閉じる


<<最初から読む

4 / 21ページ

お題:「おもちゃ箱」「誰もいない」「ごめんなさい」

 僕は既視感にとらわれる。

 そう、これじゃまるであの時と同じだ。
 僕が小学生だった頃、部屋いっぱいにおもちゃ箱をひっくり返した時と全く同じじゃないか。しかし、あの当時と決定的に違う事は、今の僕を叱ってくれる人間は誰もいない事。
 僕は真っ暗な部屋で一人涙を流す。

「どうしてこんな事に……」
 僕は心の声を口にするが声にならない。

 よくよく考えてみれば、なんてことは無い話しなのに。
 普通のカップルなら笑って済ますであろう事なのに。

 でも、今日の僕にはそれが許容出来なかった。
 なぜなら僕はそれを、それだけを目標に今日まで頑張ってきたのだから。
 それなのに彼女はそれが何でも無いかのように、まるで当たり前だとでも言わんばかりに、あろうこうとか僕の目の前で……。

 結局、僕は我慢出来ずに激高してしまいアパートにあるものを洗いざらいぶちまけてしまった。小学生だったあの頃と同じように……。

 だから彼女は出て行ってしまった。
 そんな僕に呆れて出て行ってしまったのだ。
 そしてきっと彼女はもう戻っては来ないだろう。

 僕は失って初めてかけがえのないものが何であったか気づかされた。
 僕は真っ暗な部屋の真ん中でうなだれる。
 
「……」

『カチッ』

 スイッチの音と共に部屋に灯りがともる。
 僕は部屋の入り口に顔を向ける。


 そこには出て行ったはずの彼女が立っていた。

「ごめんなさい」

 彼女は小さな声で呟いた。

「え?」
 思わず僕は彼女の言葉に問い返す

「だから、ごめんなさい!」
「あ、うん」
 僕は彼女の言葉の真意を図りかねた。

「あなたが未だにクック先生に手こずっているとは思わなかったの」
「クック先生? イャンクックのこと?」
 イャンクックとはゲーム『モンスターハンター』に登場するボスキャラの事だ。僕はこいつを倒すべく今日まで睡眠時間を削って頑張ってきたのだ。彼女はそんな僕の見ている目の前であっさりと倒してしまったのだ。
「クック先生は初心者にとって最初の登竜門なの」
 彼女は一冊の本を僕に手渡した。
「こ、これは?」
「攻略本よ。一緒に倒しましょう……ね?」
 暖かい彼女の言葉に耳を傾けながら僕は安堵する。 
 もうゲームなんてどうでもいいんだ。
 だから、僕は心から感謝の気持ちを込めてこう言った。

「ありがとう!」
 散らかった部屋で僕たちは抱き合った。

お題:「聖職者」「荘園」「貨幣」

 これは承久二年のお話。
「困った……」
 一見してそれなりの身分の男は部屋の中を行ったり来たりしながら呟いていた。
「実に困った……」
 同じ台詞を繰り返す男の様子を見かねて男の嫁がこう言った。
「お前様、何をそんなに困っているのです?」
 男は腕を組んだまま、難しい顔でこう答えた。
「実は先の戦の後、幕府からお達しがあったのだ」
 男の言う戦とは後に『承久の乱』などと呼ばれるようになる。
「戦の結果はお前も知っているだろ?」
「はいな」
「私がどちらについたかも知っているだろう?」
「はいな」
 男は上皇側についていた。
「まあ、結果として私の荘園は没収されることになってしまったのだよ」
 そう言うと男はガックリと肩を落とした。
「なんと! まぁ、それは大変ではありませんか!」
 この時代の嫁にしてみれば領地の没収はただ事では無い。それこそ身分の没落を意味する。
 嫁はしばらく考えた後、こう言った。
「町外れのお坊様に相談してみては?」
「ふむ?」
「あの方なら聖職者でいらっしゃる。きっと相談に乗って下さいますよ」
「それもそうか!」
 男はわずかばかりの金を包むとさっそくお坊様のところへと出かけた。

 まずはじめに男は坊様に金を握らせた。
 そして、蕩々と自分の身に迫った切実な状況を説明した。
「ふむふむ……」
 男の話を聞いた坊様は俯いたまま何度も頷いた。
「私はこれから一体どうすればよろしいですか?」
 男は坊様に尋ねる。
 すると坊様はこんな事を言った。
「この金は持って帰りなされ」
 坊様の意外な言葉に男は耳を疑った。
 少ないといえど現代の貨幣価値に照らし合わせてみれば一〇万円ほどにはなる。

