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Warmin’ up

ふたたび、三月の巻

65. Warmin’ up


 第一日曜開催というのは定例だし、常連以外への予告も何日、というレベルでは早めに流れていたが、如何(いかん)せん潮の読みというのが不徹底なものだから、集合時刻の連絡が後回しになってしまう。いつもなら午前十時でいいのだが、南実に言わせると、上下が少ない長潮日とかで午前中は不向きなんだそうな。見学者も来ることだし、潮位が下がり始める午後からゆっくりがいいだろう、とのお達し。とりあえず午後一時の集合ということでまとまった。

(参考情報→長潮=緩慢な干満

 本日一番乗りは石島姉妹。お次は千住姉妹、と続けば四姉妹揃うところだったが、
は「あれ、櫻姉、蒼葉さんは?」
さ「途中まで一緒だったんだけど、何か陽射しが強くなってきたでしょ? サングラスが要るとか言って引き返しちゃったのよ」
こ「へぇ、サングラス...」
 サングラスと言えば、これまで文花、清、冬木あたりと、最近モテモテの彼、
さ「あ、業平さん、あれ?」
 サングラスで登場したことはあったが、今日は眼鏡を着けている。だが、業平氏は裸眼で良かったはず。何でまた。
 「あのぉ... 業平は?」
 ベースがオドオド調なので、ただでさえ聞き取りにくいところ、花粉症なのかマスクもしてるもんだから尚更である。櫻は耳を疑いつつ、聞き返す。
 「って、どうしたんですか? ご本人?じゃないんで、すか?」
 俄かに緊張感が高まる。てっきり変装でもしてからかってるんだと思ったら、どうもそうじゃない。暗めだが、不審なのは明らか。
 「あ、すみません。兄の太平って言います。双子ですけどね」
 「エーッ!!」
 三人揃って大サプライズ状態。そこへ、いいタイミングで二人の女性が連れ立ってやってくる。
 「しめしめ、弥生嬢、まだだったか。よーし」
 文花はカウンター係の誰かさんの真似して、小作戦決行!
 「Go Heyさんっ!」
 櫻はサプライズが収まってなかったので、制しようがなかった。不意に背中を押された太平氏は、殊更のサプライズ。
 「ワァッ!!」
 この大声にまたしても一同ビックリ。南実も目を丸くしている。兄はゆっくりと振り返った。
 「あれ? 本多業平さんじゃ?」
 気が付けば、周りは女性ばかり。あまり免疫がないらしい太平氏はすっかりドギマギ。自己紹介も何もあったものではない。
 何となく場が固まっているところへ、やっとこさおなじみのRSBが滑り込んできた。
 「何だ兄貴、先に着いちゃってたってか」
 双子の弟はこの通りお気楽なもんだが、当の兄貴はどうも顔色が良くない。
 呼吸を整え、ようやく口を開きかけたところ、またしてもタイムリーに若き乙女がやって来る。
 「こんちはぁ...ありゃりゃ? ご、Goさんが二人?」
 噂には聞いていたが、続々と女性が来るもんだから、開いた口が塞がらない。ポカンとしてるのがバレずに済んだのは、マスクのおかげ以外の何物でもない。

 「へぇ、双子なんだぁ。どーりで。顔はそっくりだけどぉ、性格って対照的?」
 弥生もしばらく唖然としていたが、すぐ様いつもの調子でズケズケ斬り込んで来る。正に仰せの通りなので兄弟は返す言葉がない。いや、太平の方はどうも様子がおかしい。弥生を一目見て、先刻からこうである。「萌えー」(何ヲタクだ、この人は?) その暗さ加減といい、好い意味でひきこもり傾向はありそう。だとすると弥生嬢との共通点、なきにしも非ず、か?
 さて、勘違いからちょっとした失態を演じてしまった文花は、双子の背後でもじもじ中。いや、こっちも様子が変である。
 「太平さん、いいかも」(ありゃりゃ?)
 全くの余談ではあるが、墨田区において、文花(ぶんか)と業平(なりひら)は川を挟んでお隣どうし。太平(たいへい)は南にちょいと離れている。だからどうということはない。文花的には急接近モード。業平を飛び越せば太平なのである。

(参考情報→文花~業平~太平

 スギ花粉症ではない文花にマスクは要らない。方やもろに花粉症中なのは、何と緑のおば様。
 「カモンさんはいいけど、花粉さんはゴメンだわ」
 「探偵さんは常にマスクしてなきゃな。他にも変装用の七つ道具とかあんだろ?」
 「ハ、貴殿にもマスク、じゃ効かないわね。口止め用のテープが要るわ。この減らず口!」
 作家コンビに同行中の寿(ひさし)はただ苦笑するしかない。そう、まずはこの掛け合いについていけないことには...。
 監事としてのお役目を自覚しつつも、愉しませてもらうことも忘れない。こういう小粋なところはさすが江戸っ子である。

 そんなご年配三人が現地入りした頃、
 「ヤッホー! 千兄!」
 花粉症シフトの千歳はノロノロと自転車を駆っている。そののろさ故、あっさり追いつかれてしまったの図である。河原桜の手前でゆっくり停車して振り向く。
 「あぁ、蒼葉さん。いいね、そのサングラス」
 副賞の恩恵を与(あずか)ってからというもの、蒼葉にてんで頭が上がらない千歳である。まずは無難にご機嫌とり。
 「千さんもマスク似合ってるわぁ、なーんて言えないか。大丈夫ですか?」
 「それほど深刻じゃないけど、ま、予防を兼ねて」
 「そっかそっか。そういうことならなおさら。バレンタインデーにとりあえず一夜過ごせてもらえてよかったかも」
 「?」
 「花粉症が本格化しちゃうと、夜だってツライでしょ。ちゃんとした状態で相性とかね。早めにわかってた方がいいかなって。それで...」
 何の相性?とはとても訊けないので笑って誤魔化すしかない。だが、妹は真剣である。
 「姉さんてそういう魅力ない、かなぁ?」
 姉がヤキモキするならわかるが、妹がこうである。プロセスマネジメントを超えた領域なので、どこまでどう、というのをただでさえ計りかねているマネージャーではあるが、そう言われては元も子もない。
 「いやいや、決してそんなこと。スローラブだからさ」
 蒼葉はどこか白々としながらも、強めの視線を向ける。下手なことは口にできない。
 「って言っても許してくれないか。でも...」
 「ん?」
 「今日はね、ちゃんといいもの持って来たんだ。あとで櫻さんに渡すつもり」
 「そう、ま、いっか。C’est la vie, C’est la vie.」
 河原の桜はまだ冬の中。だが、春に向けた準備は着々と進めている。見た目にはわからなくても着実に進行するプロセスというのがあって、それはこの木々にもある。恋愛も然り。桜に喩(たと)えてその辺の境地を説きたいところではあったが、やはり口は重く、おまけに「ハ、クション! うぅ」。噂話もなくはないが、正真正銘のクシャミが出る始末である。

 マスクの千歳、サングラスの蒼葉、お顔に何かを着用する、という点では共通だが、サマになってるかどうかで云えば、大違い。
 「蒼葉さんはカッコいいけど、千兄さん何それ?」
 案の定、小梅からダメ出しを食う。
 「いいのいいの。素顔出すとモテちゃって困るから、でしょ?」
 毎度のことながら、櫻に助けてもらう訳だが、照れくさいの何のって。口許に締まりがなくなるも、一同に悟られることはない。不測の事態に備える上で、マスク(あるいは仮面)はやはり必需品なのであった。
 本多兄弟にはドッキリさせられたが、人手が増える分にはありがたい。ここまでで実に十三名。いつでも始められそうだが、そうはいかないのが当地の慣例。追加メンバーが風を切るようにやって来た。まだ真新しさが残るRSBでのお出まし。
 「おっ、待ってました」
 「あーら、須崎さん、お久しぶり」
 「やぁやぁ、皆さんお揃いで。こんにちは」
 清はお師匠さんだが、緑はその上を行く存在。地域振興時代からの顔なじみだったのだが、おば様根性で縁談がどうのこうのってやられた時期があったりしたので、今なお苦手意識が先行する。意中の女性説を持ち出して何とか回避したが、おば様の耳にはその後の話が入っていないので、突っ込まれたらヤバイ状況ではある。もっとも、辰巳が未だ独身であることは、ここにいる一部メンバーは承知しているので、今日この場で緑にバレてしまう確率は大。かなりリスキーな状況下に自ら飛び込んできたようなものなのだが、それは覚悟の上である。相当の理由があったから来た。それだけである。
 「いやね、初めて師匠からメールが来て、こりゃ大変だって思って。わざわざアドレス取って、案内メールよこすんだから、一大事でしょ。たまには現場感覚養わないといけないし。あとは事務局長殿にね、ご相談をと思いまして」
 干潟にあまり顔を見せない割には、それなりに知られた人物ではある。故に、大して気兼ねするでもなく、ご自身のペースで事を進めている。だが、元・意中の女性と顔を合わせるのが気まずいというのもあったらしく、次の瞬間には文花を連れて移動してしまった。
 一同、取り立てて気に留めるでもなさそうだったが、訝(いぶか)しげに見送るのが一人いた。業平である。

 センターに足を運ぶのを躊躇(ためら)っていたのも、やはり櫻絡みだろうか。とにかくそうも言ってられなくなった、というよりも機が熟してきた、といった方がいいだろう。相談事とはつまり、
 「センター運営業務の委託の件がね、こっちでも大詰めになりまして」
 そもそも法人化に向けて動いているのも、全てこのため。辰巳は辰巳で役所としてはあまり例がないケースと向き合いつつ、地域社会の持続可能性を慮ってあれこれ腐心していたのである。
 文花はさまざまな想いがこみ上げてきて、ドキドキモード。市民社会への理解の深さ、何とかセンターを盛り立てようとする心意気、掃部(かもん)直伝の一端とは云え、普通こうはいかない。そんな惚れ惚れさせられる要素の上に、もしお互いがこういう立場じゃなければ、とか、今は確実にひとり身なんだから、とかが加わっている。設立総会を控えている都合上、今からあまりドキドキしない方がいいのだが、魚類と対面した時のそれと比べれば、比ではない。
 「で、ご批判もあるかとは思うんですが、指定管理者か企画競争入札か、で絞られては来ました」
 「私としては臨むところです。ただ、どっちにしてもまず総会が成り立たないことにはね」
 「何だかかえって負担をおかけしてしまってるみたいで...」
 「いいえぇ、おかげ様で心強い布陣が整ってきましたし。いろいろと勉強にもなったし、いろいろな出会いもあったし、感謝感謝です」
 「出会い、かぁ...」
 「そうそう、一度、オブザーバーとして理事会にいらしてくださいな。順調に行ってれば議案を送る段になってると思いますけど、点検方々... ステキな出会いもあったりして」

