目次
目次
目次
プロローグ
プロローグ
工房のある家
工房のある家1
工房のある家2
工房のある家3
工房のある家4
工房のある家5
工房のある家6
異変
異変1
異変2
異変3
異変4
異変5
異変6
異変7
異変8
小さな点
小さな点1
小さな点2
小さな点3
小さな点4
小さな点5
小さな点6
小さな点7
見えない壁
見えない壁1
見えない壁2
見えない壁3
見えない壁4
見えない壁5
見えない壁6
見えない壁7
見えない壁8
見えない壁9
見えない壁10
見えない壁11
見えない壁12
見えない壁13
見えない壁14
秘密の指輪
秘密の指輪1
秘密の指輪2
秘密の指輪3
秘密の指輪4
秘密の指輪5
秘密の指輪6
秘密の指輪7
秘密の指輪8
秘密の指輪9
秘密の指輪10
秘密の指輪11
秘密の指輪12
秘密の指輪13
秘密の指輪14
香水
香水1
香水2
香水3
香水4
香水5
香水6
香水7
香水8
疎外感
疎外感1
疎外感2
疎外感3
疎外感4
疎外感5
疎外感6
疎外感7
疎外感8
疎外感9
疎外感10
疎外感11
疎外感12
疎外感13
雨、降って……
雨、降って……1
雨、降って……2
雨、降って……3
雨、降って……4
雨、降って……5
雨、降って……6
雨、降って……7
雨、降って……8
雨、降って……9
雨、降って……10
雨、降って……11
雨、降って……12
雨、降って……13
抵抗
抵抗1
抵抗2
抵抗3
抵抗4
抵抗5
抵抗6
抵抗7
抵抗8
抵抗9
抵抗10
抵抗11
抵抗12
抵抗13
抵抗14
抵抗15
抵抗16
抵抗17
ふるさとの森
ふるさとの森1
ふるさとの森2
ふるさとの森3
ふるさとの森4
ふるさとの森5
文字の滲む紙
文字の滲む紙1
文字の滲む紙2
文字の滲む紙3
文字の滲む紙4
文字の滲む紙5
文字の滲む紙6
文字の滲む紙7
エピローグ
エピローグ

閉じる


目次

 

 
プロローグ
工房のある家
 異変
小さな点

見えない壁

秘密の指輪

香水 

疎外感 

雨、降って…… 

抵抗 

ふるさとの森

文字の滲む紙
エピローグ

著者 : たなかひまわり
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/tanahima2327/profile


感想はこちらのコメントへ
http://p.booklog.jp/book/91156

ブクログ本棚へ入れる
http://booklog.jp/item/3/91156



電子書籍プラットフォーム : ブクログのパブー(http://p.booklog.jp/
運営会社:株式会社ブクログ

 


プロローグ

夕方の海辺。

まだ空高い陽は白に近く、眩しく照っている。

 

時の経過と共に、陽は巨大な線香花火のように輝きだし、空を水平線と平行に淡いオレンジに変えていく。

 

海には陽から伸びる一筋の光。

その光も白から橙へ。

 

やがて陽は水平線にその一部を隠すと、程なく小さな光の点となり、命を絶つかの如くすっと存在を消した。

海に渡る橙の筋もなくなり、一色の静かな凪となった。

 

薄暗い凪いだ海。

その空に、明るかった時には見えなかった富士の頂上が、くっきりと姿を現した。

 

光は様々な物をすべて視界に映し出すと思っていた。

だが、明るいが故に見えないものもあるのだ。

 

周囲の状況に惑わされて見失っていたものに、私はあの日、ようやく気が付いた……。


工房のある家1

「今日は何、作ろう」

 

電動ろくろの上に練っておいた半磁器土で山を作り、私はバケツの水に手を浸しながら考えていた。

 

「最近ちょっと客足が途絶えてるから、小物増やしても置くとこないんだよな」

 

 私は作品で溢れかえった棚を見ながら溜め息をついた。売れないせいでの溜め息ではなく、物を置くスペースのないことへの溜め息だ。

 

「玄関にかけてある看板が小さ過ぎるのかな。フリーマーケットはまだ先だし、外にテーブル出して農家みたいに無人販売してみようかな」

 

