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 とある村に、庭の畑を耕して生活をしているおばあさんがいました。畑は公園の砂場くらいしかありませんでしたが、ひとり身で暮らしてゆくには十分な広さなのでした。

  毎年春が終わりに近づくと、おばあさんはスイカの苗を畑一面に植え付けます。それからは、水をやったり肥料をまいたりして過ごします。忙しい日が続きましたが、その間だけは、家族の居ない寂しさも紛れるのでした。

こうして、今年も夏になると、畑には大きくてまあるいスイカが十個ほど実りました。

  出荷の時期がやって来ると、おばあさんは、ほど良く熟したスイカから順に、ダンボール箱の中に詰め込んでゆきました。

  その日、作業を終えたおばあさんは、縁側に腰かけて、庭で獲れたばかりのスイカを食べていました。すると、スイカの匂いにつられてやって来たのか、オオトカゲが一匹、木の陰からひょっこりと顔をのぞかせました。

「おやおや、珍しいお客さんだねぇ」

 おばあさんはにっこり笑うと、手に持っていたスイカの果肉を、地面の上に落としてやりました。オオトカゲは警戒する様子もなく近寄って来て、甘い果実にかぶりつきました。

 それ以来、この小さなお客さんは、毎日のようにたずねて来るようになりました。

「今日は特別暑いから、スイカがいっそう美味しく感じられるでしょう」

  いつしか、スイカを食べているオオトカゲの姿を眺めることが、おばあさんにとって唯一の楽しみとなっていました。そうしていると、不思議と心が満たされるのです。

 一方、オオトカゲの方は、すっかりスイカの味をしめてしまって、おばあさんからもらう分だけでは満足できなくなっていました。

  そこである晩、村人たちが寝静まってから、こっそりと庭に盗みに入ることにしたのです。

 月明かりに照らされて、庭のスイカは、よく磨かれた孔雀石のように輝いていました。

「へへへ、うまそうだなぁ。ここにあるスイカはぜんぶおいらのもんだ」

 オオトカゲは舌なめずりをすると、さっそくひとつめに手をつけました。

  ところが、スイカの皮はかたく、どんなにがんばっても甘い果肉にまでたどり着けません。

「ええいっ、面倒くさい!」

 オオトカゲは、腹立たしげにその玉を蹴飛ばすと、別の、まだ熟していない小さなものを乱暴に引きちぎりました。そして、皮ごとすっかり丸飲みにしてしまったのです。

 小さいとはいっても、スイカはオオトカゲの顔ほどもあったので、案の定のどにつかえてしまいました。

  蔓がうず巻く地面に倒れ込んだオオトカゲは、しばらく苦しそうにもがいていましたが、ついにぴくりとも動かなくなりました。

   翌朝、庭に出たおばあさんはびっくりしました。昨日までなかったはずの場所に、巨大なスイカが出現していたからです。

「まあ、こんなに大きなスイカ、いつの間に実ったんでしょう! 今日はオオトカゲさんにもお腹いっぱい食べさせてあげられるわねぇ」

 おばあさんは大喜びでスイカを蔓から切り離しました。すると、不思議なことに、切り口からすぐにまた新しい実が生えてきたではありませんか。まるで、切れても自然に再生するトカゲのしっぽのようです。

  おばあさんは、信じられない気持ちで蔓の根元をのぞき込みました。すると、根が、何か灰色っぽいものにからみつくようにして、地表に張り巡らされていたのです。

  次の瞬間、おばあさんは小さな悲鳴を上げていました。灰色の物体の正体が、オオトカゲの死体だということに気が付いたからです。

 実は前の夜、死んだオオトカゲの体の中で、とんでもないことが起こっていました。

  飲み込んだスイカの種が、普通ではありえない速さで育ち、皮を突き破って双葉を生やしたのです。そこから伸びた蔓が、一晩のうちにぐんぐんと成長し、夜明けとともに例の巨大なスイカの実をつけたというわけです。

 我が子のように可愛がっていたオオトカゲの死を知って、おばあさんは、瞳の奥から涙があふれてくるのを抑えることができませんでした。頬をすべり落ちたしずくが、地面を点々と濡らします。

 たくさん泣いて落ち着くと、おばあさんは、むき出しになっている死体に土をかぶせてやりました。そして、オオトカゲが寂しくないように、この不思議なスイカの蔓を村人たちに開放することに決めました。

 うわさを聞きつけた近所の大人子どもたちが集まるようになると、スイカ畑は見違えるほどにぎやかになりました。おばあさんはもう、孤独ではありません。

  だけど、そのスイカを目にするたびに、いっとき寂しさを癒してくれた心優しいオオトカゲのことを思い出すのでした。

 

 ~ おわり ~


この本の内容は以上です。


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