 相談と言っても短時間で済むだろうと思っていたら、なかなか終わらないので清と緑、そして櫻もノコノコやって来た。話はいつの間にかNPO論になっている。
 「そうか、随分とまたお詳しくなったもんだと思ったら、そういうことでしたか」
 「NPO法ができて十年経つんですってね。良くも悪くもいろんな事例とか知見とかが蓄積されてきてるから、ある意味やりやすいだろうってアドバイザー氏がね。それで気が楽になったかな」
 「僕の印象ではそのNPO法って、役所の便法みたいだなって思ってたんだ。市民活動をコントロールしやすくするために公的なルールに乗せようって魂胆? 法人て付けば他の会社とかと同じ括りにできるでしょ。だから、法人化前提とは言っても、そうだな、それをうまく逆手にとってもらえそうな聡明な人に来てもらえれば、って考えてた」
 「センセ仕込みとは言え、須崎さんも役者ですね。それでよく管理職やってるワ」
 「いや、役者ってことじゃ矢ノ倉さん、あ、事務局長殿の方が一枚も二枚も上手だよ。とにかく人選としてはバッチリだった訳だ。ウン」
 「須崎さん...」
 ちょっとイイ雰囲気だったが、センセが首を突っ込んでくれる。
 「おいおい、お二人さん、傍(はた)で聞いてると何だか学者が意見し合ってるみてぇだぞ。NPOがどしたって?」
 「えぇ、須崎課長の考え方って、公務員離れしてるって言うか。感心しながら聞いてたんです」
 「まぁ、氏は地域慣れっつぅか、それこそ場慣れしてっからな。現場を知ってる分、役所の矛盾とか限界とかもよく存じていらっしゃる。で、NPOに期するところ大ってなる訳さ、な?」
 「えぇ、まぁ」
 師匠からこう持ち上げられては調子も狂う。師の意見も伺いたいところだが、どうも言葉が出ない。すると、
 「カモンさんもいろいろ思うところあるから、代表さんをお引き受けなさったんでしょ?」
 お世話係のおば様がしっかり継いでくれた。
 「NPO云々だけとっても思うとこは多々あるさ。こないだ入船監事さんも云ってたけど、出しゃばりNPOとかはゴメンだし、あと気を付けるべきは、お手盛りNPOだろな。役所がでっち上げて作ったようなのは特にどうかと思う。まぁ何だ、スタンドプレーだか、パフォーマンスだか、そういうのが好きな首長(くびちょう)さんのとこは要注意さ。そうならないようにしっかり自律して、実践して、だよな? おふみさん」
 「あとは、委託=丸投げにならないように、ですよね、センセ?」
 「そう、協働ってのを掲げるならなおさらな。最初はてっきり『今日どう?』って聞かれてんかと思って、ドキドキさ。ワハハ」
 掃部節ジョークはさておき、協働ってのは一緒に汗かくような語感がある割には、ともすると主従関係のようになってしまったり、割り振った役割を果たすだけで終わってしまったり、つまり文字通りに行かないことが多いとされる。本来なら行政側・市民側双方の行き届かないところを補い合うような、または一つの目標に対してお互いの持ち味を活かし合うような、そんな狙いあっての協働である。成果が上がらずに疲弊する場合もあるが、真意がつかめず、ただ言われるがままに取り組んだとすれば、その困憊(こんぱい)はさらに度を増すことになる。
 「あくまで一緒に、とは言っても、あえて指定管理者とか競争入札とかを導入するってとこが悩ましいのよねぇ。その方が協働しやすいってんなら、仕方ないんだけど」
 辰巳が心配していたのは、正にこの点である。故にご相談となった訳だが、文花はこの際、形式論にはこだわっていない。事務局長たる者、その展望は常に一歩先。
 と、そんな黙考を破るが如く、
 「まぁまぁ、私みたいなのもいることですから。出向扱いを続けさせてもらえるなら、公務員との協働ってことになりますよ、ね?」
 ウズウズしていた櫻がようやくここで一言挟む。言われてみればもっともな話ではあるが、
 「櫻さんはもともと公務員ぽくないじゃない」
 「て、文花さんの公務員像って何なんスか?」
 「え? それは...」
 「お言葉ですが、そういう先入観が協働を阻害することだってあるんですよ」
 冗談交じりでつい口走ってしまったのだが、この通り返り討ちに遭ってしまった。立場を超えたところで働く者ならではの実感がこもっていて、強い。櫻がセンターにとって不可欠な存在であることがよくわかる件(くだり)だが、よくよく考えるとこれも辰巳の人選の妙である。
 見る目はあるが、それを恋愛に活かせないのが本人の短所であり、長所でもある。
 「ま、名ばかり協働にしないってのが第一よ。そのためには行政はとにかく現場に出て、生の声を聞いて、手伝うところは手伝う。でもって、勝手に余計なことはしない。どっかの国の出先みてぇに、何かと手出ししたがるのはちょっとな。市民が先行してやってるのに、それと同じ様なことを別に仕掛けてみたり、はては横取りしちまったり、なんてのもある。協働がうまく行ってりゃそんな話も出ないだろうに、な?」
 「師匠、そりゃまた辛口で来ましたねぇ。横取りってのは極端な例でしょうけど、つい走っちゃうのはね、宿命って言うか、そうは言っても、だと思いますよ。聞きたくても聞けない、そもそも市民との接点が見出せないって、あがいてる連中も結構いるんです。悪気があってじゃあ、ない」
 このままだと師弟談議になりそうだったが、ここでも再びおば様が割って入る。
 「そしたら、やっぱ探訪に出てきてもらわなきゃ。作家と歩く荒川とか、あとは櫻ちゃんのマップ教室とか、きっかけはいくらでも。ねぇ?」
 文花と櫻はちょっとした悶着があった後なのでおとなしい。弟子は苦笑気味だったが、師匠は違う。干潟端協議、最後はビシっと代表にまとめてもらうとしよう。
 「で、第二はさ。隅田君じゃないけど、プロセスを見えるようにするってことだろな。協働でも何でも、皆でしっかり手順を考えながらよ、地域の課題に一緒に向かってく、ってことじゃねぇか」
 目標の共有もさることながら、その過程を共にするとこにまた協働の妙味はある。それでこそ「いいカンケイ」も成り立つと言うものだ。この話、代表ご挨拶でそっくり使えそうである。
 繰り返しになるが、三月前半は総会に諮る議案づくりが大詰めを迎える。今日は来るべき山場に向けての息抜きみたいなものだが、むしろウォーミングアップのようになっている。週明けからは、千歳の臨時出勤も増える見込みで、さらにはMiss.三月、弥生嬢にも出て来てもらう予定だ。法人役員・委員候補各位をつなぐメーリングリストができたおかげで、各種様式の詰めも加速し、定款もほぼ固まってきている。ファンクラブの話はお預けながら、会員制度そのものは見通しが立っていて、季刊誌をはじめ情報誌にブログに、つまり各種媒体を通じてのPRが奏功し、仮入会者も堅調に増えている状況。となると残るは、部会と事業計画のデザインといったところだが、総会でプレゼンできるレベル、正にデザイン(模式化)されたものができれば十分である。
 次回のセンター行事は、法人化前最後の一席となる「グリーンマップ講座」だが、何かを描き出すということでは、マップもデザインも共通である。当講座を格好の契機と捉える事務局長は呟く。「As-IsとTo-Beよ」
 文花の見つめる先には、法人の自立もある。To-Beをどこまでデザインできるか、そのためには描写力を高めなければ、そう自分に言い聞かすのであった。

 それはそれでいいのだが、気になるのはご自身のTo-Beの筈。それとも愛だの恋だのは、その後の話なのだろうか? いやいや自称恋多き女は、ちゃっかり同時進行を目論(もくろ)んでいた。目の前にはかつてちょっぴり想いを寄せた人物がいて心惑わされるも、今日の新たな出会いを大事にしたいと思う。三角形もいいけれど、そろそろ...。
 揺れる乙女心というのがピッタリ来そうな場面だが、三十路の揺れ具合は趣が異なる。こういう心情はむしろ愉快なもの。
 文花が嬉々としていると、同様に奇々、否、喜々とした人が近寄ってくる。
 「で、須崎さん、お相手って矢ノ倉さんだったの?」
 「はぁ?」
 訊かれてる本人よりも早く、文花が反応する。そう言われて嬉しくない、ということはないのだが、真意不明につき、何のこっちゃである。女心は微妙に揺れる。
 「あ、いえ、ハハハ。候補が多くてね。今日も沢山おいでだし」
 「まぁ、お年頃の女性(ひと)、確かに多いけど、貴方、不惑過ぎたんでしょ。二十代女性ってのは有り得ないんじゃ」
 昔々、永代(ひさよ)とはちょっとイイ感じだったなんてことは知らない。櫻を見初めてたことは数ヶ月前にやっとわかった。情報通の文花がこんな程度、緑の方は旧知ながらも、なぜか全く以って知らぬ存ぜぬである。ちゃんと経緯を話せば、かくも言いたい放題にはならずに済みそうなものだが、何せ相手は女流作家。話したが最後、自分をネタに一本書かれてしまう可能性は否めない。不惑とは因果なもの。男も大いに戸惑い、揺れている。

 干潟端でこんな人情劇が繰り広げられてしまっては、どうにも始めようがない。だが、他の面々にも相応のドラマ、配役がある。決して時間を持て余している訳ではないのだ。
 文花が時折視線を送っていた先には本多兄弟がいて、七人の男女が囲んでいる。お互いを紹介し合うような図に見えるが、初顔どうしの対面がどうやら優先されている模様。
 対面者の一、太平はhigata@メンバーについては弟を通じて予備知識を得ているので、顔と名前を一致させれば済む。対面者の二、寿は先月の祝賀会の席で大方顔合わせ済みなので、特に違和感なく振る舞える。自己紹介する場面は今日のところはないであろう、ここに来るまではそう踏んでいた両者である。だが、互いにノーマークの人物が現われ、目前にいる。
 挨拶の二つ三つは交わせても、対面者はどこかぎこちない。業平と千歳が引き合わせるような形で、何とか話をつないでいる。
 この図をアイスブレイキングと称する向きもあるが、棚氷がどうこうと叫ばれる折、語弊があるし、人を氷呼ばわりというのも失礼な感じがする。ウォーミングアップとするのが妥当だろう。

 蒼葉と弥生の社会派コンビはと言うと、先月すっぽかしを食った分、気合い十分。男性四氏のやりとりに耳を傾けながらも、干潟近景を見渡し、あぁだこうだやっている。
 「宣言通り、課題解決に向けてプログラムの改造とか何とか、とにかくいろいろやんなきゃ!ってこれ見てると思うんだけどぉ... 仮にそれがうまく行くとやっぱ減ってきちゃうのかな?」
 「まぁ、この調子だとまだまだ先じゃない?」
 「そう、そうよね。散らかってる方が何か落ち着くし。ってやっぱ変?」
 確かに変な話なのだが、彼女達にとってはこの漂着&散乱は違う意味を持っている。それは漂着物がある限り、当地での集まりは続く、ということ。
 いつかは終わるかも知れない。だが、今は、しばらくは、とにかくお楽しみ要素なのである。

 「今日は雨女さんがお休みなので、このまま概ね晴れでしょう」
 「何、それが予報? 気象予報士めざしてるんだったら、風とか雲とかで天気読まなきゃ」
 「初姉の気まぐれ天気予報よ。悪かったわね」
 「ま、お姉ちゃんがニコニコしてっから今日は大丈夫ネ」
 若い姉妹は青空同様、実に清々しい。空を見上げる。すると、後ろからポン。
 「さ、お二人さん、首伸ばすのもいいけど、腕も脚もね。体動かす前にストレッチ!」
 南実をコーチとする俄かアスリートチームが結成され、元気よく準備体操を始めるのであった。このようにクリーンアップ前に体をほぐしておくというのは、実は結構重要。今日のような気候だからできるというのもあるが、逆にこれまでなかった、というのも不思議な気がする。リーダーも発起人も考え及ばなかった次第。
 「ハハ、千歳さん、一本取られたって感じね」
 「僕はムリだな。あそこまで体曲がらないよ」
 「じゃ、私が手伝ったげる」
 「いや、それは...」

 ストレッチが続く傍らで各員何となく集結し、同じように屈伸したり背筋を伸ばしたり。ウォーミングアップが済んだら、いよいよ本番である。


春ラララ

66. 春ラララ


 メンバーは干潟上から下見しつつ、開場を待つ。水位が下がり始めているのが素人目にもわかる。
 「あっちの干潟に手が回らない訳ですな」
 「先月はリセットしなかったんですけど、それにしても、ですよね」
 寿と櫻が話をしている間にも干潟は少しずつ拡がり、その分、ゴミも目立つようになる。例のバーベキュー広場に岩が安置された話は、sistersからのhigata@同報で周知されていたので、今回リセットすれば、次回、その岩の効果の程が明らかになることもメンバーはわかっていた。ゴミ箱干潟を見下ろしていると、通常なら嘆き節になるところ、むしろ昂揚感を覚えるhigata@各位である。焦点はやはりバーベキュー系ゴミ。少なからぬ変化が期待されるところである。千歳は一年前の再現にならないことを祈りつつも、四月の回が待ち遠しくて仕方なくなっていた。デジカメを持つ手が心なしか震えているのは憤りからではなく、軒昂する意気からである。

