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登場人物

登場人物

 

 ドン・サルヴァトーレ・カッラーロ  マフィアのボス

 ルチアーノ・コンティ        サルヴァトーレの片腕

 ジーナ・カッラーロ         サルヴァトーレの前妻 ルチアーノの妹

 レオーニ・パッガーニ        サルヴァトーレの旧友

 

 アンナ・カッラーロ         サルヴァトーレの後妻

 ファウスト・カッラーロ       サルヴァトーレの養子

 マウロ・ヴァンティーニ       アンナの弟

 クラウディア・カッラーロ      サルヴァトーレの娘

 

 セーコ・カムラ           巻き込まれたウエイトレス 日本人

 

*エキストラ

 ウエイター

 手下ども

 チンピラ

 パーティの客

 

舞台はイタリアのとある街 


前半

開幕前 場末のリストランテ

 

 舞台の中心にしつらえられたテーブルに地味だが高級そうなスーツを着た中年の男(サルヴァトーレ)が座り、メニューを見ている。ウエイターがワイン用のバケットを持って給仕に来る。サルヴァトーレが目を向けると、ウエイターはバケットから拳銃を取り出し、サルヴァトーレに向けて。

 

 暗転。銃声。開幕。

 

現在 場末のリストランテ

 

 倒れているサルヴァトーレのそばに、チンピラ風にスーツを着崩した若い男(マウロ)が立ちつくしている。そばには、やや派手だが品の良い服を着た若い女(アンナ)が失神しており、彼女よりも幼い雰囲気を残した女(クラウディア)がそれを抱えている。出入り口側にはいかにもこわもての、スーツを着た中年の男(ルチアーノ)が手に拳銃をぶら下げて立っている。その反対側、隅のほうでウエイトレス(セーコ)が怯えている。

 

 ルチアーノ (セーコに)おい!

 セーコ へ、へえ!

 ルチアーノ あのウエイターなにもんだ?

 セーコ あ、あたし今日から働き始めたもんで……

 ルチアーノ (舌打ちして銃をしまう)メソメソしてんじゃねえぞマウロ。

 マウロ だってよう。ドンが……

 クラウディア 救急車は……

 ルチアーノ だめか?

 マウロ 即死だよ……

 クラウディア パパー……

 ルチアーノ あーあー!(椅子などを蹴る)

 

 リストランテの入り口から、細身のスーツを着こなした若い男(ファウスト)が入ってくる。

 

 ファウスト 見失った。

 ルチアーノ は? おめえふざけてんのか。何のために二本も足ついてんだよ。使いこなせねえなら一本もらうか?

 ファウスト すぐ町中に散らせる(電話を取り出す)

 ルチアーノ おい待て。

 ファウスト あ?

 ルチアーノ 探させんのはいいが駒動かすのは最低限にしとけ。他の連中には知らせんな。

 マウロ なんでだよルチアーノ、ドンがやられたんだぜ?

 ルチアーノ ちったあ頭使え牛野郎。ファミリーの余計な混乱は避けてえ。なるべく俺らだけで片つける。

 ファウスト わかった。とりあえず直属だけ使う。

 マウロ ……俺、どうしたら……

 ルチアーノ だからメソメソしてんじゃねえていってんだろうが! いいか? サルヴァトーレがやられたってことはすぐにでも知れわたる。んなことになりゃ、サツも他の組織もこぞって潰しにかかってくる。だからな、明日の新聞の一面はこうなってないと行けねえんだ。昨日、カッラーロファミリーのドン、サルヴァトーレ・カッラーロが暗殺されました。が、その日の内に暗殺者とその一味はファミリーによってラザーニアにされましたってな。悲しむのはマフィアの仕事じゃねえ、俺たちがやるべきことは……

 ファウスト シニョリーナ〈お嬢さん〉。

 セーコ あ、あたし? はい……

 ファウスト オーナーは?

 セーコ あ、あの、厨房の方でシェフたちとすっごくちっちゃくなってます。

 ファウスト グラーツェ〈ありがとう〉。君、チネーゼ?

 セーコ いや、中国人じゃなくて、日本人です。あの、留学で。

 ファウスト ジャポネーゼか。すまないな巻き込んでしまって。

 セーコ いえ、とんでもないです。あ、もうすぐバイトあがり時間なんで、ちょっとタイムカード押してきますので、失礼致します。

 ルチアーノ 姉ちゃん、悪いけどちょっと片つくまで残業してもらえねえかなあ?

 セーコ え、でも。

 ファウスト まあ、オーナーと今から話するから。きっと残業代も出してもらえるよ。

 セーコ あの、オーナーとかにはやっぱ乱暴的なことを……

 ファウスト ちゃんと正当な手続きによるよ。

 ルチアーノ 俺たちのな。姉ちゃんにも後で話聞かせてもらうかもしれねえから。

 セーコ あ、でもあったすバイト今日からだったし、イタリアきたばっかだし、イタリア語ぜんぜんしゃべれねえでもんでござるで

 ルチアーノ さっきまでペラペラだったじゃねえか。

 クラウディア (セーコに)あの、すいません。どこか休ませるところがあったら。

 セーコ あ、あの従業員の休憩室にソファが。

 クラウディア ちょっと連れてってもらえませんか?

 セーコ あ、はいはい。

 クラウディア 有難うございます。

 ルチアーノ (アンナを見ながら)……マフィアの妻にあるまじき軟弱さだ。

 マウロ おい。

 ルチアーノ しょせんは娼婦あがりだな。

 クラウディア ルッチおじさん、やめて。

 マウロ 姉貴のこと悪く言うなよ。

 ルチアーノ は? 俺は事実を言ったまでだぜ。

 マウロ 娼婦の何が悪いんだよ。

 ルチアーノ まあ、おめえはそのおこぼれに預かってっから、今ここにいられるんだしな。

 マウロ おい。娼婦のどこが悪いんだよ!

 ルチアーノ 頭の弱いところだよ!

 マウロ ……ゆるさねえぞ。

 クラウディア マウロ! おじさん! お兄ちゃん止めて!

 ファウスト おいルチアーノ落ち着けよ、あんた今冷静じゃない。

 ルチアーノ ファウスト、おめえが俺に口答えするようになったのはいつからだっけな?

 ファウスト そういう話は置いとこう。

 ルチアーノ 孤児院から拾って、鼻水も自分で始末できねえようなガキの頃から面倒見てたのは誰だ?

 ファウスト ルチアーノ、分かってるよ。俺をここまで育てたのはドン・サルヴァトーレ・カッラーロで、その親友のあんたも本当の家族みたいなもんだ。だけど、それをいえばドンの今の奥さんのアンナさんも、その弟のマウロもクラウディアもみんなファミリーじゃないのか? な、落ち着けよ、今、ファミリーのために本当にやるべきことは、自分で言ってたじゃないかルチアーノ。

 ルチアーノ ……

 

 クラウディアとセーコ、アンナを連れて退場。

 

 マウロ ……俺も様子見てくる。

 

 マウロ、あとを追って退場。

 

 ファウスト 俺はオーナー尋問してくるから、頭冷やしててくれ。そのうち俺の部下がこっちに来る。……あんたのつらいのはわかってるよ、ルチアーノ。

 

 ファウスト退場。

 

 ルチアーノ ……サルヴァトーレ・カッラーロ……

 サルヴァトーレ (若々しい声で)おいルッチ、なんて顔してんだ。

 

 サルヴァトーレが起き上がる。

 

二十数年前 現在とは別の場所のリストランテ 若き日のサルヴァトーレとルチアーノ

 

 サルヴァトーレ 緊張しすぎだぜ。

 ルチアーノ だってよう。

 サルヴァトーレ 相手はレオーニだぜ。幼馴染じゃねえか。

 ルチアーノ でもよう、つるんでたのはガキのころだし、すげえ久しぶりだし、しかもあいつ今じゃマフィア……

 サルヴァトーレ 人間なんて、ガキのころからそんなに変わりはしねえもんだって、それによ、今マフィアにびびってちゃしょうがねえだろ。なんたってこれから……

 

 派手なスーツを着た若い男(レオーニ)登場。

 

 レオーニ ヴォナセーラ! サルヴァトーレ、ルチアーノ!

 サルヴァトーレ レオーニか!

 レオーニ 久しぶりだなあ、全然変わりやしねえ。

 サルヴァトーレ おまえもだよ。でもあれだな、やっぱり、それっぽいな。

 レオーニ 伊達男に見えるか? ま、おめえらもキまってるじゃねえか

 サルヴァトーレ そんなことねえよ。

 レオーニ トーレは大学へ行ったんだってな。さすがガキの頃から本読んでたやつはちげえな。すげえよ。ルッチは何してるんだ?

 ルチアーノ 俺はぶらぶらしてる。

 レオーニ あ、そう。でも二人とも元気そうで何よりだ。やっぱ元気が一番だな。ああ、ジーナも元気か?

 ルチアーノ 妹か? 今は隣町に住んでるよ。俺ももうしばらく会ってねえ。

 サルヴァトーレ いつも俺たちの後についてってたな。

 レオーニ あぶねえからついてくんなっつてんのによう。つうか俺たちあぶねえことばかりやってたよなあ。トニオさんとこのパン全部盗んだり

 ルチアーノ 交差点の信号を折ったり

 サルヴァトーレ 動物園のカンガルー逃がしたり

 レオーニ ああ、あのカンガルーんときはマジ危なかったなあ。

 ルチアーノ カンガルーがあんなに強いとはな。

 サルヴァトーレ あの頃は楽しかった。

 レオーニ 毎日のように何かやらかしてたな。

 ルチアーノ でもよう、同じ街に住んでんのにずいぶん久しぶりになっちまったな。

 レオーニ まあ、住む世界が違うからな。

 ルチアーノ ……

 サルヴァトーレ ……

 レオーニ 俺になんの用だ。

 サルヴァトーレ ……最近、この街にジェラート会社の元会長がやってきたよな。

 レオーニ 創業者が今の経営陣に追い出されて逃げてきたってやつだろ。

 ルチアーノ 愛人の家がこっちにあるんだ。

 レオーニ 何でお前らが知ってんだ?

 サルヴァトーレ その別宅を管理してるやつが、ルッチのおふくろの上客なんだ。

 レオーニ ルッチのおふくろって……確か娼婦だったよな。まだやってんのか?

 ルチアーノ ……おう、ナンバーワンだ。

 レオーニ すげえな。

 ルチアーノ 俺、おふくろが十三の時の子どもだから。

 レオーニ それにしてもすげえよ。

 サルヴァトーレ 話ズレてんな。それで、得た情報はそれだけじゃねえんだ。相当な量の隠し財産が、現金とか宝石になって持ち込まれてるらしい。

 レオーニ ふうん……それは俺も知らなかったな。

 ルチアーノ で、その管理人、うちのおふくろにぞっこんでよう。

 サルヴァトーレ そいつてなづけて、ちょっぴり財産ちょろまかそうって算段立てたんだが、

 レオーニ へえ。

 サルヴァトーレ お前に手を貸して欲しい。

 レオーニ ……お前ら、マフィアにものを頼むってどういうことだか分かってんのか?

