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宇宙の井戸端会議

 

 

ここでの解説は、未来にたまたま行ってしまった作者が、ここぞとばかりに書き記した いわば、日記的なものである。しかし、そんなことあるわけないと、疑ってもらってもかまわない。とにかく話は続けよう。まずは、未来の地球人の軍隊生活の一部をここで紹介しようと思うのだが、かなりメモや記録がいいかげんに行ってしまったので、そのつもりで暇つぶしとして気楽に読んでいただければ幸いである。

 しかし軍といっても約200年後の未来で、完全なる男女平等のこの時代であっても軍隊ではそれなりにさまざまな課題を抱えていた。

 

ことは言うまでもない。男女のジェンダーに関するメンタルな問題は、おそらく人類が絶えないと解決しない問題なのであるから・・・。

 

 さて、ここに五人の乙女たちが、ミサイル練習艦「かげろう改」の訓練生として火星基地コロニーの「火星日本鎮守府」に赴任していた。彼女たちは、宇宙士官になるための最終教練をこなしているのである。時代は、こんな乙女たちまでも駆りだされないといけない戦争の状況だったのだ。ところが、数年前に突然異性人との戦争に勝ってしまった地球人類は、それはそれでいろいろな醜い現実と付き合う状況にシフトしてしまった。つまり、勝ったのに今さらわざわざ軍事訓練しなくてもよくなったので、必然的に気が抜けた状態の彼女たちであったのは無理からぬことであろう。とにかく、急いですることもなくなってしまったので、戦勝気分も薄れ、それぞれ、さまざまな形でテキトーに教練にいそしんでいる。

 さっそくだが、この話を進めながら。彼女たちをご紹介していこう。

 

今、彼女たちは火星のラグランジュ点にあるカプリコン2ステーションに三ヶ月前から停泊しており、そろそろ地球が恋しくなっている状況である。しかも彼女たちが所属する船は、練習艦ということもあって、とても小さい旧改造艦で、地球・月ラグランジュ4鎮守府から数十日かけて航海したのだが、お世辞でも快適な航行をしてきたとは言いがたい。

 そんな折、五人は、訓練の合間をぬって、リフレッシュルームにしていた。ちょうど四畳半のスペースくらいの場所には小さいちゃぶ台を一脚、狭いボックス席でせせこましく向き合って座った感じである。彼女たちは、ことある毎にここに集まって日々のさを晴らしていた。

 

「・・・なんでもさぁ~今度護衛任務で地球に戻るかもしれないって噂を艦長から聞いたんだよ。しかも護衛するのは、若い男一人なんだってさっ!」

 

 

 白鳥蝶子一等宙尉:五人の中では、一番の先輩格にあたり、異常なまでに恋焦がれた形で、柚空艦長(♀)を追ってここまで来てしまった。いわゆる「追っかけ」である。天真爛漫(つまり世間知らず)、並々ならぬ運動神経(つまり脳も筋肉)、西暦一九一一年の第一次世界大戦からのさまざまな銃 に精通し(つまりガン・ヲタク)、他の四人のまとめ役でもある。自ら「私を副長とお呼びっ!」が口癖である。みなからは「お蝶さん」と呼ばれているが、それもいやではないらしい。

 

八橋「ぇ?それは困りましたね・・・。タンクベットは三交代でぎりぎりの数しかこの艦には配備されてないんですよ?スペースが足りませんねぇ・・・」

 

 八橋二等宙尉(やつはし):艦のメカニック担当 めがねをかけているが特に近眼というわけではなく、極度の方向音痴のため常に自分がどこの位置にいるのかをGPSから把握していないと安心できないので、ナビ付のグラスをいつもかけているのである。ただし艦内のどこに何がどうなっているかを寸分たがわず把握をしているため、みなから「ビックパパズラー(ここでのパパはおっぱいの意味)」の異名をもつ、

