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    河口俊彦風にぷよぷよを語ってみた。 目次

 

 

  01. 才能の違い
  02. セガ記事と後日談
  03. 三須世代
  04. エゴイスト
  05. スコアラー気質、今昔
  06. 諮問委員会の怪
  07. 仏心と残心
  08. 終焉の刻
  09. 専用筐体の悲劇
  10. 天才は努力を知らず
  11. あとがき

 

   


才能の違い

 

 連鎖界は、人の出入りというものが少ないから、必然的に同じ者同士で何年も争い続けることになる。連鎖界は、言わば格付けを延々と続けている世界なのである。
 全一候補とその他大勢、その他大勢の中でもAとBはどちらが強いのか。何十回何百回と同じような顔ぶれで戦い続けるから、おのずと正確な格付けが決まってくる。そして、一旦格下とみなされてしまうと、それを逆転させるのは容易なことではない。ぷよらーは、相手に信用されなければならない。ここで言う信用とは、人格のことではない。対戦相手に“こいつは強い”と思われることである。つまり、こちらの形勢が良い時に、自分の方が強いと思われていれば、相手はすぐに諦めてくれる。しかし、逆に弱いと思われていると、相手はとことん粘ってくる。対戦相手に信用されてるか否かで、勝負の行方はぜんぜん違ってくるのである。

 

 さて、私は三須と対戦していた。リーグ戦の組み合わせを見て、「先生、やりましたね。ミスケンと当たりましたよ。原稿のネタになるでしょう。えーと、三須君は17勝2敗か。これで18勝2敗の勝率9割ペースになる」などと、始まる前に言われてしまった。力の違いは、自分でもよーくわかっていますけどね。そう言われてしまっては、ますます勝てなくなってしまう。おまけに開始直前、「ハハア、三須君とやる時は背広にネクタイですか」とまで言われた。それじゃあまるで、稽古に来たみたいじゃないか。
 前評判はともかく、試合そのものはまあまあの出来で、2本目を迎えていた。1本目は丸負けの形勢ながら、苦し紛れに放った3連鎖がクリーンヒット。何の合わせ技のない、あまりにも単純な連鎖だったのが逆に幸いしたか。ぷよ対戦では僅差が故に抜けない差というものがあるが、大差が付いていると慎重になりすぎるということもある。あの三須にしてこのミス(洒落ではない)を冒すのだから、ぷよぷよはつくづく面白いゲームである。2本目は階段折り返しを私にしては綺麗に組み上げ、自分で言うのもなんだが、やや作戦勝ちではないかという態勢を築いていた。2段目の折り返しも組み上げ、次はどう来るだろうかと楽しみにしていたが、三須はなかなか仕掛けてこない。様子を伺うと、なんとなく苦しそうである。彼の残りフィールドはみるみる減って、残り2段半となった。そして私が「(勝てるかな?)」と思ったまさにその瞬間、彼は私が思ってもみなかった手を仕掛けてきたのである。

 

 私もほんの一瞬だが相手の手を考えていて、まずは合体部分を使って4連鎖を撃ってくるだろうと予想した。それ以外なら、合体部分を一部繋げて7連鎖というのもある。7連鎖がキープできるなら、もっと過激にいきなり本線発火するのはどうか。こちらの連鎖は千切りが多いので、第二波を含めようとすればこれも成立しそうだ。ただ、そういう直線的な順では仕掛けてこないだろう、とも思っていた。
 ところが、撃ってきたのは単純2連鎖だった。打たれた瞬間、力が抜けた。なんだ1回休みではないか。こちらが待っている所に2連鎖を打ってくるとは、なんたる筋悪。

 だが、天才三須が打ったのである。何か狙いがあるはずだ。しかし、それがさっぱり読めない。そもそもこの忙しい時に相手に手を渡すなんて、何百時間考えたって私には浮かばない。その点において、彼我の才能の差は歴然としているのである。


 1回手を渡されて、私はわけがわからなくなった。ありがたいような、そうでないような気分である。3連鎖ダブルで返そうかと思ったが、何か私の気が付かないような反撃を食いそうだ。段々コンプレックスの虜になり、取り敢えず2連鎖で返そう、悪手になることはないだろうと受けた。こちらの方がじゃまぷよ2個分点数が高く、打った瞬間までは、こちらの優位を確信していた。ところが、三須の狙いは2連鎖を撃った直後の即興地雷にあったのだ。こちらが起爆した瞬間、2列分の地雷1連鎖を待ってましたとばかりに打ち返された。対応時間を削られた私は対応できず棒立ち状態のままおじゃまぷよを喰らい、あとは簡単に負けてしまった。
 これで1対1のイーブン。3本目の序盤2手は全消しツモ。当然ながら階段積みは放棄せざるを得ず、なんとかならないかと考えたが、これは言わば斬られてから痛がっているようなもの。もうだめである。