「それを元手に一からやり直しなされ」
「ええ! そんなご無体な……」
 それなりの身分である男にとって坊様の言葉は酷だった。
「命があっただけでも有難い事ですぞ」
「そうかもしれませんが……」
 不満げな男の様子を見て坊様はこう断じた。
「全ては前世で犯した罪ゆえの結果なのです」
「……そ、そうですか……」
 聖職者にそう言われてしまっては男も返す言葉が無い。
 結局、男はトボトボと帰って行った。

 しかし男は知らなかった。
 坊様が幕府側に付いていた事を……。
 大勝した幕府から結果として大きな領地が与えられる事になった事を……。
 そしてその領地が敗者の荘園から分け与えられる事を……。

「これもまたワシが前世で為した善行のおかげかな。くっくっく……」
 一人含み笑いをする坊様。
 それからしばらくして、事実を知った男によって坊様は切られることになる。
 
 でも、それはまた別のお話。

お題:「宇宙人」「ロストテクノロジー」「晩夏」

 真っ暗な倉庫に二人の男性がいた。
「これが例のブツかね?」
 そのうちの一人、初老の男性が銀盤状の物体をしげしげと眺めながらそう呟いた。
「はい。大統領閣下」
 真っ黒なスーツに身を包んだもう一人の男性が答える。
「まさか本当に実在したとは思わなかったよ」
「はい。これが発掘された時、担当者は思わず絶句したそうです」
 その言葉を聞いた初老の男性は黙ったままそっと銀盤に触れる。
 無言のまま物体の感触を楽しむ。
「実に滑らかで見事な光沢を放っている……」
「はい」
 初老の男性は黒ずくめの男性に向かってこう訊いた。
「この物体が宇宙人によってもたらされた可能性は?」
「閣下。誠に遺憾ながら地球への地球外生物来訪の可能性は現在の科学によって完全に否定されております」
「ふむ、ということはこれはまさしくこれは旧世代の技術『ロストテクノロジー』ということかね?」
「仰るとおりです」
 黒ずくめの男性は仰々しく答える。
「まさか旧世代の人類にこれ程の技術力があったとは……」
 初老の男性は銀盤に目をやりながら少しばかり悔しそうに唇をかんだ。
 それを見た黒ずくめの男性は初老の男性に向かって語りかける。
「閣下。既にこの物体の解析は完了しております。私の手によって!」
「ふむ……?」
 初老の男性は疑わしい者を見るように尋ねる。
「現在の我々の科学レベルでこの物体を解析できたと言うのか?」
「ええ、完全にとは申し上げられませんが……、内容についてはおおよそ見当がついております」
「聞かせて貰おうか、その解析結果とやらを……」
「これです」
 黒ずくめの男性は銀盤をひっくり返した。
「キ、君! 何を!」
 驚く初老の男性。
 しかし黒ずくめの男性は動じる事無くひっくり返した銀盤のある場所を指さす。
「閣下、ここをご覧下さい」
「む?」
 黒ずくめの男が指さすそこには古びてボロボロになってはいるが確かに紙テープが貼られてあった。

