閉じる


本当にあった怪奇な世界 0

 

本当にあった怪奇な世界

 

あるお寺で起きた怪談

 

                                    

     

 

 これは、わたし(筆者)が高校時代の同級生から聞いた話である。

 この同級生というのは、寺の息子である。いまでは寺を継いで住職になっているが、これはそれよりずっと前にその寺で起きた出来事だ。

 差し障りがあるといけないので、具体的な地名などは一応伏せるが、かつて城下町だった地方都市の中心部からはずれた辺りにその寺はある。戦災にあっていない町なので、道幅が昔のままで狭く、もともと城下町ということもあって、道が入り組んでいる。そんな細い一方通行の道をはさんで、古い家がせせこましく建てこんでいる。

 そうした家並みの中に、その寺はある。たしか、起源は江戸時代にさかのぼるとかいう話だったと思う。わたしも見たことがあるが、本堂には少なくともサイズだけはりっぱなご本尊の大仏様がでんと鎮座ましましていた。

 古いなりに相応の由緒はあるのかもしれないが、観光客が訪れるような名刹というわけではない。とはいえ、ともかく年季だけは入っているから、あちこち傷んでくる。あるとき、本堂の屋根が雨漏りしはじめた。放っておくと、大事なご本尊が水浸しになりかねない。

 寺院だから、補修は宮大工に頼むわけだが、近年では宮大工も人手不足で、遠方の工務店に頼まなければならない。仕事の間、職人たちには寺に泊まり込んでもらうことになる。 

 さて、問題が起きたのは、補修が始まって数日たったときのことだった。いちばん年若い職人が朝から元気がない。ろくに口をきかず、仕事中も何やら上の空だ。顔色が悪く、どうやら睡眠不足らしい。昼食時、棟梁が、どうしたのかと聞いてみた。すると、その若い職人は重い口ぶりで説明を始めた。


本当にあった怪奇な世界 0

 彼は、昨夜、ひどく寝苦しくて目がさめた。時刻はわからないが、真夜中だった。目を開けても、暗い天井しか見えなかった。胸が押しつぶされそうな強い圧迫感があった。起き上がろうとしたが、身動きができない。それどころか、指一本動かすことができないのだ。いったい自分の体はどうなってしまったのだ? ……ひょっとして、これがいわゆる金縛りというやつか? と、そう思ったとき、ぎょっとした。自分の胸の上に誰かが乗っている! そう直感した。いったい誰が? 同じ部屋に寝ている同僚たちに助けを求めようとしたが、声が出ない。どうしていいかわからず、パニックに陥っていたそのとき、さらに戦慄が走った。胸の上に乗っている「それ」が、おおいかぶさってきたのだ! 視界のなかにぬっと現れたのは、小さな子どもの顔だった。その顔は、両目があるはずのところに真っ黒な空洞がぽっかりと空いていた。その真っ黒な目にのぞき込まれて……

 そのあとの記憶はない。気がつくと、いつの間にか朝になっていた。子どもは消えていた。

 話を聞いた同僚たちは、前の晩に飲み過ぎて悪い夢を見たのだろう、と笑った。毎日、仕事が終わると、寺から夕飯とともにふるまい酒が出た。ただ酒だと思って飲み過ぎたのだろう。誰もそんな幽霊話を真に受けたりしなかった。

 しかし、その日の深夜、別の職人がやはり寝苦しさのために目をさました。胸に強い圧迫感を覚え、身動きができない。自分が金縛りにあっているらしいと気づいて、昼間聞いた話を思い出した。まさか、この胸の重みは、上に子どもが乗っているせいなのか。同僚に助けを求めようとしたが、やはり声が出ない。そこで、慄然とした。昼間の話では、このあと――そう思った瞬間、「それ」が上から自分の顔をのぞき込んできた……

 翌日、彼は目を真っ赤に充血させて、同僚たちにその話をした。しかし、先に同じ目にあった若い職人を除いて、ほかの同僚たちの反応はやはり冷ややかだった。きっと前の日に聞いた話に内心おびえていたから、そのせいで同じような夢を見たのだろう、と笑い飛ばした。

 ところが、その日の夜も、また別の職人が金縛りにあい、そっくり同じ体験をした。

 三人目となると、少し空気が変わってきた。大工は、棟梁を含めて全部で七人。うち三人が、一晩に一人ずつつづけて金縛りにあい、まったく同じ夢を見たのである。いや、三人にとっては、それは決して夢ではなく、まぎれもない現実の恐怖だった。

 残りの四人にとっても、他人事ではなくなった。この話が夢ではないとしたら……まさか、次は自分の番ではないのか?