つまり各種、電気配線の位置から排水パイプの位置に至るまで把握しており、そして各個人のどうでもいい荷物が何処にあるのかさえ把握している、いろいろな隙間に設置(隠して)いる張本人が彼女である。ただし艦のダメージコントロールに関しては、彼女の右に出るものは士官学校にはいないといわれている。そんな意味だけでは機関部長も彼女には一目置いているのだが・・・。

 

猪萩「じゃぁさ そんときは、あたしが艦載機の中に寝泊りしてやるよ。」

 

 猪萩二等宙曹(パンチ):スラム街育ちで血の気も多い彼女は、地球の月コロニーにいる七人の兄弟を食べさせていくために繁華街でキャバクラのバイトをしていたが、客をなぐってクビになり(だからパンチ)、学費の要らない軍隊に志願した。かつてのミサイルイージス艦「かげろう型」が、通常艦載機の搭載されない練習艦だったということもあり、偵察任務の教練もこの艦で行うためにカタパルトが二つ増設改造されたこの艦に配属されたというちょっとわけありの経緯がある。また、性格は、ある種の世話女房的な気質もあり、進んで奉仕をする性格でもある。

 

 

赤梅「何、馬鹿なこと言ってるのかしら?コックピットに座れる時間は空気や気圧も考えて数時間がいいところよ。艦載機が棺おけでもいいって言うなら別にいいんでしょうけども・・・。」

 

猪萩「縁起の悪いこと言うなよっ!どーせてめぇみていにあたしのオツムはよくないさ!」

 

 

 赤梅二等通信士(赤猫):電子制御関連から光学通信にかけて国連宇宙軍士官学校では常にトップクラスの電子のトップガンと言われているが、いつも一言多いため、みなから忌み嫌われている。そんなところをお蝶に拾われてここにいる感じ。過去にこの二人はいろんなことがあったようだが、ここで話すと長くなるので略させていただきたい。

 

 

鹿野「ま・・待ってくださいよぉ~喧嘩はダメですよぉ~。艦長さんが来ちゃったらまた五人で艦内掃除やらされちゃいますよぉ。」

 

 

お蝶「こないだのそれ(大掃除)だけはやめて~~! あれはかなり疲れた~~。ただでさえ艦長は掃除にうるさいんだからさぁ ここは私の顔に免じて落ち着いてよ。ドぉードぉー!」

 

 鹿野一等航海士(シカちゃん):父親が元宇宙軍副総監で、いわゆるお嬢様であるが、国連宇宙軍は陸軍や空軍に比べて比較的このような待遇の二世代目が多いのが特徴のひとつである。しかし、なぜ鹿野が国連宇宙軍に入隊したのかは、彼女自身秘密にしており、なぞの多い部分もある。また、猪萩とは気が合うらしく、いつも相談ごとは、スラム街の経験に長けた猪萩にしているようだが、ある種の超極地的な貧富格差で箱入り娘の会話が猪萩には通じないことがままあるようだ。柚空艦長からは、猪萩と鹿野で任務を任せられそうになると、必ずお蝶を同行させ「イノシカチョウ」と3点セットで呼び捨てにされる。

 

 

鹿野「お蝶さん、みんなちょっと疲れてるかもしれませんねぇ。特に気が抜けて疲れているって感じですけど・・・。」

 

 

お蝶「ん~? じゃぁまた私の必殺、宇宙食オートミールミックス焼きをつくってお祭る?」

 

八橋「それだけは勘弁してくださいっ!ダメージが致命的すぎてコントロールが不可能なので!」

猪萩「・・・・・ところで若大将の話はどうなった?」

赤梅「文字通り、必殺ですからね。アレだけはもうやめていただけません?」

 

鹿野「宇宙食闇鍋はもうこりごりですし、今度は殉職者がホントにでちゃいますよぉ~」

 

お蝶「ん?一人 スルーしとる部下がおるの? まぁいいや。帰途につくための仕入れもしておかなくっちゃね?ねぇ・・やつはし?」

 

八橋「ハィ・・・。既に2基の外部タンクに入っている生活必需品だけでは足りませんねぇ・・・艦載機の最低予備電池のこともありますし、予算も時間も限られるかもしれません。」

