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 女が泣き止む気配を見せないので、一発殴ってやろうかと右を向く。

 

 すると、すぐ近くに大型のタンクローリーが迫っていた。

 

 タンクローリーはそのまま衝突して女ごと車の右半分を押し潰した。

 

 そして男が扉を開ける間もなく、給油機やスタンドの事務所ごと車体を拉ぎ、そして自らもその勢いで横倒しになった。

 それから間もなく、凄まじい爆発とともに、生ぬるい熱気が辺りを覆った。

(第4話 完)


第5話

彼女は苔を醤油で食べる


 久々に彼女の住まいへ行くと、彼女が苔を食べていた。醤油の入った小皿に、土のついた抹茶色の塊を浸してそれを口の中でじゃりじゃりと鳴らしていた。

 勢いに任せて、彼女を殴りつけた。

「どうして!?」「なんで!?」

 と、彼女はやかましく泣きわめき、俺を罵る。

 

 なんと言うことだ、自分がやったことの異常性が認識できていないらしい。

 俺は彼女を正常に戻す為、鬼となってその行いを問い質した。


 彼女が語るところによれば、苔を醤油で食べるようになったのは、かれこれ二週間ほど前。テレビ番組の中で、取れたての海藻を溜まり醤油で食べているのを見て思いついたらしい。

 番組が終わると、すぐさまスコップ片手に公園へ行き、公衆便所の隅などを削って新鮮な苔を調達、それを家にあった薄口の醤油に浸して食べてみたところ、虜になってしまったという。

 

 乞食ですら真似しないような食事だ。

 

 いや、食事とは到底言えない。


 だが、彼女に言わせてみれば、苔本来の酸味と醤油の酸味が見事に合わさり、更に苔のプチプチした触感が重なって、やめられなくなってしまったのだと言う。

 更にそこに湿気た泥のジャリジャリしたのが加われば最強で、犬の小便だのドカタのおやじの腐った靴の匂いや酸っぱさまで加われば、絶対無敵なのだとのたまう。

 

 病気だ、彼女は病気になってしまったのだ。

 僕は彼女をもう一度、思いっきりひっぱたいた。



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