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天才スピヴェット

天才スピヴェット

2014年12月22日鑑賞

家族の絆は発明出来ないんだよね

 

優れた映画監督というのは、誰でも、心のどこかに「コドモのココロ」を持ち合わせていると思うのです。本作の監督、ジャン=ピエール・ジュネ監督もそんな一人。大ヒット作「アメリ」はとっても斬新、新感覚のポップなフランス映画。その画の作り込みに、豊かな感性、想像力を認めない訳にはいきませんでした。

前作「ミックマック」も僕はスクリーンで大いに楽しみました。

本作では天才的な才能を持つ子役さんを主人公に据えました。

 ジャン=ピエール・ジュネ監督の意図はもう明らかです。

本作はカイル・キャトレットという子役の魅力をどう引き出すのか?その一点に集点をしぼったようです。

舞台はアメリカ西部の「ど田舎」

そこに五人家族の一家がありました。

お父さんは100年前に生まれていれば、きっと幸せだっただろうと思われる、時代遅れのカウボーイです。暮らし方もそれなりにワイルド。奥さんとつまらないことで仲違いすると、きまって外で一日中馬に乗ったまま黙っている。食事も馬の上。雨が降ろうが馬の上。そんな自分の寡黙な姿に、男のかっこよさを感じている、ナルシストなカウボーイです。その奥さん。これがまたくせ者。昆虫を集めている博物学者です。ちなみに特技はトースターを故障させて丸焦げにする事。いままで10台ほどおシャカにしてコレクションしてます。

子供は三人。長女は年頃で、自分はいつかミュージカルスターになる事を夢見ています。二人の弟。これが二卵性双生児。その長男がT・Sと呼ばれている、本作の主人公です。

でも、お父さんとしては、双子の弟の方が大のお気に入り。というのも弟は、活発でオトコらしくって、身体も丈夫で、馬も動物もだいすき。ワイルドなところがお父さんそっくり。父親としては、彼をカウボーイの跡継ぎにと思っています。しかし、ここが盲点でした。

将来のカウボーイ修行のためと、ライフルの扱いさえ、お父さんは認めていたのです。ある日、お兄ちゃんのT・Sと弟が二人っきりのとき、ライフルが暴発。弟は不運にも亡くなってしまいます。T・Sとしては、弟が死んだのは自分のせいではないか? お父さんの希望も、自分が奪い取ってしまったのでは?と心の奥で自分を責める毎日。

それでも、彼が夢中になって遊べるもの、罪の意識を忘れさせてくれる唯一無二のもの。それが「サイエンス」でした。

彼の天才的な頭脳はある時、発明品を生み出します。それをスミソニアン博物館に送ってみました。やがて博物館からT・Sに電話がかかってきます。

「なんて、素晴らしい発明品なんでございますの!!ワシントンDCの当博物館まで、是非是非いらしてくださいませ、表彰式にご招待しますわよ」

ただ、問題がありました。スミソニアンの担当者は、当然この発明品は大人が作ったものだと思い込んでいたのです。やがて、意を決したT・Sは、西部の田舎町から、たったひとり、ワシントンD.C.を目指して旅に出ることになるのです。

という訳で、少年の旅という事では、「スタンドバイミー」を思い起こさせますね。旅の途中、T・Sもいろんな人に会い、いろんな体験をします。本作はそこにスポットを当てるのかな? T・Sの冒険談みたいなものかな? と予想していたのですが、ちょっと趣きが違いました。

もちろんアメリカ大陸横断と言う大旅行ですので、当然、大陸ならではの素晴らしい景色があります。その風景の中で、主人公T・Sがどのように成長を見せてゆくのか? また、いろんなスリルある場面を設定して、それを切り抜けてゆくのか?というのが、まあ、旅もの、ロードムービーの王道な訳ですね。

しかし、ジャン=ピエール・ジュネ監督はそういう面も「多少」取り入れつつも、わざとツボを外した「オッフビート」なネタや笑いをちりばめている様に感じます。この辺りの判断はもう、ご覧になる方の趣味の違いの領域でしょうね。