 

猪萩「わが国のおは、ケチだからなぁ~しかも借金大国だし・・・でも何故か破綻しないのは、国皇さまがおられるからだって、キャバのバイトしてるときにお偉いさんから聴いたことあるよ。鹿野・・なんか知ってる?」

鹿野「ぇ? ぇえ知っているといえば知っているような・・・? な・何しろ世界一の名門家になるため、西の法皇よりも位が上になるということは聞いたことあります。」

 

 

赤梅「鹿野・・・あなた何か知ってるようね? そんな官位なんて普通の軍人は、知らないわよ?。白状しなさいな。なんなら私がバラしちゃってもいいけど(笑)」

 

 

赤梅は、微笑みながらそんなことを話し、手元に手鏡代わりとして使っている板状端末の感応デバイスを通じて、国皇のことを調べていた。。もちろん仕事的な意味で調べているわけではない。完全な趣味のハッキングで、さまざまなネットワークで知るうちにそう判断せざる得ないと結論付けたのである。

 

 

猪萩「ちょっと!シカちゃんをいぢめるなっ!」

 

鹿野「いのちゃん 別に気にしてないから、ケンカしないで!赤梅さん、残念ながらお父さんも詳しいことは知らないみたいだから、私も詳しくは知らないの・・・。柚空艦長は、お蝶さんに何か教えてくれなかったんですか?」

 

 

お蝶「なんでも次の任務は、宮内省から直々に通達があったって言ってたんだけど、それと何か関係あるのかな?」

 

四人同時「宮内省?!」

 

 

八橋「近衛軍を差し置いてなぜ私たちに通達が?越権行為じゃないですかぁ~?」

 

 

赤梅「まんざらデマゴーグでもなさそうね。ウチのとなりに停泊しているNIUS最新鋭宇宙戦艦アラバマが停泊していることも関係あるみたい・・。」

 

 

赤梅は、早速それに関する情報を集めだしているようだった。

 

 

猪萩「ぇ?アラバマは、資源海賊鎮圧のために来航したんじゃなかったの?」

 

鹿野「いのちゃん、それもおかしいよ。いくら最新鋭アラバマが航行速度が速いと言っても、たかが海賊退治に大型戦艦がおでましになるのはおかしいわ。」

 

猪萩「ぇ~?じゃぁたまたま来てたって言うの?」

 

赤梅「・・・・・それもないわね・・・・。」

 

 

他の四人は端末操作を高速で行う赤梅に注目した。よく見るといつの間にかツインテールのアクセにもなっているヘッドデバイスも使用して本気でハッキングを行っているようだ。

 

 

赤梅「・・・皇太子が、このコロニーにお忍びで来てるみたいね。」

 

鹿野「ぇ~~!?殿下がっ!!?」

反応が著しいのはやはり社交界に通じている鹿野で、その重要性を一番わかっていた。

 

猪萩「ふ~ん? でもどおして?」

 

お蝶「てゆうか驚くほどのことでもないでしょ?」

 

 

ちなみにお蝶は、極度に空気を読むことが下手である。なぜなら艦長のことしか考えてないからである。

 

八橋「やっぱり越権行為になっちゃいますねぇ・・・。艦長もこのこと知ってるのでしょうか?」

 

お蝶「ん~?わかんない。艦長は、機密だから教えられないと言うし。でも 私たちが正規の護衛任務しなきゃなんないのかな?」

 

八橋「確かにそれは不思議な話ですよねぇ。艦隊行動任務には本艦は足が遅いので向いてないのですけど・・・」

 

お蝶「(そりゃあんたが荷物を詰め込みすぎてるからでしょ)」

 

猪萩「(やつはし詰め込みすぎてるからなぁ)」

 

鹿野「(物資の詰め込みすぎですね)」

赤梅「(搭載重量を軽くオーバーしてるとナビから警告でてたよね?)」

 

八橋「ちなみに搭載物は必需品だけだから、そんなに遅くなるわけないんですけれど・・・・。」

 

