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売れない絵かき

 

 ある国に貧しい絵かきがいました。

「なぜぼくの絵は売れないんだろう」

 絵かきはいつもそう思っていました。

 

 



 

 じっさい、絵かきの絵は見たものを

 うつしたようにうまく描けていました。


「けれど、心が感じられないよ」


 人からそう言われるたびに絵かきは

「それはこの国に、

 ぼくの絵がわかる人がいないからだ」

 と、腹をたてていました。

 


 

 そういうわけで、

 絵かきは旅に出ることにしました。

「もっと大きな国ならば、

 ぼくの絵を買う人がいるにちがいない」


 こうして絵かきは、たくさんの国を歩きました。

 



 

 いろいろな国で絵を売っているうちに

 気がつきました。

 どうやら景色の絵ばかり売れていくようです。

 


 それはいろいろな国に行くたび、
 見た景色をなんとはなしに

 描きためていたものでした。

 

 

 

 



 

 

 北の国では、真っ赤な花畑
 東の国では、金色の砂漠
 西の国では、青く深い海
 南の国では、白い雪山

 そんな絵がよく売れました。

 

 めずらしいもの見たさというやつでしょうか。

 


 それならばきれいな景色のないところなら、

 もっと絵が売れるはずです。

 

 



 

 絵かきはそんな国を探して、

 どんどん旅をしました。

 そうしてとうとう、遠い遠い、

 灰色だらけの国へやってきました。

 

 

 

 


灰の国の絵かき

 

 その国はいつも戦争ばかりしている国でした。

 色といったら、かたい石の壁や鉄の砲台の、

 冷たい灰色しかありません。


 

「光があるのに

 色をかえさない国があるなんて!」

 絵かきはおどろきました。


 それにこの国の人はみんな、
 絵かきをあやしんで近づこうともしませんでした。

 それどころか、役人につかまって

 お城につれてこられてしまいました。

 

 


 

 お城には王さまとお姫さまがいました。

 お姫さまは生まれつき体が弱く、病気だったので
 お城の外に出たことがありませんでした。



 

   絵かきの絵を見たお姫さまは

 とてもよろこびました。

 


 

「こんなにたくさんの色、見たことがないわ!」


 絵かきの絵を見てそんなふうに笑った人は、
 今までだれもいませんでした。




 その日から絵かきは、

 毎日お姫さまのために絵を描きました。

 灰色だった景色が、絵かきの絵で

 色とりどりにかざられていきます。



 

 絵かきが思い出しながら描いたどの国の景色も、

 お姫さまはうれしそうに笑ってながめていました。


 


 

 

 いくらかの時がたって、

 また戦争がはじまりました。


 お姫さまの病気も、

 だんだんと悪くなっていきました。

 


雲の国の絵かき

 

 ある日、お姫さまは絵かきに言いました。

「くもの国に行ったことがある?」


 

「どんなところかわかれば、

 行くのがこわくないのだけれど」







 絵かきは雲の国など、

 もちろん見たことがありませんでした。

 けれどもお姫さまのために、

 いっしょうけんめいに雲の国の絵を描きました。



 

 絵ができあがると

 絵かきはそれをお姫さまに見せました。





 

 お姫さまはそれを見てほほえむと、

 ゆっくりと息をひきとりました。






 

 しばらくして戦争も終わりました。

 絵かきはまた旅に出て、

 もうその国にもどることはありませんでした。






 絵かきはそれからずっと

 絵を描きながら旅を続けています。


 

 お姫さまのいる雲の国へ、

 彼の見た景色を届けるために。




〈おしまい〉

 

 

 

 

 


エピローグ:ある日の絵かき



 ある街の路上で、

 絵を描く絵かきに話しかける人がいました。

「岩だらけで灰色の、何もない景色の絵ですね。

 けれどなぜだか、あたたかい」

 


 

 絵かきは答えました。

「ぼくが見てきたなかで、

 いちばん美しい景色です」

 


 そしてすこし笑ってこうつけ加えました。

「そう思わせてくれる人が、いた国だから」


 それはとても気持ちの良いお天気の、

 ある日の午後のことでした。




<エピローグ~ある日の絵かき~>

 

 

 


奥付


 

雲の国の絵かき


http://p.booklog.jp/book/92211


著者 : 樹樹
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/jyujyu888mina/profile


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この本の内容は以上です。


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