 ルチアーノ だ、だからよう。

 サルヴァトーレ その金を、上納金にでもして、俺たちをマフィアにしてほしい。

 レオーニ 本気か?

 サルヴァトーレ 冗談ならもっと面白いこと言うよ。

 レオーニ ルチアーノは別にしてだなあ。サルヴァトーレ、お前は親も堅気だし、

 ルチアーノ サルヴァトーレの親、両方とも死んだんだ。

 レオーニ そうか、悪かったな。でも、大学まで通ったんだろ。日の当たる世界を棒に振るのはどうかと思うぜ。

 サルヴァトーレ つまんねえんだよ、今のままで行くのが。

 レオーニ 面白いとかつまんねえとかいう次元の話をしてるんじゃねえんだよ。頭良いんだから分かるだろ。

 ルチアーノ 何で俺をちらちら見るんだ?

 サルヴァトーレ 大学だって馬鹿ばっかりだったよ。

 レオーニ 馬鹿はどこにだってたくさんいるもんだぜ。

 ルチアーノ だから何で俺のほうチラチラ見るんだ?

 サルヴァトーレ 俺は自分の力がどのくらいなのか試したくなった。できれば限界のない世界で。

 レオーニ ……ガキみてえだな。そんな甘くねえよ。

 サルヴァトーレ 甘くなくたっていいんだけどさ、だから、ガキみたいでいいんだよ。

 レオーニ は?

 サルヴァトーレ 三人でまたいろいろやりたいってことだ。最近昔のこととかよく思い出すんだ。楽しいとか、そういう次元じゃなくて、あの頃は三人でないと生きてる気がしなかった。だからさ、また、三人でいっしょにさ。

 ルチアーノ 俺もよ、レオーニ、お前がマフィアになってからは、正直ビビッてた。でもよ、実際、久しぶりに会ってさ、また三人で一緒にいたくなった。今の俺まったくだめでよう、でもおめえらと一緒だったら、なんか……

 レオーニ ……

 サルヴァトーレ なあ、レオーニ。

 レオーニ ……一つだけ問題があるな。

 サルヴァトーレ なんだ?

 レオーニ 俺、あそこのジェラート好きなんだよ。気が重いな。

 サルヴァトーレ みんなそうだ。

 

 サルヴァトーレ、再び倒れ、レオーニ、そっと退場。マウロ登場。

 

現在 場末のリストランテ

 

 ルチアーノ ……

 マウロ あやまんねえのかよ。

 ルチアーノ なにをだ?

 マウロ さっきの侮辱をだ。

 ルチアーノ てめえみたいなガキになんで謝んなきゃいけねえんだよ。

 マウロ 俺にじゃなくて姉貴にだよ。

 ルチアーノ ……

 マウロ あんたから見れば、俺みてえな新参者がでかい顔してるのは胸糞悪いんだろう。そう思うのはしょうがねえ。でも俺は頑張る。頑張ってこれから何とかする。

 ルチアーノ せいぜいそうしとけ。

 マウロ でもよ、姉貴は今のそのままの姉貴をドンに認められたんだ。たぶらかしたとか、そんなんじゃねえ。娼婦だとかなんだとか生い立ちも含めて認められたんだ。だから姉気を侮辱すんのはドンを侮辱したことにもなると俺は思う。

 ルチアーノ ……

 マウロ あんたはドンとは長い付き合いだ。ドンは再婚だし、あんたが、その、前の奥さんの兄貴だってことも知ってる。でも、姉貴には関係ねえ。今は姉貴が奥さんだ。

 ルチアーノ ジーナのことを関係ねえとかそういう口きくんじゃねえ。

 マウロ わかったよ。だから、俺はあんたの妹のことをどうこういわねえ。だから、あんたも俺の姉貴のことはいうな。

 ルチアーノ ……(退場しようとする)

 マウロ どこ行くんだ?

 ルチアーノ ファウストんところだよ。あいつだけじゃ頼りねえ。

 

 ルチアーノ退場。様子を伺うようにセーコ登場。

 

 セーコ あの、怖い人、行きました?

 マウロ あ、ああ。

 セーコ あの、あたし、家に帰って勉強とかしなくちゃいけないんで、あと、あのお嬢さんももう帰っていいよ的なオーラ出してたし。

 マウロ あんた、ジャポネーゼなんだよな。

 セーコ へ、へえ。

 マウロ 俺、日本大好きなんだよ。

 セーコ はあ、それはありがとうございます。

 マウロ 日本のマンガ良く読むんだ。

 セーコ そうなんすか……

 マウロ キャプテン翼とか、ドラゴンボールとか。

 セーコ はあ。

 マウロ 俺、小さい頃マンガ家になりたかったんだよね。

 セーコ なんで、そっちを目指さなかったんでしょうかねえ……

 マウロ でも絵がうまく描けなくてよう。で、次になりたかったんがマフィアなんだ。

 セーコ 極端ですね。

 マウロ うち親父が飲んだくれのギャンブル狂いでさ、よくマフィアが借金取りに来てたんだけど、

 セーコ それでなんで……

 マウロ 親父さ、いつもは俺とか姉貴とかおふくろのこと無茶苦茶に殴るんだけどさ、マフィアが来るときだけはサーカスのポニーみてえにおとなしいんだよ。でさ、マフィアのおっさんたちは、俺らにやさしくてさ、お菓子くれたりマンガくれたり。そのうち親父いなくなっちまっておふくろも死んでさ。ずっと姉貴の稼ぎで暮らしてたんだけど。

 セーコ ……そうですか……

 マウロ 日本にもあるよな、マフィアみたいなの。えーと、なんだっけな。「ヤクザ」だっけな。映画で見たよ。えーと「オヒケーナスッテ」違うか? 逆?

 セーコ それは、昔のヤクザですよね。いまはあの、こうパンチパーマで……

 マウロ パンチパーマ?

 セーコ あのう、こういうくるっとしてぺタッとした感じで、あのでも、イタリアのマフィアさんたちのほうが格好良いですね。なんか日本のはベタッとした感じだけど、イタリアはしゅっとした感じ。

 マウロ そうかあ?

 セーコ あのさっきまでいた若い人なんてそうですよね。

 マウロ ファウスト?

 セーコ 名前も格好良いんですね。その、紳士っぽいところとか。ちょっと怖かったけど。

 マウロ まあ、あいつはいい男だ。クールだし。俺は?

 セーコ え、ああ、カッコイイデス。

 マウロ そう? イタリアーノは日本じゃもてるんだろ?

 セーコ え、ああ、そうかもしれないですねえ。

 マウロ 俺も行ってみてえなあ日本。ジャポネーゼにもてたいなあ。

 セーコ あの、でもいいじゃないですか。美人の恋人もいるんですし。

 マウロ 恋人?

 セーコ え? あの女の人違うんですか? なんかそんな雰囲気っぽかったからてっきり。

 マウロ いや、ちげえよ。ちげえけど、そういう風に見えんだ。

 セーコ いいですねえ。あんな綺麗な人。

 マウロ そう? いや、違うけどさあ。

 セーコ またまたあ、で、その可愛いあの子が私に「もう帰っていいよ」的なオーラ出してたんであたしもうここら辺でおいとまいたしますねえ。あ、今度日本のマンガ送りますよう。

 マウロ マジで? グラーツェミッレ。

 セーコ いえいえとんでもない。アサヒ芸能も送りますよう。それじゃまた。アリヴェ・デールチ〈さようなら〉。

 マウロ おう、あ、待った。

 セーコ いや、もう時間が。

 マウロ ドンをさ、運ぶの手伝ってくれよ。

 セーコ へ、死た……いや、でも、

 マウロ このままここに寝かしとくわけにはいかねえからさ。

 セーコ そうですけど。

 マウロ 結構重いんだよ。死体って。

 セーコ はあ。

 マウロ な、いいよな。

 セーコ は、はい……やっぱりマフィアだ……

 マウロ ん、なに?

 セーコ いえ、あの、どこに運ぶんですか? 休憩室?

 マウロ いや、姉貴が寝てるからな。同じ部屋はちょっとな。

 セーコ じゃあ、あとはオーナーの部屋か……

 マウロ 任せるよ。丁寧に持ってくれよ。なんたってカッラーロファミリーのドンで、姉貴の、最愛の人だったんだからな……

 

 マウロとセーコがサルヴァトーレの体を持ち上げると、サルヴァトーレ、自力で動き出す。マウロ、セーコそっと退場。

 

二十数年前 ルチアーノの家

 

 レオーニ登場。

 

 レオーニ 何そんなそわそわしてるんだ?

 サルヴァトーレ べつにそわそわしてねえよ。ルッチは?

 レオーニ 今キッチンで特製ピッツァ焼いてるよ。

 サルヴァトーレ そっか。

 レオーニ ルッチのピッツァも久しぶりだ。お前は食ってんのんか。

 サルヴァトーレ いや、別に最近は。

 レオーニ あいつガキの頃から料理上手かったもんなあ。

 サルヴァトーレ ああ。

 レオーニ 料理人になっても良かったんじゃねえかなあ。

 サルヴァトーレ ああ。

 レオーニ でも、すぐ客殴るから無理か。

 サルヴァトーレ ああ。

 レオーニ ……じーな

 サルヴァトーレ え?

 レオーニ ジーナもうすぐ来るってよ。

 サルヴァトーレ あ、ああ。

 レオーニ 楽しみか?

 サルヴァトーレ まあ、久しぶりだしな。

 レオーニ おまえ、ジーナのこと好きだったろ?

 サルヴァトーレ はあ?

 レオーニ まあ、見てりゃ分かったけどよう。

 サルヴァトーレ ガ、ガキの頃だろ。

 レオーニ 色恋に歳は関係ねえだろ。

 サルヴァトーレ 今は関係ねえってことだよ。

 レオーニ じゃあ何でフワフワしてんだよ。

 サルヴァトーレ 別にフワフワしてねえよ。

 レオーニ ガキの頃は男みてえだったよな。

 サルヴァトーレ あんまり憶えてないけど。

 レオーニ なに構えてんだよ。昔の話なんだろ。

 サルヴァトーレ だから構えてねえよ。

 レオーニ なんだかガキみたいだな。もしかして童貞か?