 程よい潮加減、言うなれば潮時である。するとタイミングよく、ショッピングセンターから数人、さらには新理事に新運営委員、そしてクリーンアップ講座の参加者らがソロソロと集まってきた。商業施設ご関係者については、当初冬木が引率してくる手筈だったが、延期が続いたため、都合が合わなくなっていた。引率者不在の上、案内標識もなければ目印もない。迷っていてもおかしくはない。一度は現地に来たことのある人達がちょうど通りがかったから、事なきを得た格好。顔を合わせたことのある南実、櫻、弥生、業平は恐縮気味に頭を下げている。
 ともかくこれで総勢二十五名。賑やかになったという点では、順延した甲斐があったというものである。一時半をかなり過ぎた頃、実質的なスタートが切られる。
 「いつもお世話になってるスーパーの皆様、今日はようこそ。今回が初めてという講座参加者の方々も、ご足労くださり、ありがとうございます。ここがその現場です。まずは様子をご覧になって、適宜お手伝いいただければと思います。お聞きの通り、拾って調べて、になりますが、二時半には終えられるか、と...」
 取り仕切るのは櫻。講座の延長ということから考えても適任である。常連組はすでに軍手と袋を手にし、スタンバイモード。蒼葉に至っては、当地常設のプラカゴを提げ、いつでも巡回できる態勢になっている。
 「では、よろしくお願いしまーす!」
 櫻は号令をかけつつ、そのまま案内係を務める。アシスタントという訳ではないが、南実も案内に加わる。CSRインタビューの際、いろいろと意見させてもらったはがいいが、言いっ放しじゃ面目ない。まずはゴミの見立てなどをしつつ、櫻をフォローする。
 弥生はどっちつかずな感じではあったが、気が急いていたこともあり、蒼葉とともに干潟をウロウロし始めた。ストレッチが足りない分、屈むのが億劫になっているが、息の合った十代姉妹がしっかり助けてくれる。
 「弥生さん、まだ若いのにぃ」
 「初姉に比べたら、もう年だから」
 「年? そっか三月ですもんね。お誕生日って近いんでしたっけ?」
 「ハハ、そうなのよ。でも、あんまり自覚したくないかも」
 「はぁ、二十代になるとそういうもんスか」
 志望校にストレートで通った初音と違い、弥生にはちょっとした曲折がある。ひと浪あった分、同学年の中ではちょっとお姉さん。ただ、三月生まれというのが幸いして、年をとるのがちょっと早い、という程度の話で実際は済んでいる。それほど気にすることでもなさそうだが、
 「お祝いしてくれる人がいればね、話は別。でもなぁ...」
 文花との三角形でただでさえ緊迫しているところ、思いがけない兄君の登場で、緊張の度合いを高めている本日の弥生嬢。近づきたくても近づけない。誕生日の一件も話がしにくい。心は揺れ、手の動きも鈍ってくる。これは腰の曲がりどうこう以前の問題。
 「弥生ちゃん?」
 「...」
 蒼葉はカゴをその場に置いて、拾う方に専念し始めた。「どしたんだろ? 誕生月ブルーとか?」 弥生はブルーな空を仰いで深呼吸。持ち歌に込める想いがちょっぴり変化したのは正にこの瞬間だった。

 上と下とに分かれて袋の上げ下げなどをしているのは本多兄弟である。今は弥生の視線を浴びているが、集中しているようで気付かない。肝心の弟の方が陸側にいるため、余計に距離を感じる。弥生は深く吸った息を小さな吐息に変えると、再び手を動かし始めた。
 罪な男は、地面が露出した辺りで袋をバサバサ。傍にいる荷物番に時折目を遣っているが、同じく罪な女は知ってか知らずか素知らぬ顔。せっかく現場に来たのにこれじゃ退屈だろう、と思いきや、さっきから頻りにメモを取っているので、むしろお取り込み中と見受ける。
 「えっと、情報提供と調査研究と... 部会を割り振るなら...」
 何やら事業の柱を再考しているご様子である。To-Beモデルの一つとして、三角形を書いているのだが、
 「あ、Go Heyさん...」
 「おじゃまでしたね。失礼しやした」
 奇しくも三角の一つを担う人物に来られてはデザインも何もあったものではない。お邪魔と言えばそうかも知れないが、尋ねたいことが多々あるので、逆に引き止めたい気もする。頭がこんがらがってくる事務局長殿である。

 冴えない顔で兄のところに戻って来た業平。そんな弟には目もくれず干潟に佇むある乙女を気に留める太平。潟辺(がたべ)の乙女はさすがにピピと来たようで、その発信源を見遣る。太平とではなく業平と目が合うと、忽ち笑顔に。作業にも力が入る。
 「桑川さんて、何かいいね」
 「彼女IT系だし、兄貴と気が合うかもね」
 「何だい、てっきり業(Go)氏にその気があんだと思ってたら」
 「いつまでも三角形って訳にはいかないだろうから...」
 「?」

 今や姉妹を凌ぐ勢いである。プラカゴにポイポイやってたら、あっさり満タン、いや満カゴになってしまった。
 「ハハ、Goさんに預けてこよっと」
 弥生のこの熱気が伝わったか、現地の気温は着々と上昇。お天気姉さんは毎度おなじみデジタル温度計を手にする。
 「十四℃? うへぇ」
 「って平年並み?」
 「並みじゃ済まないっしょ」
 すると、今度は熱を冷ますように、波が漂ってくる。その川下からの巡視船は、引き波を立てないように徐行していたのだが、波は波。ゆっくり大きくうねりが起こり、春の光を反射させながら水際に到達する。連続するうねりは、滑らかな曲線の集合体。流体と言ってもいいだろう。その躍動感に胸打たれ、一団はしばし手を止めて見送っている。消波する仕掛けがもしできてしまっていたら、自然が織り成すこうしたアートも鑑賞し得なくなるところ。

(参考情報→流体の躍動

 「大波、小波...」
 「私は南実」
 「いいねぇ、小松っぁん、その調子」
 「フフ、もっと仕込んでもらうんだったな。櫻姉さまの話芸」
 「え?」
 「さ、続き続き、下流側もご案内しましょうよ」
 初干潟のご一行を引き連れ、櫻と南実はメイン会場を後にする。道中、枯れヨシの蔭からガサゴソと音がするもんだから、思わず立ち竦むことになるが、
 「あ、これは皆さん、失敬」
 「須崎課長...」
 さっきから姿が見えなくなっていたと思ったら、こんなところに。野鳥がどこかしらで音を立てているのを察知したものの、ちっとも姿を見せないものだから、思い切って潜入を試みたんだとか。鳥にしてみりゃ迷惑この上ないが、
 「環境課ってのは、流域の生態を調べる仕事なんかもあるもんで。多分、モズかヒバリか、だと思うんだけど」
 「先生にお尋ねになれば早いんじゃ?」
 「いやいや師匠に知れたら怒られちゃうから。営巣シーズンだしね」
 「それじゃ、せいぜい親鳥に襲撃されないよう、お気を付けて」
 櫻と普通に会話できたことがちょっぴり嬉しい辰巳であった。上空ではいつしかヒバリが囀(さえず)り、春を告げている。いい声だが、どこか虚しく聴こえてしまうのがやるせない。

 「ヒバリ? もう春ですなぁ」
 「水も温(ぬる)んできたかしら」
 「そりゃ、触ってみねぇことには」
 監事殿と先生コンビ、三人寄れば春ラララ、という程のことはないが、季節の変化を少なからず楽しむご年配の三人である。入り江ができていた辺りを散策しつつ、崖の修復具合を検分したりしている。大方すっきりはしているが、
 「事務所の連中、どうせなら片付けてってくれりゃいいのにな」
 何となく袋片とかが置き去りになっているので、清の嘆きを招いてしまう。それでも至ってにこやか。今はヨシもなく更地な訳だが、時が経てばいずれ元気なのが自生してくるだろう。そんな期待の方がずっと上回っている。正しく「ヨシ、ヨシ」の図である。

 「ハハ、さすがにまだ冷たいワ」
 「玉野井さん、まさか本当に」
 「まぁ、こうして川に触れることができるからここはいいのよ。他んとこはこうはいかないわ」
 「って、そんなあちこち?」
 「去年も水の事故とか多かったでしょ。危なっかしいところを検証しながら、ね」
 「そうでしたか。それがあの作品に反映されてた訳ですな」
 事故には必ず原因がある。水難事故も然り。ミステリー小説ともなれば、何かあればその背景には大抵、人間系のトラブルなんかがつきものだが、自然の作用による偶発的なアクシデントだって設定として有り得なくはない。場所によっては、崖崩れあり、急な深みあり、足が抜けなくなる程の泥地あり、なのである。自然を甘く見ること勿(なか)れ、そんなメッセージを込めた中編は、ちょっとした話題作になった。
 「現場を熟知する人間だったら、地理的特性を逆手にとって、自然作用に見せかけた犯行も可能。でも、そこまで書いちゃうとね」
 「何だ何だ、またおかしなの書くおつもりかい、おたまさんよ」
 ふてくされながらも、即座に切り返す。おたま返しとはこのことか。
 「ハ、そりゃね、カモンさんが文中に出てきた日にゃ、おかしなのになっちゃうわ。でもあえて出てきてもらって、懲らしめるのも良さそうね。シシ」
 寿は客を迎える時の会釈以上に、頭を大きく下げて大笑い。三人して少しばかり片付けてはいるものの、これじゃどうにも思いやられる。

 撮影係 兼 大物運搬役をこなしていた千歳は、手にしていた流木をその場に置くと、そんな談笑中の三人を撮ってみる。題して「ある春の日の三人」。構図はともかくもタイトルはバッチリである。

 下流側干潟は、チーム榎戸が時々手を出していたこともあり、さほどの衝撃はなかったようだ。それでも、各種容器包装系が目立って散在していたため、スーパー関係各位は放っておけなかった。自店か他店か、とにかく用済みのレジ袋にそこそこの数をサンプル収集して戻ってきたではないか。櫻と南実も定石通り、放っておくとマズそうなのを中心に一袋分にまとめて持ってくる。開会から三十分、人々は再び一つ干潟に集まる。
 春の陽気のせいかはいざ知らず、動きがやや緩慢な常連組である。いつもなら粗方片付いている時分だが、まだいそいそと動いている。今日のところは、リーダーもコーディネーターもないが、現higata@メンバー十二人中、四分の三に当たる人数が散らばっているんだから、案ずるに及ぶまい。それぞれ自立的に動いているので、段取り無用なのである。
 プロセスには、過程の他に作用という意味もある。過程を経ながら作用し合うとでも言おうか、その二つがアセンブリ、つまり組み合わされてアクティブになる。そしてそんな各自のプロセスを互いに尊重しながら、かつ触発されながらの取り組みがここにある。これはメンバーも自覚するところなので、多くの言葉は要らない。商業施設からの視察チームも、物言わぬ彼等の姿勢から何かを学んでいるようだった。現物・現場・現実の三点に触れただけでも大きかったが、過程と作用を体現する人達を目の当たりにして思いは深まる。CSRに欠かせないのは、プロセスの収斂であり、無言なれど雄弁な斯様(かよう)な姿勢、ではないか、と。
 とは言っても、段取りが良すぎるのも面白くない。程々に緩やかな感じがあってもいいだろう。そういう意味でも、今日の九人は打ってつけ。適度にスピードバランスが取れている。

