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第三章



 三月十一日。運命の日がやってきた。

 C級二組最終日。僕の成績は五勝四敗。今日勝てば初めての順位戦勝ち越しで、しかも規定により降級点が一つ消える。そして、ここまでの年間成績が十四勝十五敗。今日を含め、残りの対局は二局。二つとも勝てば、勝率五割以上の目標が達成できる。

 対戦相手は、ルーキーの品川四段。現在三勝六敗で、わずかながら降級の可能性を残している。対戦はもちろん初めてだが、会うことすら五年ぶりぐらいだった。中学生で三段リーグ入りし、将来を期待された若者だった。しかしリーグでは苦戦し、ずっと指しわけぐらいの成績だった。一年前ようやく四段に上がったが、そこからも目立った成績は残せていない。

 まるで、僕だ。品川君は、僕と同じ道を歩み始めてしまった。

 上座の僕。そして、下座にちょこんと座る品川四段。久々なのだろう、スーツは異様に角ばって見えるし、ネクタイは傾いている。就活を始めたばかりの学生のようだ。

 勝ち越し・降級点消去と、降級点回避のための戦い。見所がないわけではないが、やはり周囲の目は僕らの方には向いていなかった。もし僕が例年通りの成績だったら、順位戦から姿を消しそうな若手として注目されたかもしれない。しかし今年は、ある意味例年以上に影の薄い存在なのである。

 ゆっくりと、駒組みの時間が流れていく。まるで、一切の異物を拒むかのような、品川四段の穏やかな指し手。何千局と指されてきた、ありきたりな形の中に溶け込もうとするかのようだった。僕も、それに追随するしかない。品川君が目指す、古典の中の希望を、共に見てみようと思った。五年前の僕がそうであったように、ただ仕事として将棋を指しているのか。それとも、もがきながら、現状を打破しようとしているのか。それを知りたくなった。

 夕食休憩後も、前例の多い形のままだった。そして、品川四段は仕掛ける気配がなかった。こちらから突っかけるのは無理な形で、僕は隙を見せないように手待ちをするしかない。相手も、飛車を引いてこちらの動きを待つ。お互いに飛車だけが細かく動く。記録係が「三回目……」とつぶやいたのが聞こえた。僕が飛車をさらに動かし、四回目の同じ局面が現れた。

「千日手ですね」

「はい」

 品川四段は顔色一つ変えず、駒を直し始めた。まるで、最初からその予定だったかのような落ち着きぶりだった。

 指し直しまでには少しの休憩をとれることになっている。記録係の子も、トイレに駆け込んでいた。僕は控室で、コーヒーを飲んだ。最悪、もう一度千日手になることだってあり得そうな空気だ。

 品川四段は、ただ古典をなぞっただけだった。時間が有利になるでもなく、ただ単に僕に先手を渡した。彼はひたすらに転げ落ちようとしていると、僕は確信した。

 他の対局が勝負どころを迎える中、僕らの対局は再び初手から始まった。いつもと違い、飛車先の歩を伸ばした。なんとなく、そういう気分だったのだ。そして品川君も、飛車先の歩を突いた。相掛り。普段ほとんど指さない戦型だ。しかし、不思議な懐かしさを感じる。それが何なのか分からないまま、対局は続いていった。

 そして、作戦の岐路となるところで、僕の思考は特定の過去へと追いついた。そう、あの時。初めて彼女と対局したあの時、僕は後手の側を持っていた。あの時僕は彼女を試す意味で、あえて相掛りを選んだ。多分今回も無意識のうちに、品川四段を試す意味で相掛りに誘導したのだ。

 ならば。僕は角を上がり、ひねり飛車の意志表示をした。最近、こんなオーソドックスなひねり飛車など公式戦ではほとんどお目にかかっていない。隣で対局しているベテランの先生が、こちらを覗き込んでにやっとした。「懐かしい」と感じたのだろう。

 将棋を覚え始めたころ、今のようにネットで情報を得ることはできないし、教材は古いものしか手に入れられなかった。みんながゴキゲン中飛車や四間飛車を指していることすら知らず、僕は角換わり腰掛け銀や、相矢倉、そして相掛りの棋譜で将棋の勉強をした。

 ヒネリ飛車の棋譜は、その中でも印象に残るものが多かった。大きく飛車角が動き、歩の手筋でどんどん攻め込んでいく。さらに自陣は美しい美濃囲い。子供心に、将棋の完成系を見た気がした。

 実際には後手の対策が進み、今では勝ちにくい戦法の一つになっている。若手はシビアなので、そんなものにはあえては手を出さない。僕だって今日まで、公式戦では指したことがなかったのだ。

 細かい違いがすぐに形勢の差へと結びついてしまう戦型だ。本当ならばもっと時間をかけて読みたいが、すでに持ち時間は一時間を切っている。時計を見ると、十時五分。終局するところも出始めており、周りの様子から昇級者が決まったらしい雰囲気だ。

