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爺絶倒星見聞録

 

迎賓館を出ると、 道路は全て琥珀色

 の大理石様のものでできていて、

 歩行者が通行するのみで、

 乗物らしいものはひとつもなかった。

 ところが、その歩行者を見て驚いた。

 ある者は2本足でちゃんと歩いているが、

 ある者は10センチほど浮き上がって、

 滑るように移動しているのだ。

 その場合の速度はせいぜい2,30キロ/Hといったところか。

 ティシュ達には格別驚いた様子はない。

 

私:「ティシュ。みんな浮き上がって滑っているけど、

 どういうことなんだろう」

ティシュ:「道路に仕掛けがあって、

 電磁気を帯びる生物との間に斥力と推進力が発生するの。

 今、私だって出来るけど、哺乳類のあなたじゃ

 速くなりすぎてひっくり返るから、やめときなさいよ」

私:「あっ、はい」

 

スケートはやったことないから、敢えてやろうとは思わないが、

 ティシュは、嫁さんの演技が板に付いた感がある。

 

私:「ケロピー大臣。遠いところに行くときや、

 早く行くべき時にはどうするんでしょうか」

 

すると接待大臣は、上空を指さした。

 よく見ると、赤紫の空の色に溶け込むようにして、

 行き交うたくさんの乗り物があるではないか。

 スピードの速いものもあれば、遅いものもある。

 よくぶつからないでいると思うほどに密度は高く、

 また円滑であった。

 

私:「よくぶつかりませんね。腕がいいのか」

 

接待大臣:「あれはみな、ルートが空中に予約されていて、

 そこを乗り物がくぐり抜けているんだよ。

 くぐり終われば、ルートは消滅する。

 だから、ぶつかる心配はないんだ。

 予約は目的地と帰着地を指定すれば、

 即座に計算してとってくれるようになっている」

 

乗り物の動力は、地球の科学では未だ知られていない

 力場を利用したもので、化学的な派生物質のない、

 無公害のものであるという。

 

建物は、全く変わっていた。

 にょきっと垂直に伸びている円柱、

 --それはエレベーターホール用というのだが--、

 それに対して円形や花弁型のフロアーが、

 下からの何の支えもなく幾つもくっついているのである。

 上空先端のほうでは、球体が5,6個くっついていて、

 五輪塔みたいであった。

 そうした建物が形を多少変えながらも、

 軒を接するかと思うくらいに接近して、

 幾つも並んでいるのである。

 

まず私たちが入ったのは、

 物品展示場という一番手前の建物だった。

 

エレベーターでひとつ上のフロアーに出ると、

 そこは博物館のようになっていた。

 この星の大きな星球儀があり、

 その前で接待大臣は解説を始めた。

 

接待大臣:「この星は、恒星イアソンの周りを回る第4惑星で、

 自転をしており、星の上は大きく水域、動植物域、

 工場地域、生活域に分かれているんだ」

 

手短に言おう。

 ジーゼット星の質量は地球の2分の1ほど。

 イアソンの周りを約8年で公転し、約30時間で自転する。

 大気組成に地球とは若干違いがあり、

 ダイナミックな気象の変化が少なくなっている。

 生物の棲み分けがはっきりしており、

 治世する側が分限を守るように努めている。

 

この星の人の食料は、食用ミミズと聞いていた。

 ところが、実際そうではなく、全ての食料は、

 動植物域に咲く植物の果実から精製されていた。

 果実は約300種類、多くが地球では見られないほど巨大で、

 オートメーション式に収穫されて精製工場に移送され、

 チューブに入った食べ物となって出荷される。

 その最終加工品を称して、人々はミミズと呼んでいるのだ。

 

その種類も堅さや味付けによって、2000種類もあるという。

 それら全てが、建物の上階の展示場に並べられ、

 それ以外にも工具や家電品、乗り物までもが

 用途別別にフロアーを異として置かれ、

 人は必要なだけ持ち帰って良いらしい。

 

比較的小物に関しては、人はそれを持って、

 カーブを描く外辺部に着くと、

 そこに停めてある二人乗りカーゴに積み込み、

 そこから予約道路を通って家に帰るという。

 購買ではなく、自由に持ち帰るのである。

 

つまり、地球とは社会システムが全く異なっており、

 市場経済というもの自体、ないに等しいのである。

 全てが需要あっての供給で成り立ち、

 それもオートメーション的に必要量がまかなわれていた。

 