 大物を担当していた千歳だったが、どうにも始末が悪いのが残ってしまい、硬直している。多少体をほぐしておいたから良かったようなもので、でなければ筋(きん)だか腱(けん)だかをおかしくして、真に固まってしまうところだった。
 「どしたい、千ちゃん。ルフロンさんみたいに、流木アートでもやる気?」
 「流れてくるのは簡単なのに、その逆をやろうとするとどうしてこうも動かないかねぇってさ」
 見てるとヒヤヒヤさせられるが、二人力(ににんりき)なら何とかなるもの。とりあえず反転させることには成功した。
 「何か紙切れみたいのが下敷きになってるから...」
 「まさか、譜面だったとはね」
 セッションではこの方、譜面を使ってということがない。ソングエンジニアの二人にとってもあまりご縁がない代物ではある。ただ、河川利用者の中には、このように楽譜を使う人もいる。残念ながら川風を凌げるような譜面台を使わない限りは、こんな風に飛ばされて漂着&下敷きになってしまう訳だが...。
 この人の場合、河川敷でサックスを吹くことはあっても、譜面を吹き飛ばすということはない。南実は何かを探知したらしく、その巨大流木の根元を見分し始めた。
 「まぁ、川辺で楽器の練習するんなら暗譜してからじゃないと、ね」
 とか言いながら、その薄汚れた紙切れをバサバサ。今となっては蒐集(しゅうしゅう)するには及ばないのだが、
 「記念にね、微細片、頂戴しますね」
 「記念?」
 男二人が首を傾げる間、ペレットなぞをさっさと小袋に詰めていく研究員であった。

 楽譜も十分に珍品だが、ポット、ジャー、ゲーム機というのも珍しい。しかし、こうも立て続けに見つかると、冗談のように思えてくる。お楽しみの最中、いや、そこら辺に置いてちょいと場を離れたら、不慮の波が来て持って行かれてしまった、そんなところか。
 陸揚げされ、選別する中で見出された品々を眺めつつ、higata@メンバーの何人かが推理を交わし合っていると、いいタイミングで探偵さんが首を突っ込んでくる。
 「事件性ありそうだけど、この件は犯人探しよりも、原因究明が先ネ。流されちゃったとしても、じゃなぜ放ったらかしだったのか。離れなきゃいけない事情があったとしたら、それは? なぜを繰り返してくと見えてくるもんよ」
 「想像力を働かせるってことですよね。ゴミ減らし対策にもそれはつながる...」
 蒼葉はそう言いつつも、考えあぐねている。弥生はズバっと解を述べたかったが、
 「じゃ、緑さんはどう推理なさるんで?」
 実は探偵さん、これといった御説は持ち合わせていなかった。
 「ホホ、それを言っちゃうとね、新作、そのぉゴミステリーのね、ネタが...」
 作家ご自身が十分にミステリアスなのであった。

(参考情報→ネタにするしかない珍品漂着物

 石島姉妹は、まだ巨木の根元にいて、残り物を物色中。こういう時には福があるものだが、なお下敷きになっていたのは、
 「な、何で、上流事務所のゴミ袋?」
 福ならぬ袋である。
 「親父に報告だ」
 長女はしめしめ。親父さんにとってはとんだ御難となる。キャッチコピーとか事務所名なんかがプリントしてある点は、責任の所在を明確にする上では有効。むしろ評価されていいだろう。だが、ゴミ収集用の袋がゴミになってしまってはいけない。これまた立派なミステリーネタなので、じっくり推理を働かせたいところだが、姉妹は違う行動に出る。初音は取り急ぎケータイで撮影。その後、小梅は丁寧に折り畳んで、別の袋に収納。皆々に紹介してもよかったのだが、ひとまず我が父の面子を優先した訳である。
 「これって隠蔽?」
 「今のところはね。でも、higata@にはそのうち流すつもり。親父のコメント付きでね」
 この場合、コメントというよりは釈明になりそうである。推理するまでもない、ということになる。
 清は、寿、辰巳、太平を率いて現地案内中、文花と櫻はご一行様の接客中、南実は粒々中、かと思いきや、今日は珍しく巡回中である。「次は四月六日、かぁ...」 どこか憂いを含んだ感じがするのは気のせいか。だが、その一言は誰の耳にも届かない。聴こえるのはただ、波が小さく寄せて返す音だけ。

昼下がり

67. 昼下がり


 推理と分別を終えた品々が横たわっている。二十五人が囲むにはスペース的に狭いが、ともかく全員注視できる状態で、いつものカウントを始めることにした。だが、この際、そしてこの人数である。全員総出で数え上げてもらうのがよかろうとなり、予め選り分けられた主だったゴミごとに、五人一組のチームがつく。モバイルDUOは、弥生を筆頭に、蒼葉、初音、南実、業平が受け持ち、各チームに配置される。数えるのに手間がかかるのは後回し。概ね傾向がわかればいい。五人の集計係からの申告ベースでざっとまとめてみたところ、今回は次のような結果となった。(下流側は除く)

 ワースト1(1):ペットボトル/五十二、ワースト2(2):プラスチックの袋・破片/四十五、ワースト3(3):食品の包装・容器類/三十一、ワースト4(5):タバコの吸殻・フィルター/二十四、ワースト5(-):紙片/二十一(*カッコ内は、一月の回の順位)

(参考情報→2008.3.2の漂着ゴミ

 二月の回は公式記録ではない(?)ので、一月実施分との比較になるが、上位三品目は同じ顔ぶれとなった。上位には出てこなかったが、フタ・キャップは相変わらず。発泡スチロール破片が少なめだったのはまあよしとしても、レジ袋、プラスチック製のカップ、ガラスビン、履物、ボールなどと同じく十個台。ベルト、バッグ、ポーチといった雑貨類も数点、筆記具やストラップバンドも目立った。南実は、いわゆる事業者の各位に対し、推理を織り交ぜながらも、抑制策を説いている。因果関係を明確にするのも大事だが、この現実を前にしたら、もっと先へとならざるを得ない。
 「こうなるともう誰が捨てたか、じゃ済まないんですよ。売り方を含めた問題になってくる訳です。容器包装に対する企業責任を果たす、そのために何ができるか、どう防ぐか、ですよね」
 直球で言葉を投げ込んでくる感じ。いつになく強めなのは何らかの理由がありそうだ。その強弱はともかく、こうして調べることの意義はしかと伝わった筈。と、ここまで来れば、あとは臨場感か。現場に出てこられなくても、現物に接することができなくても、現実を伝えられれば、心動かされるものもある。即ち、調査結果を手早く共有することが不可欠。
 そう、そのためにこれがある。
 「という訳で、このモバイルDUOを使えば、データカードがなくても大丈夫。いつでもどこでも調査可能です。予め送信先のアドレスを登録してもらえれば、そこにピピっと届きますんで。あと、公開モードにセットすればPC版DUOの新着情報に集計結果の一部が自動反映されます。今日の分も多分...」
 弥生流ソリューション、ここにあり、か。今日のように同じ場所で五チーム=五件のデータが流れるというのは過剰演出のように見られる可能性もあるが、調査型クリーンアップがしっかり取り組まれていることを示す上では好材料である。いずれは、DUOの登録者数をどこかに表示するとともに、発信された調査結果をリアルタイムで自動集計して出す、さらにはエリアごと、月別など、ゴミの散乱・漂着実態を統計的に追えるような仕掛けも考えているんだそうな。
 月女でもあるので、本日のまとめはこのまま弥生にお任せ。拍手、礼、解散となった時点で十五時近く。潮位も下がれば気温も下がる、そんな昼下がりである。

 記念撮影組以外の何人かで袋を集約する。出来上がった袋からステッカーを貼っていくのは石島姉妹。妹の方は手際よくペタペタ。だが、姉の方はそうでもない。今からちょうど半年前、これを持って来た時のことを初音はふと思い出し、感慨に耽っている。
 「お姉ちゃん、それって不燃じゃ?」
 「いけね、貼り直し...」
 可燃の一枚を手に、貼る先を探す初音。だが、可燃は不可燃に比べて、もともと少なめ。ステッカーを貼る袋がもうない。
 「何か、プラだけじゃなくて、ゴムとか革とかも燃えるにしちゃうとこがあるって聞くけど」
 「分ける意味なくなっちゃうね、それじゃ」
 皮革製品、運動靴、ビデオテープ、配管被覆なんかが紛れている袋を見て、これに可燃を貼るのはさすがに...と、ためらう姉妹。一枚の可燃ステッカーは結局、台紙に戻り、次の機会を待つことになった。

 商業施設関係各位も記念撮影を終え、会場を後にする。が、ただ帰るだけでは面白味がないので、詰所のとこまでは袋を運んでもらうおまけつき。再資源化系もついでに、と行きたかったが、乾ききるまで待ってもらうのは忍びない。ペットボトル、食品トレイ、プラ容器包装は、恒例に従い、本多弟が担当。今日は兄が加わり二人体制である。漱ぎ終わったところに、弥生が近づいて来る。
 「Goさん、今日はピカピカとかやんないの?」
 「ピカピカ? あぁ、スキャナのことか。一式持ってくんの大変だし、ここにあるのを持ち帰って自社でやれば済むことだから、いっかなって」
 「春の新作、てゆーか新発明とかもなし?」
 「弥生クンがDUOの説明してる時にさ、兄貴とネット起業の話、してたんだ。で、ネット?で閃いた」
 「はぁ」
 「リセット直後に、ネットというか、網状のカーペットみたいなのを敷いとく訳さ。粒々はダメかも知んないけど、その網をこうダーッと引き揚げりゃ、いっぺんに回収できるじゃん、って。つまり一網打尽...」
 業平らしい発想ではあるが、果たしてそんなにうまくいくものか。
 「なーんか、あんまし面白くないかも。それよりあんな流木来たらおしまいじゃん」
 「そ、それもそだね。トホホ」
 しょげてはいるが、にこやかではある。もっとツッコミが来ても良さそうだったが、今の弥生は抑えが利いていて、唇を尖がらせることもない。微笑み交わす二人がいる。

 一応笑顔ではあるのだが、笑みの質が異なる二人がいる。ここは某ランチ店。初音不在シフトで、カフェめし店の代わりに八広と舞恵が時々来ていた一軒だが、よりによってクリーンアップ日に遅いランチ? いや、何やら訳アリのご様子である。
 「よかったね、八クン」
 「まさかこういう展開になるとは... 本当にいいんスか?」
 大事な話があって、来店していた二人。目の前には一服するか否かで迷っている業界人、今日のところは採用担当者、そんな人物が居る。
 「これもご縁ですから。ただね、隅田さんにはまだちゃんと話してないんだ。僕から話してもいいんだけど、どうかな?」
 「舞恵の出る幕でもなさそうだし...」
 「そこはやっぱ自分で。って言っても、少しは手伝えると思うんですが。甘いスかね?」
 「そりゃやってできなくはないと思うけど、年俸制で契約ってことになれば、そうそうね。あとはイイカンケイの運営委員も続けるんだとしたら... ご自身の持続可能性との相談、じゃないかな」
 「そう、スね」
 晴れて社員となると、違った意味で悩みも出てくる。当面は様子を見ながら、ということになるだろうか。
 「じゃちょっと話を変えて、と。六日のステージだけど、お二人は定位置でいい?ですよね」
 「舞恵は少々動き回ると思うんで多少広めで」
 「自分はその分、狭くしてもらってOKス」
 リズムセクションの位置が決まれば、あとは鍵盤関係とマニピュレーターをどう配置するか、である。情報誌の方が落ち着いてきたので、今は中途採用だったり、ライブイベントだったり。冬木なりの段取りが組まれ、進行していく。年度の変わり目、俄然動きが良くなって来た。