四人全員「う・そ・だ!!(笑)」

 

八橋「何です?失礼な・・・。」

 

 

この反応は想定内のようで、割かし慣れた対応で交わす八橋である。

 

鹿野「・・・ともかくですね。これはわが国にとっては重大事ですよ。立憲君主国のわが国の皇太子に、もしものことがあったら・・・。」

 

猪萩「ん?何かあってもご兄弟がいるでそ?縁起悪いけど(笑)」

 

鹿野「ぃえ。今、宮廷では男子がたった一人しかいません。」

 

 

八橋「ぁ、男系が絶対憲法になってますから、今の皇太子が国皇に引き継げなくなると・・・。」

 

お蝶「女王様たてればいいじゃん。」

 

鹿野「だから男系絶対は三〇〇〇年近く続いているので、これで初めて途絶えることになるかもしれないのです。」

 

赤梅「だめなの?」

 

鹿野「駄目とは言われてませんが、いままで国が続いた理由のひとつは、男系だったためといわれています。」

八橋「そういえば中国の清では西大后が実権を握ったとたん国が滅びましたね。」

 

鹿野「そうです。お父様の話では、国がひとつ滅びるといろいろな意味で平和が維持しづらくなると言ってました。また、先の大戦で結局戦争突入に反対だった陛下に対し、一部の軍の行き過ぎが原因でしたし、また敗戦の窮地を救うことができたのも、陛下の全国行脚あってこそだと・・・。」

 

赤梅「確かに18世紀に大英帝国も女王になって長続きしなくなったわね。途中で連邦国家になって延命処置を施したけど、やっぱり最後はスコットランドなど分離独立して、それがきっかけで弱体化しちゃったしね。最後は、金融市場だけで生計をなりたてようとしたけど、二一世紀後期におこった経済構造革命のために国の財政も極度に悪化し、また西欧発の大恐慌おこしちゃったしね。」

 

お蝶「(赤梅は何を言ってるのかさっぱりわからん)」

 

鹿野「わかりませんが大和朝廷時代の推古朝のときのように男系ベースで引継ぎ役に徹して行っていたほうが、もしかしたらいいのかも・・・。」

 

猪萩「何言ってんの?!男が皇帝になっても最後は戦争ばっかしてだめじゃんよ!」

 

赤梅「たまにはまともなこと言うのね。二〇世紀初頭まではたしかにロシア皇帝なんかもそうだったものね。」

 

八橋「男の傲慢さが仇になる・・・てことでしょうか?いっそNIUSのように王様なんていないほうがいいのかも?」

 

 

鹿野「それはそれで、戦争の歯止めが利きづらくなりましたよ。むしろマスコミ先導がしやすくなって国民は結果的にだまされたりしましたし・・・。」

 

赤梅「マスメディアでは限界があるから、そのころローカルネットからグローバルネットの時代になって情報がいきわたりやすくなったのかもね。」

 

お蝶「でもさ・・・ネットって本当に必要なものだったの?だってさ、私たち結局こうして井戸端会議してるのは、昔とあんま変わってないような?」

 

猪萩「それはそうなんだけどさ、使い分けが重要ってゆうか・・・。」

 

鹿野「コミュニケーションは結局 こうしたおしゃべりの方が楽しいですし♪」

 

八橋「全部ネットでしゃべってたら、赤猫ちゃんにいろいろ筒抜けになっちゃって、私の隠し場所がすべてばれてしまいます。」

 

赤梅「ぇ?あれでまさか全部じゃないの?!」

 

八橋「はて?なんのことです?」

 

お蝶「ぉいぉいぉい・・・(汗)」

 

赤梅「たしかにネットには、いろんな可能性も見出せたけど、いくらビックデータをあつめてもいまだに限界はあるわ」

 

鹿野「アラン・チューリング博士がプリミティブなコンピュータを二〇世紀にはじめて開発し、ホーキング博士が二一世紀に宇宙膨張論を確立して宇宙航行コンパスが発明され、二二世紀に核融合エネルギー航法理論が確立されて、宇宙開拓時代が到来しても、人間のできることって結局限界はつき物ですよねぇ・・・。」