社会主義や共産主義というものでもない。

 人の多くは働いていないのだ。

 みな、めいめいの望むところのことを創造的にこなして、

 自らの時間を消化する。

 いわば生き甲斐創造に人々の意志は振り向けられていた。

 

芸術あり、研究あり、製作あり、

 あらゆる創造性がそこにはあった。

 では、いかつい軍隊はどうかというと、

 それをしたい者が集まって防衛軍を形成するという具合で、

 まるで創作活動の一環として何事もあるかのようだ。

 

だが、先述の通り、征服欲のある者や好戦家は居ない。

 とすれば、もっぱら宇宙からの脅威に対する防備

 ということになるが、それも連邦が肩代わりしており、

 よほどのことがなければ戦闘に参加することもないという。

 むしろ、自衛隊のように災害救助活動に

 当たることを主業務としていたのかも知れない。

 

また政治家や大臣も、実を言うと

 それをしたい者が、ボランティア的にやっているという。

 私の質問に対して、接待大臣は次のように答えた。

 

接待大臣:「私は、他に誰もする者がいないから、

 かって出たんだよ。私の趣味は、元は建築だった。

 私が設計して、たくさんの有志に手伝ってもらって、

 あの館を建てた。それが誰のよりも立派になったので、

 建築の次は、いろんな星の話を聞きながら、

 いろんな星の料理を口に出来る渉外の仕事を

 させてもらおうと思って申し出たんだ。

 そうしたら、他に候補がいなかったので私がなったというわけだ。

 そりゃ、誰も候補などいるはずはない。

 その職制は、私が言い出しっぺなんだから」

 

私:「それじゃあ、それまでお客の接待なんかは・・」

 

接待大臣:「そりゃ、気の利いたことは出来なかっただろうさ。

 それまでのお客はみんな日帰りだった。

 それではまるで無愛想じゃないかと提案したら、

 良かろうということになったんだ」

 

私:「提案して簡単にやらせて

 もらえるんだったら、いいですねえ」

 

接待大臣:「総理大臣だって同じだ。

 ただ前回の場合は候補が3人居たんで、

 政策討論会を開いて、そこで優劣を競い合い、

 これは譲った方がいいなと思った者が降りる形をとった。

 しかし新任の総理大臣は、候補者の政策の良いと思う

 部分を認めて、補佐役としてその仕事に当たらせている。

 つまり、他に支障さえないなら、

 やりたい仕事にみんな就かせるというのが、

 ここのやり方なんだ」

 

議会もあるが、議員は全て、有識者であり

 かつ、我こそはと思う者が集まって出来ているという。

 数の制限もなければ、選挙などというものもない。

 つまり、政治のお役に立つべく、

 知識提供しようという場だというのである。

 そして時として難題を抱えたようなときには、

 その分野の知識者を募集するくらいであるという。

 それでは、貪欲さ剥き出しの競争や、

 人数あわせの遊戯などはありもしないわけだ。

 

ちなみに、ジーゼット星の人口は、600万人。

 星の上には、たった一国しかない

 ということも理由にあるのかも知れない。

 

接待大臣:「そりゃそうだろう。

 食糧さえ完璧に自給できたら、我々にとって

 天災以外に恐れるものはないじゃないか。

 それが最小で最大のベースになるんだ」

 

それはここほどに、その他様々な不確定要因が

 クリアーになっていれば、そうも言えるのかも知れない。

 その最大のものは、人の心だ。欲望がよりよく昇華でき、

 恐怖が根拠を失うほどになれば、それも。

 

地球でも、コンピューター社会となり、

 物や食料の生産が全てオートメ化されて、

 人はみな、ただでいてその恩恵に浴するという理想が、

 当初の頃言われていた。

 しかし、社会は機械によって人を酷使し疎外するという、

 逆の現象を生んでしまった。

 何が違ったのか? やはり、心ではないのか。

 

私たちは、展示場塔から1キロほど離れた建物に至った。

 建物はやはり円柱を基本にして、

 円や木の葉状のフロアがたくさん設けられていた。

 そこにあわただしく出入りする黄色い制服姿の

 カエルさん達がいて、いろんな機材を運び込んでいた。

 

接待大臣:「ここで、明日から5日間、

 お祭りがあるんだよ。

 たぶんベンザさん達の星と似たようなお祭りのはずだ」

 