 充電式掃除機など、開発したい実機はいくつかあったが、舞恵から頂戴した融資話は、人件費見合い。そこへ、これといった就活をしなかった反面、余念なくスキルアップを続け、現場ニーズにも着々と応え、何だかんだですっかり自立志向を高めていた弥生が乗った。今回の社会的起業=地域課題解決向け融資は、そんな見習い起業家にとって渡りに舟の格好。運も実力も、で来た訳だが、ここはきちんと二人の代表に挨拶しておかなければ。
 「改めまして、Goさん、それから太平さん、履歴書持ってちゃんと面接にも行きますけど、まずはよろしくお願いしますね」
 「まだ融資、実行されてないけど」
 「四月になったらとにかく押しかけます」
 黙々と乾燥作業に勤しんでいた兄君だったが、これを聞いて、
 「へへ、大歓迎」
 春の日が三人を照らす。洗い上がったプラ包装類が妙にピカピカしている。これにスキャナを当てたら乱反射しそう...。

 乱反射でなければ、乱気流か。詰所の辺りで客を見送った後、三人の様子を見て、たまらず駆け込んできた文花である。本多兄弟を独り占めさせる訳には行かない。
 「ど、どしたんすか? おふみさん」
 すっかり余裕の弥生に対して、
 「いえ、何か光ってるからね、何だろうって思って」
 「フーン」
 兄弟は、ちょっとドキドキしながら、それぞれに想いを寄せる女性を見守る。対応を誤ると、ちょっとしたドタバタ劇になりそうだが、ここはあくまで干潟端。干潟というのはよくできたもので、時々の感情もうまく浄化してくれるものである。文花は呼吸を整えると、兄の方に話しかけながら、二人きりで会話できる状況に持ち込んでみる。
 「今更こんなこと尋ねるのも何ですが、今日はどうしてこちらに?」
 見上げる質問者に対し、回答者は見下ろすような感じになる。従って答えは上から降ってくるような状態。ポツリポツリというのがピッタリ来る。
 「実は業平に唆(そそのか)されまして。出会い系とか何とか、あ、いえね、社員候補が来るから、会っておけって、それで...」
 舞い上がっていたらしく、つい本音も出るが、決して間違ってはいない。
 「出会い系、ですか。ま、確かにそうですね。業平さんともここで会ったし、今日は太平さん。で、その社員さんはどうでしたか?」
 先行カップルが羨ましく思えてきた今日この頃。文花も随分と積極的になったもので、こんな問いも軽くこなせるようになっている。敏感な男性ならここで、その質問対象者よりも、今ここにいる女性の方を持ち上げるなりしそうなものだが。
 「えぇ、イイですね。来た甲斐がありました」
 やけに素直なご返答だったもんだから、質問者がずっこけたのは言うに及ばず。「わ、私は?」とはさすがに訊けない。とんだ問いかけをしてしまったものである。
 「なぁんだ、弥生嬢の一人勝ち? ムム」
 何の何の、太平→弥生かも知れないが、当の弥生は、業平一筋である。幸い、業平→弥生の線が弱まっているので、矢印がどこかで途切れることはない。追っかけっこのようになっているので、円形になぞらえることもできるが、円満とは言うのは憚られる。三角形が複合化して、四角形に対角線を引いたような形になったと言えばいいだろう。
 本日ほんの数時間でとんだ図形が出来上がってしまった。四者全員理系ながら、こうした幾何の解き方はご存じなかったりする。しばらくは平行四辺形なり等脚台形なり、互いに距離を押したり引いたり、が続くことになりそうだ。

 そんな四辺形を横目に、南実は先生との語らいを楽しんでいる。すでにメールのやりとりは回を重ねていたが、生の対話に勝るものはない。
 「こまっつぁんのさ、粒々レポートも引用させてもらうつもりなんだけどさ、ペレットに関して云えば、その工場とか倉庫とかにまで踏み込まないと、つまり現場を押さえないと、インパクト不足ってことだよな」
 「えぇ、でも最近は工業会の自主規制が進んできたので、露骨には出なくなったようです。ここに流れ着くのは、それこそもっと遡ったところか、運搬途中でこぼれて側溝や下水を通ってきたものか、まぁペレットのまま使われるケースもありますしね。特定しきれないから、悩ましくもあり、逆に研究のし甲斐もあり、ってことなんですが」

(参考情報→レジンペレットはどこから?

 予防策重視の論点を盛り込んだことで、論文は上々の出来に仕上がった。だが、フィールドでの研究にはなお詰めきれていない点が残る。頼りになるのはやはりhigata@か。ここに先生にも加わってもらえれば、さらなる調査も、より深みのある考察も、と思う。
 「ま、もうちょっと慣れてからだな。そのシガタアットマークに入れてもらうのは」
 センターのメーリングリストを捌くのに苦労を強いられている折りである。今のところは正にしがたない(?)のであった。

 メンバーがなかなか解散しないので、石島姉妹も戻って来た。業を煮やして、とかではない。戻って来たなりの理由がある。硬球を模したゴムボール、一mほどの塩ビパイプをそれぞれ手にしているところから、何らかの余興を思いついたようである。いずれも拾いたて、かつ洗い立てというところが憎い。初音はまずピッチャーを指名する。キャッチャーには妹、守備は暇そうな男性諸氏に適当についてもらった。
 話には聞いていたので、どこかで対戦したいと思っていた。球春とはよく言ったもの、この佳き季節に夢の対決が実現することになったのである。豪腕であっても、軟球では速球は繰り出せまい、というのが初音の読み。対する南実は球に違和感を覚えつつも投げる気は満々。ご指名とあらば応えない訳には行かない。
 ご年配各位も注視する中、第一球。小梅は逃げ出してしまったが、この際、キャッチャーは無用。初音はその細くて軽い一本を完璧に振り抜く。次の瞬間、見事に大飛球が舞った。
 「ま、まさかあんなに...」
 遅めの球だったので、打ち返されるのは必至だが、それにしてもよく飛ぶこと。母親譲りの運動能力もさることながら、準備運動&クリーンアップエクササイズの方も奏功したようだ。
 「あぁ、スッキリしたぁ。南実さん、ありがとっ!」
 いろんな想いを乗せた打球は下流側干潟の先を目指し、やがて見えなくなった。

 「ところで初姉、パンケーキって、大丈夫なの?」
 思い出したように櫻が問いかける。
 「えぇ、今日は一応、お休みってことにしてあるんで。でも、この後、皆さんいらっしゃるようなら、またサービスさせていただきますよ」
 以前のようにそそくさと去ることもない。どこかのお兄さんの影響か、いい意味でスローな感じになっている。
 かくして、電動アシスト車には文花が乗り、持ち主の南実は小走りモード。辰巳はサイクリングを諦め、清、緑とともに回り道しながら商業施設方面へ。本多兄弟は勿論、同施設へ直行。入船氏は興味津々で兄弟に付いていくことになった。弥生もそれに続くかに見えたが、蒼葉に引き止められて断念。デザートに勝るものなし、か。カフェめし店には、石島姉妹を先頭に計六人の女性が向かうことになる。
 残るはお二人さんである。
 「うん、あとでね。千歳さんとちょっと話があって」
 「あらあら、相変わらずラブラブなことで」
 弥生はとりあえずツッコミを入れるも至って嬉しそう。蒼葉は再びサングラスを着用し、涼しい顔で手を振る。
 「À plus tard.」
 「A bientôt.」

(参考情報→続・フランス語 小会話

 河原桜の木の下で、ちょっとイイ時間が流れる。
 「明日、ひな祭りなんだよね」
 「そうね。奇数が並ぶ日でもあるけど」
 去年の七夕に始まるこのシリーズ、3.3 でめでたく五回目を迎える。何となく予定は立ててはあるが、その前日に何もない、ということもあるまい。
 「櫻さんにこれを渡そうと思って...」
 タネも仕掛けも簡易包装もない。装飾としては某銀行のケータイストラップをくっつけた程度。一本のディンプルキーである。
 「何よ千歳さん、どっか出張とか? 留守番しろってか」
 思わぬ反応にたじろぐ千歳。慣れない加速はするもんじゃない。
 「あ、いや、妹さんにダメ出しされる前に、と思って」
 「蒼葉対策? 何だかなぁ。でも...」
 ストラップを懐かしそうに見つめながら、彼女は続ける。
 「すっごくうれしい。ありがたくお預かり、します」
 さて、世の中にはホワイトデーというものが存在するが、白にちなんだ日は別にある。
 「十四日はね、無理していただかなくて構いません。その分、誕生日にまとめてもらえばOK。ホワイトも白もおんなじ」
 「あぁ、そうか、白ね」
 「今日は櫻さんお決まりのいいもの出せなかったけど、代わりに今いいものもらったことだし。とにかく来月六日に、ネ?」
 マスク越しだと、失礼な感じもするが、この時間帯に外すと、それこそ花粉の思うツボ。己の症状にはこの通り敏感な千歳だが、恋人の気持ちにも敏感になったようである。
さ「ところで、アイカギのアイって?」
ち「loveだと思う」
 彼が押す自転車の前カゴには、収集品であるビンと缶が少々。音に敏感(ビンカン)であれば、何を運んでいるかすぐにわかる、そんな運び方。だが、今、その音は鳴り止んでいる。 彼女の手には誰かさんのマスクが引っかかっている。

色とりどり

ふたたび、三月の巻(おまけ)

68. 色とりどり


 晴天が続くのはいいとしても、スギ花粉も勢いを増すとあっては、喜んではいられない。合鍵効果もあって、櫻とはすっかり仲睦まじく過ごしているものの、今ひとつ冴えない千歳である。今日もマスク着用でのご出勤。午後はマップ講座が控えているが、あいにく実地には出られそうもない。
ふ「私も同行させてもらうわね」
さ「じゃ、千歳さんはお留守番」
ち「おとなしく、KanNaのメンテでもしてます(トホホ)
 講座のスタートは十四時。先月の情報誌に櫻の写真が載ったのが利いたのかどうなのか、いつになく男性客がそこそこ増えているのが引っかかる。男女半々にして、会場はほぼ満席。年齢層のバランスも悪くない。文花は上機嫌である。
 「定刻になりましたが、ゲスト講師の到着が遅れてまして。先に白地図配りますね」
 センターを中心とした周辺地図が厚手の紙に刷ってある。アシスタント的に入っていた蒼葉、そして受付にいた舞恵が配る係を買って出る。清も開講前に来ていたが、今は受付にポツン。千歳はカウンターで待機中。
 「矢ノ倉、ゴメン。あ、皆さん、スミマセン」
 目にも鮮やかなオレンジのドレスコートを身にまとい、その女性は現われた。
 「って、どしたの?その衣装」
 「あ、それはまた、あとで」
 人前に出るってんで、おめかしして来た堀之内先生である。衣装選びに手間取ったとは言え、講師が遅れて来ては示しがつかない。だが、
 「えっと、堀之内と申します。皆さんのお手元に、あ、配られたとこですね。今のところは見ての通り、何色でもないンですが、これがどんな色に変わっていくか、それが今日の見どころです」
 さすがは現役教諭、ツカミを心得ている。男性客に気を良くしたというのも手伝ったようで、その後の挨拶も極めて闊達。遅刻を帳消しにして余りある。たちどころに聴衆を惹き込んでしまった。
 先生にくっついて来たか、引率して来たかはさておき、小梅と六月も姿を見せる。千歳には軽く会釈しただけで、そそくさと会場後方へ。この二人は惹き込まれて云々ではなく、単に恩師の一挙一動が気になって仕方ない、ということのようだ。
 得意の出だしを持って行かれてしまった格好になった櫻だが、講座の趣旨説明というお役目があるので、流れとしてはこれで良かったかも知れない。千歳と一緒に作り込んできたプレゼン資料に沿って、グリーン(またはブルー)マップの意義、これまでのトライアル状況、そして、
 「あくまでご自身で地域を見つめ直していただくための道具みたいなものです。ちょっとした発見が一つでもあれば十分、と思います。今日はひとつお気楽に...」
 心構えが述べられる。だが、少しはヒントというか視点がないことには漠然としてしまうので、
 「で、堀之内先生、そのご衣装、もしかしてテーマカラー?ですよね」
 つまり、安全面や防犯面に着目する場合は、オレンジ。環境面や地誌面ということならグリーン。そんな色分けが設定されていたのである。ゲスト講師として永代をお招きしたのは他でもない。文花お得意の手回しである。
 オレンジはOKなのだが、グリーン関係者がまだお見えになっていない。清が受付に残っているのは、然るべき理由があった。
 「あら、櫻ちゃんの話、終わっちゃった?」
 「何だ、招かれざる客人が来たぜ」
 「アンタ、Come onさんでしょ。来いって言うから来たんじゃない」
 おなじみグリーンのトレンチコート。探偵さんの御成りである。
 「いえね、課長殿とつい長話しちゃって、その... あら、いない?」
 師匠が受付で張っているもんだから恐縮している。辰巳はセンター出入口でコソコソしていたが、緑に見つかり万事休す。清も少々曇り顔である。
 「たく、また縁談でも持ちかけようってか」