 

お蝶「そうそう、結局私たちの食べ物の質は、落ちる一方よ!」

 

八橋「中世の大航海時代にくらべればまだマシですよ(笑) あのころは保存食がまったくといっていいほどありませんでしたからね。瓶詰めの保存食や缶詰が発明されるのは、二〇世紀に入ってからでしたし。」

 

鹿野「ですよねぇ。日本人は食生活が豊かだったから、国外に出て植民地を探す意欲もなかったとか言われてますし。」

 

猪萩「簡単に言えば、うまいものが船の上で食えなかったから?」

 

赤梅「だから一九世紀から二〇世紀初頭の帝国海軍水兵は、かっけが多かったのね。」

 

 

お蝶「へぇ~?そうなの?」

 

赤梅「そうよ。わが国の旧帝国海軍時代は早くから兵糧として米からパンに変更したらしいわ」

 

お蝶「ふぅ~む。じゃぁさ、ウチもパンを備蓄したらどうかな?八橋・・・?」

 

八橋「駄目ですよ。スペースの無駄です。パンはかさばっちゃうのです」

 

鹿野「やっぱり狭い宇宙船では、二〇世紀の旧帝国海軍よりも食べ物が劣るのですねぇ・・・(トオイメ)

 

猪萩「食べ物だけじゃないよ、健康やメンタル面も維持がむずかしいよ。気晴らしは欲しいっ!」

 

お蝶「だから、五人も雁首そろえてこんな狭いところで屯してるんだよねぇ~?」

まるで他人事のように言うお蝶であった。

 

赤梅「それより、さっきからずいぶん、古い話ばかりじゃないかしら?このままだと創世記のアダムとイブまで遡っちゃいそうだけど、そ

のころのデータはさすがにすくないから私は不利なのよねぇ・・・。」

 

お蝶「ちょっと!歴史の講義はもうやめにして、ご飯にしない?おなかすいちゃったよ。」

 

四人揃「でも、宇宙食オートミールじゃねぇ・・・」

 

ため息をつく五人だった。ともかく、なんだかんだでこの五人は、気が合っている(笑)

 

お蝶「じゃぁ、ランチ斥候としてアラバマに向かう必要があるようね。」

 

八橋「ぁ、賛成です! 「アラバマホテル」の異名をもつ戦艦装備がいかなるものかもリサーチしないと!」

 

お蝶「そうよデータが少ないときは、足でかせぐしかないのよっ!いざアラバマホテルへ!」

 

四人「いざアラバマホテルへっ!」

 

 

冷静に考えると、目的と手段がまったくかみ合わない理屈だが、なぜかこの点で五人全員は意見の一致をみた。

そんな折、すぐ階下の階段の音がした。おそらく柚空艦長である。五人は何気にばらけ、お蝶だけが柚空艦長につかまってしまった。

 

柚空艦長「ぁ?お蝶?ちょうどいいわ、ちょっとブリッジに来てちょうだい」

 

 

お蝶「Yes! Ma,am!

 

艦長に対して、返事がいつもよいお蝶は、柚空艦長に子犬のようについていってしまった。

 

 

猪萩「まったく、またつかまっちゃった。」

 

鹿野「でも嬉しそうについていったからいいんじゃないですか?(笑)」

 

八橋「アラバマホテルの斥候はどうします?お蝶さん抜きでやりますか?」

 

赤梅「どうやら今、アラバマの食堂が一般開放になっているようね・・・・。」

 

猪萩「ぇ!?じゃ チャンスジャン!」

 

鹿野「いい機会ですね。お蝶さんには悪いですが、私たちだけで・・。」

 

八橋「斥候任務を開始しましょう!」

 

 