 今にして思えば、あの時すぐに3連鎖ダブルを打ち返せば、明らかに優勢だった。また、地雷が本命だった(?)ことを思えば、開き直って即座に本線を発火しても良かったかもしれない。

 

 しかし、これ以上、組み手の変化を書いても無意味である。仮にあの時最善手を続けてミスケンを追い詰めたとしても、その後第2、第3、第4、と訳のわからない手を連発され、結局騙されてしまっただろう。彼の本当の強さはその点にもあるのだ。
 それにしても、もう少し競り合って、彼の強さを確かめたかった。

 


セガ記事と後日談

 

 セガサターンの専門誌で、“XBAND”の通信対戦をテーマにした、ぷよらー達へのインタビュー記事が掲載されたことがあった。
 取材されたのは村田三段(おうじさまあっちゃん)、千葉聡(seta)、ぷよしゅんの3人で、カラー記事で彼らの顔写真と談話が載っていた。私は立ち読みしただけなので、どんな内容だったかは正確には覚えていない。ただ、千葉聡のコメントの中に、「対戦しまくっていたら、月の対戦代が8万円になってしまった。当然、親が激怒しまして云々」というくだりがあり、吹き出してしまったことだけはよく覚えている。

 XBANDで市外局番の相手と長時間対戦しようとすると、月額の電話代が6桁に達してしまうのは珍しくなかった。地方在住の常連メンバーの中には、自宅の市外局番を横浜市や東京二十三区のそれに書き換え、その局番限定で対戦する強者もいたくらいである。ちなみに8万円あれば、セブンアイランドなら1,600回ぷよれるから、仮に毎日通って1日10回負けたとしても、半年近く遊べる。当時無敵を誇っていた彼を3本勝負で10回も負かすのは容易なことではないから、聡君にとってもその方が安上がりで楽だったのではないか、とも思えたのだが・・

 

 ま、これは極端な例だが、とにかく昔は何かと大変だった。XBANDは、カタパルト・エンターテインメントなる会社が運営していたのだが、ゲームセンターの対戦とは違い、勝っても負けても電話料金が雪達磨式に積み上がるという大欠点があった。おまけに、対戦環境も、今とは比較にならない程貧弱だった。大連鎖を発火すると互いの操作が極端に重くなり、同じ連鎖のサンプリング音声を連発し、イライラして立ち上がった瞬間にモデムに揺れが伝わり、ゲーム機がフリーズしてしまう、こんなことがしょっちゅうあった。更にわるいことに、XBAND自体、2年ほどしか続かなかった。時代を先取りしていたから仕方がない、と言えなくもないが、素人目にも杜撰な運営に見えたのはどういうわけなのだろう。
 その後もアポトリス・崩珠・エミュレータ版ぷよぷよ等、インターネットを介した対戦ゲームが開発されたが、純正ぷよ通の座を脅かすまでには至らなかった。数少ない例外がぷよぷよ2ちゃんねるで、純正ぷよ通の優秀さを逆説的に証明することになった、と言えるかもしれない。ネット環境は当時と比べ大幅に強化され、XBAND時代の悪弊は、完全に払拭されたと言っても差し支えないだろう。ネット対戦環境の整備がぷよぷよブームの再現に繋がる、とは私は思わない。しかしネット対戦の環境が整備されたこと自体に意味があるとするならば、これは凄いことだと言うべきだと思う。唯一ケチを付けるならば、XBANDと違いソフト代以外の対戦料金は全て無料と言う部分であるが、単にこれは年寄りの心配性に過ぎないかもしれない。心配してもキリがない。今はただ、連鎖界の発展を喜びたい。

 

 さて。セガサターン専門誌の記事については、ちょっとした後日談がある。掲載15年後の2013年に知ったのだが、千葉聡のコメントは実際は彼のものではなく、ぷよしゅん氏が話したものを、編集部側が勝手に千葉聡のものへと改変してしまった、そうである。当時はXBANDの全国大会が開催された直後(千葉聡が、決勝戦で村田三段を破って優勝)で、優勝者がのめり込み過ぎたことにした方が、運営側としては都合が良かったのだろう。今、そんなことをしたら間違いなく大問題になると思うが、旧き良き時代の椿事だったとしか言いようがない。

 

 

 

  コンテンツ文化史学会2012年大会@明治大学発表。

  test_lockit&横えび、2012年12月16日。


三須世代

 

 今の連鎖界は、20代前半の若者達の天下である。それは言うまでもなく、三須健太郎名人と同世代の強者達のことである。近年の将棋界では『羽生世代』と呼ばれる者達がタイトルを独占しているが、連鎖界でも、似たような現象が起こっている。なぜ、彼等はあんなにも強いのだろうか。

 

 ここで私が強調したいのは、これは三須ひとりの強さではなく、集団での強さが際立っている、ということである。年長者達をことごとくなぎ倒し、更に年下を寄せ付けない。特に後者は重要で、これから伸びてきそうな芽を、彼等は全て摘み取ろうとしているのではないか、とさえ思えてしまう。