 サルヴァトーレ うるせえな。

 レオーニ まあ、怒んなよ。どもよ、どんな女になってんのかな。

 サルヴァトーレ さあ。

 レオーニ ルチアーノそっくりだったり。

 サルヴァトーレ レオーニ、そういう冗談はよしてくれ。

 レオーニ いやいやいやいや。

 サルヴァトーレ いやいやいやいや。

 レオーニ ま、ルッチのおふくろは美人だったしな。期待してようぜ。

 サルヴァトーレ あ、ああ。

 レオーニ でもよう、お前純情だなあ。

 サルヴァトーレ 別に、そんなことねえだろう。

 レオーニ 本当に、童貞か?

 サルヴァトーレ ああ?

 レオーニ あのな、東洋の伝説によるとな、三十過ぎても童貞だと魔術が使える様になるらしい。

 サルヴァトーレ 俺はまだ二十四だぞ。

 レオーニ うかうかしてるとあっという間だぜ。

 サルヴァトーレ 待て、その前に、前提としてだな、俺は童貞じゃねえ。

 

 品のある魅惑的な衣装をまとった女(ジーナ)が現れる。

 

 サルヴァトーレ あ……

 レオーニ ヴォナセーラ、ジーナ。

 ジーナ ヴォナセーラ、レオーニ。

 サルヴァトーレ や、やあ。

 ジーナ チャオ、サルヴァトーレ、本当に久しぶり。

 サルヴァトーレ うん。

 ジーナ でも、すぐに分かった。

 サルヴァトーレ あ、ああ。

 ジーナ レオーニも。

 レオーニ 伊達男にはなってねえかな。

 ジーナ どうだろ、子どものままに、見えるけど。

 レオーニ ジーナは見違えたな、大人になった。

 ジーナ そう?

 レオーニ よかったな、兄貴に似なくて。

 ジーナ ふふ、まあねえ。兄貴は?

 レオーニ あっちでピッツァ焼いてるよ。

 ジーナ あら、楽しみ。

 サルヴァトーレ ルッチにもやっぱり会ってなかったのか?

 ジーナ おじさんの家に引き取られてからはね。またこっちに引っ越すことにした。

 レオーニ お、そっか、いよいよ昔の頃みたいだな。じゃあ、再会を祝して、そろそろルッチも呼んでこねえと。

 サルヴァトーレ ああ、じゃあ……

 ジーナ 兄貴たちさあ、マフィアなのよね。

 サルヴァトーレ ……

 レオーニ ……そうだよ。

 ジーナ レオーニや、兄貴はそんな予感もあったけど、サルヴァトーレまでそうなるとは思わなかったわ。

 サルヴァトーレ ……そうか?

 ジーナ ここ来るだけでもおじさんたち大喧嘩よ。お前を引き離してよかった。

 レオーニ 否定はしねえ。

 ジーナ 幼馴染だろうが親類だろうがまっとうじゃない奴とは関わるなだって。

 サルヴァトーレ やっぱり会わないほうがよかったか?

 ジーナ 会うんならこれっきりできっちり縁切って来いって。

 レオーニ ……ま、縁切るのもせめてピッツァ食ってからにしねえか?

 ジーナ 三人ともずっと仲良しなのね。

 サルヴァトーレ ……まあなあ。

 レオーニ 三人で一つみたいなもんだったからなあ。

 ジーナ あの頃は、私も男の子だったらなあ、て思ってた。もし、男の子だったらね、たぶんそっち側にいたと思う。

 サルヴァトーレ ジーナ。

 ジーナ 良かったのか、悪かったのか。

 レオーニ 分かりきってんだろう。

 ジーナ わかんないけど、とりあえず今は四人の再会と友情を祝して。

 サルヴァトーレ ルッチがまだピッツア焼いてるぜ。

 ジーナ 兄貴早くしなよ、そんな焼き加減凝ったってたいして違いはしないんだから。

 

 ピッツア持ってきたのはファウスト。サルヴァトーレ、レオーニ、ジーナそっと退場。

 

現在 場末のリストランテ

 

 クラウディア登場。

 

 クラウディア お兄ちゃん。

 ファウスト ……アンナさんは?

 クラウディア まだ起きない。寝息は落ち着いてるけど。

 ファウスト 無理に起こすこともないさ。

 クラウディア ……

 ファウスト ルチアーノに追い出されたよ、俺じゃあ頼りないそうだ。

 クラウディア ……

 ファウスト 心配するな。なじみのリストランテにめちゃくちゃなことはしないよ。

 クラウディア ……そう。

 ファウスト 腹減ってないか。多少さめてるけど。

 クラウディア いい。

 ファウスト 一応俺たちのために作ってあったやつみたいだけどな。

 クラウディア 久しぶりに家族みんな集まったのにね……

 ファウスト ……そうだな。

 クラウディア 特別な日なのに。

 ファウスト 何の日だっけか?

 クラウディア 何の日って……

 

 ファウスト、クラウディア、ともに幼くなり、初めて会ったかのようによそよそしく。

 

十数年前 カッラーロの屋敷

 

 サルヴァトーレ登場。

 

 サルヴァトーレ ああ、一足遅かったみたいだな。

 クラウディア パパーこの人は?

 サルヴァトーレ クラウディア、お前に素敵なプレゼントがあるんだ。

 クラウディア ? 誕生日はもう終わったけど?

 サルヴァトーレ 誕生日じゃなくてもプレゼントはするもんだろ。クラウディアがいつも一番に欲しがっていたものだよ。

 クラウディア え、一番? もしかして、ドルチェの帽子?

 サルヴァトーレ 違う。

 クラウディア ミュウミュウの靴?

 サルヴァトーレ もっと、生涯大切にするようなものだ。

 クラウディア わかんなあい。

 サルヴァトーレ 家族だよクラウディア。

 クラウディア え?

 サルヴァトーレ お兄ちゃんだ。

 クラウディア お兄ちゃん?

 サルヴァトーレ 名乗りなさい。

 ファウスト ファウスト。

 サルヴァトーレ ファミリーネームは?

 ファウスト ……

 サルヴァトーレ お前の新しいファミリーネームだよ。

 ファウスト カッラーロ。

 サルヴァトーレ そう、ファウスト・カッラーロだ。

 ファウスト ……ファウスト・カッラーロです。

 サルヴァトーレ クラウディアも自己紹介を、

 クラウディア クラウディアです。……クラウディア・カッラーロ。

 サルヴァトーレ 今日はじめてここに来たんだ。クラウディア、家の中を案内してあげなさい。ファウスト、妹と仲良くな。

 

 サルヴァトーレ退場。

 

 クラウディア あの……

 ファウスト なに?

 クラウディア よろしくお願いします。

 ファウスト うん、よろしく……

 クラウディア あの……

 ファウスト なに?

 クラウディア あ、あ、あの、あ、そのネックレス素敵、どこで買ったの?

 ファウスト これは、ママーがくれた、んだと思う。ママーの顔知らないけど。

 クラウディア あ、私も一緒。私もママーいないの。私が赤ちゃんのときに死んじゃった。

 ファウスト でも、君にはパパーがいるね。僕にはパパーもいなかった。

 クラウディア あ、うん、……でも! 私のパパーあなたのパパーになるんでしょ。

 ファウスト うん。

 クラウディア やっぱり一緒だよ。

 ファウスト そうだな。

 クラウディア これからぜんぶ一緒でしょ。

 ファウスト うん。

 クラウディア うん、よろしく。

 ファウスト うん、よろしく。

 クラウディア うん。

 ファウスト ……

 クラウディア ……

 ファウスト ……あの、案内してくれないの?

 クラウディア あ、するする。

 ファウスト うん。

 クラウディア あ、あとあの

 ファウスト なに?

 クラウディア お兄ちゃんって呼んでいい?

 セーコ(声) お兄ちゃんはだめよ。

 

現在 場末のリストランテ

 

 マウロ、セーコ登場。

 

 マウロ なんでだよ、すげえじゃねえか鳳凰幻魔拳。

 セーコ 反則反則、あの人だけ何でもありじゃん。やっぱり紫龍様でしょう。

 マウロ クロスすぐ脱ぐじゃんかよ、あいつこそセイント関係ねえじゃん。

 ファウスト 何の話してんだ?

 マウロ ブロンズセイントで誰が一番強いかって。

 ファウスト コミックの話か?

 マウロ こいつがいける口でさあ。

 セーコ ……いかん、馴染みはじめている。あの、私はここらで……

 マウロ ドンを別の部屋に移してきたよ。

 ファウスト グラーツェ。

 マウロ ちょっと素人くせえな、一発しか撃ってねえし。普通何発かやるだろ。

 クラウディア あ、あの私アンナさんの様子見てくるね。

 マウロ 姉貴、頼むな。

 クラウディア 二人とも無理しないでね。あの、あなた、お名前は。

 セーコ え、セ、セーコです。

 クラウディア セーコさんもいこ。

 セーコ え、でも

 クラウディア いいから。

 セーコ いや、あ、そうじゃなくてかえ

 クラウディア ほら。

 

 クラウディア、セーコを無理矢理ひっぱって退場。

 

 マウロ つええな。父親がやられったっていうのに

 ファウスト いつでも明るく振る舞えるんだよ。

 マウロ お前もすげえよ、ルチアーノだってパニクってるっつうのに、俺なんて頭真っ白になって。

 ファウスト 俺だってそうだよ。すっぽり頭からすべて抜けだして、でもやらなきゃいけねえって思ったことが勝手にどんどん押し寄せてきてさ。

 マウロ クールだなあ、俺もあんたみたいになりたいよ。

 ファウスト 別に真似しなくてもいいんじゃねえか、お前はお前だろ。

 マウロ 俺、向いてないんかな。

 ファウスト 向き不向きなんて無いよ。

 マウロ そうか?

 ファウスト ただ、覚悟があるだけさ。

 

 チンピラがふらふらと入ってくる。

 

数年前 とある路地裏

 

 チンピラ なあ、ファウスト、勘弁してくれよ。ほんの出来心だったんだよ。

 ファウスト 武器庫のショットガン三丁、どこに流した?

 チンピラ ピエトロだ、あいつに渡した。あとのことは知らねえ。これで許してくれよ。なあ、娘が手術なんだ。急に金が必要だったんだよ。

 ファウスト そうか。

 チンピラ マウロ、おめえはアンジェラのこと知ってんだろ? おめえからも何とか言ってくれ。

 マウロ 確かに、マリオの娘はまだちっちゃくて、病弱だよ。何回か会ったことある。

 チンピラ だから、見逃してくれよ。な? な?

 マウロ ファウスト、どうする?