 時間はちょうどお昼を少し過ぎたころである。四人は、いそいそと隣の埠頭に停泊中のアラバマまで向かった。

途中、交差点+関所を三箇所通り過ぎたが、NIUSと日本の関係は非常に良好の時で、信仰上の理由もあったためすんなり通過できた。

 

 なぜなら、古代ヘブライ語や死海文書のほか、炭素検査で一万年以上前の解読不可能な文書が関西の大国皇陵でなぜか多数発掘されており、歴史的にNIUSの経済界との深い関係が証明されたからでもある。逆に言えばNIUSの援助がなければ、この大航行用の宇宙船を最貧国の日本で建造できるわけもなかった。しかし彼女らはその理由も大して理解せず、アラバマホテルのホタテバターランチ、ビーフストロガノフランチ、ロブスターランチ、ボルヒチランチのことで頭がいっぱいになっていて、まったく気にもとめなかったのである。

 

 アラバマ食堂の内装は、それほど豪華ではないが、確かに食堂は立派な雰囲気をかもし出し、清潔感や広さも申し分なかった。毎日四畳半のちゃぶ台を囲んでのオートミールづけに比べれば当たり前であるが・・・。

あたりはアラバマの水兵も勿論いるが、火星コロニーの住民も久々の地球の純粋素材の料理にありつけるということで、既に盛況であった。

 

四人は、窓側のカドの円卓に座り、メニューをながめていた。

 

八橋「できればボルヒチが食べたかったですわ」

 

鹿野「ロシアとNIUSは仲がとても悪いセイでしょうか?」

 

赤梅「違うようね。コックが、ネイティブロシア人じゃないからでしょ?」

 

猪萩「あれ・・・。地球にいたとき食べたけど、ホントおいしいのよねぇ~!」

 

鹿野「調理も難しそうですしね」

 

八橋「ん~、やっぱり調理しにくいものは、さすがにココにもないようですね。」

 

猪萩「ちぇっ、ロブスターもないや」

鹿野「煮込み系が多いのは保存性の高いからかも。でもこのポトフはおいしそうですね。」

 

赤梅「ここのコック、フランス人みたいだから、大丈夫だと思うわ。」

 

猪萩「アンタ、また軍の個人情報覗いてんの?いいかげんにしないと捕まるよ? ぉ?ちゃんとパンもあるぞ!しかも食べ放題!ウシシ・・・。」

 

八橋「通常のサイズよりふた周りくらい小さくて、みんな丸っこいですね。」

 

鹿野「普通のパンじゃないですね。クロワッサンはともかく、よもぎパン、パインパン、オニオンパン、ベーコンパン、たまごパン十二種を

自由に食べ放題ってすばらしいですわ。」

 

猪萩「てゆうかウチとは、すげー格差だ!(苦笑)」

 

 いわゆるアラバマは、戦艦の食堂とはいえ、スタッフの娯楽施設も兼ね、メンタル面での向上も狙いさまざまな取り組みもされている実験艦でもあるようだ。つまり、遠方航海テストでは特に衣食住に関するメンタル面での意識向上のバロメータとなっているため、太陽系外航行も可能にしていると思われる。

 

赤梅「でもこのオーダーロボットはセンスないわね。こっちは日本のメイドロボの方がかわいいわ。これじゃただの自販機とかわらないわね。」

 

鹿野「まぁまぁとにかくオーダーしちゃいましょうよ。あとは味が問題です。」

 

 

テーブルの横にはオーダー用のパネルがあり、そこに話しかけて、好きなものをオーダーする仕組みだ。待っている間、癒し映像がホログラムで流れ、料理が出来た場合は、各オーダーに対するできあがりの連絡が来る仕掛けになっている。そこから自分で取りにいくセルフサービス

形式であるが、よくある注文口や受け取り口などでの行列は発生しないようにアラバマのナビコンがタイムシフトを完璧にコントロールしてい

る。

 

 

赤梅「それにしても。このAIソフトウェアは、よくできてるわね。戦艦の癖にコンプリーテッド・クォータ・タイプ(CQT)だわ」

 