映画を最後まで観た方には、きっとこの作品は家族を大切に思ったジャン=ピエール・ジュネ監督の優しさが印象に残るのでは、と思いました。少なくとも、僕にとって本作とは、家族が「もう一度家族になる」お話だと感じました。思わぬアクシデントによってバラバラになりかけた家族の絆。その細い糸を寄り合わせ、もう一度、たくましい絆にしてゆく事。それは発明では解決出来ない。それを発見した事自体、T・Sにとって、家族にとって、もっとも大きな大発明だったのかもしれませんね。

 

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天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)

物語 ☆☆☆

配役 ☆☆☆☆

演出 ☆☆☆

美術 ☆☆☆☆

音楽 ☆☆☆☆

総合評価 ☆☆☆

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作品データ

監督   ジャン=ピエール・ジュネ

主演   カイル・キャトレット、ヘレナ・ボナム・カーター

製作   2013年 フランス、カナダ

上映時間 105分

予告編映像はこちら

天才スピヴェット予告編

 

 


ベイマックス

ベイマックス

2014年12月25日鑑賞

荒廃した日本にベイマックスを

 

観てよかた! 僕が鑑賞した劇場では多くの子供達の笑顔に出会えました。当初、全く観る予定がなかったのです。というのも、ずいぶん前にチラシや予告編で主役キャラのロボット「ベイマックス」を見かけました。僕は何の魅力も感じなかった。なんで、主役キャラがこんなにもブサイクなんだろう?

無味乾燥な色とデザインなんだろう?

「どうも、ディズニーのスタッフは日本人の感性を誤解しているようだ」とさえ思いました。

何しろ、本作はディズニーのスタッフが日本の文化、漫画、アニメへの強烈な敬愛の念を込めて作った、という触れ込みだったからです。

実は、ひねくれていたのは、僕の方でした。どうせ脳天気で楽観主義者のアメリカ人が作った、ありきたりなヒーロー物の子供向けアニメだろう、などとハスに構えて傍観していたのです。その僕の予想はいい意味で「ちゃぶ台返し」のようにひっくり返りました。

本作は見て損はない作品です。

物語の主人公ヒロ(本城雄太郎)は天才的な才能を持つロボットオタクの少年です。ロボット同士の賭け試合をやって、こっそり、賞金稼ぎのアルバイトをしたりしている。

「おまえ、そんなことやってるなら、オレの大学でロボットを学べ」と勧めてくれたのがお兄ちゃんのタダシ(小泉孝太郎)です。

早くに両親を亡くしたのか、彼らはカフェを営むキャス叔母さん(菅野美穂)のもとで暮らしています。

やがてヒロが作った新型ロボットが大評判。タダシの担当教授の推薦もあって、ヒロはお兄ちゃんの大学へ入学が許されます。

憧れていた大学、ロボット研究室に入ったヒロ。そこには変わったロボット、けったいなキャラの学生たちがいっぱい。その中でお兄いちゃんの開発しているのが、ケアロボットの「ベイマックス」ふわふわの真っ白な風船を組み合わせたようなロボット。見た目ははっきりいって、ぜんぜん「COOL!!」じゃないんですね、これが。なんとも野暮ったい。でもその隠された機能は抜群!

 

ある日、大学で大火事が発生。ヒロはこの火事で、たったひとりの家族である、兄のタダシを亡くしてしまいます。残ったのはロボットのベイマックスだけ。しかも、ヒロの作った画期的な新型ロボットまでもが何者かによって奪われてしまいます。兄さんの命を奪った火事と、盗まれたヒロのロボット。これはどこかでつながっているのか? 