 ファウスト わかった。娘のことはなんとかする。でも、お前はここで終わりだ。

 

 チンピラ、突然ナイフでファウストに襲いかかる。マウロが慌てる間に、ファウストが素早くチンピラを射殺する。

 

 ファウスト マウロ、こういう時は前もって準備してないとだめだ。

 

 続けざまに銃声。チンピラ、さらにのたうつ。サルヴァトーレ、レオーニ登場。

 

二十数年前 やはりとある路地裏

 

 レオーニ (拳銃をしまいながら)脅しだけですみゃあ楽なんだが。

 サルヴァトーレ ま、しょうがないだろ。やるときにはやらないと。

 レオーニ ……そうだけどよ。

 

 レオーニ、チンピラの死体を探り、なにか鍵のようなものを見つける。

 

 レオーニ あったよ。これでまったくお前の計画通り進むな。

 サルヴァトーレ じゃ、帰るか。

 

 レオーニ、鍵をわざわざサルヴァトーレのポケットに突っ込もうとするが、他に小箱を持っているのに気づいて、取り出す。

 

 レオーニ なんだ? 指輪?

 サルヴァトーレ おい返せよ。

 レオーニ 柄でもねえな。どうしたんだ?

 サルヴァトーレ ……プロポーズしようと思う。

 レオーニ 誰に?

 サルヴァトーレ 言わせんなよ。

 レオーニ ……ジーナか?

 サルヴァトーレ ……無理か?

 レオーニ ……いや……お前なら、問題ない。

 

 サルヴァトーレ、小箱を取り返し、サルヴァトーレ、レオーニ、チンピラを運びながら退場。

 

現在 場末のリストランテ

 

 ファウスト ……履歴書と顔写真があった、ま、でたらめだろうがそれで探させてる。かくまわれると厄介だが、近隣の組織に目立った動きはないからまだ潜伏してる可能性が高い。ま、なんとか今日中に見つけるよ。問題はその先だが。

 マウロ 誰がやったんだろうな。

 ファウスト そればっかりは捕まえてみてからだな。

 マウロ あんまり恨まれるような人じゃなかったけど。

 ファウスト 泣く子も黙るドン・カッラーロだぜ。恨まれてないって考えるのがおかしい。つうかそれ以前に……

 マウロ なに?

 ファウスト マフィアが死ぬのに、理由なんてない。

 マウロ ……でも、俺たち、ボスの仇見つけたら、間違いなくぶっ殺すよな、それって理由じゃねえのか?

 ファウスト やるのに理由はある。死ぬのには理由は無い。

 マウロ よくわかんねえな。

 ファウスト 俺も言っててよくわかんなくなってきた。

 マウロ ファウストは賢いよなあ、いろんなこと考えてんな。

 ファウスト そんなことないよ。

 マウロ 俺にないものみんな持ってる。

 ファウスト お前にとっていらねえってだけだろう。

 マウロ 俺、あんたのこと好きだぜ。

 ファウスト グラーツェ。

 マウロ ボスもクラウディアも、このファミリーみんな好きだ。ずっとこれでやってきたいと思ってる。

 ファウスト ああ。

 マウロ マフィアっぽくないかなあ?

 ファウスト 絆は大事だ。

 マウロ ルチアーノは嫌な野郎だけど……

 

 ルチアーノ登場。

 

 ルチアーノ 若干南部の訛りがあったみてえだな。南部出身のチンピラが集まるバールがあるからそこあたらせろ。

 ファウスト ああ。

 ルチアーノ 南部系のファミリーの動向も一応気にさせとく、あとはもう出てこねえな。つうかしゃべれる状態じゃねえ。

 マウロ おい、まさか。

 ルチアーノ ガキじゃねえんだ。わざわざ後始末が面倒なこと増やしたりしねえよ。つうか、当然のことだろうが!

 ファウスト ちょくちょく通ってた店だけどな。

 ルチアーノ マフィアのドンがくるような店じゃねえんだよ。

 マウロ こういうところが好きだったんだけどな、ドンは。高級店とかよりも。

 ルチアーノ 脇が甘かったんだよ、こんな店よう、大体なんだこのピッツァはよう、こんなもの客に出すような店は……

 

 ファウスト、マウロそっと退場。

 

二十数年前 ルチアーノの家

 

 ルチアーノ おい、何でピッツァ欠けてんだ。

 

 レオーニ登場。

 

 レオーニ どうしたんだよ、そんなに騒いで。

 ルチアーノ 俺のピッツア喰ったか?

 レオーニ は? しらねえけど。

 ルチアーノ 口にアンチョビーついてんぞ。

 レオーニ ついてないよ。

 ルチアーノ ひっかかんねえか。

 レオーニ ひっかかるもなにも、食ってねえから。

 ルチアーノ いや、おめえ以外考えられねえ、つうかなんでおめえ俺んちいるんだよ。

 レオーニ いてもいいだろ。

 ルチアーノ 俺のピッツア盗み食いにきたんだろ。

 レオーニ 意味わかんねえから。そんなでかいんだからよう、ちょっとくらい食べられたって別にいいじゃねえか。

 ルチアーノ まだ見た目を味わってなかった。

 レオーニ 見た目?

 ルチアーノ 完璧な円、絶妙なバジルの配置、もうこれ以上のものを俺は作れねえかもしれねえ。だからカメラを取りにいった。なかった。だから買いに行った。それをてめえよくも。

 レオーニ まあ、待て。お前アホか?

 ルチアーノ 勘弁ならねえぜレオーニ。

 

 ジーナ、登場。口をもぐもぐさせながら。

 

 ジーナ あ、姉貴。そこにあったピッツア、ちょっと冷めてたけど、まあ八十点くらいだね。

 ルチアーノ あ、そう、そうか。

 レオーニ おい、ルッチ、さっきの剣幕はどうしたんだよ。

 ルチアーノ お、おうすまねえな、疑ったりして。

 レオーニ それはいいけどよ、犯人はあそこにいるおめえの妹だぜ。

 ルチアーノ いや、ま、まあ栄養取らなきゃいけねえからな。

 ジーナ すーぐおなか減るんだよねえ。

 ルチアーノ しょうがねえよ、二人分なんだから。

 レオーニ 二人分?

 ルチアーノ 妊娠したんだよ。

 レオーニ え?

 ルチアーノ 見た目じゃ全然わかんねえだろ。

 レオーニ あ、ああ

 ルチアーノ そんなんでおどろくこたあねえだろうよう。夫婦なんだからやることはやってんだ。

 ジーナ ……

 レオーニ サルヴァトーレは?

 ルチアーノ おめえのパパーはどこにいるんだろうなあ?

 ジーナ 幹部昇格のあいさつ回りだって。

 レオーニ 相変わらずお忙しいようで。

 ルチアーノ お前のパパーはファミリーの若手一番の出世頭だからなあ。忙しいよなあ。あ、結婚式もしてねえな。

 ジーナ ま、お金もなかったしね。

 ルチアーノ 今度まとめてやるか、なあ。結婚式に、昇格祝いに、誕生パーティか?

 ジーナ 生まれんのはまだ先だけど。

 ルチアーノ 二人で開いてやろうぜ、レオーニ。

 レオーニ まあ、俺も忙しいが。

 ルチアーノ なに言ってんだ、俺とおめえは暇じゃねえか。サルヴァトーレの描いた絵に色塗ってればいいだけの話だろ。頭使ってねえんだから楽じゃねえか。

 レオーニ 頭使ってねえのはお前だけだって。俺はいろいろあんだよ。

 ルチアーノ そうか? でもよう、俺ら二人でやるしかねえだろうよう。

 レオーニ まあ、そうだな。

 ルチアーノ よし、そうと決まったらあれだな。

 ジーナ なに?

 ルチアーノ ピッツア作ってくる。

 ジーナ は?

 ルチアーノ パーティ用の新作考えんだよ。

 ジーナ これは?

 ルチアーノ おめえらで食え。

 

 ルチアーノ退場。

 

 ジーナ そんなに好きならピッツア屋になればよかったのに、ねえ。

 レオーニ まあな。

 ジーナ 兄貴向いてないんじゃないの? マフィア。

 レオーニ マフィアに向き不向きなんてないけどな。

 ジーナ そうなの?

 レオーニ わかんなくていいよ。

 ジーナ まあ、あのサルヴァトーレが幹部だもんねえ。

 レオーニ ……聞いてなかった。

 ジーナ 言わなかったもん。

 レオーニ ……アウグーリ〈おめでとう〉、ジーナ・カッラーロ。

 ジーナ グラーツエ、レオーニ・パッガーニ。

 

 サルヴァトーレ、登場。が、二人に見つからないように身を潜める。

 

 レオーニ 出産祝いは何が欲しい?

 ジーナ 名前

 レオーニ 名前?

 ジーナ サルヴァトーレとも話してるんだけど、あなたに名付け親に。

 レオーニ それは……ドンがつけると思うぜ。

 ジーナ 話はつけるっていってた。

 レオーニ ……男だったらマルコ、女だったらマルカ。

 ジーナ もっと考えてよ。

 

 サルヴァトーレ、退場。

 

 レオーニ ……男だったら……

 

 アンナ登場。過去と現在が交錯する。

 

 アンナ マウロ

 レオーニ 女だったら

 

 クラウディア、セーコ登場。

 

 クラウディア アンナ。

 ジーナ もっと、私たちの子どもにあうような名前を、時間をかけて考えて。

 

 レオーニ、ジーナ退場。


後半

現在 リストランテの従業員休憩室

 

 クラウディア 起きてたの? 具合は大丈夫?

 アンナ うん、今目が覚めたの。なんだか変な夢見てた気がするわ。

 クラウディア そう。

 アンナ あんまり覚えてないけどね。知らない人たちが出てきてね。なにかおしゃべりしてるみたいなの。ルチアーノさんもいたような気がしたわ。

 クラウディア そう。

 アンナ あなたは?

 セーコ え、いやあ、セーコです。セーコ・カムラ。

 アンナ クラウディアのお友達? 東洋の方?

 セーコ ジャポネーゼではありますが……

 アンナ まあ、私の弟がね、日本が大好きで、今度マウロにも紹介してあげてね。

 クラウディア アンナさん。

 アンナ これから私たち家族で食事なんだけど、セーコさんはご招待できないかしらね。そしたらマウロにすぐ紹介できるんだけど、あなた、ウエイトレスみたいな格好ね。

 セーコ あ、それは……あの、どうしたら。

 クラウディア アンナさん覚えてないの?

 アンナ ……ここはどこ?

 クラウディア リストランテよ。

 アンナ もう着いてたの? あれ?

 クラウディア 落ち着いて。思い出せる?

 アンナ あれ? あれ?

 クラウディア 大丈夫。落ち着いて。

 アンナ あ、あ、ああ……

 クラウディア アンナさん

 アンナ マウロは……マウロは大丈夫?

 クラウディア マウロはあっちにいるから。

 セーコ よ、呼んできましょうか?

 

 セーコ退場。

 

 アンナ 生きてるの?

 クラウディア 生きてる。大丈夫。

 アンナ サルヴァトーレは?

