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 壁に凭れた女が俺を見ている。周りには朽ちかけた材木とガラス片が散乱している。

 

 懐中電灯の光に照らされたその目玉は、黒髪の隙間からただじっと俺を見つめている。猿轡に隠された唇は、どのような表情をしているのだろうか。小屋の外から梟の鳴き声が響く。建物が古いからだろうか、小屋の中にも声が入り込み、酷く反響するように感じられる。

 

 懐中電灯で女の体を照らす。紺色のセーラー服に包まれた華奢な胴体、ピンとやわらかく伸びた足、くっつけるように縛られた両手の無加工ながらも整った爪が、懐中電灯の光をこちらへ反射する。

 

 苦労して買った医療用のノコギリを持つ手に汗が伝う。大事の前は、やはり神経が張り詰める。ようやく、この女を滅茶苦茶に出来るのだ。


 一年前、シャッターが目立つ商店街の外れ、人もほとんど通らない薄暗い道で、俺はこの女を初めて見た。

 

 派遣先からクビを切られ、怒り不安悲しみで頭をかき 回されながら歩いていたこの俺の目の前を、廃屋から覗くわずかな夕日に照らされた長い黒髪のセーラー服が通り過ぎていった。ひょっとすると、いつもすれ 違っていたかもしれない。だが、その女を認識したのは、その日が初めてだった。

 

 引き千切りたい。歩き去っていく女の背中を見て、そう思った。だがすぐにそれを否定した。その頃はまだ倫理が残っていた。

 

 翌日の夕方、俺はまた、同じ場所にいた。女もまた現れた。おそらく高校二年生ぐらいだろうその女は、俺と同じ人間とは思えぬほどに繊細な足で歩き、一瞥もせず俺の前を過ぎ去っていく。


 ぶち壊してやりたい。昨日とよく似た感情が蘇ってきた。

 

 最初、俺はこれをある種のレイプ願望だと考えた。だが、自室に閉じこもり、暗闇の中でよくよく考えてみると、そうではなかった。あの女をしゃぶりつくしてやりたいとか、ぶちこんでやりたいとか、そういう妄想をしても欲が沸かない。それに関する具体的な妄想が全くできなかったのだ。そうではなくあの女の目玉を抉ってその空洞をしゃぶり尽くしてやりたいだとか、大鉈で上半身と下半身を真っ二つにしてそのま ま内蔵を引きずらせながら這いずり回らせてやりたいとか、そういう妄想が、俺を狩り立てるのだと気が付いた。

 

 それでも、最初は妄想の中だけだった。毎日夕方、あの女といつもの場所ですれ違い、そうすることで妄想の材料を補充し、夜に悶々と頭の中で女を虐殺するだ け。だが、もう我慢ができなくなってきた。仕事もない金もない毎日、 妄想だけでは苛立ちを解消できない。やりたい。引き千切ってぶち壊して真っ二つにして殺してやりたい。悩んだ末、俺は決意した。 


 思いの他、事はすんなり運んだ。人生で初めて、事前にしっかり計画を練ったからかもしれない。いつもの道でいつも通り女とすれ違い、去って行く女の後頭部をセロテープ台で思いっきり殴ってやった。女は大きく一回体を反らせると、そのまま前に倒れ気を失ったが、痙攣はしなかった。上手く殺さず気絶させること ができた。

 

 次に、側に停めてあったレンタカーの後部座席に素早く女を乗せ、手足を縛り上げ、猿轡をした。そしてそのまま、今いる林へ車を走らせた。

 

 車を停めた時、女は既に目覚めじっとこちらを見ていたが、抵抗らしい抵抗は見せなかった。 

 

 予め調べておいたこの小屋に行くまでの道中、女の上半身だけを持ち、足を引きずる形で運んだのだが、途中、何度か手を離してやった。女は頭を地面にぶつけ、小さな体をよじらせた。


 髪を引っ張って女を持ち上げてやると、頭皮に血が滲んでいるのが見えた。そこを思いっきり引っ掻いてやると、猿轡に掻き消されはするものの、女はわずかに悲鳴を上げる。

 

 まだだ、もっと残忍で、快感なことをやるのだ。よじらせる身体が無くなってしまうぐらいの。

 

 俺は大きく深呼吸をした。照らされた光の中、相変わらず女は俺をじっと見つめている。その目玉からは恐れが読み取れない。人間、恐怖が限界まで来ると、恐れの表情すら無くなるのだろうか。背中にゾッとしたものが走ったようで、むしろ俺は気持ちの良い興奮を覚えた。女の顔を思いっきりぶん殴ってやった。 女の身体が大きく横に傾き、倒れる。顔の間近に光を当ててやると、眩しさで顔をしかめた。

 

 



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