閉じる


<<最初から読む

68 / 72ページ

第七話

財布の中の紙切れ

 


 その日の朝、会社から突然の解雇通知を受け、どうしようもない気分で駅前を徘徊していた。

 

 誰もいない公園のベンチで塞いでいると、向こうから知恵遅れらしき男がやってきた。40代にしか見えない癖に、所々が茶色く汚れた子供向けの帽子や服を着て、訳の分からない言葉を呟きながらヘラヘラ笑っている。


 それを見て無性に腹が立った俺は、そいつの小汚いケツを思いっきり蹴り上げてやった。

 

 笑い声とも泣き声とも付かぬ素っ頓狂な叫び声を上げ、そいつは一目散に逃げていった。


 ふと地面を見ると、財布が落ちていた。あの男が落としていったもののようだ。いかにも安物の長財布だが、手にとってみると結構な厚みがある。

 

 


 これは儲けたと内心嬉しくなり、チャックを開けて中を見た。

 

 ところが、入っていたのは石ころやどんぐりばかり、札どころか小銭すらない。

 

 「なんだよ」とがっかりしつつ呟いたたその時、しっかりと二つ折りにされたノート用紙を見つけた。


 結構古いものなのか、全体的に黄ばんではいたものの、破れや酷い汚れもなく、ゴミだらけの財布の中でそれだけが妙に綺麗に感じられた。

 

 好奇心とともに、中身を開いてみた。

 

 そこにはただ一文、非常に丁寧な字でこう書かれていた。

 

 「この子が死んだら、無縁仏として適当な場所に埋めてください」

 

 俺は財布とその紙をゴミ箱に捨て、取り除きようのない重みとともに帰路についた。

(第7話 完)


この本の内容は以上です。


読者登録

エンジンさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について