ヒロとベイマックス、大学の仲間たちは協力して、この大事件の真相に迫ろうとするのですが……

以前から僕は、ハリウッドのアクション映画や、VFXを多用したCG映画に否定的で、軽蔑さえしていました。

しかし、本作ベイマックスを観終わって、偏見の目でCG映画を否定することはやめよう、と思いました。

なぜなら、CGということを全く意識させないほど、作品の描く世界にぐいぐい引き込まれていったからです。

コンピューターグラフィックは、あくまで道具であり、表現手法の一つです。画家で言えば「絵筆」と「絵の具」にあたります。

表現者の根底に流れる、血の通った芸術への哲学と魂。その背骨さえ曲がっていなければ「どんな道具を使おうが自由」「何を描いても自由」「どう表現しても自由」

そういった「自由な表現」が守られることこそが大事なのだ、と遅まきながら思い知らされました。

ところでクラシック音楽では、冬のこの時期にピッタリ「くるみ割り人形」という作品があります。

その中の一曲「花のワルツ」

花のワルツ、小澤征爾指揮ベルリンフィル

試しにクラッシックなど聴いたことのない子供たちに聴かせてあげたいと思います。

なんでこんなに美しいのだろう! 

なんでこんなに愛らしいのだろう! 

まさか、こんなカワイイ楽曲が、ひげもじゃらのチャイコフスキーという、オッサンによって作られたなんて!!

「花のワルツ」という楽曲は作曲家の手を離れ、すでに普遍性を持っているのです。美しいものは美しいのです。大人も子供も楽しめる楽曲なのです。

話がだいぶ脱線しました。

本作「ベイマックス」のCG表現は申し分なく素晴らしい。本作は「誰でもわかる作品」「子供と大人がともに楽しめる」映画作品、背骨の曲がっていない魂と哲学を持ち合わせた作品だと思うのです。

それを突き詰めていけば結局のところ

「おもしろい!!」の一言に尽きるのです。

多くの芸術家が自由自在に絵筆を操り、楽器を演奏し、原稿用紙にペンを走らせたように、CGクリエイターたちは、本作において思う存分にその才能を発揮させています。コンピューターで作られた映画であろうが、もうそんなことはどうでもいい時代に入ってきました。

本作は日本のマンガ、アニメに代表される日本文化への敬愛の念が随所に見受けられます。街の風景もどことなく日本の街角を思わせます。心優しいケアロボット、ベイマックス。ラストシーンでは主人公ヒロを守るその健気な自己犠牲の精神に、自らは燃え尽きて、地球にカプセルを送り届けた、あの小惑星探査機「はやぶさ」の帰還をオーバーラップさせる人も多いと思いますね。

おっと、これはネタバラし寸前ですな。でも、エンディングはアメリカ人が作ったであろう、ひとひねりを加えたハッピーエンディングが待ってます。

えっ、なに? 

「ハッピーエンドなんぞ深みがない?」

 何で良くないんです?ハッピーエンド。大いに結構じゃありませんか。現実の世界、そしてニッポンという国は、一家に一体ケアロボットのベイマックスが必要なほど、すさんで、疲れ果て、荒廃しきっているのですからね。

なお、エンドロールは最後まで見たほうがいいですよ。素敵なプレゼント映像が待ってます。

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天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)

物語 ☆☆☆☆

配役 ☆☆☆☆

演出 ☆☆☆☆☆

美術 ☆☆☆☆☆

音楽 ☆☆☆☆

総合評価 ☆☆☆☆

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作品データ

監督   ドン・ホール、クリス・ウィリアムズ

主演   スコット・アツィット、ライアン・ポッター

日本語版 本城雄太郎、川島得愛、菅野美穂、小泉孝太郎

製作   2014年 アメリカ

上映時間 102分

予告編映像はこちら

ベイマックス予告編


おやすみなさいを言いたくて

おやすみなさいを言いたくて

2014年12月31日鑑賞

争いの日々にお休みなさいを言おう

 

おそらく、今年2014年、ぼくの心の奥底まで最も深く到達した作品。

ジュリエット・ビノシュという女優は、映画の持つ雰囲気をあまりにもケレン味なく、自然に伝えることができる。その映画作品のもつ雰囲気を体全体で受け止め、観客に伝えることのできる「霊媒師、シャーマン」のような気がしてならない。それほどまでに彼女は、いい意味で「演技していない」。演技なぞしなくても、本作の主人公の女性戦場写真家、レベッカ、その人物の魂がジュリエット・ビノシュに憑依するのだ。

