博多沸騰 10
毛利軍に立花山城を渡し、自分らは毛利家臣として組み込まれる。
それで謀反の汚名は毛利がかぶってくれるっ……」
夏の夜なのに鍋島信生は震えていた。
寒いわけではない。
自分達が死地にいると思い知ったからである。
「先に話した秋月種実。
既に博多に隠れていて、立花家家老安武鑑政(やすたけ あきまさ)と連絡を取っているそうで。
立花家は薦野や米多比の抜けた穴に旧秋月家臣を多く雇い入れていました。
暗躍しているのは間違いないでしょうな。
これでもまだ姫様の勝利を疑いませぬか?」
帆足忠勝はあえて危険な言葉を鍋島信生にはなった。
受け取り方によっては、『毛利に寝返れ』と聞こえなくも無いからだ。
それができるのならば苦労は無い。
現状での裏切りは、本拠に兵の無い竜造寺の滅亡に他ならない。
それを知った上で帆足忠勝が尋ねているという事は、うかつな返事はできないと鍋島信生は悟った。
「……」
「……」
双方何も言わない。しゃべらない。
けど、この静寂な瞬間に竜造寺家の未来がかかっている事を鍋島信生は分かっていた。
(何故、ここで帆足忠勝は寝返りを誘う?
いや、竜造寺と筑紫が寝返っても、原鶴の大友本軍に今なら簡単に潰される。
ましてや、筑紫は先代に腹を切らせてまで大友に忠義を見せたはず。
辻褄が合わない……)
毛利の後詰から立花の謀反、秋月の暗躍に麻生の内紛等状況は明らかに大友側に不利である。
にもかかわらず、帆足忠勝の言葉には矛盾がある。
顔から汗が垂れる。
とはいえ、二人とも微動だにしない。
(そうか。
帆足忠勝は我等を売るつもりだ。
もし、ここで寝返りの言葉を言えば、謀反の意思ありと原鶴に告げるつもりなのだ。
かの家は竜造寺の叛意を確かめる事で、大友に対して忠義を立てるか……)
かかり火の燃える音だけがひどく大きく響く陣幕の中、意を決して鍋島信生は口を開いた。