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 服を血に染めた両親は互いに顔を合わせて笑い、私の両手を持ってひきずりながら歩き始めた。

「あーあ、やっちゃったやっちゃった」

 二人の残忍な会話も、目の前に見える光景も、苦痛のあまりすべてどうでもよくなってくる。

 痛い、早く死にたい。

 

 その思いもむなしく、私はそのまま家へと運ばれた。


 焦点の合わない目の前の映像に、祖父の姿が映し出される。

「二人ともよくやった。これで家は安泰だ」

 祖父の労いの言葉に、二人は喜んだ。

「ちょっとドキドキしたけど、以外と楽しいもんですねえ」

「こんな儀式だったらいつでも大歓迎ですよ」

「しかしまあこの愚かもんが。何で素直に死のうと思わんのか」

「本当、私達の躾がなってなくて、ごめんなさいねえ」

「自分の役割も分からぬ馬鹿者めが」

 一方的な罵倒を受けながら、私は森まで運ばれた。

 

 そこで服を剥ぎ取られ全裸になった私の死にゆく身体は、血だまりの上にものでも扱うかのように落とされた。


「いやあ、我が娘ながらいい身体だなあ」

 父は私の未発達な肢体を見て舌なめずりしたが、祖父に睨まれて申し訳なさそうに首をすぼめた。

「ともかく、こうやってこの阿呆が死んでくれて余計な手間が省けた。これで家も安泰じゃ」

「いやまったく、ははは」

 祖父が皆を連れて帰り、私は寒空の中に死にかけのまま取り残された。血の冷たさも、風の辛さも、食い破られた喉の痛みすらも、全てがどうでもよいものに感じてきた。

 心臓の音が段々早くなり、そして弱々しくなっていくのが分かる。ようやく死ねるような気がしてきたと安心すると同時に、哀しくなった。

 曲がりなりにも家族として一緒に過ごしてきた人間が動物のように私を殺して、邪魔者として私を捨てた。

 憎しみにも似た、悲痛。

 私は何の為にこの家に生まれて、死んでいくのだろうか。

 ぼんやりと消えそうな意識の中でも、うっすらと涙が頬を伝うのが感じ取れた。

 悔しい。でも、もう何もできない。せめて、安らかに死なせて・・・。

 自分への慰めを込め、そっと目を閉じた。全てが闇に包まれていく。


(そなたは、恨めしくないのですか?)

 声が聞こえた。

(誰・・・?)

 透き通ってはいるが、どこか生気の感じられない冷たい囁きが、夜風に揺れる木々の中から聞こえてくる。

 身体がふわりと浮き上がるような感覚がして、目が自然に開いた。

 

 意志に足が動いて、私の身体は勝手に森の中へと入っていった。


 暗闇に包まれた樹林の集まりは、鬱蒼とした雰囲気を漂わせていた。

 見たこともないおどろおどろしい草花が我ばかりと不規則に伸び散らかし、ほとんどの樹には、毒々しい色の粘菌や苔がびっしりと貼り付いている。年を経て朽ち倒れた枯れ木を、片腕ほどの大きさもありそうなムカデが這い、そこで捕らえた蜥蜴の体液を啜っていた。

 私が歩いていく度に、身体のどこかが木の枝や伸びた雑草に触れる。


 この身体がどこまで先へと進んでいっても、この真っ暗な迷宮はあたかも同じ場所が延々と続いているようで、この場所が死者の国であるように思わせられた。

 どれぐらい彷徨い歩いたのか。私の亡骸は不思議な場所へとたどり着いた。樹木がそこを避けるように生えていて、落ち葉や朽ち木すらすらなく、地面がむき出しになっている。

 まるでそう決まっていたかのように、私の身体はその場に崩れ落ちた。

(喰らいたくないのですか? そなたの家族を・・・)

 あの声が、再び聞こえてきた。

(誰・・・?)

(血を分けた人間にも関わらず、あなたを虐げ、殺めた。その恨みを残して死ぬのですか・・・?)

 私の思いの中に、刺々しい感情が入り込んできた。今までの人生の中における束縛、今夜の残忍で理不尽な仕打ち、全て忘れることができないぐらい、焼き付いている。

(嫌だ、許せない・・・)

(ならば、喰らいなさい)


 目の前から、不透明な人型の物体が迫ってきた。それに驚いて意識が目覚めた次の瞬間、私は入り口の前に立っていた。

 真冬の深夜なのに全く寒さを感じず、先ほどまでの苦痛がウソのように消えている。

 逆に、ふつふつと胸壊にどす黒いものが沸き上がってきた。

 喰らわなければ。

 私は自分の意志で、家に向かった。地面を踏む度、どこか実感が掴めない、宙に浮いたような感触がする。

 私は、どうなってしまったのだろうか。だが、それよりも、血が欲しい。恨めしいあいつらの血を喰らいたい。


 家に帰ると、玄関のすぐ側にある便所に灯りが点っていた。

 扉を開くと、父が間抜けな格好で便器に跨がり、用を足していた。

 何の価値も見出せぬクズ男は私の方を振り返り、愕然とした表情で怯え始めた。

「や、ややややや」



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