映画は衝撃的なシーンから始まる。戦場カメラマン、レベッカが写真を撮っている。場所はアフガニスタンのカブール。紛争地である。ある女性の葬儀が行われている。墓穴の底に横たわる女性。集まった人々はみな、なにやらつぶやいている。きっと、お悔やみを述べているのだろう。しかし、死んだはずの女性は、墓穴の中からおもむろに起き上がった。人々は当たり前のように彼女を墓穴から取り上げる。彼女はまだ生きているのだ。観客である僕たちは当然、なんだ、これは?と思う。しかし、これから間もなく、この女性は本当の死を受け入れるのだ。次に彼女は、参列者の祈りがささげられる中、体全体に爆薬を取り付けられる。

もうすぐ、運命の時を迎えるであろう、彼女の最期の姿を撮り続けるレベッカ。カシャ、パシャ、カシャ…… シャッターを切る音だけが無機質に響く。爆薬を取り付けられた女性は、車に乗せられる。一緒に市街地まで同行するレベッカ。

やがて「聖なる戦い」のために、女性は神に祝福される瞬間がやってくる。葬儀は先ほど済ませた。もう自分はすでに死んでいるのだ。何も恐れることなどない、後はスイッチを押すだけ……

シャッターを切り続けていたレベッカは超現実的な、いままでの一連の時空間から、人いきれのする市街地での現実世界に、ふっと自己の意識を取り戻す。自分は何を見ているのだろう? 自分は何をすべきだろう?

彼女は我を取り戻し叫ぶ。

「爆弾よ!逃げて!!、みんな逃げ……」

その瞬間、轟音と真っ赤な炎、爆風、誰のか分からない血液が辺り一面を染める。レベッカも吹き飛ばされ、彼女のカメラは血にまみれて地面を転がる。

 こんな危険な仕事を続けるレベッカにも夫とふたりの子供がいる。あの自爆行為(自爆テロという言葉は、僕は簡単に使いたくない)の現場から、運良く自宅のあるアイルランドに帰国した彼女。

彼女の帰りを待つ夫はもちろん不機嫌だ。

「いつまで、こんなのやってるんだ、もう、耐えられない! 僕と子供達は、母親の死亡通知がいつ来るか、待ってるんだぞ」

夫の怒りは当然だ。しばらくの間、仕事を休もう。静かな生活を家族と送ろうと、レベッカは思う。

しかし、一時の安息をしている彼女に、出版社から新たなオファーがかかる。比較的安全、とされているケニアの難民キャンプ取材の仕事だ。レベッカは悩んだ挙句、この仕事を請けることにした。娘も連れて行こう。というのも、ママは、なんのためにこんな危険な取材を行い続けるのか? それを長女ステフ(ローリン・キャニー)が強く知りたがっていたからだ。しかし、長女と共に、現地入りしてみると、この安全とされた難民キャンプにも機関銃を持った男たちが襲いかかってくる。この瞬間、彼女は戦場カメラマンの「スイッチ」が入ってしまうのである。

「危険すぎる、戻れ!!」彼女はガイドの男性の制止を振り切る。

「大丈夫よ、必ず戻るわ。娘を安全な場所へ、おねがい!」

彼女は泣き叫ぶ長女をガイドの車に預け、自分は難民キャンプ襲撃の様子をカメラに収めようと集落に向かうのだった。

本作は一人の女性戦場カメラマンと、その家族を、主人公レベッカの目線から描く。そこには国と国との争いごと、政治的な問題。それらに関しては「あえて」視線を向けていない。本作で描こうとしたのは戦場カメラマンと、その家族、そしてレベッカが写し取る、ひとり、ひとりの「個人」という被写体である。

戦争の大義について問題提起しようとする姿勢は本作にはない。そんなことよりも、もっと大事なことがある。戦争、紛争になれば、最も弱い「個人」が、最も大きな犠牲と悲しみを背負う、ということである。

