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外来

 ◆  外来

  不慮の事故で夫を亡くしてからの十年は、身の置き所を探しあぐね、忘れようとする日々との闘いだった。
フランスのとある大学付属病院で心理内科を専攻中、出逢った昆虫地理学者のセサミ・ウォレスと現地で結婚。そのままフランスで医療に従事するはずだった。
 そして離別。悩んだあげく、持ち前の明るさを思いっきり表面に出し繕いながら、じつはボロボロの心境で帰国。
ヨシミは出身大学に恩師を訪ね、しばらくは内科医として診療に当たってきた。
 恩師とは学生の頃から所属学会で、主に論文を介して付き合いがあり、その恩師が、「このごろ、暗い影がほとんどなくなったねえ。笑顔も、いいよ。」 と、切り出してきたのが、今ヨシミが開けて入ってきた診察室の看板、【他生物起因病理外来】だ。
「なあ、ヨシミさん。あのフランス当時からデータを集めている病理、外来でやってみないか?」
夫の不慮の死からひと回り、つまり十二年が経った時だった。

「オはよー、吉田さん。」
「先生、おはようございます。あら、眉間にシワ。何かありまして?」
「わかる?顔は正直ね。また夢見ちゃった。」
「よっぽど、ぞっこんだったんですね、フランスの彼。」
「・・・で、怖いのよ、こんな日の患者さん。二時予約の人。ねえ、経歴聞かせて?」
「肩書きは大型文具量販会社の営業課長。ええ、あの、注文商品があした来るってたぐいらしいです。予約を受けたのは私で、声からしてがっちりしたタイプの男性でした。」
「で、どこを診ればいいの?その人の。」
「なんでも、身体的なこととかで、先生の噂を聞いて、とかです。」
「うわさ、ねえ。」

 この吉田さん、内科勤務の時からの看護士でヨシミより二つ年上。未だにシングルで、年に数回休みをとっては海外をまわる独身貴族。
「いやだわあー、先生。貴族だなんて。独身エリートと呼んでー。」
 さばけたところがあり、ヨシミもたまに二人で食事をしたり、あれこれと相談にのってもらったりしている。
外来という立派な看板を挙げても、そう毎日患者が来るわけでもない。週に二回、外来の日を設け、他の日は診察室隣にある内科を二人して応援している。
「じゃあ、また私がねほりはほり聞かなきゃいけないんだ。」
「おねがいしますよ、その薄く引いたアイラインで、にっこり聞くと正直に話してくれますよ、センセイ。」
「まった、吉田さんってば。」

 約束の二時。外は朝からの雨がまだ降り続き、今日は特に雨音が強い。病院のしっかりしたサッシ窓を通しても、雨音に誘われるように、幾度か外を見てしまう。


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最終更新日 : 2014-11-09 17:24:44

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