 クラウディア パパーは……

 アンナ サルヴァ…トーレは……

 クラウディア パパーは死んだ。

 アンナ サルヴァトーレ、ああ、ああ……

 クラウディア ママー……

 

 号泣するアンナ。号泣はやがてすすり泣きにかわり、サルヴァトーレとルチアーノ登場。クラウディアそっと退場。

 

数年前 とある娼館

 

 サルヴァトーレ 泣いてる女がいるな。

 ルチアーノ 泣いてる娼婦なんて辛気くせえ。サルヴァトーレ、娼館なんてくるところじゃねえぜ。

 サルヴァトーレ 大事な収入源だろ。視察にくんのは当たり前じゃねえか。

 ルチアーノ そんなのは下っ端にやらせときゃあいいんだよ。ドン・カッラーロがわざわざすることじゃねえよ。それに、クラウディアの教育上良くない。

 サルヴァトーレ クラウディアはもう十六だろ。もう、わかってるもんさ。つうかお前のママー娼婦じゃねえか?

 ルチアーノ そうだよ、今でも現役だよあのババア、芸暦四十年、シニア賞金女王だよ、胸糞悪い。

 サルヴァトーレ 誇りを持てよルチアーノ、お前のママーだろうが。

 ルチアーノ 娼婦なんて糞みてえなもんだ。

 サルヴァトーレ 俺もお前も独り身なんだ。

 ルチアーノ ……忘れてえのか?

 サルヴァトーレ ジーナのことか?

 ルチアーノ もう十数年も前のことだもんな。

 サルヴァトーレ そんなことは言ってないだろう、どのみち違う話だ。……なんで泣いてるんだ。仕事がつらいのか?

 アンナ あ、いえ、そうじゃないんです。すいません。すぐに泣き止みます。

 サルヴァトーレ いや、泣くなと言ってるわけではないんだ。ただ泣いてる理由が気になって、言いたくなければ言わなくてもいいんだが。

 ルチアーノ おやさしいことだな。

 アンナ あの、ママーが……母が、ずっと病気で、それでさっき死んだって、便りがあの、パパーはもうずっと前にいなくなって、弟が一人で、弟もきっと泣いていて、私もすぐ行かなきゃいけないど、体がうごかなくて、力が抜けちゃって。

 サルヴァトーレ そうか、では車で送ろう。

 ルチアーノ おい、気まぐれで伊達を気取るのはよせ。

 サルヴァトーレ 名前は?

 アンナ アンナです。あの……

 サルヴァトーレ サルヴァトーレだ、サルヴァトーレ・カッラーロ。

 アンナ カッラーロ……ドン・カッラーロ!

 サルヴァトーレ 君のお母さんは幸せだったんだ。我々の世界では死んでも誰も泣いてくれないものの方が多い。さあ、行こう。

 アンナ ラリングラーツィオモルト、ドンカッラーロ、あの、私、あなたが亡くなったときには、あなたのために泣きますわ。

 ルチアーノ おい、何ぬかしやがんだこのあばずれが!

 サルヴァトーレ 大人しくしろよルッチ。グラーツエ、アンナ。そのときはよろしく頼む。

 

 ジーナ登場。アンナそっと退場。

 

二十数年前 カッラーロの屋敷

 

 ジーナ 親友が殺されても泣かないのね。

 サルヴァトーレ 悲しむのはマフィアの仕事じゃない。

 ルチアーノ レオーニを殺ったのはストレッツオの一味だ。これから全力で潰す。

 ジーナ 息子や甥がさらわれても、あせらないの?

 サルヴァトーレ それもやつらが関わってるかもしれない。まだ生きてるよ、きっと。

 ジーナ 何にも一切連絡ないのに? 悲しくないの? 辛くないの?

 サルヴァトーレ ……ジーナ。

 ジーナ さわらないで……ごめん。マフィアって大変ね。私がかわりに泣かせてもらうわ。マフィアじゃないから。

 

 ジーナ退場。泣き声が聞こえる。サルヴァトーレ、別の側から退場。泣き声はそのまま。マウロ、ファウスト登場。ファウスト、電話している。

 

現在 場末のリストランテ

 

 マウロ 姉貴起きたのか……

 ルチアーノ ……

 ファウスト ……ご苦労だったな。(電話を切る)捕まえたそうだ。

 ルチアーノ 生きたままか?

 ファウスト 生きたままだ。ここへつれてくる。

 ルチアーノ 大丈夫か? 途中で奪い返されたり、口封じされたりしねえだろうな。

 ファウスト 俺の部下がついてる。

 ルチアーノ 迎えに行く。てめえのシメジみてえな部下だけじゃ心配だ。

 ファウスト 待てよ、ルチアーノ、あんたがうごくと目立ちすぎるんじゃないか。

 マウロ 焦るのは良くないぜ。

 ルチアーノ ガキども、俺に指図するんじゃねえ。

 

 ルチアーノ退場。

 

 マウロ いきりたってんな。

 ファウスト アンナさんのところに行かなくていいのか?

 マウロ 正直、なにしてやったらいいのかわかんねえ。

 ファウスト 行ってやれよ。

 マウロ ……姉貴があんなに泣いてんのはおふくろが死んだとき以来だ。あん時さ、俺ひとりでおふくろの側にいてさ、もう本当にどうしていいかわかんなくて、姉貴の店に電話したのになかなか戻ってこなくてさ、俺が迎えにいこうにもおふくろ一人に出来ないし、その時でっけえ車がうちの前に止まってさ。

 ファウスト ……

 マウロ あの時、姉貴の涙を止めたのはドンだった。今度は誰なのかな。

 ファウスト 行ってやれって

 マウロ 俺なのかな?

 ファウスト 男だろう。

 マウロ ……おう。

 

 マウロ退場。クラウディア登場。

 

数年前 カッラーロの屋敷

 

 クラウディア お兄ちゃん、新しいお母さん来たよ。

 ファウスト ああ。

 クラウディア チラッと見たんだけどねえ、やっぱりすごく若いよ。私とあんまり変わらないくらい。

 ファウスト そうか。

 クラウディア 見に行かないの?

 ファウスト いいよ。

 クラウディア 恥ずかしがってんの?

 ファウスト 違うよ。

 クラウディア こっそり見に行けばいいじゃん。

 ファウスト やだよ。そのうち紹介されるだろ、その時でいい。

 クラウディア 突然会わないほうがいいよ。心の準備しておいた方が。

 ファウスト だからいいんだよ。忙しいし。

 クラウディア そお? あ、あと男の人ついてたよ。なんか、若い人。

 ファウスト 弟がいるっていうのを聞いたな。一緒に引き取るのか。

 クラウディア 家族が増えるね。

 ファウスト うれしそうだな。

 クラウディア うれしくないの?

 ファウスト 別に。

 クラウディア ママーができるよ。

 ファウスト 歳近いんだろ。

 クラウディア 関係ないよ。すねてんの?

 ファウスト 興味がないだけだよ。

 クラウディア そうなの?

 ファウスト そんなの気にする歳じゃないし。

 クラウディア なんか私が子どもみたいじゃない。

 ファウスト 大体俺自身養子だしな。

 クラウディア やっぱりすねてんだよ。

 ファウスト 俺、そろそろ出るから。

 クラウディア え、そう? ランチは? 一緒に食べないの?

 ファウスト 出先で食べる。悪いな。

 クラウディア そう。

 ファウスト じゃ、チャオ。

 クラウディア チャオ。

 

 ファウスト、退場しようとするもマウロとぶつかる。

 

 マウロ あ、すんません。

 ファウスト 誰だ? 新入りか?

 マウロ あ、はい。ええと、今日からお世話になります、マウロ・ヴァンティーニっていいます。

 クラウディア さっき見た人。

 ファウスト ん? じゃあ、ドンのアレの、その、アレか?

 マウロ えーと、なんすか?

 ファウスト あー、なんか聞きづらいな。

 クラウディア あ、あたしクラウディア・カッラーロ。

 マウロ カッラーロ? もしかしてドンの?

 クラウディア もしかして、パパーの?

 マウロ あ、そうその姉貴がそのドンのお世話に。

 クラウディア おじさんね。

 マウロ おじさん? ああ、そうなんのか。

 ファウスト ドン・サルヴァトーレの養子のファウストだ。ピアチェーレ。

 マウロ ピアチェーレミーオ。ファウストさん?

 ファウスト ファウストでいいよ、おじさん。

 マウロ ああ、じゃあ、ファウスト、あのう、おじさんはやめてマウロで。

 ファウスト 組織にも入るのか?

 マウロ そっちもまあ、よろしく。

 ファウスト ああ、俺はちょっと用事があるんで失礼するが、またそのうち。アリヴェデルーチ、マウロ。チャオ、クラウディア。

 

 ファウスト、退場。

 

 マウロ 格好いいな。

 クラウディア へへ。

 マウロ 俺と同じくらいの歳かな。もういっぱしのもんなんだなあ。俺もあんな感じになれんのかな。どうだろ、どう思う?

 クラウディア まあ、がんばんなさいよ。

 マウロ おお。がんばる。

 クラウディア ところであなた一人?

 マウロ ん?

 クラウディア 私の新しいママーは。

 マウロ ママー?

 クラウディア ほら、あなたのお姉さん。

 マウロ そうか、ママーかはあ、なるほどははは、姉貴が。

 クラウディア どうしたのよ

 マウロ あ、そうだ。俺、トイレに行ってて、道に迷っちゃってて、ここどこっすか?

 クラウディア どこにいたの?

 マウロ こんなでっかい絵がかかってた部屋で、なんだろあの絵、馬? 猫?

 

 アンナ登場。

 

 アンナ マウロ! いつまでも戻ってこないからもう不安で。

 マウロ ごめん、迷っちゃって。

 アンナ あらどうしましょ、私も迷っちゃったわ。

 クラウディア あの

 アンナ あ、ごめんなさい。ピアチェーレ、私

 クラウディア ピアチェーレミーオ、私、クラウディア・カッラーロです。

 アンナ あなたが、

 クラウディア よろしくお願いします。

 アンナ いえいえ、こちらこそ、こんなに素敵な。

 クラウディア あの、私、うまれてずっとママーがいなくて

 アンナ はい

 クラウディア だから、その、ママーって呼んでいいですか?

 アンナ え、でも、歳も近いのに恥ずかしい。

 クラウディア 一日三回だけでも……

 アンナ じゃあ、それなら

 クラウディア 本当ですか?

 アンナ 本当よ。

 クラウディア ……ママー

 アンナ はい

 クラウディア ママー

 アンナ なあに?

 クラウディア ママー!

 

 セーコ、水を持ってきて登場。

 

現在 リストランテの控室

 

 アンナやや落ち着いている。

 

 セーコ あの、お水……

 クラウディア グラーツェ。

 マウロ 姉貴……あの、俺たちが初めてカッラーロの家に来たとき覚えてるかな? あの時はあれだよな、ああ、この話オチがねえ。

 セーコ 何ブツブツいってんですか。

 マウロ あの、姉貴の励ましになるような、楽しい話をしようとしたんだけど、なんも思いつかねえ。どうしたらいい?