 細かい成績までは見ていないが、品川四段の結果次第で降級点が付くかどうか決まる人は、僕らの将棋をやきもきしながら見ていることだろう。記録係の青年が、目をこすっている。おそらくこの対局は日をまたいで、一番最後まで残る。この対局は、多くの人を巻き込んで長引いていくのだ。

「いっちゃうか」

 日付をまたいだころだろうか。ここまでまったく声を出さず、物音さえほとんど立てなかった品川四段が、呟いた。盤面に集中していてわからなかったが、いつの間にか鋭く、危険と言えるほど尖った目つきをしていた。

 そして、5三にいた角が、9七にいた桂馬を食いちぎった。当然同香と応じる。そして8五飛車。駒損をして飛車をさばく非常手段だ。とても千日手に甘んじていた人間とは思えない、激しい打開の仕方だった。

 気が付くと、他の対局は全て終わっていた。広い部屋の中で、ちょっとだけだが、タイトル戦であるかのような優越感を覚える。

 両者60秒の秒読みに入った。激しく攻めたてる品川四段と、きわどく受けながら反撃する僕。この時間、この空気の中で最善手など指せるわけがない。しかし、頭の中は高揚して、快楽さえ感じるようになっていた。これがランナーズハイというものだろうか。

 時間は二時を過ぎていた。自玉はいかにも危ない形だが、多分、詰まない。これが詰まされるなら、もうそれはしょうがない。僕は、じっとと金を寄った。この手自体は詰めろだが、まだまだ受けの手段はある。こちらに詰みなしと分かっていれば、受けないだろう。しかし直観は、品川四段が攻めてくることを告げていた。一年目の僕ならそうしている、という記憶も影響しているのかもしれない。

 そして品川四段は、僕の玉を詰ましにきた。これは、明確に詰まない。かといって形作りというわけでもない。まだ、慣れていないのだ。詰みがありそうなところで、踏み込まずに受けて焦らす。そのような勝ち方を、品川君は知らない。僕も昔は知らなかった。そして、知っていてもできなかった。

 そこから手数は長引いたが、間違いは起こらなかった。

「負けました」

 力ない声だったが、それだけ全力を出し切ったということだろう。時間は三時。まだ残っている人はいるようだが、なかなかこちらの部屋に入ってこない。

「そうか……」

 品川君は、呟いた後唇をかんだ。

 僕の降級点が一つ消え、そして、品川君に降級点が付いたのだ。

 短い感想戦を終えた。

「いやあ、そもそも千日手がいけなかったですかね」

「そうだね」

 僕の言葉に、品川君の視線が固まった。普通は、感想戦は穏やかに終わる。だから、はっきりと同意されることなどないと思っていたのだろう。

「僕も一年目から降級点を取って、五年間沈んだままだった。今日の一敗が、尾を引かないように頑張ってよ」

「…………はい」

 それは、過去の自分に言ってやりたい言葉だった。品川君は僕の目を見たまま、小さく頷きを繰り返していた。


 家に着いたのは四時過ぎ。それでも、電気が点いていた。早起き、というわけではないだろう。

「ただいま」

「おかえりなさい。……あの、おめでとうって言っていいですか」

「……え」

 今まで月子さんとは、自分の成績について話したことはなかった。調べることは簡単だが、あまり興味がないものと思っていた。

 用意してあったのだろう、月子さんはカップにお湯を注いでいる。インスタントコーヒーを作ってくれているのだ。

「やだなあ。昇級したわけでもないし」

「……先生、私知ってるんですよ。順位戦、初めての勝ち越しですよね」

「……うん」

「最初から……全部知ってました。いつも連盟のページ見てたから……だから先生が今年すごく頑張ってるんだなって。私も頑張らなきゃ、って思ってました」

「……ぜん……ぶ?」

 働きの鈍った頭で、過去のことを思い出してみた。対局があると嘘をついて、当てもなくぶらぶらしていた。

月子さんは、知っていたのだ……

「……先生。先生は私の自慢の師匠なんです。タイトルホルダーにも負けない、立派な師匠なんです。だから……その……」

「弱くてもいいじゃないか、ってこと?」

「そうは言わないですけど」

「いや、そうなんだ。僕は弱いプロだ。でも、弱いなりに頑張らなきゃって、最近は思うようになった」

「そんなわけで、お祝いってことでいいですか? いいですよね」

「そうだね。うん。ありがとう」

 目の前に出された、湯気の立つコーヒーに口を付けた。温かかった。胸の奥まで、温かくなった。

「あのね、月子さん。去年、目標言っただろ」

「はい」

「昇段って言ったけど、心の中では、年度成績で勝ち越したい、って思ってたんだ」

 僕の告白に、月子さんは満面の笑みでこたえた。

「実は私も、初段じゃなくてせいぜい2級かな、って思ってました」

「なんだ。まあ、目標なんて言ったもの勝ちか」

「そうですね」

 もうすぐ朝が来る。頭も体も疲れてへとへとだったが、いつになく幸せな気分だった。月子さんは実際、2級に上がった。僕の方は、次こそが大勝負だ。

 次の、今年度最後の対戦相手は、辻村五段。




 人生で、こんなに気合の入ったことはない。だが、僕は今ものすごくテンションが落ちている。

 僕の前にいるのは、金本のおばさん。すでに金本姓ではないのだろうか。僕とおばさんは、二人きりで会うことになった。個室のある居酒屋に呼ばれ、挨拶するなりおばさんは鞄から茶封筒を取り出した。それを、僕の目の前に置く。

