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 ある日、いつものように子どもが公園に来てネコをだっこしていると、前に子どもを取り囲んでいた子どもたちがやってきた。

 子どもはまた取り囲まれた。


 今度はネコもいっしょだった。

 ネコを抱きしめている子どもの手がふるえ、そのふるえを止めようとしてか、子どもの手に、力が入った。

 ネコは少し息苦しかったけれど、気まぐれでもえさをくれた子どもには、恩があると思ったので、じっとがまんしていた。

 

 ―なんだよ、きたないネコ
 ―おまえといっしょだ
 ―ほおりなげてみろよ
 ―そんなうすよごれたよぼよぼネコ
 ―おまえじゃなきゃさわれないな

 

 取り囲んでいた子どもたちは口々にそんなことを言いながら、高い声で笑い、子どもが肩にかけていたかばんを取り上げ、中身を、地面にぶちまけて、また笑った。

 


 ―ネコくさいかばんだ
 ―おまえもネコくさい
 ―おいぼれたネコ
 ―やくたたずネコ
 ―おまえもやくたたず

 

 だまって聞いていれば何ということだ。

 かかわるまいと思っていたが、ここまでばかにされたのでは、そうもいかないだろう、そうネコは判断した。

 

 手足を持てるかぎりの力で思い切りのばして、抱いてくれている子どもの腕の中か飛び出し、取り囲んでいる子どもたちにとびかかった。


 夢中でつめを立て、ひっかいた。

 ネコがとびかかってくると予想もしていなかったのか、子どもらは、あわてふためいてネコをふりはらい、地面にたたきつけた。

 そして、ネコにひっかかれた自分たちの傷から出る血を見ておどろいた。

 

 ―わあ、ひっかかれたよう
 ―いたいよ、いたいよ


 (どうだ。傷つけられるといたいだろう。傷はいたい。からだにできても。こころにできても)

 

 ネコはネコのことばでそう言った。

 

 ネコに飛びかかられた子どもたちは、傷や血を見て、からかう気がうせたのか、公園から出て行った。

 

 残った子どもはまたネコを抱き上げた。
 悲しそうな顔をしていた。

 

 ネコは、とびかかったことがよかったのか、悪かったのか、わからなかった。

 でも、ネコはネコなりにネコの気持ちをあらわしたつもりだった。


10

 数日後、おとながふたりほどやって来て、ネコをつかまえた。
 おとなはこわい顔をして、ネコに言った。

 

 ―きたないネコだな。おまえか。子どもたちをひっかいてけがをさせたネコは。

 

 ネコは子どもを傷つけたネコだというので、おとなにつかまった。
 ネコは手足をしばられ口もしばられ、小さな檻に入れられて車に乗せられた。

 

 そこへ、あの子どもがやって来た。
 連れて行かれようとするネコを見て、おどろいたようすでかけよってきた。

 

―ネコはわるくないんだよ、かんべんしてあげて。お願いだよ。

 

 子どもは、おとなにいっしょうけんめいせつめいをした。


 けれども、おとなは、子どもの話には耳をかたむけようともせず、首を横にふるばかりだった。

 子どもは、せめてネコをもういちどだけさわらせてくれと、おとなにたのんだ。

 


11

 おとなはしぶしぶ、少しだけだよ、と言って、子どもがネコにさわるのを、しょうちした。

 

 ネコはどうしてここまで、この子どもが自分のような老いぼれたきたないのらネコに心をよせてくれるの

かわからなかった。

 

 子どもは泣きながら、檻の中のネコに手をのばして、ほおをなでたあと、自分のほおをよせた。

 鉄格子のあたる場所は少々固いし、またしてもしょっぱいほおずりだったが、子どものほっぺたは、あた

たかかった。
 子どもの涙もあたたかかった。

 

 ネコは、しばられた口のすきまから何とか声を出して、子どもにきいてみた。

 

(どうして、泣くんだ)



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