 不安は的中した。それから三晩つづけて、残った四人のうち三人が一人ずつ金縛りにあい、同じ子どもの幽霊を見た。残るは棟梁だけになった。 

 こうなると、大工たちはもうだれもただの悪夢とは思わなかった。みな気味悪がって、仕事が手につかなくなった。


本当にあった怪奇な世界 0

 

                    

 

 困った棟梁は、仕方なく住職(当時)に事情を話して、それとなく心当たりを聞いてみた。驚いた住職は、当惑顔で首を横に振り、当寺には幽霊が出るような妙な因縁などない、と否定した。

 では、あの幽霊の正体はいったい何だろうか。このままでは仕事がはかどらない。どうすればいいのか。思案投げ首で境内を歩いていたとき、棟梁は、小さな異変を発見した。

 補修に使う材木を寺の塀に立て掛けていたのだが、本堂から見ていちばん遠い端の一本が、いつの間にか倒れていた。

 寺の敷地内には、墓地があった。まわりに住宅が密集しているので、小さな墓地だったが、木材はその墓地のほうに倒れていた。そこに、卒塔婆が一本下敷きになっていたのだ。

 その卒塔婆は、水子供養のために立てられたものだった。

 倒れていた木材をどかして、卒塔婆を元通りにし、住職にお経をあげてもらうと、それ以後子どもの幽霊は出なくなったそうだ。

 

   

 

おわり

 

 

 


本当にあった怪奇な世界Ⅰ 目次構成

 

 

『本当にあった怪奇な世界Ⅰ』と『本当にあった怪奇な世界Ⅱ』(各130円)もあわせてお楽しみください。2巻ともお買い求めいただくと、割引で合計230円となり、お買い得です。

 

 

本当にあった怪奇な世界Ⅰ 目次構成

 

そこに誰かがいる

 夜中、自分ひとりしかいないはずなのに、どこからかじっと見つめられているような視線を感じる……その正体はいったい?

夢で見た顔

 見知らぬ同じ男が何度も夢に現れる……これはいったい何を暗示しているのか?

ケネディはリンカーンの生まれ変わりか? くり返された100年の呪い

 暗殺された二人の大統領の不思議な共通点の数々――ケネディはリンカーンの生まれ変わりなのか?

美しき食人鬼

 うら若き美女が引き起こした戦慄の猟奇事件。

霊界より愛をこめて

 死してなお妻を守りつづける夫の愛のゴーストストーリー。

霊能者レオノール・パイパーの奇跡

 数えきれない交霊会を行い、何年間にもわたる調査の結果、科学者たちから本物とお墨付きをもらった奇跡の霊能者。

コナン・ドイルの亡霊

 コナン・ドイルの死後に手紙を受け取った男の不思議な体験談。

シェルフォードの幽霊屋敷

 霊にとって住みやすい場所というものがあるのだろうか--何度も除霊をくり返した幽霊屋敷。

負傷兵を治したネズミ

 外科医が手術をあきらめた負傷兵の傷をネズミが治した?

28年の時空を超えたタイムトラベラー

 女性実業家がまだ事業に成功する前の若いころに訪れた街で不思議なタイムトラベルを体験する。

 

  全10話 記録に残された本当にあった世界の怪奇譚

 


本当にあった怪奇な世界Ⅱ 目次構成

本当にあった怪奇な世界Ⅱ 目次構成

 

列車を止めた超自然の声

 過酷な大自然と闘う鉄道員の命をたびたび救った正体不明の声。しかし……

居心地の悪い墓

 暴虐の限りを尽くし、教会から破門された男爵は、死後安眠することを許されなかった……

異次元の島

 船乗りたちが恐れる奇怪な島。ここに寄港したアルゼンチン海軍の監視船の乗組員は世にも不思議な体験をする。

48時間後の予告された死

 人妻をもてあそんで自殺に追いやった貴族の枕元に夜な夜な現れる正体不明の人影……

死体に襲われた医者

フランスの新聞ル・フィガロ紙に載った若き医師の身の毛もよだつ体験。

呪われた家

 一家は以前からあこがれていた家に引っ越すことができて大喜びだった。しかし、そこで彼らを待ち受けていたのは……

悪魔祓い

 健康優良児の少年が原因不明の発作に襲われ、突然倒れた。主治医の手当ては効果がなく……

予知能力者の苦悩

 悲劇を防ごうとする予知能力者。でも、彼女の警告を誰も信じてくれない…

刑務所の赤毛の幽霊

 米ルイジアナ州ニューオリンズの新聞各紙が報じた女子刑務所の怪異。

バルバドスの這い回る棺の怪

 誰も入れるはずのない封印された地下の納骨堂。その中で人知れず動き回る棺たち……

 

  全10話 記録に残された本当にあった世界の怪奇譚

 

 

 



読者登録

富田満留さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について