 セーコ あたしに聞かないでくださいよ。

 マウロ うー。

 クラウディア 大丈夫?

 アンナ 私、思い出したわ。

 クラウディア なに?

 アンナ サルヴァトーレとはじめてあったとき約束したの。すっかり忘れてたのに。

 クラウディア どんな約束?

 アンナ そんな日来ないと思ってたのかしらね。

 クラウディア ……

 アンナ 違うわね、想像はしてたんだわ。

 クラウディア ママー。

 アンナ でも、悲しいことって、いつも想像以上なのね。

 クラウディア ……

 アンナ ねえ、クラウディア。

 

 クラウディア、泣く。

 

 ファウスト ええと、クラウディア。あの、俺と姉貴が初めて来たときの、ああ、これ、同じ話だ。じゃあ、これは……

 

 ファウストの話と交錯して、ルチアーノ登場。サルヴァトーレ、客がわらわらと登場。マウロ、クラウディア、アンナ、セーコまぎれて退場。

 

二十数年前 カッラーロの屋敷 サルヴァトーレのパーティ

 

 ルチアーノ えー本日は我が妹ジーナと我が親友サルヴァトーレの結婚祝い、出産祝い、幹部就任祝い、あと出産祝い。

  それは一回言ったぞルチアーノ!

 ルチアーノ 黙って聞いてろ! えーと、本日はお日柄もよ……

  また最初からかよ!

 ルチアーノ てめえらが茶々いれるから忘れちまったんだろうが! ああもういいや、とりあえずな、主役であるジーナと赤ん坊が登場するまで、てめえらサルヴァトーレさまを退屈させないようにしとけ。

 

 客、好き勝手なことをする。しばらくしてレオーニ登場。酔っている様子。

 

 サルヴァトーレ レオーニ、来ないかと思ったぞ。

 レオーニ 仕事が長引いちまってな。

 ルチアーノ 仕事にしちゃあ、陽気だな。

 レオーニ 仕事だよ。

 サルヴァトーレ ……クスリか?

 レオーニ ヤクは俺の管轄だしよ。

 サルヴァトーレ 売るのは存分にやればいいが自分がハマるのはご法度だぞ。

 レオーニ 心配すんなよ。お、ピエトロじゃねえか。

 

 レオーニ離れる。

 

 ルチアーノ 大丈夫かあいつ。

 サルヴァトーレ 最近仕事が荒っぽいみたいだな。よその縄張りにも立ち入ってるみたいだ。

 ルチアーノ とばっちりはゴメンだぜ。

 サルヴァトーレ ちょっと前まではああじゃなかったんだが。

 ルチアーノ ああ……おめえが結婚したからじゃねえか?

 サルヴァトーレ ああ?

 ルチアーノ 嫉妬してたりして。

 サルヴァトーレ バカいうな。

 ルチアーノ だな。そろそろ主役の登場だ。

 

 ジーナ、赤子を抱いて登場。

 

 レオーニ ジーナ、俺に抱かしてくれよ、名付け親のこのレオーニに。

 ルチアーノ 落とすんじゃねえぞ。

 レオーニ 俺は生まれてから一度も赤ん坊を落としたことのない男だぜ。

 ルチアーノ あたりまえだろうが。

 

 レオーニ、赤ん坊を抱く。サルヴァトーレ、その様子を見て動揺する。

 

 サルヴァトーレ 似てんな。

 ルチアーノ なにが?

 サルヴァトーレ いや。

 ルチアーノ じゃあ、そろそろあれの登場だな。おい、用意しろ、では、お待ちかねのルチアーノ様特製ピッツアの登場だ。

 

 持ってきたのはピッツアではなく椅子に縛られ、頭から袋をかぶせられたウエイター。客達は去り、ルチアーノ、マウロ、ファウストが残る。

 

現在 場末のリストランテ

 

 マウロ スクアーロファミリーか?

 ルチアーノ 決まりだな。他の連中に知らせるぞ。敵がわかりゃあ、もう隠す必要はねえ。

 ファウスト ちょっと待て。

 ルチアーノ 待たねえよ。

 ファウスト 本当にスクアーロか?

 ルチアーノ ああ?

 ファウスト スクアーロがやる理由がわからない。

 ルチアーノ これが吐いただろうがよ。

 ファウスト でも、あそこはうちとほとんど縄張りも接してない。

 ルチアーノ 知らねえよ。やられたからやり返すだけだろうが。

 ファウスト 罠かもしれない。

 マウロ じゃあ、別の組織がやったてのか?

 ファウスト その可能性もある。

 ルチアーノ ばかばかしい。考えすぎだ。それこそ理由がねえ。

 ファウスト 慎重に行くべきだぜ、ルチアーノ。

 ルチアーノ いつまでもチンタラやってたらなめられるばっかりだ。やったのはスクアーロだ。これが吐いた。あそこは新興だ。勢力拡大に躍起になってる。あそこがやったのはもう間違いねえ。

 ファウスト 決め付けるのはよくない。

 ルチアーノ 大方おめえみたいなお利口さんが余計なこと考えてぐずぐずしやがるのを予想してんだよ。ちょうどいいじゃねえか、油断してるだろうからよ。それにな、はっきり言わせてもらうがな小僧ども、万が一犯人じゃなくても構いはしねえんだ。

 マウロ はあ?

 ルチアーノ 潰した後に別のやつだったらそっちも潰せばいいだけだ。名前が出てきた以上は関わりねえなんてことはねえんだからよ。要はまず行動を示すべきなんだよ。

 マウロ めちゃくちゃじゃねえか。

 ルチアーノ なんか忘れてねえか? それだけのことをうちらはやられてんだよ!

 ファウスト ……昔、ドンがまだあるファミリーの幹部だった頃、ドンの親友が暗殺された。その時ドンは誰もが想像し得ない速さで犯人一味を叩いたそうだ。

 ルチアーノ その話がどうした?

 ファウスト その結果、ドンのいたファミリーは勢力を拡大し、頭脳型と見られていたドンは武闘派としても存在感を強めて、やがてあんたと共に一家を興すに至った。

 ルチアーノ 何が言いたいんだ。

 ファウスト あんた、事が起きたときに他には控えさせるように指示したよな。要するに誰が復讐の主導権を握るかってことだよな。

 ルチアーノ 言葉が過ぎんじゃねえか?

 

 ルチアーノ、ファウストにつかみかかる。マウロ、止めようとして引き剥がすが、そのはずみにファウストのネックレスが引きちぎれる。

 

 ルチアーノ 俺はファミリーのために、何よりサルヴァトーレのためにやってんだぜ。

 ファウスト レオーニの事件もあまりにドンの動きが迅速すぎて、実際の潰されたファミリーの誰の指示で、誰がやったかなんかはうやむやらしいな。

 

 ルチアーノ、怒り心頭だが、ファウストが落としたネックレスが目に入ると、なぜかそれを拾って思いとどまる。

 

 ルチアーノ くそがきが。てめえ、自分が誰だかわかってんのか?

 ファウスト ……

 ルチアーノ とにかくスクアーロは潰す。

 

 ルチアーノ退場しようとするが、

 

 ルチアーノ 忘れてた。

 

 ルチアーノ、ウエイターを撃つ。

 

 ルチアーノ 片づけとけ。

 

 ルチアーノ、退場。

 

 マウロ 大丈夫か?

 ファウスト 悪いが、ルチアーノの様子を見に行ってくれ。

 マウロ お前、まさか。

 ファウスト 相当怒らせちまったらな、勢いで何かしでかさないとも限らない。

 マウロ ファウスト……

 ファウスト 心配してるだけだよ。

 マウロ わかった。

 ファウスト 無茶すんなよ。

 マウロ ……おい、これ片付けるぞ。

 

 マウロ、手下を呼び、死体を片付けさせ、退場。ファウスト、首にないネックレスを見ていると、サルヴァトーレ登場。

 

数年前 カッラーロの屋敷

 

 サルヴァトーレ そのネックレス、形見だってな。

 ファウスト ……

 サルヴァトーレ 親についてなんか知ってるのか?

 ファウスト いえ、何も。赤ん坊のときに孤児院の前に置き去りにされてたらしくて。

 サルヴァトーレ 捜してみるか? 今のお前なら難しいことじゃないだろう。

 ファウスト 興味ないです。赤ん坊捨てる親なんて、会ってもしょうがないでしょう。

 サルヴァトーレ 復讐するのもいいかもな。

 ファウスト ……今はもう俺にも家族はいますから。

 サルヴァトーレ 母親には会いたくないのか?

 ファウスト ママーもいるでしょう。

 サルヴァトーレ アンナのことか? お前、アンナに甘えでもしたらぶっ殺すぞ。

 ファウスト しませんよ。クラウディアにも邪魔されるでしょうし。

 サルヴァトーレ あいつも生まれてから、ずっと母親なしで育ったからな。ほんの形式の母親でも嬉しいのかねえ。

 ファウスト 前の奥さんって……どうして……

 サルヴァトーレ ジーナのことか? 初めて聞いたな。

 ファウスト 失礼でした。

 サルヴァトーレ 毒あおって死んだよ。

 ファウスト ……

 サルヴァトーレ もう二十何年も前だな。俺がまだ元の組織にいた頃にガキができてよ、その出産パーティを派手にやった。俺の幹部就任祝いもかねてな。昔の仲間や組織の連中を集めて。その日のうちに赤ん坊が消えた。ジーナが目を離した隙にだ。パーティの中に不逞がまぎれこんでたみたいだった。同じ日に俺の仲間もやられた。そのパーティの帰りにだ。ジーナとも幼馴染で、俺がこの世界に入るきっかけになったやつだった。

 ファウスト ……

 サルヴァトーレ 仲間の復讐は果たしたが、結局ガキは見つからずじまいだ。クラウディアを生んでしばらくしてからジーナも死んだ。絶望から抜け出せなかったんだな。俺はジーナを救えなかったよ。

 ファウスト すいません。

 サルヴァトーレ 謝る必要はねえよ。お前の境遇だって相当なもんだしな。……そうだな、あの頃のガキがまだ生きてるんだったらおまえくらいの歳だな。

 ファウスト その子の名前は。

 サルヴァトーレ 秘密だ。

 ファウスト え?

 サルヴァトーレ 恥かしいからだよ。俺の口からは言えねえな。他に知ってるやつに聞いてくれ。

 クラウディア  (声だけ)おにいちゃん、どこ?

 サルヴァトーレ クラウディアが呼んでるぞ。

 ファウスト どうせ、くだらない用ですよ。

 サルヴァトーレ 仲いいな。

 ファウスト ドンの最初の命令ですからね。

 サルヴァトーレ マウロともよくつるんでるな。

 ファウスト あいつ、意外と呑みこみがはやいですね。

 サルヴァトーレ お前ら見てると昔思いだすよ。俺とジーナとルチアーノ、ルチアーノも昔はあんな小言ばかりじゃなかったんだぜ。血の気は相変わらずだがな。あとレオーニ。

 ファウスト レオーニ?