ベンザ:「私たちの星では、4日間です」

 

接待大臣:「うん。それに1日、

 独立建国記念日が加わっているんだよ」

 

ベンザ:「あら、それなら

 私なんかへの風当たりも強いのかしら」

 

そこにベンザの婚約者が割って入った。

 

ベンザの婚約者:「いや、ご心配なく。その日への命名が、

 明日から変わることになっているんです。

 国民総意で、建国並びに友好交流樹立記念日、

 となることにね」

 

接待大臣も、にこやかに頷いた。

 

ベンザ:「それは素敵だわ」

 

私:「お祭りはみんな好きなんですか?」

 

接待大臣:「そりゃ、もちろんさ。

 明日には、向こうにある建物がみんな寄せ集められて、

 この近辺はジャングルみたいになる。

 そこで、みんな原始の姿になって、つまり裸になって、

 あっちへ飛び移ったり、こっちに飛び移ったりして、

 いろんなイベントに参加して回るんだ」

 

ベンザの婚約者:「そうです。

 この星挙げて、この5日間をお祭りで過ごします。

 お祭りのための建物だけで、

 地上にある全建物の半分はありますからね。

 その他のお祭りもあり、年間通して何十回もあるんです」

 

接待大臣:「お祭りが終わった後も、

 しばらくジャングルのまま解放される。

 その間にいろんな恋も育まれるというわけだ。ははは」

 

ところが、お祭りの中身は、単なる遊興事でもなかった。

 創造主や時空主宰神への感謝祭がメインイベントなのだという。

 その内容を知るには、タイミングが良くなかったようだが。

 しかし、彼らは彼らなりに、そこにある恩恵に対し

 少なからず感謝の想いを抱いているようだった。

 

ところで、地上には、フロアだらけの建物はあっても、

 住居らしいものがなかった。

 地上が公益的な建物群でなるに対し、

 彼らの住居は地下にあった。

 

私たちは、地上に所々突き出ている電話ボックスを

 大きくしたような所から、地下に入った。

 すると直径50Mほどの円形空間のまん中に出た。

 そこから四方に幅10Mほどの穏やかな光を

 発する通路が延々と延びていた。

 

通路に面して、いくつものドアの並びが確認できた。

 接待大臣が、適当に近くのドアホンを押すと、

 ドアが開いて、中からカエルさんが顔を覗かせた。

 

接待大臣:「やあ、ちょっとお邪魔したいんだが」

 

家人:「おや、ケロピーさんじゃないか。おや?

 後ろの人たちは、サテュロス星のお嫁さん達だね。

 こりゃどうも、初めまして」

 

どうやら、お輿入れの話は衆知のことのようだ。

 こうして中に入らせてもらったのだが、

 そこにはいきなり大きなアトリエがあった。

 家族の人らしいカエルさん達が、

 向こうのほうで彫像を作っている。

 出てきた家人は、すぐ手前で絵画作りの最中であったようだ。

 

家人:「見てくれ賜えよ。

 この平面の中に、壮大な宇宙を巧みに鏤めているだろ」

接待大臣:「ああ、こりゃいい出来だ。

 星間展示会に出しても悪くない」

 

家人:「いいや、星間展示会には別のもっと良いのがある。

 これはヒーリング絵画としてハンテス星に提供するつもりだ」

接待大臣:「それは良い。皆さんに申し上げるが、

 まだ連邦の中には恵まれない星もある。

 環境が良くないために、精神を病みがちな星もあるんだ。

 そうしたところに、彼らは貢献しようとしている」

 

家人:「うちの嫁さんと新米の息子が取り組んでいるのが、

 3次元多様体の陶像だ。

 今度はクラインの壺の変化形に取り組んでいる」

 

接待大臣:「形によっては、精神エネルギー

 ジェネレーターになるんだよ。

 ネアン君。君なんかには、良いんじゃないかな」

私:「僕は確かに気弱だけど・・」

 

話によると、ジーゼット星の輸出品の大勢を

 占めているのが、こうした芸術品であるという。

 彼らが時折、宇宙を旅するのも、

 現場に即した納入サービスがあってのゆえで、

 物見遊山はその途上でしてくるらしい。

 

また、こうした星間貿易は、連邦が仲介して行われ、

 星ごとの公益点数としてカウントされるが、

 権利も義務も生ずるものではないという。

 つまり、連邦それ自体が、公益的システムを支援し

 保証しているのである。

 