「君、これは?」
「ここには文字が記載されています!」
 ブルブルと震えながら初老の男性は尋ねる。
「君! ここには、一体何と書かれているのだね?!」

 それに対して黒ずくめはこう答えた。
「『晩夏(ひとりの季節)/荒井由実 作詞・作曲』です!」

 時は西暦二八四二年。
 これは人類が旧世代の遺物『コンパクトディスク』の解析に初めて成功した瞬間の物語である。


お題:「システムアナリスト」「絵日記」「安全地帯」

 大変だ!
 早く課長に知らせなくては!
 僕は転げそうになりながら課長のいる席へ向かう。
「課長、課長!」
「う、うん? 何だ、下北沢君……」
「大変です! 事件です!」
「ああ?」
 寝ぼけ眼の課長が僕に問い返す。
「轢き逃げですよ!」
「ふーん、でガイシャは?」
 事件だというのに何て興味のなさだ!
 同じ公僕として僕は恥ずかしい! そんな事を考えながら手帳をめくる。
「ガイシャは何でも外資系のIT企業に勤めるシステムアナリストだそうです」
 それを聞いた課長は目を見開いた。
「ん、システム……オナニストだと?!」 
 いやいやいや、間違ってるし!
 っていいうかどんな職業だよ、それ!
 僕はキッチリ訂正する。
「課長! アナリストです!」
「アナル人……なの?」
 分かってやってるのか? この人は。
「……もう良いです。」
 これで突っ込みを入れたら単なる駄洒落だ。
「ふん! で、ガイシャはどこで轢かれたんだ?」
 僕の回答に不服そうではあったけれど課長は僕の方を向いてくれた。
 急いで僕は手帳に記載した事件現場の住所を確認する。
「三丁目の長い横断報道の真ん中にある島です」
「あのね、下北沢君。そういう場所を交通法規上『安全地帯』と言うんだよ。君何年目だい?」
「はぁ、すみません」
 某有名バンドと勘違いされたら遺憾だと思ったから言い方を変えたまでだ。決して僕が交通法規に疎いわけではない。断じて違う。
「それで事件……っていうか事故みたいなそれはいつ起きたの?」
「昨晩です……」
「ええ?!」
 僕の言葉に課長はマジで驚いたらしい。

「君、昨晩って昨日の事件、今頃判明したの? この狭い町で?」
「はぁ、すみません……」
 何で僕が謝る必要があるんだ?
「目撃者はいるの?」
「ええ。ガイシャはオープンカーに轢かれたらしく、顔の特徴までバッチリ判明しています」
「いや、だからその目撃者は?」
「小学生二年生の男の子です!」
「うーん……」
 課長は頭を抱え込む。
「君、信頼にたる目撃情報はそれだけかい?」
「小学生は証拠品として自分の描いた絵日記を提出してくれました!」
「ふーん、じゃあ一応見せてくれる?」
「はい!」
 僕はその絵日記を課長に手渡した。
「ふむ、ふむ……」
 絵日記を受け取った課長は食い入るようにその中身を見ている。
 そしてこう言った。
「確かに、車に乗っている人間の特徴を的確に捉えているね」
「そうですよね!」
 ふぅ……と溜息をつくと課長は絵日記を僕に見えるように突き出した。
「君?」
「はい!」
「この絵日記の、この車に乗ってる男性は……、その……、僕だよね?」
「間違いありません!」

 僕は課長に思い切り『グー』で殴られた。


お題:「必要悪」「多数派」「船」

 世界中の多くの人々が堕落していた。
 いや堕落しきっていた。

 そして誰もかれもが預言者たる彼の言葉を信じようとはしなかった。
 後に彼は『旧約聖書』に預言者として名前を残す事になる。

 彼は仕方なく一隻の船を建造する事を決意する。
 彼は彼を含む家族と一緒に作業に着手した。
 彼はその日までに残された日数を計算しながら必死で作業を進める。

「審判の日は近いぞ、みんな頑張れ!」

 そん中ついにある朝、船は小高い丘の上に完成した。

 そして極めて少数ではあるけれど、彼らのひたむきな姿を目にした人々の中には悔い改める人間も現れたのだ。
 しかしそうした人々は結局堕落した多数派の迫害を受ける事になる。

 そしてついにその日はやってきた。
 預言通り多くの堕落した人々は流された。
 人だけで無くありとあらゆる者が水の中に還っていった。
 彼の家族を除いて……。

 四〇日に及ぶ大洪水を乗り切った彼とその家族はある山の中腹にたどり着く。
 長い航海の末にたどり着いた土地で彼は神について考える。

「果たして本当にこれで良かったのだろうか?」

 彼と彼の家族たちは救われた。
 しかし預言通りに失われた代償はあまりに大きかった。

「何をもって堕落と呼ぶのですか?」
 彼は船を降りるとそう呟いた。
 
 それに対して神はこう答えた。

「堕落した者は私を敬い信仰する事を忘れた。それ故に私は天罰を下したのだ」

「あまりに惨い!」
 思わず彼は叫んでしまった。
 神は答える。
「彼らもまた信なる者を選び出す上で必要不可欠な存在だったのだ」
「それでは彼らの存在は必要悪だったという事ですか?」
「……」
 素朴な疑問に神は沈黙する。
「神は悪を認めるというのですね?」 
「……」
 神は沈黙を持って解とした。

 しかしこのやり取りは神にとって不都合であったため、聖典はおろか偽典・外典からも削除され誰の目にも触れる事無く今日に至る。



読者登録

由納言さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について