 オレンジマップの解説が終わろうとしている時、グリーンの人が入って来たもんだから、参加者は一様に目をパチクリ。オレンジの印象が強かったが、このグリーンも負けず劣らず、である。チーム分けする上で、こんなにやりやすいこともないのだが、見た目の色に引きずられてしまうというのもどうかと思う。ちなみにグリーン担当の櫻は、紺系のスタンドカラーコートを羽織るところ。ブルーとは言い得ないかも知れないが、この色も十分着目に値する。オレンジか、グリーンか、はたまたブルーか... 講座名こそグリーンマップだが、描く人によっては正に色とりどりのマップになり得る。三人の女性の外套色は、そんな多彩かつ多様なマップの側面を実は暗示していたのである。
 蒼葉はブルー、もといグリーンチームへ。清、緑、舞恵も続く。櫻も含め、年長のお姉様方に惹かれる部分もなくはなかったが、彼にもう迷いはない。六月は小梅と同じ、オレンジチームに加わった。
 いつもと違って、引率するのが子ども達ばかりではないため、多少のやりにくさもある。頼りにしていいのかどうかが微妙ではあるが、旧知の若い二人が同行することになったため、今は平常心を保っている永代である。
 コースの確認が済むや否や、早速、引率者の足を引っ張るは別の旧知の一人。
 「前から気になってたんだけど、須崎さんとおひささんて、ただの知り合い? それとも...」
 「やぁね、矢ノ倉ったら。その質問のためについて来たの?」
 辰巳は、何でもない鋪石にいきなり足を取られてしまう。
 「足元注意、と」
 マップにチェックするフリして苦笑い。俄か三角形のような様相になっているが、いい歳してどうこうやるでもない。この際、隠し事はなし、である。
 「まさか、ご両人がそんな間柄だったとはねぇ」
 「小柄な女性はつい長身男性に惹かれちゃうから。若かった、ってことかしらン?」
 「でも、今のダンナさん通して知り合ったんでしょ? 何か順番おかしくない?」
 「ま、世の中、いろんな三角形があるから、ね?」
 今度は正真正銘、歩道に妙な凹みがあって、転倒しかける長身の君。永代は何事もなかったように喚起する。
 「はいはい、皆さん、こういうとこ、要チェックですからね!」
 十数人の一団は、思い思いに印を付け出した。辰巳は半ば呆然としつつも、立ち位置をキープする。目印としては格好の人物。転びかけてもただでは...の図である。

 拉(ひし)げたガードレール、電柱に無造作に括られたステ広告、意味不明な落書き... 街中には負の側面が多々散らばる。だが、しかと目を向ければ好ましい要素も見つかる。注意を促すばかりがオレンジの役割ではない。心温まる色彩でもあるのだ。
 「先生、ここの舗装...」
 「また随分とシブイオレンジ色ねぇ」
 「古タイヤを砕いたのが入ってんだって」
 ちょっとした案内板を見つけると、六月は早速伝達する。
 「それはまたよくできたことで。てことは、足に負担がかからないってか」
 「でも、これって何使って塗装したんだろ?」
 「天然のオレンジじゃないよね」
 クッション性という点で人に優しく、廃材リサイクルという点で環境配慮に適う。だが、塗料は? 有機溶剤を使わないといった対応は可能だが、そこまで万全を尽くすのは難しいだろう。永代は自分のコートの色と見比べながら、ちょっと後ろめたい気分になる。我が教え子ながら、環境感度がこうも高いとやはりやりにくい。

(参考情報→再生材舗装

 小梅は持ち合わせのパステルで、地図上の該当部分を塗装してみるが、どうもピンと来ていない様子。色もしっくり来ないが、この弾力をどう表現したものかと思案していたのである。そんな姉御を見て弟分が動かない筈がない。
 廃材の宿命だろうか。接着不十分なのが都合よく転がっていた。その渋橙の一片を手に取ると、
 「これ、こすりつけてみたら?」
 「そう来たか。ま、あとで貼り付けてもいいかな」
 イラストレーターの地図は、すでに賑やかなことになっていたが、素材をそのまま援用するとなれば立体感が加味されよう。
 「観察、描写、でもってあの発想かぁ。総合の時間にお招きしちゃおっかな」
 小梅が母校の教壇に立つ日はそう遠い話ではなさそうである。

 メモを取ったり、ケータイで撮影したり、他の参加者もそれ相応のことをしているが、目に付くのはセンターオリジナルのアイコンシールを貼る動作。!とか?とかここまで本意でないシールの出番が多かったが、この若い二人のやりとりを見て、スマイルマークを貼る人がチラホラ出てきた。感情表現ツールとしての有用性、ここに在り。永代はちょっと目をこすりつつ、
 「smilefulぅ... て、そんな単語ないか」
 花粉がどうとかではない。単にウルウルしてきただけ...。

 環境課のご所属ゆえ、今は仕事として地域環境をチェックしている辰巳である。高い目線を使うだけでなく、足元にも目を配っていて、実にマメマメしい。氏の注意がそっちに行っているのを確かめると、永代はおもむろに、
 「で、矢ノ倉は? お相手ってどうなったン?」
 旧友ともなればパターンは読めている。文花は軽く、
 「お相手って、何のさ?」
 と往なしてみる。
 「ある人から聞いたわよ。トボけてもムダ」
 「おかしいな。情報錯綜させてたつもりなんだけど、バレちゃった?」
 独特の駆け引きを展開する二人。マップも何もあったものではないが、段差や凹凸にはちゃんと反応している。器用なもんである。
 「せいぜい見習わなくちゃ。街歩きの極意というか危機管理能力というか」
 辰巳の地図は文字で埋まっていたが、察するに余禄というか、はみだしメモの比率が多くなっているようである。

 一方、グリーンの方は想定通り、探偵さんが大活躍していた。花粉が飛んでようが何のその。一見変装用ともとれるそのマスク姿も一興ながら、良いも悪いも何でも題材に仕立ててしまうもんだから、参加者を飽きさせないのである。
 「ようござんすか? 悪さする連中は死角がお好き。言っとくけど三角じゃないわよ。でもってお子さんたちも人目が付かないところが大好き。とここで良からぬ接点ができちゃう」
 脈絡がよくわからないが、ここで取り出したるは虫眼鏡。
 「そこで重要になるのが、地域住民の目。別にこれ使ってジロジロやんなくてもいいけど、皆が視てるってのをふだんから定着させるってことよね」
 佇まいとしては悪くない裏路地に行き着いた。角地の家屋に人気はない。周囲の目が届きにくい好例である。
 「ちょうど目玉のシールがあるわね。じゃこれを...」
 櫻はシール同様に目を見開くと、
 「おば様、それは[すばらしいながめ]ですってば」
 「あら、要監視じゃなくて?」
 シールは使いよう、ではあるのだが、グリーンマップ的にはちと困る。どっちかと言うとオレンジマップ的アプローチ。
 「まぁ、古い民家がお好きな方にとっては、絶景かも知れませんから」
 いつもの機転を利かせる櫻。ひとまずOKということになった。
 アイコンシールの使い方を紹介しつつ、マップ初体験者にガイダンスする櫻。こっちが入門編だとすると、緑は応用編といったところか。
 「おじさんも面白いけど、おば様も愉快ネ。他にもお道具あるんでしょ?」
 「あとはこれ」
 「双眼鏡?」
 「オペラグラス。探偵さんはこれで十分。遠くも近くも、とにかく視点を駆使して観察・監視...」
 「あと、感受もな」
 三カンを唱えるは勿論この人、清である。
 「で、環境の環と」
 「関係の関で」
 「わかった、カンカンカンカンカン♪」
 何せ叩いて鳴らすのがこのお姉さんの領分である。感性にピタっと来たらしく、五カンを見事音にしてみせた。
 「監事さんから聞いてたけど、奥様も面白いこと」

 カンつながりか、カントウタンポポが路傍で見つかる。
 「おたまさん、虫眼鏡」
 「ハイハイ、また道草でございますか」
 清は機に乗じて、在来種探しをしていたが、折りよくいいのを見つけてニヤリ。アスファルトの隙間から生え出るそのタンポポの鑑定を試みる。
 「いやぁ、やっぱ地モノは根性あるわ。間違いない」
 摘んで漬(ひた)して、という選択肢もあったが、ここはそっと見守ることに。櫻は[固有植物]系統のシールを貼り、さらにスマイルを書き足した。
 蒼葉は付かず離れずでキョロキョロ。春の画材を探していただけなのだが、ちょっと挙動が怪しい。
 「ちょいとそこの美人さん、お探し物ですかい?」
 「あ、ルフロン。ねぇ、何かイイ素材ってない?」
 「絵描きさんがそんな。公園とかじゃつまらんてか」
 「住み慣れた町だから、どれ見ても何かインパクトなくてね」
 「インパクト的には、蒼葉ちゃんの動きが一番かも。さっきから目立つ目立つ」
 「干潟同様、自称うろつく女ですから」
 「それじゃ不審者とニアリーじゃん。お巡りさんから尋問されても知らんぞい」
 「魔女さんも十分アヤシイと思うけど」
 話がとりとめなくなっているが、地域においては目と並んで口も物を言う。怪しい人物を見かけたらとにかく声かけするに限る。これも応用編のうち、だろう。緑に言わせると、
 「グリーン防犯とでも呼んでもらいましょうか。ゴミのポイ捨て予防にもつながるかも知れないし」
 おば様はこの通り上々だが、あおば様の方は結局どうだったんだろう?