さて、この家には他にも6,7部屋があって、

 ちょうどマンションのようなイメージであるが、

 そこに水路が血管のように築かれ、

 ちょうど細胞のように居住空間と接していた。

 

なぜ水路なのかというと、

 それも居住空間の延長だったのである。

 

彼らは、両生類の性質をそのまま残しており、

 子供の頃はオタマジャクシであって、

 水路から広大な淡水域を生活域としていた。

 学校は水域の出口に設けられており、普段陸上では

 スーツ姿のカエルの先生が裸で授業しにやってくるのだという。

 家人の息子さんは、先頃卒業したところとのことだった。

 

私はそうした様子を見聞きして、接待大臣に、

 実は地球のカエルという種族は、

 皆さんと発育過程の特長が同じだと話すと、

 彼は「カエルについて詳しく話してくれんかね」と

 話をせびった。

 

私たちは、翌日の帰還が決まっていたから、その日の内に

 大ざっぱにお見せしようという接待大臣の意向で、

 6人乗りの空の道を行く車に乗って、

 まず水域を上空から見学した。

 巨大な都市部に隣接する比較的小さめの紫色の水域は

 淡水域であった。内陸部の湖といった感じで、

 そこは彼らの子供達の遊び場であるとともに、

 大人しい魚介類の生息域であるという。

 

また、都市部と湖を取り囲むように動植物域があり、

 そのさらに外側に暗紫色の広大な海水域があった。

 遙かに多彩な種類の魚類や甲殻類が生息し、

 海上、海底基地、製塩施設などが置かれるという。

 

次に動植物域を上空から見学した。

 そこはまるでジャングルであり、

 赤紫の空に対してくっきりと黄緑から深緑、

 ときおりの橙や黄、さらには茶黒の斑を呈していた。

 付近にはちらほらと白雲が漂っていた。

 

接待大臣:「この下に無数の果実が自生しており、

 それをほらあそこだ。オートメーション的に採取して、

 あそこにある工場で第一次処理をするのさ。

 このジャングルには、機械が入って

 選別し採取してくるとともに、植生の状況を調べて

 メンテナンスを施すようになっている」

 

私:「動物もいるんですか?」

 

接待大臣:「ああ。たくさんの生き物がいて、

 生存状態も良好だ。

 我々も、この中に時々入って探索したりする。

 若干危険だがね。だが、人によっては、

 いつものようでは物足りないからと入る者もいるし、

 死期を悟って入る者もいる」

 

私:「死期を悟ってとは?

 ここでは死ぬことは希なのでは」

 

接待大臣:「いいや、けっこういるよ。

 まだ生きたいという希望があれば、

 いくらでもここで生き続けることは出来る。

 だが、もう十分やったというなら、

 またはもっと派手なことをしたいというなら、

 ここに居る必要はない。

 そういう者たちは、自ら別の未来を選ぶんだ」

 

地球と比べて、物足りない気はするが、

 何と平和な世界かと思われた。

 願ってもそうした平和が得られない私たちに対して、

 そうした平和に飽きて去るものもいる。

 その生命というものの不思議さには、

 ただ謎が深まるばかりであった。

 

接待大臣:「だが、この私みたいに、

 もっと幅広い物の見方をすれば、

 飽きることも少なくなるんだがね。

 私は自分でわざわざ出向いてまで経験せずとも、

 ここに居ながらに、よそのことを経験できる方法を工夫した。

 それが接待役さ。ミミズ料理ばかりじゃ、つまらんからな。

 次は連邦に掛け合って、シミュレーション装置を

 エーオース星あたりから調達してもらって、

 いろんな星の生き物の生活を、

 ここに居ながらにして楽しむさ。

 何でも、すごい迫力らしいからな」

 

私:「僕は一度経験しましたが、

 それはもう、そのものに成り切っちゃいましたよ」

 

接待大臣:「何に成りきったのかね?」

 

私:「か。蚊、です」

 

接待大臣:「カ?」

 

本当にかいつまんでしか話せていない。

 もっと驚異的なこともあったが、

 それはまた別の機会にでもしよう。

 その星における昼過ぎから見学に出て、

 夕刻に迎賓館に戻ったのだが、

 地球時間にすれば6時間ほどの見聞だったろうか。

 

 


奥付



天上人の宴外伝・・・爺絶倒星見聞録


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著者 : yae-mon
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