 CQTとは、AIのことで、必ず宇宙船には、ナビコンのためにAIソフトウェアが導入されている。これがないと宇宙航行は、不可能なのである。彼女らが乗ってきた陽炎型のミサイル艦はAIソフトウェアはシングル+バックアップの2基しかないのに対し、CQTは、全体ではひとつの頭脳のように見えるのだが、実際には四つに分散してさまざまなシェアリングを行いながら複雑なコントロールを瞬時に行っている。よって、たとえひとつのシステム・コアが戦闘中に破壊されたとしても他の三つでオーバーフローすることなく処理を行うことができるほか、他の三つで破壊された4つ目の復旧作業をソフトウェア的に行ってしまうため、「破壊しても破壊しても破壊しきれない」印象を敵に与えてしまう。完全に破壊するにはこの4つトランスフォーマッテッドAIを同時に破壊しなければいけないが、コアは常に移動しつつ処理をしているため、理論的には不可能である。これに対し、日本の技術はデュアル・システム(DS)で、違うシステムを同時に使用するハイブリッドに近い発想のものなので、丁度NIUSは10年ほど先を行っていると言っていい。

 

 例えば不死身の八橋が四人居るようなものであって、八橋ひとりでも解読しきれない赤梅にとってはとてもやっかいな代物である。詳しい話については次の講釈で・・・。

 

赤梅「なるほど、コアがすごい複雑だから、末端はすごくシンプルなつくりになってるのね。日本のマイクロカーネルシステムとは逆の発想ね」

 

猪萩「いいから早くオーダーしろよ!(苦笑)」

 

赤梅「ぇえ。じゃぁ少しオーダーにいたずらしてみましょう。私にはアラビアータと鹿野嬢にはキャンティ・ルフィナ・リゼルバをデカンタで頼むわ。グラスは四つお願いできるかしら?」

 

 

 赤梅は、辛いパスタに辛口のワインを頼んだ。しかも昼真っから酒を頼むのは通常戦艦内ではご法度である。

しかし、彼女は、鹿野のICカードに少し細工をし、日本の防衛省地球方面軍高官の縁者という情報を植え込んでおいたのだ。これは、うそではなくホントの情報である。

 つまり、赤梅のねらいは個人情報がどこまでNIUSに把握されているかを確かめるためであった。そんなことも何も知らされてない鹿野は、いわゆる、赤梅の実験モルモットとなっている。よって、傍から見ると官僚に対する接待ともとれなくもない。

 

鹿野「ぇ?ちょっちょっと こんな昼真っから赤ワインなんてないですよ。せめてランブルスコ(ロゼ)にしてください。辛いの苦手ですし・・・。それとこのレディース・パエリアをくださいな。」

 

 

 ・・・とそうとも知らない鹿野は、まったく間の抜けた返答である。

 

猪萩「ぇ~いいじゃん。ヨーロッパでは昼真っからかっくらってるって聞いたことあるぞ。じゃぁ私は、スペシャルスタミナ・ボール(つまり牛丼)で!」

 

 

 たしかにヨーロッパの話は事実だが、情報源はあくまでキャバクラ時代の客からの情報で、軍隊で勤務中の酒はご法度である。

 

 

八橋「デカンタもいいですけど、今回は、「マグナム・ボトル」で頼んで、残ったらお蝶さんにおみやげでもって帰りましょう。ぁ、私は、USステーキ250グラムのミディアムレアでいいわ(にっこり)」

 

 八橋は、、お蝶をダシにしてワインを持ち帰り、艦内のどこかに隠すつもりである。

 

赤梅「あなたたち、斥候じゃなかったの? 私一人馬鹿みたいじゃない。」

 

 とこういった具合にある種、支離滅裂とも言っていい会話であったにもかかわらず、オーダーは正確に受付され、およそ10分後にテーブルに並んだ。

 

鹿野「すごいですね。まさかここまでとは・・・。ぁ・・・シーザースサラダ頼んでいいでしょうか?」

 

八橋「・・いいですね。サイドメニューも欲しいところでした。最後はタルトでもどうです?デザートに」

 