 古い家々が立ち並ぶ住宅地なので、それくらいのことをしても景観が悪くなるとは思えない。仮に盗まれたら、それだけ魅力的な作品だったんだと自信を持てばいい。無人販売は我ながらにいいアイデアだと一人でふっと笑いながら、私はろくろのスイッチに手を伸ばした。

 

 

私の家には工房がある。今住んでいる二階建ての一軒家を借りた時、同居人が私の為にそのスペースをあてがってくれた。自転車が置ける広い玄関を入ってすぐ右側に、作業のできる場所がある。

 

靴を脱いでスリッパに履き替えて工房に入るのだが、スリッパを履かないと靴下が粘土や釉で大変な事になる。どんなに掃除をしたつもりでも靴下は汚れる。同居人曰く、「幼稚園児並みの掃除」を私がしているからだそうだ。失礼だと反発したいところだが、同居人が掃除をすると、同じ工房とは思えないほど床がぴかぴかになる。そして私は、渋々批評を認めるはめとなる。

 

工房の窓際には、ポータブル電気陶芸窯と手動ろくろを置いた作業台を設置してある。中央には電動ろくろ。それと並べて置いてある丸い小さめのテーブルと椅子は、お客様をもてなす時に使う。作業台に対面するように、陶器や材料を置く為の木製の棚がある。これは同居人の手作りで、あえて言うならこの棚が、この家にある唯一の仕切りだ。私は一人でいる時間の大半をここで過ごす。

 

 

私は二十四歳。陶芸暦も二十四年。陶芸が大好きで、生まれた時から陶芸に親しんでいたと自負している。

 

幼い頃、当時家族と住んでいた家の近くに祖父の工房があり、遊びに行っては祖父の手ほどきを受けていた。粘土の練り方から、ろくろの扱い方、さまざまな釉の特長、窯での焼き方など、お弟子さんに教えるのと同じように祖父は私に教えてくれた。一通り基本を身につけてからは、粘土を好きなだけ使い、自由に作らせてもらった。そして、インスピレーションの湧くままに、私は次々とコレクションを増やしていった。

 

ところが去年の冬、大好きだった祖父が病気で亡くなった。突然だった。追い討ちをかけるように、祖父が大事にしていた工房が人手に渡った。私はショックのあまり、あれだけ没頭していた陶芸に手をつけることが出来なくなった。

 

腑抜けのようになってしまった私をなんとか立ち直らせようと、同居人は前に住んでいた2DKのアパートを出て、工房スペースを作れる家を探そうと私に提案した。そしてこの家を、四十五件目にして見つけてくれたのだ。


工房のある家2

自分の工房を持ち、粘土に手を添えることで、悲しみを思い出さない時間を増やすことが出来た。苦しかった心が徐々に癒えていき、二十四時間いつでも陶芸が出来る環境だということにふと気付いてから、私の創作ペースは以前にも増して上がっていった。

 

初め、陶芸を仕事にしようなどとは全く思っていなかった。作りたいから作っていたら、買いたいという奇特な人が現れ、常連さんが一人ついてから二人三人とお客が増えるのに、そう時間は掛からなかった。材料費にほんの少し上乗せした値段で売っているので利益はほとんどないが、それでも毎月の小遣い程度にはなった。

 

同居人には申し訳ないと思っていたが、欲を出すとろくな作品が作れないような気がして、私はいつも「ごめんね」と謝りながら創作重視の陶芸を楽しんでいた。同居人はそんな私をいつも温かく見守ってくれている。

 

同居人とは私の最愛の恋人、六つ年上の坂本洋平の事だ。

 

 

「おちょこ……にしようかな」

 

 冬の足音が聞こえそうな十一月。今から作れば本格的な冬を迎える前に、新作お猪口で二人で乾杯といけそうだ。

 

「とっくりも新しく作ろう。赤土で作ったのしかないもんな」

 

 今回は、濁りのない真っ白なお猪口がいいと思った。私は作る物を決めると、乾きかけた手をもう一度水で濡らし、粘土にも指先から滴を垂らした。

 

「半磁器土は扱いが難しいんだよね」

 

土に腰がない為、しっかり両手で挟んで引き上げる。そうしないとなかなか高さが出ず、だらんと下に下がってしまう。おちょこは初心者向けの作品だが、粘土が変わるだけで難易度が増すのだ。でも、粒子の細かさが好きで、私はこの土をよく使う。

 