 サルヴァトーレ さっき話したろ。もう死んだ男だよ。

 クラウディア (声だけ)お兄ちゃんどこー

 サルヴァトーレ 呼んでるぞ。

 ルチアーノ (声だけ)サルヴァトーレ、どこ消えやがった。

 ファウスト 呼んでますね。

 サルヴァトーレ じゃ、行くか? クラウディア、ファウストはこっちだ。(去り際に)……そのペンダント、マフィア特製のやつだな、仕掛けを解くと中が開く。見たことあるか?

 ファウスト いえ……興味もないです。

 サルヴァトーレ 気が向いたら見るといい。

 

 サルヴァトーレ退場。クラウディア登場。

 

現在 場末のリストランテ

 

 クラウディア 今、銃声が……

 ファウスト 気にすることはないよ。お前には関係ないから。

 クラウディア でも、アンナさんがまた。

 ファウスト 心配かけてすまなかった。ここはもう引き払おう。あのジャポネーゼも帰そう。部下に送らせるよ。

 クラウディア 自分で帰れる。

 ファウスト アンナさんは無理だろう。

 クラウディア アンナさんとセーコさんは送ってあげて。私はひとりで帰る。

 ファウスト 駄目だ。……いつものことだろう。それに、今日は少し危ないかもしれないから。

 クラウディア パパーを殺した人間が街にいるかもしれないから?

 ファウスト そうだ。

 クラウディア その人が私も殺すかもしれないから?

 ファウスト そこまでは分からない。でも、気をつけたほうがいい。

 クラウディア パパーは何で殺されたの?

 ファウスト ……マフィアだからだ。

 クラウディア マフィアだとなんで殺されるの?

 ファウスト ……そういう世界なんだ。

 クラウディア そういう世界ね。そういう世界を、私知らないふりしてた。

 ファウスト ……

 クラウディア パパーは優しかったし、友達もたくさんいて、家族もだんだん増えていって、私ずっと幸せだった。でも、それはパパーが優しく目隠しをしてくれていただけで、本当は、私の幸せは、パパーがたくさんの人を傷つけて、それに私は関係ないふりをして、パパーも殺されて……

 ファウスト お前は本当に関係ないんだよ。

 クラウディア お兄ちゃんも、人を殺したことあるんでしょ。

 ファウスト ……ああ。

 クラウディア マウロも……

 ファウスト でも、お前は知らなくていいんだ。

 クラウディア そんなことない。

 ファウスト お前はそのうちアメリカに留学して、そのままアメリカ人と結婚するんだ。それで幸せに暮らす。俺たちの営みとは関係なくだ。それはドンの望みだったし、俺もそう願う。

 クラウディア ……いや

 ファウスト たまには会いに行くさ。この世界をお前はずっと知らなくていいんだ。これからもずっとだ。

 クラウディア もう離れたくない。

 ファウスト 離れたほうがいいんだ。

 クラウディア パパーとはもうこれからずっと離れ離れになった。それはもうわかった。でも、お兄ちゃんとは離れ離れになりたくない。たとえどんな世界であっても、どっちかが死んだとしても……

 ファウスト 兄弟なんだから、世界が別でも離れ離れにはならないよ。

 クラウディア 兄弟じゃないじゃない!パパーがいなかったら、もう兄弟じゃないじゃない!

 ファウスト ……帰るんだ、アンナさんと一緒に。マウロに送らせるよ。マウロを呼んでくる。

 

 ファウスト退場。入れ替わりでマウロ登場。

 

数年前 カッラーロの屋敷

 

 マウロ あれ、クラウディア泣いてる?

 クラウディア ん、ちょっと居眠りしたから。

 マウロ 風邪引くぜ。

 クラウディア 今日はどうしたの?

 マウロ ちょっと姉貴に。

 クラウディア 今日も、か。

 マウロ いいじゃん別に。

 クラウディア いい歳してお姉ちゃん子ね。

 マウロ ひとのこと言えねえだろ、お前だって二言目にはお兄ちゃんお兄ちゃんって。ガキじゃあるまいし、ああ、ファウストは今日いねえのか?

 クラウディア 最近はいないほうが多いけど、つうかマウロだって二言目には姉貴、三言目にはファウストじゃない。なに? シスコンのうえにオモ・セッスアーレ?

 マウロ うるせえな、俺はファウストからいろいろ吸収してんだよ。ライバルとして。

 クラウディア ふうん、ライバル。へえ。

 マウロ なんだよ、それ。

 クラウディア 骨格からして違うのに。

 マウロ 骨格関係ねえよ。心意気の問題だよ。

 クラウディア あ、そう。頑張ってね。

 マウロ 俺の仕事ぶりも知らないくせによ。

 クラウディア ……

 マウロ で、姉貴も見あたらないんだけど、いないの?

 クラウディア 今朝方パパーとどっか出かけた。

 マウロ なんだよ、言ってくれよ。

 クラウディア ルチアーノおじさんならいたよ。

 マウロ う

 クラウディア 教えとこうか? マウロ来てるって。

 マウロ 勘弁してくれ。

 クラウディア 苦手だねえ。

 マウロ あいつよう、俺と姉貴のこと目の仇にしやがるからよう、ムカついてもう、あ、実のおじさんだっけか、悪い。

 クラウディア でも、おじさん、私にも腫れ物触るみたいだな。独身だし、親戚っていったら私くらいなのに少し淋しい。

 マウロ いつもイライラした感じでな、一体何が楽しくて過ごしてんだろうな。

 クラウディア マウロは楽しい?

 マウロ ん? なにが?

 クラウディア その、アンナさんと二人で違う環境に飛び込んだりして、その、辛かったりしない?

 マウロ 楽しいってのはなんだかわかんねえけど、俺、いままで姉貴と二人っきりで二人だけの世界だったからさ。姉気が違う世界に飛び込んでって、それについてって、それでいろんな人に出会えて、ファウストとかドンとかクラウディアとか、でも、姉貴と俺の世界ってのは変わんねえし、それでいいと思うからその中で、ああ、なんかわかんなくなってきた。

 クラウディア めずらしく難しいことしゃべるのかと思ったら。

 マウロ まあ、とにかく頑張るんだ俺は。

 ルチアーノ (声だけ)おい、マウロ、いやがんのか?

 マウロ あ

 クラウディア みつかっちゃったねえ。

ルチアーノ  (声だけ)たいして稼ぎもしねえでなにやってやがる。

 クラウディア じゃ、私も退散するから、チャオ、マウロ。

 マウロ ルチアーノにぶっ殺されなかったらな。

 クラウディア ふふ

 

 クラウディア、退場。ルチアーノ登場。

 

現在 場末のリストランテ

 

 ルチアーノ 迷子のガキかよてめえはよ、いつまでちょろちょろついてきやがる。

 マウロ ルチアーノ、今、どこに電話してたんだ。

 ルチアーノ てめえの知ったことかよ、マウロ、てめえはてめえの仕事をするんだ。

 マウロ だからどこに電話したかって聞いてんだよ。

 ルチアーノ ……それがてめえの仕事なのか?

 マウロ 言えねえのか?

 ルチアーノ ファウストに何か吹き込まれたか?

 マウロ 言えないのかよ。

 ルチアーノ くそがきどもが!

 マウロ 言えねえのかよ!

 ルチアーノ ああ言えねえよ、てめえみてえなマヌケにゃあな!

 マウロ そうか。

 

 マウロ、銃を出す。

 

 ルチアーノ ガキがおもちゃで遊ぶところじゃねえぞ。

 マウロ 信じられねえ話だったが、あんたがそういう態度とるなら仕方ねえ。どこへ電話したのか言ってくれ。

 ルチアーノ 撃ったらどうなんのかわかってんのか。

 マウロ あんたが思ってるほどガキじゃねえんだ。俺もファウストも。

 ルチアーノ ……覚悟だけは一人前か、ま、それだけありゃあ十分だがよ。

 マウロ どこに電話してたんだ。

 ルチアーノ スクアーロだ。

 マウロ な!

 ルチアーノ 密かにおさえてるやつがいてな。ファウストの関係を探らせた。

 マウロ ……わけわかんねえな。

 ルチアーノ 確証はつかめねえだろうが、本人に聞いたらあっさり言うかもしれねえな。

 マウロ わけわかんねえこと言ってんじゃねえよ。この期に及んで見苦しくねえか?

 

 ルチアーノ、ペンダントを投げ渡す。

 

 ルチアーノ 銃は向けたままでいい。拾えよ。

 マウロ ファウストのペンダント……

 ルチアーノ 仕掛けつきのペンダントでな、仕掛けははじめから解いてあった。中に手紙入ってるから読んでみろ。

 マウロ ……親愛なるジーナ・カッラーロへ

 

 レオーニ登場。手紙の内容を語る。

 

 レオーニ 出産おめでとう。俺が言うのはめでたくもなんともないかもしれないけど、生命の誕生はそれだけで祝福されるもんだ。これでも命の大切はわかってるつもりなんだよ。サルヴァトーレは俺がつけた名前は気に入ってくれただろうか。ひどい理屈かもしれないが生まれてきた子どもは俺たちが共に生きた証だ。俺たちってのはみんなだ。サルヴァトーレ、ルチアーノ、ジーナ、俺。どうか大切に育てて欲しい。手紙なんて初めて書いた。つまらないけどこんなプレゼントで我慢してくれ。レオーニ・パッガーニ

 

 サルヴァトーレ登場。

 

二十数年前 パーティの帰り道

 

 レオーニ酔ったふうに。

 

 レオーニ 悪いな、サルヴァトーレ。主役に送ってもらうなんて。

 サルヴァトーレ みんな大騒ぎで俺どころじゃねえよ。予想以上に客も来たし、それに本当の主役は俺じゃないからな。

 レオーニ そういわれればそうだよな。(よろめく)おっと。

 サルヴァトーレ 大丈夫か?

 レオーニ ああ、今日はよく呑んだ。

 サルヴァトーレ 本当に大丈夫か? 最近荒れてるって聞くぜ。

 レオーニ 未来の大幹部たるサルヴァトーレさんに心配されることじゃあないですよ。それにしてもたいした出世だなあ、こんな短い間に。さすがサルヴァトーレだ。

 サルヴァトーレ ……悔しいか?

 レオーニ ああ? ……いや、べつにそんなことねえや、だってガキのころだってそうだったじゃねえか。全然変わってねえんだよ。

 サルヴァトーレ 変わってないか?

