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「さっきの話だけどぉ」

 女が男の肩をつついて話しかけてくる。

「鎌の犯人って、動機は何だと思う? ねえ?」

「頭がおかしかったんだよ」

「納得いかないわ、まともな理由があると思うのよ」

「だからどうでもいいよ」

 

 顔つきと身体以外、この女を連れ回す理由はない。

「鎌で喉を切り裂いたのよ、きっとすごい恨みがあるんだわ」

 とは言え逃げられるのも癪なので、男は適当に相手することにした。

「別に大したことないって。イライラしておかしくなったんだよ」


 銀色の給油ノズル片手に車の給油口を開く店員を横目で見ながら、男は言った。

「たとえばさ、あの店員が昨日彼女にこっぴどくフラれてイラついててさ」

 

「ふんふん?」

 

「それで俺ら二人を見てカアッとなって、給油ついでにこの車の中にマッチかライターでも投げ込んで爆発させてやろうか、なんて考えてるかもしれないぜ」

 店員が男を睨む。

 

「えーありえないわ、漫画じゃないんだし」

 

「そう思うんならいいよ、別に」

 

(やっぱりこの女はバカだ)と呆れてため息をついた後、男は車から顔を出し、まだ終わらないのかと店員をせかす。


 店員はノズルを給油口から引き抜き、男に金額を伝えた。その金額は男が予想していたよりも高かった。

 更にしぶしぶそれを払おうとした時、持っていた紙幣が自分の想像よりも少なかったことに気が付いた。

 

「いちいちコンビニに寄らなきゃいけなくなった」

 財布に入っていた紙幣を全て出した後、誰にでもなく男は呟き、店員が差し出したレシートをひったくって乱暴に車を発進させた。

 

 店員は舌打ちをしつつ俯き、ポケットの中のライターを残念そうに見つめた。


 だがその為に、急に後退した車に全く対応することができなかった。

 

 店員の身体はトランクの上に倒され、更にそのまま後退し続けた車と柱に挟みつぶされた。

 

 車は一旦前進し、血の泡を吹き出している店員の頭めがけて再びバックした。車中に鈍い衝撃が走る。

 女は泣き叫び扉を開けようとするが、手元が震えて上手くいかない。

「仕方ねえだろ、イラついてたんだよ」

 その端で男はどうでもよさそうに、前を見ながら呟いた。


 女が泣き止む気配を見せないので、一発殴ってやろうかと右を向く。

 

 すると、すぐ近くに大型のタンクローリーが迫っていた。

 

 タンクローリーはそのまま衝突して女ごと車の右半分を押し潰した。

 

 そして男が扉を開ける間もなく、給油機やスタンドの事務所ごと車体を拉ぎ、そして自らもその勢いで横倒しになった。

 それから間もなく、凄まじい爆発とともに、生ぬるい熱気が辺りを覆った。

(第4話 完)



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