ただ、こんな感じで理屈っぽく鑑賞するだけではもったいない。本作は映画作品としても大変魅力的だ。

印象に残るシーンがいくつもある。

レベッカの心象風景なのだろう、水の渦の中に舞い踊るような身体。すべての緊張と制約、日常のしがらみを解き放つ、無重力を思わせる水の中の世界。時折映し出される海辺の光景。それにロウソクをつけた紙の気球を、家族みんなで飛ばす風景はよかったなぁ~。ふわぁ~っと空に舞い上がって、あとは気流の流れに任せて空を漂ってゆく、なんともはかない「紙の気球」

それにどんな比喩や暗喩があるのか? それは観客が自由に感じればいい。本作には、映画監督のメッセージを観客に無理やり押し付けようとする、ありがちな表現手法は取られていない。スクリーンに提示されるイメージをどう受け止めるかは観客の自由だ。

ワンシーン、ワンカットごとに、ぎゅっと濃縮されたような時間と、映画への想いが詰まった濃密な本作。ジュリエット・ビノシュの淡々とした演技の作法が印象的だ。緊迫したシーンと、その緊張を解きほぐす柔らかな映像とのバランスも素晴らしい。少なくとも、僕にとっては今年お気に入りの一本となった。

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天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)

物語 ☆☆☆☆

配役 ☆☆☆☆

演出 ☆☆☆☆

美術 ☆☆☆

音楽 ☆☆☆☆

総合評価 ☆☆☆☆

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作品データ

監督   エリック・ボッペ

主演   ジュリエット・ビノシュ、ニコライ・コスター=ワルドウ

製作   2013年 ノルウェー、アイルランド、スウェーデン

上映時間 118分

予告編映像はこちら

「おやすみなさいを言いたくて」予告編

 


バンクーバーの朝日

バンクーバーの朝日

2014年12月26日鑑賞

フェアプレーの先にある光を信じて

 

石井裕也監督作品では「舟を編む」を鑑賞したことがある。全く映画になりそうもない題材を、実にうまく映画作品としてまとめ上げる、その手腕に確かなものを感じた。さて、本作はカナダのバンクーバーに実在した日系人野球チームのお話。このモチーフを聞いただけで、もうドラマチックではないか! それを石井監督がどのように料理するのか? 僕の関心はそこにあった。

結果として「いまいち」の感じは否めなかった。相当期待して劇場に足を運んだだけに残念でならない。

きっとこの題材なら、李相日監督を起用していれば、それこそ「フラガール」のような感動大作になった可能性がある。

石井監督独特の一見無駄に見える間延びしたようなカット。あえて、感動するツボのタイミングをちょっとだけ外すような演出。それが石井監督の持ち味でもあるのだけれど、本作のような大作の骨格を持つ作品では、逆にそれが災いしてしまった感があるのだ。

本作での唯一の救いは今、人気、赤マル急上昇中の女優「高畑充希」の存在だ。この人をスクリーンで観る価値はある。

物語の時代は第二次大戦前のカナダ、バンクーバーの日系人居住区。

高畑充希演じるエミー笠原。この人の佇まいが、本当に当時の日系人社会の時代背景と雰囲気を、そっくりそのまま現代にタイムスリップさせたようなのだ。彼女は勉強がよくでき、大学の進学を目指している。そこには、日系人でも、大学で学ぶ者がいることを示すことによって、すこしでも日系人の地位向上に貢献できるのではないか?という彼女なりの思惑がある。彼女はそうして、裕福なカナダ人家庭のメイドの仕事で学費をかせぎ、家にもお金を入れている。彼女の兄、レジー笠原(妻夫木聡)が本作の主人公。彼は製材所で働きながら野球クラブに通っている。その名も「バンクーバー朝日軍」