「本当に少ないけれど、感謝の気持ちです」

「はあ……」

 予想はついていたが、一応中身を確認する。一万円札が十枚入っていた。

「あの……」

「わかってます。これでは全然足りないのは。でも今私が用意できるのはこれだけなんです」

「……これを受け取ると、月子さんはどうなるんですか」

「もちろん、私が引き取ります」

 そんな話だろうとは思っていたが、言われてみると虚しくなる。

「月子さんは、この前自分の気持ちをちゃんと言いましたし、僕が何か決めることはできません」

「……あの人と同じなんですね」

「は?」

「将棋将棋って。将棋が強くて何になるんですか! あなたも月子に色々と吹き込んで洗脳したんでしょ!」

 今にもつかみかからんばかりの剣幕だったが、不思議と僕は落ち着いていた。今おばさんが何をしたって、結論は覆らないと分かっていたから。

「それなら、手放すべきではなかったんじゃないですか。月子さんは自転車に乗って、ぼろぼろになりながら僕のところまで来ました。両親のためにお金が必要だからって。どうしてもプロになりたいから、弟子にしてくれって言われました。その時、あなたは何をしていたんですか」

「私には私の事情があったの! 何も知らないくせに!」

 店員が入ってきて、おどおどしながら付け出しを置いた。

「あの、ご注文は……」

「あ、僕はこれで帰るんで」

「あの……」

 僕は封筒を突き返し、その上に五百円玉を置いた。

「あなたには一円もお世話になりません。月子さんを迎えに行きたいなら、直接向き合ってください。僕は、知らない」

 そのまま立ち上がり、僕は店を出た。あの母親と、あの父親。あんな二人と暮らすために、月子さんは頑張ってきた。色々とばからしくなってくる。それでも、それでも月子さんにとってはたった二人の肉親なのだ。

 家を出る前に見た長手数の詰め将棋のことを、無理やり考えた。当然だが、解けるわけがなかった。

 





 最近よく、月子さんは天井に頭をぶつける。

 もう二年もたつのだから、距離感はつかめているはずだ。それでも、頭をぶつけるのは、成長している証だろう。

 そう、彼女はロフトで生活して二年になるのだ。起きている時間は下で過ごしているし、そもそももっとひどい所で暮らしていたということで、不満を言うことなんてなかった。けれども十七歳になろうという女の子が、いつまでもそんな狭い所に押し込められていていいのだろうか。

 成績が上がれば、収入も増える。それでもまだ裕福というわけではないが、二人で暮らして行くには十分だろう。

 二人とも目標を達成できたら、新しい家に住んでもいいだろう。ちゃんと部屋が二つある家に。


 僕にとって今年最後の一局。特に注目などない一次予選。見所と言えば、すでに対局数一位を決めている辻村五段が、勝率でも一位になれるか、というところだろう。しかし僕が勝つなどとはだれも予想していないので、勝率の方も安泰だと思われている。

 奨励会でも対局があるが、一度も勝ったことがなかった。率直な感想は、馬力が違う、ということだった。読みのスピード、深さ、そして度胸。生まれ持っている強さが違うのだ。かろうじてプロになるのは僕の方が早かったが、順位戦でも、その他の棋戦でも僕のことをあっという間に抜いていった。僕の年齢になっている頃には、タイトル挑戦などのいくつかの勲章を得ていることだろう。

 モノが違うのだ。同じプロでも、全く違うのだ。おそらく、百番やったら七十番以上負けるだろう。それぐらいの差はある。ただし、どれだけ大事なところで残りの二十数番の勝ちを呼び寄せるかも、弱いなりにプロの技なのだ。今日は、僕にとってだけ特別な対局だ。僕が勝手に決めた目標が、いつも以上のやる気を引き出している。辻村君にとっては、普通の対局の一つでしかない。 

 そう思って対局に臨んだのだが、いざ向かい合ってみると様子が違った。

「おはようございます。楽しみにしていました」

「おはよう。なんで楽しみだったの」

「つっこちゃんが、あれだけ褒める人だからです」

「……」

 辻村君の瞳は、らんらんと輝いていた。ようやく無二のライバルに巡り合えたとでも言わんばかりだ。月子さんが何を言ったか知らないが、それで僕の将棋が見直されるなんていうことがあるのだろうか。

 なんとなく。なんとなくだが、辻村君は振られたんだろうな、と思った。好きとか嫌いとかではなく、月子さんは将棋に夢中で、だから将棋の師匠が大事なのだ。

 対局が始まっても、感情が揺れるということはなかった。ないものは出せないから、序盤は本当にいつも通りのことをするだけだ。辻村君は特に凝ったことをするタイプではないから、局面はオーソドックスな相矢倉になっている。先手の僕は、いつも通りの組み上げ方。後手の辻村君も、教科書通りの指し手を続けている。