 「あーぁ、千歳さん大丈夫かな?」
 「やっぱケータイ要るんじゃない? お姉さま」
 「フフ、私の思いは電磁波だか電磁界より強いんだから」
 「そりゃ結構なことで。でも二人で春のお散歩ができないってのはお気の毒ネ」
 センターでは、屋内でもぬかりなくマスクな男が留守番中。花粉の侵入についてもしっかりReduce(予防・抑止)を図っている訳だが、さすがにウワサ云々は防ぎようがない。
 クシャミがこだまするセンター午後四時である。

 地図も行動半径も同じだったが、両チームが接触することはなかった。一時間半に亘る探訪・調査を終えた一行は、帰還時刻になって漸く再会を果たす。
 「皆さん、おつかれ様でした。ではチームごとにふりかえりなどお願いします。あ、先にコピー、取らせてください」
 ひととおりの情報共有が済んだら、成果発表!と行きたいところだが、何せこの人数である。一人一人のオススメスポットなどを披露してもらうには時間が足りない。とりあえず優先すべきは一つのマップに集約すること。言うなれば、オレンジとグリーンの融合である。
 「そっか、くっつけると人にも環境にも、ってなるんだぁ」
 「ねぇ、六月クン、グリーン+オレンジって言えばさ」
 「ハハ、湘南電車かいな」
 「え? 湘南新宿ラインじゃなくて?」
 湘南マップと命名してもよさそうだが、車両と違って色鮮やかな訳ではない。グリーンマップのグリーン=よりどりみどり、と捉えるのが順当だろう。そして両者に共通して言えるのは、あくまでAs-Isレベルである、ということ。
 「現状認識は深めていただけたと思います。本来ならさらに『どうしたらもっと良くなるか』といった理想像のようなものも描いていきたいところなんですが、それはまたの機会に譲ります。今日のところはそうですね。残りの時間でもう一度、全体のおさらいなどを」
 参加者アンケートも配られ始め、お開きの時間が近づく。もっとゆったりと、例えば大白地図に付箋を貼って議論し合うというのがあれば、共有・融合ももっとやりやすかったのではないか... 櫻は違った意味でふりかえりをしている。
 だが、行事主催の責任者はその辺をしっかり見越していた。本日のまとめは、清でも緑でも永代でもない。文花である。
 「地域との関わりに気付く、関わりを築く、その一助になれば、というのが今回の趣旨でございました。この『気付く』と『築く』は、環境教育などで使われる言い回しですが、環境に限ったことではありません。お一人お一人が日常生活の中で認識してもらうだけでいい、もしかするといいことあるかも、ってそんなキーワードだと思います。で、当センターとしてもですね、その『築く』のために、皆さんに描いていただいたマップをとにかくまとめてみようと思ってます。せっかくなのでオレンジとグリーン共通のチェックポイントには、QRコードを付けて、何らかの情報を入手できるように、あとはですね...」
 ホワイトボードに走り書きしながら、現役教諭のような仕切りを見せる。これといったプレゼンツールはないものの、聴衆は釘付け。
 「白地図も各種そろえてダウンロードできるようにしますけど、環境情報センターらしい仕掛けをちょっと」
 これには、櫻も千歳もビックリ。
 「投稿型共同制作マップ?!」
 文花は再びボードにサラサラ。
 「覚えやすいように、ITグリーンマップとしておきましょう。インターネットをお使いの方はぜひこちらで今日の続きなどを」

(参考情報→地図+QRコード

 地元企業など、スポンサー情報と連携させれば起業ネタ。あの兄君、実はこういうのがお得意だった。とりあえずはスポンサー抜きのベータ版だが、基本的な機能は同じ。ログイン後、マップを読み出し、ピンポイントでコメントや画像を入れることができる。
 地域がいきいきするなら、それは流域ベンチャーの望むところでもある。試供品扱いにて無償で暫定リリースしてくれたんだとか。
ち「そっか、本多兄にね」
さ「い、いつの間に?」
 永代が考えていたのとまた違う人物が今は文花の意中。移り気と言えばそれまでだが、両者にとっての実益を考えているところが只ならない。それにしても出会ってから一週間も経たないうちによくもまぁ、である。
 文花の口からは出なかったが、千住姉妹や千歳はちょっとした可能性を見出していた。それは、To-Beモデルにも応用できる?ということ。投稿が増えればそれはそれで盛り上がるが、そこに各自の理想が加われば言うことなし。地域の元気にもつながり得るのではないだろうか。つながりを築く、の深意に今、気付く三人である。
 IT不得意でも大丈夫。気が向いたらセンターへ。特に土曜日はオススメ。そんないつもの思いつき付け足しもあり、会場は納得のムード。千歳はただ「ハハ、さすが」。脱帽、いや脱マスクである。
 予定時刻を過ぎ、十七時半近くになっていた。それでも講座運営についてどうこう言われることはない。回収した参加者アンケートを見る限り、評価は概ね良好。上出来である。

 清、緑、辰巳の因縁トリオは、明るいうちはまだ動くとかで、早々とご退場。蒼葉と舞恵は何となく館内に残って雑談中。他の面々は次の通り。
さ「今日はありがとうございました。またいつでも...」
ひ「卒業式とかあるし、何より二十四日もあることだし、ネ」
ち「お二人も次は二十四日、かな?」
こ「初姉、ヒマそうだからその前に一度連れてきます」
む「じゃオイラも」
ふ「そしたら、弥生お姉さんもね。お願いしたいこともあるし」
 千歳と櫻はドキとしつつも、その真意を探ってみる。三月中ならまだ時間の融通も利くだろうから、接客とか議事とかサポートしてもらえるなら、二人としてもありがたいところ。だが、待てよ、IT絡みというのも大いに有り得る。お互いピピと来た。
 「ねぇ、千歳さん、さっきのITグリーンマップって」
 「ゴミ情報もインプットできるよね」
 「やっぱし、そう思う? でも弥生ちゃんだったら、きっと...」
 「DUOにマッピング機能を搭載して、とか? となると、『どんなゴミがいくつ』だけじゃなくて『いつ、どこで』ってのが加わって、しかも画像付きで出せる可能性が出てくるね」
 「漂着モノログも合流しちゃったりして」 誕生月というのは、否応なく充実が図られるものである。弥生も決して例外ではない。

三月の表白

69. 三月の表白


 そんなこんなで、クリーンアップ~グリーンマップと続いた講座は、四月に再びクリーンアップ、五月は季節感たっぷりにグリーンマップ、つまり交互に開催すると良さそうだ、という話ともども、続行が決まった。テーマの融合と深化、そして点から面への期待を込めて、のことである。六の月は前年同様、環境の日にちなんだ一席を先生に受け持ってもらうが、クリーンとグリーンのまとめのような企画も設ける予定。と、これがたたき台となり、部会を軸とした年間計画のようなものも見えてきた。
 メーリングリストでの下打合せが活発になると、実際の会合に懸ける思いは強くなる。特にセンター運営協議会(未だ仮称)に至っては、利用者側の視点で委員があぁだこうだとやり合うもんだから、以前にも増して賑やか。平日夜間のセンター利用状況はこうした要素もあって好転していく。見方によっては利用者が利用者のために議論しているようなものなので滑稽でもあるが、内容は極めて真摯。来客サービスの充実、相談対応の拡充、は言わずもがな。ハコモノにしないための工夫や知恵は、それそのものが事業となる。いかに足を運んでもらうか、いかに館内を利用してもらうか、そしていかに「いきいき」してもらうか。当センターにおいては心配ご無用(?)ではあるが、そこにいるスタッフのイキもポイント。それには文花が考えるところの働きながら学ぶモデル、かつ、スロー緩やか大歓迎!式ワークスタイルがいかに実践されるか、にかかっている。情報提供というのは、スタッフの姿勢から発信されるものも含まれる、と言うんだから、見上げた事務局長殿である。
 拠点から現場か、現場から拠点か、の双方向性の話もある。木か森かに通じるこのテーマは、かつて清が称えた二人の理事のバランスに拠るところ大。千歳、文花、櫻の三人に何人かの役員・委員が加わって夜な夜な話し合うことも三月に入ってからはしばしば。総会議案の方も程よいバランスのもと、まとまりつつある。

――― 三月某日 ―――

 そんな或る日の夜である。千歳もいれば八広もいる、という会があった。ミーティング中もどこか落ち着きがなかったので、不思議に思っていた千歳は、散会後、八広に軽く声をかけてみる。
 「ハハ、確かにあんまし聞いてなかったスね。いえ、折り入ってご相談というか、そのぉ...」
 珍しいことがあるもんだ、と思い、ゆったりと聞き役に回る千歳。だが、きっかけが冬木と聞いて、些か面食らう。
 「そっかぁ... でも、それでいい、ん?」
 「いつまでもルフロンに甘える訳にも行かないですし。それに自分でそういう働き方も体験してみないことには偉そうなこと言えない、でしょうし」
 広告代理店とはいえ、一介の会社組織ではある。いわゆる社会人経験を積んでおいて悪いことはない。千歳はゆっくり、されど力強く、
 「勢いのあるうちって言うしね。応援しますよ」
 「あ、ありがとうございます。これも隅田さんのおかげ。程ほどにイケイケで、がんばります」
 「僕は何にも。宝木さんの実力さ」
 さん付けで呼ぶ、これはちょっとした餞(はなむけ)でもある。だが、これまでと接し方が変わるというのは互いに嬉しいような寂しいような、ではある。
 「四月からはあんまりお手伝いできなくなっちゃいそうスけど」
 「何の何の、今は自分でここに通ってるんだし。こっちが貴社情報誌のお手伝いすることになるかも知れないくらいだから」
 と言いつつ、カウンターを一瞥。思わず先輩と目が合う。
 「ま、ここではすでにアシスタントなんだな」
 「?」
 そのフットワークと文才を大いに発揮されたし。流域情報誌がより良質な媒体になることを確信する自称アシスタント氏であった。

――― 三月十四日 ―――

 十四日はあっと言う間にやって来た。翌日に事務的な一大イベントが控えていることもあり、午後からは臨時で千歳も出勤。用紙の白、ハガキの白、宛名ラベルの白、やたら白物とご縁があるのは他でもない。ズバリ、ホワイトデーだから、である。
 櫻ご贔屓の洋風居酒屋にて、ちょっとしたお返しディナーというのを一応セットしてあるので、今の時分はいつもの櫻先輩と隅田クンでいいのだが、さっきから違う意味でホワイト尽くしになっているので、二人とも白々となっている。
 「それにしても、植林木パルプって言っても白色度はそれなり?」
 「原木は? シラカバだったら、天然のままで十分白いと思うけど」
 「ハハ、残念。アカシアでした」
 「アカ、かぁ」
 と言っても、赤とか紅とかは無縁。今はひたすら総会向けの資料原稿をチェックしているので、時に補整用の赤が出てくる程度である。

(参考情報→アカシア紙

 そろそろひと休み、と手を止めていたら、赤い花にまつわる女性が現われた。
 「あら、南実ちゃんじゃない。どしたの?」
 「えぇ、調べ物方々これを」
 「またご親展、ですか。いるわよ本人」
 「え、ウソ?」
 会議スペースで漂白、いや漂泊の時を過ごしていた櫻と千歳が顔を出す。こちらの三角形は今は安定的なので、多少のビックリはあっても綽然(しゃくぜん)の態。
み「ちょっと千さんお借りします」
さ「あ、ハイ」
 当の千歳は、義理某のお返し代わり、南実とのティータイムの件を思い出し、
 「じゃ近場で。すぐ戻ります」
 「あら、当館ご利用じゃなくて?」
 文花は少々解せない風ではあったが、櫻がゆったり珈琲タイムに入っているので、構わないことにした。
 「櫻さんも進化したわねぇ。前だったら、送り出したりしなかったと思うけど」
 「今は勤務時間中ですから。二人のことだから、お仕事絡みでしょ? だったら別に」
 「何かまた親展... あ、いやいや」
 「ま、とにかく信じてるんで」
 十四日にわざわざ、しかも外で、である。全く気にかからないと言えば嘘になるが、これが不思議と思ったほどではない。期せずして心境の変化を悟る櫻なのであった。

