕府から結果として大きな領地が与えられる事になった事を……。
 そしてその領地が敗者の荘園から分け与えられる事を……。

「これもまたワシが前世で為した善行のおかげかな。くっくっく……」
 一人含み笑いをする坊様。
 それからしばらくして、事実を知った男によって坊様は切られることになる。
 
 でも、それはまた別のお話。

お題:「宇宙人」「ロストテクノロジー」「晩夏」

 真っ暗な倉庫に二人の男性がいた。
「これが例のブツかね?」
 そのうちの一人、初老の男性が銀盤状の物体をしげしげと眺めながらそう呟いた。
「はい。大統領閣下」
 真っ黒なスーツに身を包んだもう一人の男性が答える。
「まさか本当に実在したとは思わなかったよ」
「はい。これが発掘された時、担当者は思わず絶句したそうです」
 その言葉を聞いた初老の男性は黙ったままそっと銀盤に触れる。
 無言のまま物体の感触を楽しむ。
「実に滑らかで見事な光沢を放っている……」
「はい」
 初老の男性は黒ずくめの男性に向かってこう訊いた。
「この物体が宇宙人によってもたらされた可能性は?」
「閣下。誠に遺憾ながら地球への地球外生物来訪の可能性は現在の科学によって完全に否定されております」
「ふむ、ということはこれはまさしくこれは旧世代の技術『ロストテクノロジー』ということかね?」
「仰るとおりです」
 黒ずくめの男性は仰々しく答える。
「まさか旧世代の人類にこれ程の技術力があったとは……」
 初老の男性は銀盤に目をやりながら少しばかり悔しそうに唇をかんだ。
 それを見た黒ずくめの男性は初老の男性に向かって語りかける。
「閣下。既にこの物体の解析は完了しております。私の手によって!」
「ふむ……?」
 初老の男性は疑わしい者を見るように尋ねる。
「現在の我々の科学レベルでこの物体を解析できたと言うのか?」
「ええ、完全にとは申し上げられませんが……、内容についてはおおよそ見当がついております」
「聞かせて貰おうか、その解析結果とやらを……」
「これです」
 黒ずくめの男性は銀盤をひっくり返した。
「キ、君! 何を!」
 驚く初老の男性。
 しかし黒ずくめの男性は動じる事無くひっくり返した銀盤のある場所を指さす。
「閣下、ここをご覧下さい」
「む?」
 黒ずくめの男が指さすそこには古びてボロボロになってはいるが確かに紙テープが貼られてあった。

「君、これは?」
「ここには文字が記載されています!」
 ブルブルと震えながら初老の男性は尋ねる。
「君! ここには、一体何と書かれているのだね?!」

 それに対して黒ずくめはこう答えた。
「『晩夏(ひとりの季節)/荒井由実 作詞・作曲』です!」

 時は西暦二八四二年。
 これは人類が旧世代の遺物『コンパクトディスク』の解析に初めて成功した瞬間の物語である。



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