 昼食休憩。もちろん、今日は辻村君と食べに行くなんてことはしない。どうしようかと思っていたが、本当になんとなく、またあそこに行ってみたくなった。会館を出て、僕の足は野球場の方へと向いた。

 十数分歩いて着いたのは、ゴルフ練習場のレストラン。一年以上前、僕が逃げ込んだところだ。

 そこで、再びサンドウィッチを食べた。ざわめきも何もない心で、料理が来るのを待つことができた。そして、今日のものは、前回の倍ぐらいうまいと感じた。

 対局室に戻ると、すでに辻村君は盤の前にいた。扇子で音を鳴らしながら、盤上に意識を集中させている。格好いい、と思った。スーツも似合っているし、ネクタイのセンスもいい。しかしそんなことを除いても、彼には戦う者としての美しさがある。

 そのあと、僕はもちろん全力を尽くした。いつになく調子はいいと思った。それでも常に、辻村君の読みの方が上回っている実感があった。うますぎるサンドウィッチが、喉の奥につかえているような気がした。強くなる魔法が掛かっても、まだ相手の方が強いという現実に、少し怯えてしまった。

 相矢倉の先手番が定跡通り攻めれば、だいたいはぎりぎりの細い攻めをつなぐことになる。駒の価値が、位置や関係性によってめまぐるしく変化していく。香車を捨て歩を取り、角を切って手に入れた桂馬を打ちすえる。こちらが作った成駒の威力を弱めるため、玉の位置を変える。その玉を引きずり戻すため、駒を捨てる。逃がさないように、逃がさないように、逃がさないように……

 気が付くと、僕の攻めは完全に切れていた。相手の玉は隅っこにくぎ付けになっているが、それを攻めきるだけの戦力はない。いつもどおりよりも少し冴えわたった頭で、必死になって考えてきたのだ。それでも、全然届いていなかった。

 あやを求めて指し続けたけれど、逆転がないのは分かっていた。辻村君は研究に頼り切っているわけでもなければ、天賦の才の上に胡坐をかいているわけでもない。常に全力で、最も勝てる展開を探るタイプだ。たとえ有利になっても、緩むとか、方針を変えるといったことがない。

 悲惨だとは思わない。これもまた、勝負師の宿命だ。敗者という役割があって初めて、勝者は輝く。弱小プロの「勝ち越す」という夢すら、生半可には叶わないのだ。

「……負けました」

 夜十時。僕の一年は、ほぼ終わった。

「先に端だと、こちらが駄目でしたね」

「……え?」

 最後に、濃密な感想戦が行われた。辻村君は、自分が負ける変化までも深く深く読んでいた。本当に、かなわない。

「……期待に応えられなかった。つまらない将棋だった」

「そんなことないです。先生……失礼かもしれないですけど、三東先生はこの一年ですごく強くなった気がします。調子とかではなく……強くなったと。僕は、先輩が自分より速い速度で強くなるのが怖いんです。だから、絶対に負けられません。貯金で勝ちたくないんです。ずっとずっと、強くなり続けたいんです」

 こちらが恥ずかしくなるくらい、まっすぐな言葉だった。高校生の頃の僕は、ただ認められたいという一心で将棋を指していた。どこかを目指していたわけではない。辻村君には、頂へと続く道が見えているようだ。

 若者には、教えられることばかりだった。

「将棋、楽しいかい」

「もちろんです」

 自分は、そのように断言できた時期がほとんどない。悲しい事実だか、悲観ばかりというわけでもなかった。今からでも、遅くはないと思う。

「じゃあ、また今度」

「楽しみにしています」

 結局、内なる目標の方も達成できなかった。悔しいが、清々しくもあった。


「ただいま」

「あ、お疲れ様です」

「ごめん、昨日になっちゃったね」

 そう言って僕は、テーブルの上にコンビニの袋を置いた。

「誕生日おめでとう」

「ありがとうございます。でも、まだ今日ですよ」

 昨日は、月子さんの十七歳の誕生日だった。対局と重なってしまったので、特に何もすることができなかったのだ。せめてもと思って、ショートケーキを買ってきたのだ。

「だって、時間……」

「見てください」

 月子さんは左腕を突きだし、右手で腕時計を指し示した。見ると、十一時二十分だった。

「え、でも……」

 自分の腕時計は、十二時二十分を示している。掛け時計もそうだった。

「私のが一番新しいから、きっとこれが正しいんですよ。……そういうことで」

「わかった」

 十七歳になった月子さんは、初めて会った日とはまるで違い、優しい嘘をつけるまでになった。

「あの……それで……」

「今日は、負けたよ」

「……そうですか……」

「来年度こそ、目標達成かな」

「私も、です」

 二人でケーキを食べながら、他愛もないことを話した。将棋以外のことを話せるのが、とても幸せだと思った。




 緊張を隠すために、全く関係のない棋譜を並べたりした。それでも、自分に向けられている視線を感じないわけにはいかなかった。

 今日は、特別な日になるかもしれない。しかし、ただの通過点でしかないかもしれない。大きな後悔を生む日にだってなるかもしれない。

 あの日から、四年半。奨励会に入ってから、約四年。十九歳の月子さんは、三段リーグ二期目にして、昇段のチャンスを迎えていた。今日の対局が始まる前までは三番手。二連勝すれば、かなりの確率で昇段できるという状況だった。