当時の日系人たちの間では、この野球クラブは、期待はしていたものの、どうにも不甲斐ないと思われていたようだ。成績が悪いのである。勝てない。連敗続きなのだ。

「あんなでっかい体のカナダ人に、おれたちチビの日系人が勝てる訳ないんだよ」などと、レジー笠原は諦めかけていた。

おまけに彼らの日常生活や仕事も、偏見と差別に常にさらされている。ちょっとでも雇い主に意見をしようものなら

「ジャップは出て行け!!」と罵られる。かといって真面目に、熱心に働けば、仕事仲間の白人たちから

「ジャップはがっついてやがる!」と嫌味を言われる。

賃金は安い。彼らの親たちは

「カナダで1年稼げば日本で一生安泰で暮らせる」という、うまい話に乗せられて、はるばる海を越えて異国の地で働き始めた。しかし現実は、かくも厳しかったのである。このあたりの状況は映画の冒頭20分ほどで語られるのだが、この冒頭部分だけでは、その状況や辛さが、観客である僕たちに、いまいち切実に伝わってこないのだ。映画を最後まで見終わった後で、ようやく

「ああ、そうかぁ~、たいへんだったんだね」ということが観客の腹の中に収まるようなストーリー仕立てになっている。だから、僕がもし監督なら冒頭20分は、ばっさりカットするだろう。

さて、そんな負け犬根性が染み付いていたバンクーバー朝日軍。試合中、レジー笠原は、ちょっとしたヒントを見つけた。

「そうだ、頭を使う野球をしよう、もっと考えるんだ」

そこで編み出したのが「バント作戦」と「走る野球」である。

バントで一塁へ出る。すかさず二塁へ盗塁。相手チームは焦る。その隙に3塁へ。打者がボテボテのゴロを打つ。その間にホームへ滑り込む。

一点だ!ヒットなしでも一点取れる! あのでかい図体のカナダ人相手でもこれなら勝てるぞ! この「ちょこまかした」戦法でバンクーバー朝日軍はリーグ戦を勝ち進む。やがて彼らはリーグ優勝決定戦にコマを進めることになるのだった……

と、このあたりのトントン拍子に勝ち進むあたりは、実に爽快で楽しく鑑賞できる。

バンクーバー朝日軍はフェアプレーを心がけていた。その先に必ず、朝日が差すのを信じて。国や、人種の違いを超えられると信じて。

ただ、彼らのその後に待ち受ける運命は過酷である。

日米開戦。と同時に、カナダの日系人たちも敵性外国人という烙印を押され、強制収容所送りとなる。

僕はかつて戦時中のアメリカに住む、日系人を題材としたドキュメンタリー映画「442日系部隊・アメリカ史上最強の陸軍」を観た。

「442日系部隊・アメリカ史上最強の陸軍」予告編

劇場で観終わったとき、僕はしばらく席を立てなかった。それほど彼らの戦いは悲惨で激烈だった。自分たちの運命に立ち向かう、自分たちの「アメリカ」という国を愛する意思表示をするのに、どれだけの命を捧げなければならないのか。その苛酷な時代の波と運命を受け止めたジャパニーズ・アメリカンたちの、ひたむきな力強さに打ちのめされたのである。

「ここまで人間は強くなれるのか?」と。僕にはできないと思った。

それこそ「負け犬根性」なのかもしれないが、僕は人と争いたくもない。また、なによりどんな事柄についても「戦いたくない」ないしは「闘いたくない」人間である。

それは21世紀の今、現実世界においてだ。

あえて「ぼくたち」という言葉を使わせてもらう。

「ぼくたち」は十分すぎるぐらい、すでに戦わされている。目に見える形での偏見や差別、格差といった戦い、そして目に見えない形で生活の中に潜む「たたかい」

いつになったら「ぼくたち」は戦わずに済む日常がやって来るのだろうか?

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天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)

物語 ☆☆☆

配役 ☆☆☆☆

演出 ☆☆☆

美術 ☆☆☆☆

音楽 ☆☆☆

総合評価 ☆☆☆

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作品データ

監督   石井裕也

主演   妻夫木聡、亀梨和也、勝地涼、上地雄輔

製作   2014年 

上映時間 132分

予告編映像はこちら

 

「バンクーバーの朝日」予告編

 


奥付



2015・1月号映画に宛てたラブレター


http://p.booklog.jp/book/92921


著者 : 天見谷行人
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/mussesow/profile


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この本の内容は以上です。


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