 

そういいながらUSステーキ・ミディアムレア250グラムを切れ味のするどいナイフでスパスパと均等に切っていた。

 

猪萩「やつはし~先に乾杯だろ?乾杯!」

もはや宴会モードになりつつある。

 

赤梅「・・・いったい何に乾杯するのかしら?」

 

 

なかば眉間にしわを寄せる赤梅の疑問はもっともである。

 

鹿野「マンゴーフルーツタルトとブルーベリータルトとオレンジタルトと、いちごタルトのクォータピースでいいですか?」

赤梅の話などもはやまったく聴いていない自分の世界の中である。

 

八橋「最後は、私、コーヒーで締めますよ。アメリカンで、ミルクと砂糖も忘れずにね。」

 

猪萩「あと、あたいは、生(ビール)で。」

 

 

鹿野「び・・・ビールはちょっと・・・アイスコーヒーを頼んでおきますよ。ぁ 私はアイミティーで・・・」  

 

 ワインのマグナムを頼んでおいて、いまさらビールがなぜいけないのか感覚がわからない鹿野である。

 

赤梅「・・・・・。」            *アイスミルクティーの略

 もう勝手にしろと言わんばかりにアラビアータをもくもくと食べる赤梅だった。

 

 

 ともかくほぼフルオーダーでマシンガントーク的にオーダーしたが、まったくミスがないアラバマのAIであった。その後もデザートの追加オーダーや結局ビールをジョッキで頼む猪萩であったが、ご法度のはずのエマージェンシーモードにならなかったのはやはり、鹿野の個人情報の格の威力ということなのだろうか?

 

八橋「ぁ、パンを折り詰めにしてもらえますか?」

 

 

 この残ったパンは私のものよと言わんばかりに、折り詰め依頼の悪魔の言葉が止めを刺したのか、さすがにアラバマの兵士が様子を見にエントランスに駆け寄る姿が見えた。

 

赤梅「(いけないっ・・・やりすぎたかしら?)みんなそろそろ帰るわよ!」

 

猪萩「ぇ?まだビール来てねぇよ?」

 

八橋「そうですよ。今、折り詰め頼んだばかりなのに・・・・。」

 

赤梅「みんな!いいかげんにしてもらえるかしら?アラバマの兵士が近くに来てるから、ドンチャン騒ぎやってる場合じゃないのよ。」

 

 

 仕方なく、4人ともそそくさとレジに向かった。八橋はマグナムを半分ほど残っていて普通のごとく持ち帰るつもりでいる。レジでは女

性の水夫がおり、最後はやっぱり人で対応するのかとも思ったが、一般公開サービスデーのみ水夫が対応するようだ。

 

女性水夫「一二八〇〇クレジットになります♪」

 

3人「この方が会計係です。」と声を鹿野に向けて、そろえて言った。

 

鹿野「ぇ~~~~!?」

 

赤梅「とにかく急げ!あとで返すから!」

 

 

 そういうと急いで甲板出口に向かった。

 甲板出口まで特にこともなく、少しほっとしたところで、降り立とうとしたそのとき、後ろから水夫が追いかけているように赤嶺にはみえた。

 

赤梅「やばい。なんか追っかけてきてる。」

 ある種おっかけられることで、本能のように逃げるモードになってしまう赤梅につられて、みな急いでアラバマを降り、一目散に帰っていったのである。

 

アラバマ水夫「ぁれ~?パンの折り詰めいらなかったのかな?」

 

 

 八橋が最後に頼んだオーダーを律儀に守ったアラバマ水兵に敬礼をしたいと思う。

 

 結局、アラバマホテルのサービスは三ツ星級ホテル並だったということだろうか?しかし、アラバマはもちろん遊びでこんな火星まで来たわけではないことは明らかである。この真相については、また次の機会に・・・。

 

 

 

火星編へつづく。


奥付


STAR FRIGATE -女章-

20150131
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著者 : 杏仁豆風-annintofu-
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/annintofu/profile


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