 史上初めての女性正会員の誕生か。二段になった頃からざわついた感じはあったのだが、いよいよその実現の可能性が濃くなってきたため、大きな関心が寄せられることになった。あまり見たことのないマスコミ関係者も取材に来ている。

 当然師匠の僕に対する興味もあるようで、いくつか取材を受けた。もちろん、月子さんの親のことなどは言わなかった。それでも特殊な形の師弟ということが、物語の味付けとしては良かったらしい。

 僕らにとって、将棋以外のことで苦難の連続だった。二人とも注目されることが苦手で、できればそっとしておいてほしかった。それでも期待や好奇心は、様々な人の目を引きつけてきた。その中で、月子さんはくじけなかった。嫉妬や中傷すら耐えて、ここまで来た。当初彼女を支えていたお金や家族への思いではなく、純粋な将棋への気持ちが力となったのである。

 今日僕が来ているのは、月子さんの負担が減るようにするためでもあった。彼女も随分と成長したが、それでも基本的には人見知りだ。マスコミの我儘な取材は、精神的な安定を脅かす。それを、出来るだけ僕が代わってやりたかった。

 一局目が終わったとの知らせが届いた。候補の三人が全て勝った、ということだった。これで、月子さんは変わらず三番手。他力だが、自分が勝ち、上二人のうちのどちらかが負ければ昇段である。このような時、全員が連勝するなんていうのは見たことがない。二人のうちどちらかが負けると信じて、自力のつもりで頑張るしかないが、月子さんの気持ちは今どうなっているだろうか。

「やっぱり来ていたんですね」

 控室に入るなり僕に声をかけてきたのは、辻村七段だった。成績は相変わらず素晴らしいが、最近はおしゃれに凝り始めて逆に恰好悪くなっている。今日はマスコミが来ていることも織り込み済みなのだろう、茶色い髪をピンピンに立てて、ついでに襟首も立てていた。

「そりゃあね」

「行けそうじゃないですか」

「そんなにすんなりとは、普通いかないよ」

 それは、僕自身を落ち着かせるための言葉だった。今まで女性は三段リーグにすら入れなかったのに、月子さんは十八歳でそのハードルを飛び越えてしまった。そしてたったの二期で昇段のチャンスを迎え、そのプレッシャーの中一局目を勝つことができた。このままプロになれれば、女性としてだけでなく、普通の若手としても有望株の一人に数えられるだろう。

 実は月子さんは、去年のうちにネット将棋のレーティングでは僕を追い越している。TomatoMamaは、すでに幾人ものプロよりも上にいるのだ。

 今まで気が付かなかったのが不思議なくらいだが、月子さんは天才だった。全集を読むだけでアマ高段者の実力を身に付け、すぐに奨励会に合格できるまで強くなり、そして順調に昇級・昇段していった。きっと僕が師匠でなくても、月子さんは強くなっていっただろう。

 そういえば、自分が昇段を決めたとき、待っていてくれる人はいなかった。もちろんその場にいた人たちはおめでとうを言ってくれたが、僕にそれを言うために来た人はいなかったのだ。システム上、半年に二人はプロ棋士が誕生する。僕のような期待されない若者が、弱いプロになってしまうことだってある。それに比べ月子さんは、色々な人を巻き込み、そして僕らが待ち望む中で、プロになろうとしている。

 時間の経過が、渦巻いているように感じた。一局目が終わってしまっていることを不思議に思い、二局目が長すぎるようにも思った。結果が早く出てほしいような、知りたくないような。

 第一報が入った。自力だった一番手が勝った。まだ月子さんは他力だ。この時点で確率は四分の一。次点二回でフリークラス編入という制度もあるので、上がれなかったとしても勝つことが大事だ。

「つっこちゃんは、そういう星の下に生まれてきた気がします」

「え」

 検討の手を止めて、突然辻村君は王将をつまみ上げた。それを見ながら、話を続ける。

「将棋界のことなんて知らずに飛び込んできて、三東さんのところにたまたま行って。それでこんなに早く駆け上がってきて。全然強そうに見えないし、弱気だし、内気だし。でも、勝っちゃうんですよ、彼女はいつも」

 第二報が入った。それは、金本三段が勝った、というものだった。耳の奥で、血液がリズムを上げていく音が鳴り響いていた。辻村君と眼が合い、なぜか頷き合った。

 それからの二十分。色々ことをしていたようだが、何もしていないようでもあった。月子さんは、もっと落ち着かない気持ちで待っていることだろう。

「前川三段、負けです。大屋、金本三段が昇段です」

 第三報。僕や辻村君が反応するよりも先に、周囲の人々がざわついた。そして将棋のことなんて全く知らなかった記者が、言った。

「よかったですね」

「え……ええ」

 信じていた。月子さんはプロになれるのだと。でも、信じられなかった。何を考えたらいいのか分からない。

「三東さん……やりましたね」

「辻村君……やっちゃったね」

 しばらくしてようやく、あっという間だ、そう思った。あの、玄関の前で初めて会った日から。頼る人のない少女と、頼りない僕。あそこからここに来るまで、あっという間だった。