 クリーム増量が可能なシュークリームを扱うお店では、ちょっとした喫茶も可能。センターからも程近いこの店に千歳は南実を案内する。
 「お返しの件、忘れてた訳じゃないんだけど、つい連絡しそびれちゃって」
 「いえ、普通なら社交辞令レベルですから。こちらこそ押しかけちゃったみたいで、すみません」
 「で、お話っていうのは?」
 「そ、そうでしたね」
 アイスティーとシュークリームのセットを前にして、南実の動きが止まる。あわててシューを割ったら、クリームがこぼれ出て来た。
 「あ、ツブツブ。これってバニラビーンズでしたっけ」
 牽制球という訳ではないが、直球でもない。南実にしては珍しい揺れのようなものを感じる。千歳はシューには手を付けず、ひとまずアイス抹茶を口に含む。そして待つ。
 「そのぉ、何となく予感はあったんだけど、例の論文がえらく高い評価をいただいてしまいまして...」
 「それは良かった。じゃまた祝賀会でも」
 「えぇ、自分としては喜ぶべきなんでしょうけど、おまけと言うか何と言うか、提携してる米国の研究機関に交換留学、みたいな賞を与(あず)かっちゃって」
 「留学、ですか」
 「で、この話、皆にしちゃうと、バンドのこととか含めてひと騒ぎになりそうだから、どうしよっかって考えてたんです」
 「いつからってのは、もう決まって?」
 「四月の早いうちに、なんです」
 「そっかぁ」
 清はもとより、higata@メンバーも、勿論、文花先輩にも内緒にしていたんだと言うから、相当な逡巡があったに違いない。クリームが皿に流れるに任せ、南実は話を続ける。
 「このまま黙ってた方がいいか、それとも...」
 「四月六日までは平気ですか」
 「最初で最後の出演になりそうだけど、皆とステージには立ちたいです。だからそれまでは何とか。当日はあわただしくなるでしょうけど」
 「演奏に支障、いやメンバーが動揺しない範囲で、こっちで対応考えてみます。一任してもらえれば、だけど」
 「私からはとてもとてもなんで。助かります」
 胸のつかえがとれたか、アイスティーを半分くらい飲み進む南実。ストローを使っていると、そのえくぼが強調される。向き合う異性は思わず息を呑み、胸がつかえたような感覚に陥る。
 「櫻さんとはそろそろ、ですか?」
 「え? いやぁ...」
 「今ならまだ許されるかな。私のこと、名前で呼んでほしいんだけど」
 「南実さん? て」
 「南実、で、お願い」
 女性の名前を呼び捨て... 自称小心者である千歳にとってこれは難題である。抹茶の緑を見遣りながら、内心「こまっちゃうなぁ」状態。ただ、それを言葉にしては、白けてしまう。ここは一つクールにシリアスに行きたい。
 「あ、ありがと、うぅ...」
 かつては実兄にそう呼ばれていたんだろう。千歳の発した三文字は、彼女にとって何よりのプレゼントになった。
 「そうか。櫻って呼ばないもんね。私ったらまたムリなお願いを。あ、そうそう」
 南実はエアキャップ入り封筒を差し出すと、
 「ワレモノなんで、郵送するのやめたんです。で、文花さんに預かってもらうつもりだったんだけど、ハイ! 私の気持ち」
 受取人はゆっくりとその一品を取り出す。それは何と、
 「レジンペレットハート?」
 「京(みやこ)さんから逆に教わりまして。こないだ集めた分とあわせて、完成です。隙間を埋めるの大変だったけど」
 人工物でも想いは伝わる。それは見事なまでの赤いハートだった。
 「プラスチックは丈夫さがウリだけど、脆くもある、かな?」
 「そうです。こう見えても南実は繊細ですから。大事にしてね」
 調べ物がどうというのは口実だったようだ。南実はセンターには戻らず、そのまま最寄駅方面へと去って行った。スプリングコートが南からの風にゆらめく。その姿をしばし眺め入る千歳だったが、ふと我に返る。「そうだ、お土産!」

 口元は白くなかったが、黒い粒々が残っていた。
 「なーに食べてきたの、隅田クン?」
 「え、あっ、ハハ。これです。どーぞ!」
 「何だかなぁ。おやつタイム過ぎちゃってるけど? ま、許して進ぜよう」
 文花と櫻は円卓でジャンボシュークリームを頬張る。口の周りがどうなってようとお構いなし。
 「やっぱホワイトデーは、こうでなきゃ」
 「さすがはダーリンね」
 「文花さんは? 今日はどなたかとご一緒じゃ?」
 「バレンタインにこれと言ったことしてないから。でも相談に乗ってもらったおかげで、ある人にはそれが効果的だったみたい」
 「て、私そんな。ただ、抑えた感じも時には必要って、そう言ったまで」
 クリームが口の中に広がるのを楽しんでいる間は会話もひと休み。
 「いずれトライアングルは解消すると思う。そのうち弥生嬢にもちゃんと...」
 「はぁ。何か文花さん、変わりましたね」
 「ちゃんと自分にもお節介焼こうと思ってね」
 千歳はカウンターから白唇の女性二人をボンヤリと見ている。
 「二人には話しておいた方がいいか、いやまずはやっぱり...」
 今夜の話題が一つ増えるも、その順番が悩ましい。この手の段取りはまだまだ不得手なマネージャーである。

 訊かれる前に話しておいた方がいいと考えるのは、自己弁護のようにも捉えられる。やましいことがなければ別に後でもいい筈なのだが、肩の荷を早く降ろしたいというのが正直な気持ちだった。最初の一杯が赤ワイン、というのも偶然というよりは必然。
 「小松さん、留学するんだって」
 乾杯して早々の第一声がこれ。あまりの突拍子のなさにさすがの櫻も目が点。
 「それって、ドッキリネタ?」
 「何でも論文のご褒美だとかで。でも誰にも話してなかったんだって」
 「第一報が千歳さん、なんだ...」
 段取り失敗か?とドキドキするも、
 「ま、その次が櫻さんてことならいっか。南実さんらしいというか、相変わらずヤキモキさせてくれるワ」
 ワインを一気に飲み干すと、とりあえず笑顔に戻る。
 「で、彼女なりに気を遣って、内緒にしておきたいって言うんだけど、いきなり皆の前から去ってしまうのもどうか、ってね。で、櫻さんにまずご相談と思ったんだ」
 「フーン...」
 話してくれたのは良しとしよう。だが、よりによってホワイトデー、相談内容は他の女性。胸中は複雑である。と、不意に先のクリーンアップでのちょっとしたやりとりが思い出される。
 「そうか、それであんな言い方してたんだ...」
 途端に想いが込み上げて来る櫻。こうなると、この場での対応協議は難しい。
 「とりあえず保留。千歳さんにお任せ、とは言っても本人は多分そっと静かに、が本望だと思う。彼女、あぁ見えても繊細だし、ネ?」
 本人の口からも同じ言葉を聞いていたので、千歳も承服する。だが、櫻は然るべき一計を考え始めていた。自分の誕生日ではあるが、お祝い対象者は多い方がいい。晴れ晴れと送り出そう、それには何を贈ろう... ご相談の一件がいつしか自問モードになっている。

 メインの大皿パスタ、海鮮の某が運ばれて来るも、どこか心ここに在らずの彼女である。彼は具のバランスを考慮しつつ、小皿に取り分け始める。クルクルやりながら一寸ためらいを見せるも、ホワイトソースから立ち上る湯気は、熱と弾みを与えて止まない。そう、ホワイトデーだから聞けることがある。この場を措いて他にないだろう。
 「ねぇ、さ、櫻さん。イクラとイカだとどっちが好き、とかってある?」
 「え? そうねぇ、粒々と輪っか、よね...」
 先読みされたかのような返しが来た。こうなったら話は早い。直球あるのみ。
 「質問、変えます。真珠と指環、どちらも丸いですが、お好みは?」
 「千歳、さん...」
 櫻にとってはサプライズに近い衝撃だった。この問いの意味するところ、わかり過ぎて困るくらいである。
 「って、いつからそんな加速するようになっちゃったのぉ?」
 と言いつつも、実はあまりによく出来たプロセスなものだから、うっとりしている。櫻は、フォークでゆっくりとお好みの方を指す。南実のことが頭をよぎるが、今は彼女に感謝したい気持ちでいっぱい。
 話の順番はどうやらこれで良かったようだ。

* * * * *

 同日夜、もう一つのディナー席は、面接のような、兄妹の会食のような、一風変わった雰囲気を醸し出していた。
 「どしたのGoさん? あ、いけない、業平COO殿」
 「いやぁ、兄貴がボーッとなるのわかるな、って」
 「CEOはいいの。今日はGoさんのためにおめかししてきたんだから」
 数日前が誕生日だったので、お祝いを兼ねてのこの席。主役は白のシフォンワンピースにテーラードジャケットで臨む。ジーンズ姿に見慣れている業平にとって、これは事件。兄同様、萌える想いの何とやらになっている。共同代表は不在ながら、先ほど一次面接は済ませた。今はどちらかと言うと逆面接状態である。
 「で、桑川さんを採用しようと思った動機は?」
 「その才気、突破力、最近ご無沙汰だけど、ツッコミ力、それと...」
 「と?」
 「例の持ち歌かな」
 「それは採否と関係ないんじゃん?」
 実は来るステージに向け、最低でも自分の歌はきっちり完成させたいと意気込んでいた弥生。ベースの猛特訓に加え、歌唱の方も磨きをかけていて、その成果をしっかり自己流ミキシングにてデータ化。これも自己アピールのうち? とにかくCOO、否、バンマスに送っておいたのである。
 「いやぁ、あれは良いよ。歌もベースも、何かこう主張する感じがしてね」
 「DUOとおんなじ。そこにある空気を誰かと一緒に、ってこと。主張というより、或る乙女の願い、かなぁ...」
 出逢ってからしばらくは、ツッコミ甲斐があるとの理由で惹かれていた。その後は、その重厚な音づくりに惚れ惚れ。芸は身を扶(たす)くと言うけれど、業平にとってこれは意想外な展開。だが、そんな彼も今は彼女の音楽性に惚れつつある。
 「で、タイトルは?」
 「breathe, breeze とか。ルフロンさんとまた協議しますけど♪」
 まがりなりにもホワイトデーなので、お豆腐料理中心。でもって改まった席でもあるので、掘り炬燵式の個室にいるご両人である。湯豆腐が上がったところなので、フーフーやりながら、そのbreatheとbreezeの心を語り合っている。しばらく経ったら、互いに深呼吸。弥生は喉元の熱さが和らぐのを待って、ちょっとした問いを試みる。
 「何かあって、仮にあたしがひきこもっちゃったりしたら、Goさんならどうする?」
 「そうだなぁ、一緒にこもる、かな」
 「え?」
 空間的にはおこもり状態のようになっているので、すでに疑似体験しているような感覚。業平はいつになく重い口調で語る。
 「時にはね、充電するのも大事。兄貴だってそう。前向きなひきこもりってのもあるんだよね。だから別に引っ張り出したりはしない。一緒に...」
 「業平さん...」
 聞けば、太平も失恋だか何だかで外に出て来られなくなった時期があったんだとか。業平は意を決して共同ひきこもりを決行。起業アイデアはその間に練ったのだと言う。
 「そっかぁ、良き理解者だぁ。これなら仕事で失敗しても平気ネ」
 「なーに、失敗してなんぼだから。平気も何も、平平さ」
 かくして弥生は直接行動の帰結を図る。
 「ねぇねぇ、あたしのケータイ鳴らしてみて」
 着メロは勿論、業平原曲、弥生編曲の持ち歌である。
 「おぉ、そう来たか」
 「じゃそのまま。ここ個室だけど、一応ネ。乙女はマナーを守らないと...」
 と言い残し、室外へ。
ご「もしもーし」
や「何か逆だけど、告白していい?」
 直接だが間接的。さすがに面と向かっては言えなかったようだ。だが、このアプローチ、ものの見事に彼に刺さった。
 「ハハ、いろんな意味で『採用』!」
 「あ、あとね、おふみさんからいいヒントをいただいたんです。もしもし?」
 アルコールはそれほど入っていない筈だが、室内に戻ると、業平はヘナヘナ。杏仁豆腐の方がずっとシャキっとしている。
 「あ、ゴメン、何だっけ?」
 「拡大版DUO 頑張りマス。よろしくネ」 DUOは広く、そして大きく。入社日が待ち遠しい。


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