 

 旧世代の代表格といえば田中前名人(ひげぷよまん)と高橋グランドマスター(真音ぱの)だが、彼等が格を維持できたのは、1997年1月の第1回名人戦までだった。真音ぱのは直前のプレイステーションマスターズで三須・千葉を連破して優勝し、田中は服部崇(くまちょむ)・村田・高橋を破り、名人を獲得したのである。私は幕張メッセで名人戦が開催された直後に、セブンアイランドで服部と対戦したのだが、そのあまりの強さに、服部名人誕生かと勘違いしたものだ。ところが後日、名人戦のビデオを見ると、アイランドでの彼とは別人のようだった。予選の総当たり戦は1位通過したにもかかわらず、本選では田中・高橋両古豪に敗れてしまった。つまりこの時は、まだ昔の名前、年長者の格が通用していたのだ。

 

 しかし多くの方も御存知の通り、若者達の追撃は急であった。常識的には数年単位でゆっくりと世代交代が進むものだが、実際にはわずか数ヶ月で、あっと言う間に連鎖界の勢力地図が塗り変わってしまったのである。結果論になるが、今にして思えば、第2回名人戦は世代交代を周知させるための儀式のようなものだった。上位ぷよらー達は真の最強者が誰なのかを既に知っており、それは田中名人も同じであった。三須世代は世代間の闘争というプロセスを経ることなく、半ば禅譲のような形で天下を貰い受けたのである。

 

 あの名人戦から5年近くが経ったが、残念ながら、三須世代を脅かす少年はまだ現れていない。同世代で三須に近付き得る者はこれからも現れるかもしれないが、彼に追い付き、追い抜くことは不可能である。河口俊彦は羽生善治が米長邦雄を破り名人になった時、「10年後に羽生を倒す少年が、パソコンで羽生の棋譜を並べているだろう」と書いた。連鎖界はネット対戦が主流になりつつあるが、彼等の中に、将来ミスケンを倒す者が出てくるかもしれない。技術のみならず、若さとモチベーションで円熟期を迎えた三須世代に挑む。それが可能になった時初めて、真の世代抗争が始まると思えるのである。

 

 


エゴイスト

 

 ネットぷよらーの間で、ちょっとした論争が起こった。きっかけは、ある上級者同士の対戦が原因だった。ある強豪が相手の階段積み連鎖を見て対戦拒否反応を示したことに腹を立て、チャットで言い合いになった挙句、対戦を拒否した者が一方的にログアウトしてしまったのである。その後ネットぷよのサーバー等で両者の会話・態度等が話題に、というより問題になり、特に、階段積みを否定した一連の言動に対しては、『初中級者を見下し、逆撫でしている』という意見が多かった。これについては私もその通りだと思うし、今更ここで、異論を言うつもりはない。私が気になったのは、もう少し別のことについてである。

 

 まず驚いたのは、階段折り返しが戦略として有効かどうか自体が、議論の対象になったことである。私が「折り返ししか組めないのかよ!」と怒鳴られた頃(20年も昔の話だ)ならいざ知らず、対戦戦略がかなり細かい所まで突き詰められたと言われる現代において、こういう議論が真剣に語られるとは思っていなかった。確かに、アーケードぷよ通とネットぷよの仕様の違いはあるだろう。しかしそれらの事情を差し引いても、今、階段積みの賛否が語られることになるとは、私の想像を超えていた。世代が変われば繰り返す歴史もある、ということかもしれない。

 

 たまたま私は上記の場に居合わせて(ログインして)いたのだが、一般人同士の会話としてはともかくあくまでガチ勢同士の論争として見た場合は、明らかに去った側(階段積みを否定した側)の勝ちだった。あくまで私見だが、階段折り返しを戦略と見なすか否かの一点において、両者の意識に差があったといっていいと思う。

 うがった見方をすれば、階段折り返しを組んだ人の意見は一般論に偏り過ぎ、選手としての理論に欠けた、と言えるだろう。無責任なことを書くが、あの時のお2人には是非、もっとクールに語り合って欲しかった。しかし、贅沢を言ってはいけない。あれだけの短い会話でも、その効果は充分にあったのだから。

 

 さて。20年前の私ならいざ知らず、仮に今の私が論争を吹っかけられたとしても、本気で応対したりすることはしない、と言うよりできないであろう。連鎖理論構築に本気を注ぐには、私は年を取り過ぎてしまった。しかし彼等は、衆人環視の中で闘志を見せてくれた。それが、今の私の持ち得ない若さというものであり、良くもわるくも己をストレートにぶつけ合ったという一点において、私は彼等に好感が持てるのである。もし、階段積みを否定した彼があのIDで再びログオンしてきたとしたら、将来間違いなく一流の域に達することだろう。逆説的な言い方かもしれないが、若者のこういう類の図太さは、長い目で見れば間違いなくプラスになるからである。

 

 



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