 それでも。ゆっくりと振り返れば、本当にいろいろなことがあって、長い長い日々だったとも感じる。

 多くの視線が、僕の言葉を待っているのが分かった。つばを飲み、息を大きく吸って、吐き出した。

「でもまだ、これがスタートですから」

 マスコミ用に用意していた言葉を、何とか僕は吐き出すことができた。

 その後も質問が続いたが、何をしゃべったのかはよく覚えていない。



 へとへとになって帰宅し、二人は同時に息を吐いた。やっぱり、家が落ち着く。

「疲れたね」

「……はい。なんか、いろいろと逃げたい気分です」

 月子さんは今日一日で随分痩せたのではないかと思うほどだった。それでも僕らは、笑顔だった。当たり前だ。こんなにいい日はない。

「……不思議だね。月子さんがもう、四段になるだなんて」

「先生ももうすぐ五段じゃないですか」

「長くかかりすぎたよ」

 二人でストロベリーティーを飲んだ。何度となく繰り返してきた時間。それがとても特別なものに思える。

「あの……先生」

「うん」

「家のことなんですけど」

「ああ」

 勝ち越したら引っ越しと思いながら、結局一昨年、去年と惜しいところで達成できなかった。去年は指し分け、五割だった。しかし今年は好調で、六割以上をキープ。あっさりと勝ち越しを決めていた。

「僕も考えていたんだ」

「……その……わがままなお願いだとは思うんですが……私、ここにいたらいけないでしょうか」

 その瞳の中に、間抜けな顔の僕が見えた。

「……え?」

「一人前になったら、居候なんておかしいことは分かってます。でも……早く先生にお金返せるようにするには……このままの方が……」

「あ、ああ」

 驚いた。月子さんの言葉にではなく、自分の先入観に、だ。四段になったら月子さんは立派な社会人だ。それなのに、彼女がこの家から出ていくなんてことは、全く考えたことがなかった。

「いや、僕は引っ越そうかと思ってたんだ。その……もう少し広くて、部屋もいくつかある所に」

「そうなんですか?」

「もちろん今日の結果がどうなるか分からなかったし……うん。いつまでもロフトでは、ってずっと思ってたから。勝ち越したら引っ越そうって、ずっと思ってた」

「私……あそこ好きですよ」

 そう言った後、月子さんはすっと立ち上がると、ロフトに登って行った。そしてすぐに、右手に何かを持って、下りてきた。

「先生……私、隠しごとをしていました」

「隠し事?」

「これ、見てください」

 月子さんが差し出したのは、一枚の便箋だった。一番上に「お父さんより 月子へ」と書かれている。


「月子へ

 父さんは今名古屋のおじさんのところにいる。仕事を手伝いながら、何とかちょっとずつ借金を返してる。お前は、心配しなくていい。

 母さんとは離婚した。

 お前には何もしてやれないが、三東先生のところでプロになってくれると、嬉しい。

 多分手紙はこれきりだ。元気にやっていってくれ。

いろいろと、すまなかった。」

 

「月子さん、これ……」

「先生がいないときに届いて……。三年前の、順位戦最後の日です」

 その日のことを、思い返してみる。僕が家に帰ると、月子さんは一つの隠しごとを解き放った。

あれは、新しい一つの隠し事をするために必要なことだったのか。

「なんで隠してたの」

「……私、怖かったんです。母ともあんな感じで、父からもこう言われて、将棋を続ける理由がなくなる気がして……。私、いつの間にか、両親のことなんてどうでもよくなっていたんです。ただ強くなりたい、将棋を続けたい、先生に教わりたいって……。だから、言えませんでした。ごめんなさい」

 深々と頭を下げる月子さん。なんだか、すごく申し訳なくなってしまった。だって、僕にも隠しごとがあったのだから。

「それ以前に、君のお父さんに会ってたんだよ」

「……いつ」

「出張したとき、名古屋に泊まるって言ったでしょ。そのとき偶然」

「……そうなんですか」

「ごめん」

「……おあいこ、ですね」

 二人の間に、新しい空気が生まれたのを感じた。弟子として、新しいライバルとして、そして金本月子として。僕は今、見ている。

 細くて長い髪。短い睫毛。少し茶色が勝った瞳。小さな耳たぶ。全て、今初めて見たような気がした。

「家の話だけど……」

「はい」

「その……今さらだけど、ずっとロフトはやっぱり、きつかっただろ」

「そんなことないです。……よく、上から先生のことを眺めてました」

「……そうなの?」

「最初の頃は、本当にさびしかったんです。……でも、一人じゃないって思えたから。明日も明後日も、先生と一緒だからって」

 僕の前に現れた、十五歳の月子さん。彼女は小さくて弱々しくて、とても勝負師になるとは思えなかった。しかし、性格なんて変わらないけれど、今の月子さんは立派なプロ棋士になろうとしている、堂々とした若者だ。