 レオーニ そう、変わってない。

 サルヴァトーレ ……なあ。

 レオーニ なんだ

 サルヴァトーレ お前の子だろ。

 

 サルヴァトーレ、レオーニを撃つ。

 

 サルヴァトーレ ……

 レオーニ ……サルヴァトーレ……

 サルヴァトーレ ……

 レオーニ ……ごめんな……

 サルヴァトーレ 謝るんじゃねえよ。

 

 何発か撃つ。

 

 サルヴァトーレ ……謝るんじゃねえよ。

 

 ルチアーノ、過去に参加する。

 

 ルチアーノ サルヴァトーレ……

 サルヴァトーレ レオーニが撃たれた。

 ルチアーノ あ……

 サルヴァトーレ やったのはおそらくストレッツィオだ。

 ルチアーノ あ、ああ。

 サルヴァトーレ それから、ファウストを始末しろ。

 ルチアーノ え?

 サルヴァトーレ 二度は言わねえ。

 

 サルヴァトーレ、退場。レオーニは倒れたままで。

 

現在 場末のリストランテ

 

 ルチアーノ 結局俺は甥を処分できねえで孤児院の前に捨てた。そのときはこのペンダントは気にも留めなかった。……気づかないふりをしていただけなのかもしれねえ。……痕跡を残したくてな。

 マウロ ……

 ルチアーノ 因果な話だ。サルヴァトーレが突然あいつを連れてきた時、名前が同じなのには焦ったが、まさかそんなことはねえと思った。サルヴァトーレは知ってたのかはわからねえ。

 マウロ ……復讐? まさか……

 ルチアーノ ファウストの方がいつから知ってたのかはしらねえが、ともかく立派なマフィアに育ったもんだ。俺は自分でまいた種を自分で刈りとらにゃならなくなった。

 マウロ ……

 ルチアーノ とばっちりで悪いが責任はスクアーロにかぶってもらう。親殺しなんて広まれば結局ファミリーはガタガタだ。決着は俺とファウストだけでつける。

 マウロ ……

 ルチアーノ ここでおめえが俺を撃つのも手だぜ。

 マウロ ……

 ルチアーノ それができねえなら、クラウディアとアンナ連れて帰れ。

 

 ルチアーノ退場。セーコ登場。銃を構えたままなので驚く。

 

 セーコ ひ

 マウロ あ、ああ悪い。気にすんな。

 セーコ はい、気にしません。気にしませんとも。

 マウロ なに?

 セーコ いや、一体、その、今どういう状況かなあって……

 マウロ なにが?

 セーコ なにがってそりゃあ。

 

 ファウスト登場。

 

 ファウスト マウロ、戻ってたのか。

 マウロ ……ああ。

 ファウスト ルチアーノは?

 マウロ 奥に行った。……お前に会いに行ったんだと思う。

 ファウスト そうか、わかった。……マウロ、アンナさんとクラウディアとそこのウエイトレスを送ってもらえないか?

 マウロ 俺が?

 ファウスト もう引き払おう。部下も戻す。ここにはもう帰ってこなくていい。

 マウロ ……ファウスト。

 ファウスト なんだ?

 マウロ ……

 ファウスト ……頼むな。

 

 ファウスト、退場。

 

 セーコ ……ええと、じゃあ、皆さん呼んできますね。

 マウロ なあ。

 セーコ ま、まだなにか?

 マウロ デビルマンって知ってる?

 セーコ え、ま、まあ。

 マウロ 観光客が置いてったコミックでさ。読んだんだけど、全部日本語だったからわかんなかったんだよね。ストーリーわかる?

 セーコ 名前くらいしか……

 マウロ デビルって英語でデモーニオの意味だろ。悪そうで格好いいじゃん。でも最後はなんか悲しい絵だったな。あれ、主人公死んじゃってたのかな。

 セーコ 主人公死ぬってのは聞いたことが……

 マウロ そっか。急に思い出したんだ。グラーツエ、悪いな。久しぶりにマンガの話ができた。こんな日じゃなかったら、もっと楽しくて、仲良くできたかもしれないけど、グラーツエミーレ。

 セーコ ……でも、こんな日じゃなかったら会うこともなかったと思います。

 マウロ そうだな。住む世界が違うもんな。二人呼んで来てくれないか?

 

 セーコ、クラウディアとアンナを連れてくる。

 

 マウロ 家に戻ろう。

 クラウディア ファウストは?

 マウロ あいつはまだ用がある。

 クラウディア 私、ファウストと帰る。

 マウロ 駄目だ。

 クラウディア ファウストと一緒にいる。

 マウロ 駄目だ! お前らは帰らなきゃなんねえんだ!

 クラウディア !

 マウロ 怒鳴って悪い。家で待ってようぜ、な。

 

 セーコ、クラウディアを連れて退場。

 

 マウロ 姉貴も帰ろう。

 アンナ 帰るってどこに?

 マウロ 家にだよ。

 アンナ サルヴァトーレがいないのに? そこは私の帰るところなの?

 マウロ ……そうだよ、帰るんだ。だって俺がいるから。今までは、姉貴の行くところに俺がついてったけど、今度からは俺がいる世界に姉貴がいるんだ。俺が姉貴を守るから。

 アンナ マウロ。

 マウロ さあ、行こう。姉貴。

 ジーナ (声だけ。最後の台詞とかぶせて)兄貴

 

 ルチアーノ登場。マウロ、アンナ退場。ジーナ登場。

 

二十年前 カッラーロの屋敷

 

 ルチアーノ ジーナ。

 ジーナ あれから何年も経っちゃった。辞めたメードに会ってさ。やっと喋ったの。最後にファウストと一緒にいたの兄貴だって。そのメードもその後すぐいなくなっちゃったけど。

 ルチアーノ ジーナ。

 ジーナ 兄貴がやったのね。

 ルチアーノ ジーナ。

 ジーナ レオーニを殺したのもあなた? それともサルヴァトーレ? どっちも一緒だけど。

 ルチアーノ ……

 ジーナ ごめん。いちいち答えなくても、もうわかってることだから。

 ルチアーノ 仲間殺しは最大のタブーだ。どんな理由があってもそれがばれたらこの世界では生きていけねえ。

 ジーナ 怒るとか悲しいとか辛いとか、そういう気持ちはもう出てこない。私もこの世界の人間ってことなのかね。でも、あなたたちの誰か一人だけが消えるって、何かおかしいことじゃない?

 ルチアーノ その通りだ。ジーナ、お前の気持ちは良くわかる。だから、そのコーヒーを飲んでくれ。

 ジーナ ……

 ルチアーノ 今、サルヴァトーレが退場するわけにはいかねえんだ。

 ジーナ あなたは?

 ルチアーノ 俺は、……俺でもいいかもしれねえ。

 ジーナ ……

 ルチアーノ そのコーヒー飲んでくれねえか。

 ジーナ ……クラウディアを大切にしてあげて。なるべく、全ての悲しみから目をそむけるようにさせてあげて。悲しみはきっとなくならないから。ア・ディーオ。ルチアーノ。

 

 ジーナ、コーヒーを飲んで、そのまま突っ伏す。サルヴァトーレ登場。

 

 ルチアーノ ジーナが毒あおって死んだ。

 サルヴァトーレ そうか。

 

 サルヴァトーレ倒れる。

 

現在 サルヴァトーレの死体のある部屋

 

 ルチアーノ おめえが悪いんじゃねえはずだ。

 ファウスト ここにいたか。

 ルチアーノ こっちも探したんだぜ。

 ファウスト うまくいけばマウロが始末してくれると思ったんだけどな。

 ルチアーノ マウロには全部言っちまったよ。

 ファウスト そうか。

 ルチアーノ あいつもいつの間にかいっぱしになってたってことだな。……いつから計画してたんだ。

 ファウスト 最近だよ、気づいたのもそうだ。調べるのにはたいして手間取らなかった。あの家には痕跡がたくさんあった。レオーニ、俺の父親を殺したのはドン・サルヴァトーレで、ジーナ、俺の母親を殺したのはルチアーノ、あんただ。

 ルチアーノ たいした男だな。そこまで育ててもらってたっていうのに、顔も知らない両親の復讐か。

 ファウスト ドンはよくしてくれたよ。でも、子どもの頃から違和感がずっとあった。優しさとは違う、不安を帯びた、俺への眼差し。やっとわかったよ。あれは愛じゃかった。贖罪だった。ドンはこれを望んでいた。

 ルチアーノ たいした理屈だなあ、おい。……俺たちは確かにおめえを愛していたよ。だってよ、おめえは全員の子だからな。サルヴァトーレとレオーニと俺とジーナの子だ。

 ファウスト ……

 ルチアーノ なあ、頼みがあるんだが。

 ファウスト ……

 ルチアーノ 俺のことも、親父って呼んでくれねえか?

 ファウスト ……

 ルチアーノ 冗談だ。

 

 ファウスト、ルチアーノを撃つ。四人の死体の中でしばらく佇む。ある日のサルヴァトーレの家。皆酔いつぶれて倒れてる。

 

 サルヴァトーレ おめえら、なんで全員揃って俺んちで酔いつぶれてんだ。

 ルチアーノ そういうおめえもベロベロじゃねえか。

 サルヴァトーレ 俺のは接待だからしょうがねえんだよ、ジジイどもが安いワインばかりガバガバ呑ませやがる。

 ジーナ どうせ味なんかわかんないでしょう。

 サルヴァトーレ ジーナ、お前もそんなに呑んで腹の子になんかあったらどうすんだ。

 ジーナ 一日くらいいいじゃない。そんなやわな子じゃないわよ。

 レオーニ サルヴァトーレ、俺、今、名前思いついたぜ。

 サルヴァトーレ ああ?

 レオーニ 男だったらファウスト、女だったらクラウディア。

 ルチアーノ 陰気な名前だな。

 ジーナ ピッタリじゃない。

 サルヴァトーレ なんだよ、それ。

 レオーニ でも、いい名前だろ。

 サルヴァトーレ ……ああ、いいな。

 

 マウロ登場。

 

 ファウスト 戻ってきたのか?

 マウロ ああ、やることあるかと思って。

 ファウスト そうか。

 マウロ あの、ジェラート食うか。

 ファウスト ジェラート?

 マウロ 厨房にあったんだ。好きだろ。

 ファウスト ああ。

 マウロ スプーン忘れた。

 

 ファウスト、指ですくって舐める。マウロも同様に指ですくって舐める。マウロ、泣く。

 

 ファウスト 泣くなよ。

 マウロ なんだか、急に悲しくなって。

 ファウスト 悲しむのはマフィアの仕事じゃないだろ。

 マウロ でもよう、

 ファウスト ほら、泣くのは終りだ。なあ、マウロ。

 

 二人(マウロは泣いたまま)、拳銃を引き抜き、銃口を向け合って

 

 ファウスト ……Benvenuto in La sofferenza del mondo。〈苦の世界にようこそ〉。

 

 暗転。銃声は一発だけ。

 


この本の内容は以上です。


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