「こんなもんかな」

 

 とりあえず、思い描いた通りのおちょこを五個成形した。同じ形でも、釉をつけるとそれぞれが違った表情を見せるので、並べておくだけでも楽しめる。

 

「今度はとっくりだ」

 

 粘土をろくろの上に足した時、向かいの家から元気のいい声がした。午前保育を終えて幼稚園から帰ってきた雄太君だ。

 

雄太君はいつも玄関のドアを開ける時、近所に響き渡る大声をあげて「ただいま!」と言う。曜日によってその声のする時間帯が違い、水曜日の今日は十一時半だということを知らせてくれる。雄太君がお弁当を食べて帰って来る日でも一時頃なので、その声を聞くと私のお腹は条件反射のように鳴る。

 

「もうお昼か……何か食べるものあったかな」

 

 一人だと食べる事に無頓着になる私は、そう考えつつも創作する手を休めなかった。再び全神経を粘土に集中させる。すると、この時間には聞こえるはずのない声が耳に入ってきた。

 

「ただいまー」

 

 洋平だった。


工房のある家3

「あれ? おかえりー。ごめん! ご飯まだ作ってないや」

 

 私は窯の向こうに立っている洋平を見て言った。

 

「ただいま。ご飯って、いつも俺が作るだろうが」

 

 ガスの火が苦手な私に代わり、料理が得意な洋平がほとんど食事を作る。時間のある日に彼が多めに作り、冷凍しておいてくれるのだ。それを私が毎日いろいろと組み合わせて夕飯のおかずとして出していた。

 

「サラダは作ってるじゃん」

 

 火を使わないものであれば私にだって作れる。私は口を尖らせながら反論した。

 

小学生の頃、私は料理の真似事をしていてフライパンの油に火をつけてしまい、立ち上った炎で腕に軽度だが広範囲の火傷を負った。それ以来、火の点いたガス台に近づくだけで足がすくむようになった。よって、炒め物や揚げ物、煮物の類が作れなくなった。

 

「アハハ、そうだな」

 

 事情を理解している洋平はそれ以上何も言わず、靴を脱いで工房に上がった。

 

「そういえば、今日はどうしてこんなに早いの?」

 

 スリッパを履いてそばに来た洋平に訊いた。

 

「言わなかったっけ? 今日は半休を取ってあるんだよ」

 

 洋平はさらりと答えると、「今日は何を作ってるの?」と話題を変えた。

 

半休のことは気になったままだったが、私の頭の中は陶芸へと自動的に切り替わった。

 

「今日はねー、お猪口ととっくり。お洒落なの作るからね」

 

 陶芸の話となると、気分がとても高揚する。洋平が陶芸に興味を示してくれる事が何よりも嬉しい。

 

「里奈は陶芸だけはプロ級だからな。教室でもやればいいのに」

 

 早い帰宅で気持ちに余裕があったのか、洋平は「ちょっとやらせてみ」と私の隣に丸椅子を持ってきた。そして、袖を肘までまくり、バケツの水に両手を入れた。

 

「冷めてー。いつもこんな水でやってんの? 根性あるなぁ」

 

洋平は大きな声で独り言を言った。私の返事の有無は関係ない。洋平はお喋りなので、いつも動作と口が連動する。体に厚みがある分、声も太く響く。

 

「陶芸だけは、って何よ。それに教室開くんなら窯がもっと大きいか、台数ないと無理だよ。生徒さんの作品、いっぱい焼けないし」

 

「大きい窯っていくらするんだ?」

 

「百万くらいかな」

 

「う、そっか」

 

「それに自分が無になれる瞬間が好きでやってるようなもんだからね。人に教えるのはちょっと違うんだよ」

 

「なるほどね……とっくりはこれからなの? 俺が作ってやるよ」

 

 私がろくろのスイッチを入れると、洋平はすぐさま半磁器土に手をつけた。これまでに数回ビアグラスや茶碗を作ったことがあるせいか、自信ありげな顔をしている。

 

「あれ? いつもと感触が違うぞ。すぐにへなるってどういうこと?」

 

洋平は粘土に触れるとすぐに戸惑い始めた。

 

彼が半磁器土を使うのは初めてだった。陶芸自体それほど経験があるわけではない洋平が、半磁器土でとっくりを作るのには無理がある。



読者登録

たなかひまわりさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について