 僕はたいして変わってないと思う。それでも、月子さんがいなければ、ひどい方へと変わっていたかもしれない。

「月子さん、君が選ぶなら、どうしたっていいんだ。一人で暮らしても、このままでも、ロフトを下りてきても」

「先生……」

 月子さんの瞳を、その中に映る僕を見て、自分が少し卑怯な気がしてきた。僕の気持を、はっきりとさせるべきだ。

「いや……でも、一人で暮らす必要はないのかな。月子さんも僕も、それを望んでない……よね?」

「……はい。私、ここがいいです。ここ」

 月子さんは、両手でテーブルを抱え込んだ。ここ。ずっと二人で暮らしてきた、この場所。ご飯を食べて、将棋をして、泣いて、笑った場所。

「でも、今日からはライバルでもあるからね。もし対局する日が来たら、一緒に連盟に行くってのも変だろうなあ」

「でも、面白そうですね。楽しみです」

 師弟は、そう簡単には当たらない。二人とも、勝ちあがっていかないと。

 次の心の目標は、二人で共有することになりそうだ。

 なかなか話をやめることができなかった。不思議な夜が、深まっていった。

 




 ようやく、日記帳が二冊目になった。結構さぼったので、一冊目を使い切るのに三年以上かかってしまった。

 

「月子さん、新人戦決勝へ」

 

 それが、最後の一行。

 プロになってからの月子さんは、僕とは全く違う道を歩んでいる。勝って勝って勝ち続けて、そうなると負けても話題になる。そして、目立てば対局以外の仕事も舞い込んでくる。聞き手、指導、さらには雑誌のインタビューまで。

気が付くと月子さんが出かけるのを見送り、一人家に残ることが多くなった。炊事や洗濯をしながら、専業主婦みたいだな、と思ったりする。

 もはや、嫉妬することもなかった。毎日月子さんのことを見てきて、努力をしてきたことは十分承知している。人付き合いが怖いのに頑張って通い続けたことも知っている。両親と二度と共に暮らせない悲しみを背負っていることも知っている。だから、彼女は将棋で活躍すべきなのだ。

「本当は、まだ怖いんです」

 月子さんは、そう言う。

「でも、学校は嫌いだったけど、将棋は好きだから」

 注目されて、取材もされて、時にはいわれなき非難もあって。外で疲れ果てて帰ってきた月子さんを、この家で癒せたら。いつしか僕はそんなことを考えるようになっていた。

 僕でなければいけなかったかどうかは分からない。でも、僕のもとで金本月子という棋士が誕生した。僕は初めて、誰かによって役割を与えられた。

 僕自身は、一流になれないことは分かっている。必死になってしがみついて、ようやく五割一分といったところだ。でも、月子さんは違う。どんどん上を目指せるだけの才能がある。僕は、どこまでもその手助けをしたい。

「先生、ちょっと相談が」

「ん? どうしたの」

 それぞれの部屋はあるのだが、二人はリビングにいることが多い。広い家を持て余しているのもあるし、そばに誰かがいないと落ち着かなくなってしまったようだ。

「あの……三番勝負では、どんな格好したらいいでしょうか」

「ああ……考えたこともなかったな……」

 もしこれからも活躍するのなら、和服なども必要かもしれない。タイトル戦で和服の男女が対戦することになれば、その光景だけでも画期的と言えるかもしれない。

「その、やっぱりスーツとか……」

「スーツ?」

「へ、変でしょうか……」

 そう言えば、今まで新人戦の様子を見たことがない。皆和服を着て対局していただろうか。どちらにしろ、女性が一般棋戦の番勝負をするのが初なので、慣例も何もない。

「うーん。初めてのケースだし、わかんないなあ。でも、スーツじゃなくても」

「できればあんまり派手じゃないのがいいです」

「そっか」

 それでいいのかもしれない。無理をして着飾らなくても、周りが勝手に言葉で装飾してくれるだろう。

「和服かなあと思ったけど……タイトル戦にとっとこうか」

「はい」

 力強い返事だった。本気で目指しているようだ。

 初めて会った日の、か細い声を思い出す。あの時の少女は、もういない。そして多分、あの日の僕も。

 それでいて思う。二人はあの日からずっと変わらずに、ゆっくりと歩み続けているのだ、と。

 月子さんがトイレに行っている間に、僕は日記の最後の一行に、言葉を付け足した。

 

「ありがとう」

 

 これから何度も思うことだろう。けれども、口には出せない。ありがとう、本当にありがとう。




あとがきにかえて

一 棋譜

 

