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お題:「仁」「乾燥機」「障子」

 梅雨のこの季節になると毎年のように思い出す。

「まったく毎日毎日お洋服を汚してきて!」
「だって、お外で遊ぶと汚れるんだもん……」
「この子はまたそんな言い訳をして!」
 私は手際よく息子のシャツとズボンを脱がせると洗濯機に放り込んだ。
 やれやれ……、さっき聴いたラジオの天気予報によれば今週はずっと雨らしい。
 この調子でいくといつまで経っても洗濯物を干すことが出来ない。
「はぁ……」
 思わずため息が溢れる。
「お母さん、どうしたの?」
 不思議そうに小首を傾げる息子。
 全く無邪気なモノだ。
「あのね。今週はずーっとお天気は雨なの。だから洗濯物を乾かすことが出来ないの」
「あの『ごぉーっていう機械』じゃだめなの?」
 息子が言っている『ごぉーっていう機械』とは乾燥機のことだ。
 ただし乾燥機は乾燥機でも布団乾燥機なのだ。
 無論、洗濯物を乾かすことが出来ないわけでは無いけれど、生乾きになることが多いので私はあまり好きでは無い。
 私が難しい顔していると、息子はこう言った。
「仁志君に頼もうか?」
「仁志君?」
 一体誰のことだろう。
 息子の新しく作った友達のことだろうか。
「お母さん、ちょっとこっちへ来て!」
 息子は私の服を引っ張ると隣の和室へ向かおうとする。
「こら! お隣のお部屋にはおばあちゃんが寝ているからダメって言ってるでしょう!」
「いいから、いいから!」
 私の言うことを聞こうともせずに息子は私を連れて、和室の障子を開く。
 和室には案の定お義母様が布団の上で横になっていた。
「おばあちゃん、仁志君貸して!」
「……うーん? ひとし君かい?」
 横になったままお義母様は穏やかに微笑みながら窓を指さしこう言った。
「ひとし君ならあそこにいるよ」


 お義母様の指さした先には可愛らしいてるてる坊主がぶら下がっていた。

「仁志君! お母さんが困っているので明日は天気にして下さい!」
 息子は窓にぶら下がったてるてる坊主に向かって懸命にお願いをしている。
「お義母様……」
「いいんだよ。それに意外とひとし君は頼み事を聞いてくれるものなんだよ……」
 お義母様はそう言ってお茶目にウィンクして見せてくれた。

 翌日の天気は晴れだった。


 和室にお義母様がいなくなった今でも仁志君は窓にぶら下げたままにしている。
 お義母様の代わりに仁志君が息子を見守っていてくれる……そんな風に感じたから……。

エピローグ

「やれやれ、これで一体何巡したんだ?」
 淳は呟いた。
「だいた三巡目くらいじゃないの?」
 佐津紀が応える。
「そうか、結構盛り上がったな」
 義弘はそう言いながら気になっている事を尋ねる。
「ところでさ、まだ一度も回っていない奴はどうするの?」
「え?」
 淳が不思議そうに首をかしげる。
 部屋にいる他の全員も怪訝な顔をしている。
 あれ? 俺今おかしな事言ったか?
「義弘、お前何言ってるの?」
 哲夫が義弘に向かって尋ねる。
「いや、俺の隣の女の子まだ一回も順番に当たっていないからさ」
 義弘は隣に座っている赤いワンピースの女子を見ながらそう応えた。
「あはは、なるほどね!」
 義弘の対面に座っていた祐子は納得したようにこう言った。
「最後はホラーでオチを持って行こうって作戦ね! なかなかエロいじゃん!」
「いや、そういうわけではなくてさ……」
 義弘は頭をポリポリ掻きながら困ったような顔で誰かに助けを求める。
 真面目な顔を崩そうとしない義弘を見て淳がこう呟いた。
「義弘、お前の隣ってさ……。縦鏡なんだけど?」
「!?」
 義弘は思わず立ち上がって振り返る。

 ……。

 確かにそこには縦鏡しかなかった。
「お前時々だれと会話してたの?」
 哲夫がたたみ掛けるように問いかける。
「……?!」
 混乱してコメントのしようもない義弘。
 そんな中で、祐子がこう言った。
「もういいじゃん。取りあえず楽しい時間も過ごせたし今日はこれでお開きにしよ!」
「おぉっ! だったらメールアドレスの交換をしようぜ」

「いいわよ」
 義弘を除くみんなが各自のメールアドレスの交換を始める。
「義弘、お前はいいのか?」
 淳にそう言われてようやく我に返る。
「あ、ああ、じゃあ。俺も……」
 義弘のメールアドレス交換を待って、一同は店を後にした。
「解散!」
 淳が今日の合コンの終了を宣言した。
「今日はありがとね!」
「じゃね!」
 女の子の声を背中に聴きながら、義弘はその場を一人後にする。
 
 何だったのだろう?
 あの赤い女は?

『ブルブルッ!』

 携帯のバイブレーションが義弘にメールの着信を告げる。
 きっとさっきの女の子からのお礼のメールだろう。

 義弘は携帯を開いた。
 タイトル無し。
 発信者不明。
 本文をダブルクリックすると、液晶画面には携帯で撮影されたと思われるさほど鮮明では無い写真が映し出された。

 そこには鏡越しの赤い黒いワンピースの女に話しかける自分が撮影されていた。

 思わず義弘は絶叫した。(了)


後書き

 読者の皆様、おはこんばんちわ。

 そして読了お疲れ様でした。

 さてさて、後書きと言うことで何を書こうか迷ったのですが、本書を執筆するに至った経緯など徒然なるままに。
 まあ、興味の無い人もここまで来たら少し聞いていって下さいませ。

 実は本作は当初短編ホラー集を目指していたのですが、ご存知の方はご存知の通り3話で挫折しました。もう完全にネタ切れです。

 それから1年間筆を執らずにいたのでなまった腕を取り戻すべくMixiの三題噺トピで執筆の練習をさせて頂いた次第です。
 練習とはいいつつも気付けば15話以上も駄文を書かせて頂きまして、せっかくの機会ですので取りまとめてPubooで公開しようと思い立ったわけです。

 さて、いざ公開の段になって悩むのが表紙。
 以前は自分で描いたりしてたのですが、最近はその気力すら沸かないのでどうしたモノか悩んだ末、思い出したのが本作品「カラオケの女」。

 表紙だけが異様にインパクトがあると好評でしたので、再利用することに致しました(汗

 そんな訳で、当初「カラオケの女」に収録していた三作品は全てカットして代わりに三題噺の物語を大幅に加筆しております。

 加筆と言いましてもなにぶん一年ぶりの執筆活動である点と三題噺という制約の中で作成した物語達ですので至らない点はご容赦くださいませ。せめて1話でも心に残る作品があることを祈って筆を置きたいと思います。

 最後に、お題を提供して頂いたMixiのラノベコミュの方々には感謝申し上げます。
 それでは失礼致します。

奥付



カラオケの女


http://p.booklog.jp/book/9472


著者 : 由納言
http://yoshinagon.blog135.fc2.com/


発行所 : ブクログのパブー(http://p.booklog.jp/
運営会社:株式会社paperboy&co.


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この本の内容は以上です。


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