月子「はい、えー、はじまりました、対談です!」

幸典「え……なに、なんなのこれ?」

月子「あのですね、作者さんから『将棋のわからない人にも楽しんでもらえるような、おまけを』って注文があったんです」

幸典「はあ」

月子「それで、先生と対談しようと思って」

幸典「はあ」

月子「……乗り気じゃないですか?」

幸典「あんまり得意じゃなくて」

月子「駄目ですよ、喋りも慣れなくちゃ。講師とか解説とかのお仕事も増えないと生活厳しいんですから」

幸典「……(最近なんか厳しい)」

月子「とりあえず始めますよ」

幸典「了解」

月子「まずですね、作品中に出てくる『△3三銀』とかの記号について説明しなきゃ、と思うんです」

幸典「なるほど」

月子「とりあえず図を見てみましょう」



幸典「ゴキゲン中飛車の変化だね」

月子「そういうことではなくて……。まずですね、将棋は9×9の盤を使ってするゲームなんです。で、横を数字、縦を漢数字で表すんですね」

幸典「それで先手の手の時は▲、後手の手の時は△を付けるわけだ」

月子「将棋の駒にはいろいろな種類があるので、『手番・駒・位置』の順に書いて、図の場合『△3三銀』になるのです」

幸典「例えば二枚の同じ駒が同じ場所に行ける場合、先手の金が6八に行く場合は『▲6八金寄』とか『▲6八金上』とか書いて表すんだけど、まあ、細かいことはいいか」

月子「ですね。とりあえず本作では『あー、こういう盤面で駒動かしてるんだなー』ぐらいの感覚で見ていただければ」

幸典「(本当にしっかりしてきたなー)……まあ、こうして指し手を書くことで、一局の将棋を正確に記録できるんだよね」

月子「そうなんですよね。おかげで多くの棋譜として記録が残って、皆で勉強することができます」

幸典「僕たちは棋譜を売る商売だとも言えるわけで」

月子「先生も早くいっぱい棋譜が載るようになるといいですね」

幸典「……」

 

 

二 プロ制度

 

月子「次に、将棋のプロについてちょっと説明したいと思います」

幸典「うん。この作品に大きく関わるからね」

月子「将棋のプロになるには基本的には奨励会というところに入って、四段にならないといけないんですよね。二十五歳というタイムリミットもあります」

幸典「本作では順調に月子さんは昇級していったけど、実際には多くの人が苦労して挫折するからね。あと、実際にはまだ女性で四段になった人はいないんだ」

月子「女性で奨励会に入る人自体少ないですもんね。私もこちらに出てきてから、男性社会なんだってことをすごく実感するようになりました」

幸典「最近は女性の割合も少しずつ増えてきているかな。あと、女性は女流棋士になるという選択肢もある。研修会というところで一定の成績を収めるとなれるんだ」

月子「私、そういうものがあることも知らなくて……。将棋のこと、もっと世間に伝わるといいなあ、って思います」

幸典「そうだね。情報が伝われば、もっと裾野も広がるだろうね」

月子「先生もタイトルとかは無縁そうだし、もっと普及に力を入れていければいいですね!」

幸典「……」

 

 

三 将棋のできるところ

 

月子「あと、将棋が実際どういうところでできるのかも知りたいです」

幸典「確かに、指してみたいけどどこでできるか分からない、という人も多いみたいだね。まあ、一般的には将棋の道場があるね」

月子「私のお父さんはそこで強くなりました。アマ六段なんです!」

幸典「それはまあうん、そういうことにしておいて……。道場は席料というお金を払って、集まった人たちと対局できるんだ。プロの先生が教えてくれるところもあるよ」

月子「ただ、初心者には敷居が高い時も……」

幸典「そうだね。中には強豪ばかりがそろってたりして、入りにくいところもあるかもね。本当は強い人が優しく教えてくれたらいいんだけど。最近はネット将棋やゲームセンターで将棋を指す人も増えてきたよ。同じぐらいの棋力の人も見つけやすいし」

月子「私もネット将棋のおかげで随分実戦がこなせた気がします」

幸典「全国どこにいてもできるのが強みだね。あと、コンピューターソフトも色々あるから、これも勉強になるよ。うかうかしていると僕らも追い抜かれるかもしれないぐらいの勢いで強くなってきているしね」

月子「とりあえず、先生が抜かれたら私も危ないですね」

幸典「……」

 

 

四 終わりに

 

月子「まだまだ将棋に関することは色々ありますねー。それだけで一冊本が書けそうです」

幸典「いずれ月子さんもそういう本書きなよ。きっと売れるよ」

月子「でも対局とか多くてなかなか時間が……先生こそどうですか?」

幸典「確かに僕は対局が少なくて書く時間があるからね……。まあ、要望があればこのあとがきを書き足す事もあるかもしれないかな」

月子「なるほど。電子書籍の便利なところですね」

幸典「本当に将棋の世界は楽しくて、色々紹介したいことがあるんだ。僕らの物語が、そのきっかけになればなって思うよ」

月子「そうですね。作者さんももっと魅力を伝えられる話を書きたいって言ってましたよ」

幸典「その日は来るかなー。まあ、期待せずに待つとしよう」

月子「そうですね。では、明日も対局があるのでこの辺でそろそろ。みなさん、機会あればまたお会いしましょう!」

幸典「読んでくれた皆様、ありがとうございました!」

お知らせ

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